第六十六話 出でよ外交官
今日のお昼は麺料理でした。その上に、テンプラとかいうのが乗っている。
テンプラウドンって言うらしい。黒めのスープに浮かぶ純白の麺が素敵だった。
かよちゃんのご飯はいつもおいしい。
さてひと心地着いたところで、改めて考えよう。まずは【モンスタークリエイト】を起動だ。
今使えるDEは、後々に回したい貯蓄分を引いて考えると、大体20000ってところだ。ユヴィルやティルガナの作成にかかった費用が大体10000くらいだったから、初期状態で彼らより強い個体を作れることになる。
ただ、今回欲しいのは戦闘要員じゃなくて外交要員だ。そっち方面は最低限でいいだろう。
ってわけで、数時間ああでもないこうでもないと考えた結果、出来上がったのがこちらになります。
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個体名:ロシュアネス
種族:ハイエレメント
職業:ダンジョンキーパー
性別:両
状態:普通
Lv:1/300
生命力:225/225
魔力:486/486
攻撃力:52
防御力:105
構築力:457
精神力:301
器用:120
敏捷力:131
属性1:天 属性2:時空 属性3:火
スキル
体術Lv3 威圧Lv1 聞耳Lv1 念話Lv1 性別変換Lv5
火魔法Lv1 天魔法Lv1 時空魔法Lv1
魔力察知Lv1 危険察知Lv1
魔力自動回復・小Lv1 魔法抵抗・小Lv1
儀礼Lv5 交渉Lv5 弁舌Lv5 情報処理Lv3 詐欺Lv3 並列思考Lv1 日本語Lv4 英語Lv3
称号:クインの眷属
半精神生命体
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順に説明していこうか。
まず種族のハイエレメントだけど、これはベラルモースの少数種族エレメントの中位種で、分類としては人系統に属する。見た目は角のあるエルフって感じ。ただ、その角はドラゴノイドみたいな立派なものじゃなくて、控えめ。耳はエルフと大体同じだけどね。
あと、性別の両ってのはボクのような両性具有タイプじゃなくって、性別転換タイプ。本人がこうだと思ったら、男と女を自由に切り替えれるのだ。逆に言えば絶対どちらかになってないといけない、ってことでもあるんだけど。
ともあれスキルの【性別変換】はその表れで、種族特性として最初から絶対所持してる(普通の人でもがんばれば取得はできる)スキルになる。
普段どちらになっているかは、本人の自由意思次第。今ボクの目の前でかしづくロシュアネスは女性の身体を採ってるみたいだから、精神は女性寄りなんだろう。なので、一応普段は彼女と呼ぶことにする。
この他、【魔力察知】【魔力自動回復】【魔法抵抗】も種族特性で、ボクがエレメント種を選んだのはこれが理由の一つだ。
実は、エレメント種自体は【モンスタークリエイト】で人間を作る時より格段に割高になる。それは他の大体の種族でもそうなんだけど、エレメント種はその中でも特に割高。それはこういう質の高いスキルを、種族特性として所持しているからなのだ。
そして人間種の場合、デフォルトでは一切スキルを所有してないからスキルをつけてくんだけど、前述の三つのスキルを全部つけると、エレメント種とさほど変わらない額になってしまう。
もちろん、最上位種とか超上位種まで行けば、種族による差はバカにできないんだけど……中位種程度じゃさほど変わらない。それならいっそ、強力な種族のほうがいいってものだ。
それからエレメント種を選んだ理由として、称号にある【半精神生命体】もある。これも種族特性(普通の人でも以下略)で、すべてのエレメント種はこれを持っている。
これがどういうものかというと、ゴーストなんかの肉体を持たない存在に近い存在ってことを示している。具体的に言えば、物理系の攻撃がものすごく効きづらくなる。当然、毒や麻痺といった肉体に依存するステータス異常もだ。
位階が上がるとこれが【精神生命体】にグレードアップし、本人が意図した相手しか触れられなくなるっていう破格の称号なのだ。
幟子ちゃんが持つ【肉体のくびきから解き放たれし者】でも、魂魄だけで行動している時は同じ性質を得られるけど、あちらに対してこちらは常時その効果があるという点で優れる。
そしてこの性質は、魔法の存在しない地球においては極めて強力な手札になる。防御面の手札ではあるけど、外に出す外交役なんだからむしろこのほうがいいだろう、ってことでね。
そして目的がはっきりしてる分、今回与えたスキルはほとんど外交のためのスキルばかりになっている。戦闘用のものは自己防衛用に【体術】と申し訳程度の【威圧】、それに魔法くらいだ。
その魔法も万能な天魔法に時空魔法、攻撃に向いた火魔法を持たせたから、この世界でなら十分だろう。ステータスもそれを見越した配分にしてある。
全体的に他のメンツと比べて、同じ位階なのに少しステータスが低いのはそれまでの経験の有無、それからDEの大半をステータスじゃなくてスキルにつぎ込んだからだね。必要だとわかってはいても、時空属性は高かったよ。
ちなみにこれは余談なんだけど、今まで何回か話に上げた主神様は、このエレメント種出身だ。実際に会ったことのあるママが言ってたんだから間違いない。
それはともあれ、っと。
「ロシュアネス、楽にしていいよ」
「ハッ」
ボクの言葉を受けて、ロシュアネスがするりと立ち上がる。その所作は淀みがない上に洗練されていて、【儀礼】スキルが早速役に立ってるみたいで何より。
そんな彼女の姿は、新雪のような白い肌に黒檀のような黒い長髪と瞳。その髪から顔を出す角は、水晶のように透明に煌めいていた。
いずれもエレメント種固有の身体的特徴で、透明の角は彼女がさらに上の存在に進化した際に属性が付与されると、その属性の色になる。いわば、ハイエレメントですらエレメント種としてはまだ子供みたいなもの、ってことだ。とは言いつつ、体格的にはフェリパに次いで藤乃ちゃんと並ぶくらい大きいけどね。
ちなみに、それを除けば彼女の姿は日本人と比べても、そんなに違いのない容姿だったりする。美形だし美白ではあるけど、黒髪黒目は日本人の特徴と合致する。これも、エレメント種を選んだ理由の一つだ。
「君に与える役割は、主に外交だ。相手は日本国だけど、民間を相手取ることもあるだろうし、いずれは他の国ともやりあう可能性は十分ある。君の手腕に期待してるよ」
「ハッ、すべては陛下の御心のままに」
「……そんな仰々しくしなくっていいんだよ?」
「お戯れを。自分はただの一家臣にすぎないのですから、そのようなお気遣いは無用です」
「うーん……」
今までフレンドリーな仲間ばっかりだったから、調子狂いそうだ。
国益を第一に考えてもらうために、メイン性格を【忠国】にしたのはまずかったかなあ? こうなると【冷静沈着】のサブ性格も不安だな……。もう一つのサブ性格である【友愛】ががんばってくれることを期待しよう。
「まあいいや。いいけど、一応外ではボクは国主じゃなくて全権大使ってことになってる。陛下って呼称はやめてほしいな」
「左様ですか……では、閣下とお呼びすることをお許しいただけますか?」
「んー……ま、それでいいか」
「ありがたき幸せ。ですが、いずれは正しく陛下とお呼びできる日が来ることを祈っております」
「あはは……そうだね、この嘘を早く解消できるようにしたいものだね」
まだちょっと距離感はわからないけど、ボクに向けてる顔は穏やかな微笑みだ。融通の利かない四角四面な性格ってわけじゃないだろうし、追々慣れていくだろう。たぶん。
「それじゃ、他のメンバーを紹介するよ。おいで」
「ハッ、お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします」
そうして、やっぱり礼儀正しく頭を下げるロシュアネスを連れて、ボクは戦闘音が聞こえる表に足を向けるのだった。
一通りメンバーと話をしてもらって感じたことは、性格的に合わない相手ともある程度話を合わせられる器用さがあるってことかなあ。
さっきも言った通りメイン性格が【忠国】のロシュアネスにとって、優先順位は自分でも仲間でもなく国……すなわちこのダンジョン、ひいてはそれを運営するボクだ。
けど元は野生の狼のジュイは真逆だし、フェリパもダンジョンキーパーとしての忠誠心はあるけど、それは最低限だ。だから彼らとは相性があまりよくないんだけど……【友愛】のサブ性格はうまく機能してくれてるみたいで安心した。
そして、ジュイたちの性格を把握した上で、ボクに対して無駄な忠告(注意すべきとかそういうの)をしてこない辺りは【冷静沈着】が効いてる証だろう。滅私奉公な傾向があるけど、十分と言っていいと思う。
一方で、忠誠心が高いユヴィルやティルガナに対してはかなり積極的に言葉を交わしていた。シンパシーを感じてるんだろう。その調子でダンジョンをうまく動かしてもらいたいところだ。
それから、彼女はかよちゃんに対してもボクの妻ということで陛下と呼んでたけど、かよちゃんは恐れ多すぎてパニック起こしかけてた。もう今の立場にはだいぶ慣れてきたと思ってたけど、改めて畏まった敬称で呼ばれると困るみたい。根が庶民だから余計かなあ。
ロシュアネスのほうも、まさかそれだけで混乱されるとは思ってなかったみたいで申し訳なさそうだった。ただ、首をはねてくれと進言してきたのは本当に勘弁してほしい。【忠国】はいいけど、何事もほどほどが一番だよね……。
ちなみに、彼女からかよちゃんへの呼び方は、ティルガナにならって奥方様で落ち着きましたとさ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
新キャラ登場。今まで何度か感想で受けていた指摘の通り、主人公が政治に向いてないタイプなので、それを取り仕切る一角としての参入です。
なんていうか、「私は国家と結婚している」的な存在になりそう。