第四十九話 伝説の大妖怪(ガチ)
『ふおおお!? なんじゃここ!? 魔力が存在しておるではないか!? どうなっとるんじゃー!?』
ダンジョンに戻って、殺生石最初の発言はそれだった。
気持ちはわかる。魔法が消えて以来、一緒に消えた魔力。スキルを使うこと自体は禁止されてなくっても、エネルギーがないと使えないんだから、ダンジョンの中の状態がこの世界のモンスターにとってどれだけすごいものかは想像に難くない。
「細かい説明は直接君に植えるよ。そのために……【眷属指定】」
『ふお? な、なんじゃこれ? 頭の中に奇妙な文字盤が……』
「それに了承してもらえれば、君は晴れてボクの仲間さ。さあ、イエスをタップするんだ」
『りょうかいじゃー! これで赤貧生活ともおさらばじゃー!!』
〈個体名:殺生石 の眷属化に成功しました〉
〈個体名:殺生石 の設定を行います。指定項目に情報を入力してください!〉
「ぶっは!? なんだこの経験値の量!?」
『な、なんじゃ、どうしたぬしさまよ?』
「い、いや……なんでもない……さ、さすがに、伝説の大妖怪ってだけはあるなって、思っただけさ……」
ひらひらと手を振って応じたけど、動揺は隠しきれそうにない。
だって、今メニューに表示された経験値の総額、驚愕の5112! 生まれた時から5000年、1ポイントたりとも使わないとこうなるのか……!
さ、さすが、世界の声が存在しない世界と言うべきかなんというか……。っていうか、こんだけため込んでるってなるととんでもないことができるよな……どうしようかな……。
そもそも、元のステータスがこんななんだもんね……。
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個体名:殺生石(本体)
種族:安山岩(九尾)
性別:なし(女)
職業:ダンジョンキーパー
状態:普通(憑依)
Lv:82(329)
生命力:10/31
魔力:30741/94166
攻撃力:8
防御力:195
構築力:8174
精神力:7824
器用:6
敏捷力:0
属性1:妖 属性2:冥 属性3:魂 属性4:木(New!)
スキル
神能Lv2 千里眼Lv2 多聞耳Lv2 読心Lv4 魅了Lv10EX 指揮Lv4 性技Lv10EX 房中術Lv10EX
妖術Lv7
気配察知Lv9 気配遮断Lv8 魔力察知Lv10EX 魔力遮断Lv7 魔力節約Lv4 空中機動Lv6
毒無効Lv2 麻痺無効Lv1 混乱無効Lv2 魅了無効Lv5 痛覚遮断Lv3 物理抵抗・中Lv4 魔法抵抗・大Lv1 耐飢餓Lv4
古代中国語Lv9 古代魔法工学Lv8 古代儀礼Lv9 拷問Lv10EX 交渉Lv7 古代日本語Lv7 潜伏Lv6 鍛冶Lv4
称号:千年狐狸精
肉体のくびきから解き放たれし者
傾国
フォックス種の頂点
截教三強
逃亡者
ヒューマンスレイヤー
クインの眷属(New!)
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強すぎる……。
いや、ステータスについては完全に石に依存してるせいでものすごくしょぼいけどさ。それでも属性3の魂とか、ボク初見だよ?
これ、神、妖に並ぶ三つ目の神話級属性なんだけどさ……。このクラスの属性って、今言った三つしか存在しないんだよね。それを二つ持ってるって何事さ?
さらに言うと、神能は藤乃ちゃんが持ってる霊能の上位スキルだ。すっきりしてるように見えるスキル欄は、多くのスキルがこれに統合されてるからだろうなあ。
妖術は最初文字化けしてたんだけど、調べた結果ありとあらゆる魔法スキルがすべてここに網羅されてるチートスキルだった。
一般級、希少級は言うに及ばず、特質級も伝説級も普通に入ってたんだよ? もはや全魔法。当然、ベラルモースには存在しない。何がどうなってるんだか……。
それに、千里眼はユヴィルが持つ炯眼の上位スキル。多聞耳も藤乃ちゃんが持ってる聞耳の上位スキルだし……なんていうか、昔はこのレベルのモンスターがそのへんにいたんだね? 地球はボクが思ってたよりも修羅の世界だったみたいだな……。
世界転移でたどり着いた先が今の時代で本当に良かった……当時だったとしたら、こんなにも余裕こいて行動できなかったのは間違いないよ……。
で……もう驚くのも疲れたけど、種族を見るとさあ……。
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【九尾】
テラリア世界の地球産フォックス種固有系統の最上位種。
他者に害を与え続け、恐怖の対象として1000年を超える時を生きた者が辿り着く、種族の極み。
黄金に輝く毛並と九本に分かれた尾が特徴であり、感覚や精神に作用するスキルを得意とする。
テラリア世界のバージョンアップに伴い、現在は自然発生しないように調整されている。
進化条件:カルマ値がマイナス1000以下
称号【千年狐狸精】の所持
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これだもんなあ。控えめに言って大妖怪だ。間違いない。
これで彼女の魂と相性のいい肉体を憑代にすることが出来たら、一体どれだけステータスが跳ね上がるんだろう? 想像するだけで怖い。
「……君って、本当にすごいやつだったんだね……」
『な、なんじゃ突然に。ぬしさまに褒められるのは悪い気はせぬが、いきなりされると気味が悪いぞよ』
「じゃあ褒めないけど」
『ふえぇぇ妾が言いすぎた! 褒めて! もっと褒め称えて! なでなでして!』
「あとでね。……それよか一つ君の種族で気になることがあるんだ、ちょっと待っててくれるかな」
『うん、待つのじゃ!』
顕現してる金色の魂が尻尾振ってるように見える。
……大妖怪、のはず……なんだけどな……。
まあそれはさておきだ……。
進化条件のカルマ値。これ、ステータスのマスクデータだ。普段は本人でも見えなくって、【鑑定】を使ってもレベル最大に達してないと見れない代物なんだけど。
これが関係してる進化って、大体正反対になるのが存在するんだよね。
人間から進化できるバンパイアは条件が0以下で、正反対が存在しえないから例外なんだけど……この場合で言うと、カルマ値が1000以上で進化できる何かがあるんじゃないかって思うのだ。
というわけで、調べてみること禁呪2回。案の定ありました。
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【三狐神】
テラリア世界の地球産フォックス種固有系統の最上位種。
徳を積み続け、信仰の対象として1000年を超える時を生きた者が辿り着く、種族の極み。
純白の毛並を持つ穀物・農業を司る神の化身であり、自然環境を操るスキルを得意とする。
テラリア世界のバージョンアップに伴い、現在は自然発生しないように調整されている。
進化条件:カルマ値が1000以上
称号【千年狐狸精】の所持
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神じゃん!! これに進化したら、絶対属性に神がつくでしょこれ!
うっかり【眷属指定】の範疇で種族変更ができようものなら、この子の属性に神話級属性がそろい踏みしちゃうよ!
「……いや、さすがにマスクデータのカルマ値は操作できないから、すぐにはどうにもならないけど……」
ちらりとボクは殺生石に視線を向ける。
長い時間をかけてこつこつ更生させたら、できなくはないんだよなあ……。
……やる価値は……当然ある、よね……。
夢が広がるよね、これは……。
……よし、決めたぞ。まず、ステータスを決定して、だな……!
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個体名:殺生石(本体)
種族:安山岩(九尾)
性別:なし(女)
職業:ダンジョンキーパー
状態:普通(憑依)
Lv:82(329)
生命力:10/31
魔力:30741/94166
攻撃力:8
防御力:195
構築力:8174
精神力:7824
器用:6
敏捷力:0
属性1:妖 属性2:冥 属性3:魂 属性4:木 属性5:土(New!)
スキル
神能Lv2 千里眼Lv2 多聞耳Lv2 読心Lv4 魅了Lv10EX 指揮Lv4 性技Lv10EX 房中術Lv10EX
妖術Lv8(Up!)
気配察知Lv9 気配遮断Lv8 魔力察知Lv10EX 魔力遮断Lv7 魔力節約Lv4 空中機動Lv6
毒無効Lv2 麻痺無効Lv1 混乱無効Lv2 魅了無効Lv5 痛覚遮断Lv3 精神耐性Lv8 物理抵抗・中Lv4 魔法抵抗・大Lv1 耐飢餓Lv4 魔力自動回復・中Lv5(New!) 弾性・中Lv1(New!)
中国語Lv4(optimization!) 魔法工学Lv4(optimization!) 儀礼Lv4(optimization!) 拷問Lv10EX 交渉Lv7 日本語Lv3(optimization!) 潜伏Lv6 鍛冶Lv4 農作Lv7(New!) 建築Lv7(New!) 醸造Lv7(New!) 英語Lv4(New!)
称号:千年狐狸精
肉体のくびきから解き放たれし者
傾国
フォックス種の頂点
截教三強
逃亡者
ヒューマンスレイヤー
クインの眷属
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うん。
経験値有り余ってるからって、かなり好き放題やっちゃった。醸造とか、完全にボクの趣味だし。だって味噌と醤油を自作したかったんだ……。
まあそれはさておき、見た目変わってないスキルも、実は使える技が増えてたりする。妖術なんかは特に、ベラルモースの魔法をいろいろ与えておいた。今の江戸前ダンジョンじゃ誰も使えない、精錬魔法(錬金術って言ったらわかりやすいかな?)もぶち込んでみたんだけど、結果それも全部統合されてスキルレベル上がっちゃったしね。
これで後は、と……。
『……のうぬしさまよ。今さらそもじを疑いはせぬが、こんなことをして何になるのじゃ?』
ジュイとユヴィルの神社を三角形の底辺として見た時、ちょうど三つ目の頂点になる地点……すなわち館の正面に、ボクは新しく社を作った。
そこに、朱色で塗った鳥居? を用意して、社に殺生石を安置したのだ。そう、ご神体だね。
するとすぐに魂が出てきて、そう問いかけてきた。
「うん。君にはこれから神様のまねごとをしてもらおうと思ってね」
『それはあれか、妾を封神するということかの?』
「……? ちょっと意味わかんないけど……さっき君に上げたいろんなスキルを駆使して、住人がより住みやすい環境を作るのを手伝ってほしいんだ」
『ふむ。確かに、妾の元々の力に、あれだけの技能が加わればそれもたやすかろう。一面何もないこの土地を、富ませるうえでの象徴になれということか』
「そういうこと。正直、ボク一人にそういう感情が集中するのは避けたいんだ。頼られるのは嫌いじゃないけど、依存レベルで頼られるのは嫌だから。
それに、そうして君に信仰が集まったら、いずれ君の目にかなう憑代候補が出てくる可能性も上がるでしょ? 人は神様に詣でるものだし」
『なるほど、理解したのじゃ。このだんじょんを発展させていけば、人の出入りも増えるじゃろうしの。うむ、これはやりがいがあるのう!』
「あ、でも、土地の整備は勝手にやらないでね。住人からボクに嘆願があった時に初めて動くってことでね」
『わかったのじゃ! ぬしさまの恩に報いるためにも、精一杯がんばるぞよ!』
「うん、よろしく頼むよ」
かくして、強力な仲間と共に、江戸前ダンジョンの居住区に稲荷神社ができた。
お稲荷さん、といえば江戸でも流行の神様らしく、既に祭られてるジュイやユヴィルと共にあっさりと住人達に迎えられたのだった。
ただ、元巫女さんのかよちゃんだけは、
「あんまり関連の薄いお社を増やすのはちょっと……御神楽の中身も見直さないとですし……それに、私は一人しかいないですし……。あの、もしかしてまだ増える……とか、ありません……よね……?」
って少し呆れてたみたいだったけど。
……増える可能性? うん、ごめん。否定できない。
だって、この世界の固有種って神属性多いんだもん!
こうなったら、巫女さんをスカウトしようかな?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
稲荷信仰の対象であるお稲荷さんは、一説では「稲が生る」が名前の由来でその名の通り本来農業の神様です。
それがどうして狐と結びつくのかは諸説ありますが、農業……というか穀物の天敵である鼠を捕食する生態が、農業を守ってくれているという考えに至ったという説なんかが有名ですかね。
また、日本土着の農業の神である御食津神のケツに狐が誤ってあてはめられたことで三狐神となり、そこから転じて、という説も。
信ぴょう性がどれほどのものかは学者でもない作者には判断が付きませんが、本作ではあえて三狐神説を採用しました。
だって、九尾の対になる存在が特に思い浮かばなかったんですもの!(台無し
ちなみに、「optimization」は「最適化」という意味です。現代のものに適合させたということで。