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第五十一話 対価の受領と、それから

キーボードが壊れました……。

IMEパッドでぽちぽちがんばりましたが、まるでうまくいかねえ……。

 で、次の日の午後。予定より一日早いこの日、いよいよ金銀の対価である300人の、最後の100人がダンジョンにやってきた。


 ユヴィルも藤乃ちゃんも現在進行形で出払ってるから、伝馬町の様子をリアルタイムで把握するのはやめておいたけど、三回目だしもうそこまで気にしなくっていいでしょ。

 こっちにしたってもう慣れてきてるし、あんまり長々と描写するまでもないからさくっといっちゃうよー。


 というわけで100人だけど、重犯罪者は前回からまたがくっと減って27人。次に再犯を繰り返したことで罪科が上がった人が31人。冤罪の人が12人。

 それから先日のアメリカとのやり取りの際に、機密情報漏えいなんかで捕縛された密偵たちが14人に、アメリカに喧嘩売ろうとして捕まった過激派が11人。いわゆる政治犯だね。

 最後に、病人が5人、だ。


 病人が気になると思うけど、順にやっていこう。


 まず、重犯罪者。今回も大量殺人鬼とかそういうやばすぎるやつはほぼいなかった。唯一の例外が、治療の名目で多くの女性を手籠めにしていた藪医者かな。

 医者という、他者を助けることが本懐の仕事に就いていながら、性欲の赴くまま多くの女性を食い物にした所業は万死に値する。思わず手が出た。

 そいつが頭一つ抜けたやつだったけど、かといって他の連中も許容できるような罪状じゃなかったから、27人は例外なく全員DE行き。


 次に再犯者だけど、賄賂で罪状を軽くした上で釈放されてるにもかかわらず、似たようなことを繰り返した人間のクズが4人いたのでDEへ。

 それから残りの27人のうち、貧困にかられてやむにやまれず窃盗を重ねた人が11人いたので、彼らは生かして住人に加えることにした。それ以外は、先に殺った4人の後を追わせる。


 冤罪の人たちは、いつも通り全員が住人入りだ。今回はなんと医者がいた(さっき言った藪医者の共犯とのことだったけど、完全にただのとばっちりで無実だった)ので、その人は手厚く保護してこの世界の医療というものを詳しく教えてもらうことにした。

 できるなら、システム下に組み込んで治癒術士にしたいところだけど……できるかなあ。また一つ、研究を進めなきゃいけない理由が増えた。


 あとは、政治犯だけど。密偵は、とりあえずしばらく保護下に置いて籠絡することにした。諜報ができる人間はまだまだ足りないからね。今回の支払で彼らを【眷属指定】するだけのDEは稼いでるし、問題ないだろう。


 過激派の連中は……正直何にも使えそうになかったから、右から左にDEへ。こういう思想的な面倒事は、抱えないのが一番だと思うんだ。


 最後に病人だけど……。


 5人は全員男で、彼らは全員将来を嘱望された有能な人材でありながら、不治の病に侵されたことでその将来を閉ざされてしまった人たちらしい。不治とは言っても、すぐに死ぬ気配はないんだけど……。

 その病気ってのが、見た目が大きく変わっちゃうタイプのやつで。その変わり方が、ひどいと見るのも怖いくらいのものらしくて、基本的に忌まわしいものと思われているらしくってね……。


 件の医者だったっていう人に聞いたら、病名はらい。罹患すると、社会的にはほぼ死んだも同然になるらしい。前世の悪行に由来するって思われてるようで、彼らの多くは寺社に参拝しながら乞食として生活しているとのこと。

【真理の扉】で調べる限り接触感染するらしいんだけど、同時に感染力はものすごく弱いらしいから、しっかりと栄養を摂って健康にしてる人なら、ほぼ大丈夫ではあるみたいんだけどね。


 ただ、ベラルモースには存在しない病気だから、さすがにまだ隔離した状態で置いてある。

 当然だけど、ベラルモースにない以上その治療方法はボクにはない。この世界でも治療方法はないわけで、今すぐにどうにかできることは不可能な状態だ。


 とはいえ、だ。


 この病気の患者は日本全体どころか世界でもそれなりの人数がいるらしい。それだけの人間が、ただ外見が悪化する症状(いや、他にもあるんだけどこれが一番目立つ)というだけで差別されるのは、あまりいい気はしない。ベラルモースでも、こういう病気由来の偏見や迫害の歴史はあるから、偉そうなことは言えないけどさ。

 ただ、こうやって差別された人の中に貴重な才能が眠っていた可能性は、当然ながらあるわけで。今回なんて特に、元々は優秀だったにもかかわらず発症したことで、栄達から遠ざけられた人が目の前にいるとなると、何とかしてあげたいってのがボクの本音だ。


 と思ってたんだけど、【真理の扉】を調べてたら、どうやらキリスト教の預言者であるイエスって人が、かつて奇跡でらい病を治療したって記録があった。

 調べてみるとこの奇跡、なんていうことはない普通に魔法(仕組みは普通じゃなかったけど)だった。イエスは魔法が廃止される前に生まれた人間だから、その能力があったんだろう。しかも、どうやら相当レベルの高い治癒術士だったらしく、多くの病人を【奇跡】で救っている。


 なのでこれを参考に、より使いやすく、術者にも被術者にも負担の少なく、そしてより効果の高い魔法へ改造することにした。俗っぽく言えば、今風へアレンジってところかな。

 ただ、これを任せられるほど魔法に精通してる人材は、ボクを除けば殺生石しかいない。魔法のスキルレベルでいえば、かよちゃんもサポートくらいはできそうだけど……経験が足りてない。


 そしてボクが日頃からあれやこれやとやることがある以上、動けるのは殺生石しかいない。まあ、彼女は今のところ、石の身体で遠征ができない状態だから、ちょうどいい状態とも言えるかな。


「というわけで、魔法の改造を頼みたいんだ」

『おお、早速ぬしさまの役に立てるんじゃな! 任せるのじゃよー!』

「病気を治療する魔法なんけど」

『む? 癒す術か……病にする術なら得意なんじゃがのー』

「ダメだからね。で、その魔法がこれ」

『うわっ、なんじゃこの非常識な術式!? こんなもん使いこなせるやつが人間におったのか?』

「いたらしいよ。とんでもないよね、この術式」


 概要を言えば、回復魔法に分類されるのは間違いないんだけどさ。


 この【奇跡】、対象の状態異常に限定した【鑑定】を第一段階として、そこから得られた情報をそのまま真理の記録アカシックレコードに接続し、都度適切な治療方法を抜き出すとともに、その方法を強引に実行して癒すっていうとんでもない魔法なのだ。

 この魔法を使えば、相手がどんな病気かわからなくても治療できるし、どんな病気だろうと相手を選ばず治療できる。

 っていうか、病気に限らず怪我の類も普通に治る。骨折程度は当然として、内臓破裂とかも治るだろうね。部位欠損なんかは難しいかもしれないけど……それでもはっきりいって、まさに「奇跡」って呼ぶ相応しい規格外すぎる魔法だ。


 ただ、当然っていうかなんていうか、燃費は死ぬほど悪いし、難易度も高いなんてレベルじゃない。

 数値で言えば、一回の使用で5000くらい魔力を使うし、問題なく発動させるためには1万くらいの構築力が要求される。

 ボクが使える魔法で一番燃費の悪いのは【禁呪】の【世界転移】だけど、さすがにこれと比べるのは間違ってる。そもそも連続使用を目的とした魔法じゃないし。

 ただ、連続使用が前提の魔法で燃費ワーストの【真理の扉】ですら、その要求スペックは約300魔力に2500構築力と言えば、それがどれだけ規格外かご理解いただけると思う。


 だからイエスって何者だよって思って調べたら、神の子だった。なるほどって思った。勝てるわけない。


『しかし、ふむ……そこそこ昔の術式……1800年ほど前の術ではないかな? これなら、妾の持つ古い知識も活かせそうじゃ。任せてたもれ、ぬしさまよ』

「おお、それは心強い。あ、でもみんなが使えるように整えてね。一人しか使えないんじゃ、いざって時に困るから」

『無論じゃよ、心得ておる。こんな人を選ぶ術なんぞ、持っておっても困るだけじゃ。らいに特化させればええんじゃろ?』

「うん、その通り。よろしく頼むよ」

『任されたのじゃ!』


 これでよし。威厳は一切ないけど、一応彼女は神話級の存在だ。何とかしてくれるだろう。


 そんな感じで、最後の100人の受け入れは特に問題もなく無事に終わった。

 それから横浜護国寺と設計図の対価である種籾も夕方には届いたので、これを受領する。

 同時に約束通り設計図を二つ用意して、幕府に送った。うまいこと利用してくれることを祈るばかりだ。


 あ、種籾は【アイテムクリエイト】の【改造】で、品質を最低でも5まで引き上げてから住人に配ったよ。それで稲作をしてもらうのだ。

 お米がどうやって作られてるのか興味あったから、ボクもかよちゃんと一緒に少し手伝った。魔法使って、穴掘ったり水張ったり。


 ただなー、まさか田んぼが沼みたいなところとはねー。花は花でも、ボクは池に咲く花じゃないからさー、田植えは結構しんどそうだなー、精神的に。

 種籾をまず苗にまで育てるってことで、すぐに田植えはしなかったけどさ。あの中に入って手で植えるって行為には、すごく抵抗がある。泥で汚れたくないよ。


 普通の作物だったら、ベラルモースの農具が使えるんだろうけど……お米がベラルモースに存在しないから、それに関係した道具は江戸のやつを使うしかないんだよなあ。日々の生活用品は魔法道具で、たぶんこの世界で一番快適に生活してるんだろうけど……これだけ違うってのはちょっと気になる。

 もうちょっと便利な魔法道具を作れないかなあ。住人達に聞いた限りだと、稲作ってこの後も結構重労働が続くし。


 あ、でも最優先はお米を炊く道具かな。かよちゃん、毎日大変そうだもん。他の料理に比べて、あれだけやたら前時代的に感じるのだ。

 奥さんが少しでも苦労なく生活できるようにするのも、夫の甲斐性だと思うんだ。ねっ。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 江戸前ダンジョンが対価の受領で仕事に追われていた、その同日。

 太陽が南天した頃合い、江戸城にて。老中首座・阿部正弘は、戸徳川家隠居にして海防参与である徳川斉昭に対して、職務を解くとともに水戸藩邸での永蟄居を通告していた。


 憤怒の顔で平伏する斉昭に対し、正弘は淡々と委細を述べる。


 招かれざる客といえども、仮にも他国の大使の応対をしているさなかに、その大使らを害そうと浪人や下級武士を扇動したこと。

 また、海防参与という幕府の職にありながら、アメリカとの会談と条約の内容を、幕府に断りもなく拡散したこと。


 主な理由はその二つである。いずれも、この困難な局面にあって日の本に害をなす行為と正弘は判断したのである。


 特に、相手が気に入らないから、この国が崇高な場所であるからという感情的、観念的な理由で他国の人間を害そうとしたことは理性ある行動とは言えず、国に害をなすだけでなく、恥さらしであるとまで断じた。理性ある立ち居振る舞いを求められる、武士としてあるまじき行為である、と。


 反論は許さない。クインの協力によって集められた密書と、捕らえられた関係者の存在が、斉昭の行動を何よりも雄弁に立証しているからだ。


「拙者は貴殿の今までの功績と、御三家という立場を慮り、穏便に済まそうとしていたのだ。しかし、それを不服として異議を申し立てたのは貴殿である。故に、私はもはや貴殿の此度の所業を見過ごすことができなくなった。ご理解いただけたかな?」


 書状を読み終わり顔を上げた正弘は、そこで居並ぶ幕閣を順繰りに一瞥していく。

 異論は上がらない。それはあの交渉の時、斉昭に便乗して無頼の輩の扇動に加担した者も同様だ。


 正弘が他の者の罪には一切触れなかったことから、すべての責任を斉昭一人にかぶせるつもりでいることを察した彼らは、既に手のひらを返しているのだった。


 誰からも文句が上がらないことを確認した正弘は、さらに告げる。


「此度の沙汰は以上である」


 それは事実上、水戸徳川斉昭の政治生命に対する死刑宣告であった。

 だが斉昭は、おめおめと朽ちるつもりなどさらさらなかった。


「ふざけおってふざけおって! どいつも! こいつも! メリケンの言葉に踊らされ迎合する売国奴どもが!」


 水戸家の藩邸、上屋敷に戻った彼は、それまで必死に抑えていた怒りを一気に解放した。そして、自室のものに手当たり次第に当たっていく。怒声と破砕音が響き渡り、屋敷に詰めている者たちが身震いした。


「神国たるこの日の本で、主上の威光を無視して異人どもが上陸することをむざむざ許すなど……! ありえん! 許されるはずがない! そんなことはあってはならんことだ! それを、それを危惧したこの正義の徒を、よもや永蟄居だと……!? もはや幕府に人はおらぬ!」


 恥も外聞もなく叫び続け、数分。

 当たるものがなくなり、疲労も重なった斉昭は息をつきながら立ち尽くす。


 それを見計らったかのように、部屋の表に一人の女が控えた。


「何用だ!」

「はっ、伝馬町を探らせていた草から連絡が」

「……申せ!」

「はっ。本日、池田頼方名義で呼び出された100名の人間が、忽然と消えたそうにございます」

「……なにいぃぃー?」


 女……隠密の言葉に、斉昭は目をぎらつかせ、鼻息も荒く振り返った。


「そのような世迷いごとを抜かすでないわ! 言い訳をしたいなら、もっとましな言い訳を考えてこい!」

「上様、私も同じことを申しました。そして調べましたが、これが事実なのです」

「……なァァにィーー!?」

「集められた100名は、伝馬町牢屋敷の一室に順に呼び出され、そのまま部屋から出てくることがなかったのです。出てきたのは、池田ただ一人であったと。そして、周囲に100名もの人間がいた形跡など、微塵もなかったと」

「…………」

「神隠し、などということを申すつもりはありませぬ。ですが、これが紛れもない事実なのです」

「……さては」


 女の言葉に怒りの熱気をやや下げた斉昭は、再度男に背を向けた。そしてあごをなでつける。


「……一夜にして出現したというあの洞穴……あれが、不可思議な力を有している可能性はある……か。元より選ばれた人間は、あの洞穴に送られるという話だったはずだ。となると、恐らく阿部どもは既にその力を何らかの形で見つけていて、あまつさえ利用している……のか……?」


 そこまでつぶやいて、斉昭ははっとなる。

 さながら天啓でも授かったかのような顔つきになると、腕を組んで部屋の中をうろうろと歩き始める。


「そうか……そういうことか……あの温厚な阿部があれほど秘密主義に走り、あれほど強硬な態度をとっているのは、洞穴の化け物どもに魅入られたからか……! いや、既に中身はとってかわられておるか……!? ならばこの怒り、向けるべきは奴ではなく……」


 ぶつぶつとつぶやき続ける斉昭。その発想は既に飛躍の域に達しつつあるが、それを咎める者は誰もいない。


「……あの藤乃が戻ってきておらぬのも、もしやそういう……!? あれほどの手練れが戻ってこないのはおかしいと思っておったが、あの化け物どもが原因だとすれば合点がいく……! となると、幕府はもはや信用できぬぞ。洞穴の調査はまったく進んでいないと言う話は、進める気がないのだな!?」


 そうして、斉昭は叫ぶ。


「ならばあの洞穴の真実、この水戸斉昭が暴いてくれるわ! 囚われている者どもも救いだし、江戸の民を恐怖から解放し、幕府を牛耳る化け物を討つ! さすれば、異人どもに迎合する今の状態を打破できる!」


 ぎらぎらとした野望に満ち、また狂気の色合いがちらちらと見え隠れする顔。見る人が見れば、それを指して斉昭こそ化け物に魅入られていると言ったかもしれない。

 そんな顔を隠そうともせず斉昭は、ずっと無言を貫いていた隠密に怒鳴るようにして声をかけた。


「おい! 今すぐ人を集め、探索者とやらに紛れ込ませるのだ! それから武器の準備もな! 銃も忘れるでないぞ!」

「はっ!」

「それから東湖とうこを呼べ! 口惜しいが、わしはしばらく身動きが取れぬ……委細は奴に任せる!」

「ははっ!」

「あああと……今夜はわしの床に来い。いいな」

「……はい」


 その指示を受けて退出する隠密を見送り、斉昭はその顔に笑みを浮かべる。


「待っておれよ化け物ども……日の本を真実救うのは、このわしじゃ!」


 そうして、屋敷に彼の笑いがこだました。

 あまりに落差の激しい彼の機嫌を損ない、逆鱗に触れるのが恐ろしいのだろう。その後彼が部屋から出てくるまで、彼の元に顔を出す人間は一人としていなかった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


水戸、遂に動き始める(周回遅れ



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