第四十八話 伝説の大妖怪(笑)
またしても長くなりました……。
『んほおおぉぉ! 美味! なんたる美味な魔力! これほど美味な魔力を喰ろうたのはいつ以来じゃろう!』
殺生石が歓喜の声を上げている。いや、当然だけど石がモノを言うわけないから、【念話】だけどさ。
ボクの【魔力譲渡】で魔力を受け取った殺生石が、狂ったんじゃないかってくらいの声を上げたものだから、ボクはドン引きだ。
「そ、そっか……それはよかった……」
『おほぉぉぉたぎる、たぎるのじゃあ! 力がみなぎってきたのじゃー!』
それからも奇声を上げ続ける殺生石。それが落ち着きを取り戻したのは、実に数十分後のことだった。
そうして、殺生石から出ていた金色の魔力が集まって何かの姿を形取る。四足で、尻尾の長い……でも、ウルフとはちょっと違うな。狐かな?
『おかわりを所望するのじゃ!』
「却下」
『ふえええ!? 殺生なこと言わずもっと食べさせておくれ!?』
「却下」
『ふえぇぇ!? わ、わかった、なら交換条件として、妾を食べてもよいのじゃぞ! ほれ、そもじ好みの女子になるゆえ! な!?』
「却下」
『ふえぇぇぇぇん!? いじわるせんでくれ! もう1000年近くろくにものを食っておらんのじゃ! なんでも、なんでもするゆえ!』
「ん? 何でもする? 本当に?」
『する! する! 使い走りでも夜伽でも、なんでもするのじゃ! まじないで縛ってもらってもかまわん! じゃから、じゃから恵んでほしいのじゃ!』
「オーケイ、承諾したよ」
殺生石の言葉に、ボクは思わずほくそ笑んだ。いや、完全に成り行きだったけどさ。
それでも最上位種を制約で縛れるなら、多少魔力をわけてあげてもいいだろう。何せ、ボクは【光合成】と【吸収】のおかげで、魔力が存在しない場所でも魔力を賄えるし。
というわけで、早速闇魔法【ギアス】でボクに危害を加えないことを条件にして制約をかける。
普通、1000以上のレベル差があるとこんなのかからないんだけど、抵抗の意思がないのは本当なんだろう。拍子抜けするくらいあっさりと効果がかかった。
『おお、見たことのない術じゃな。はて、魔法は既に失せておるはずじゃが……いや、妾がこんなところで寝ている間に、世の中も進歩したんじゃな。随分と洗練とされた術式をしておる』
闇魔法を見て即座にそう言う辺り、やっぱりこいつ相当の実力者なのは間違いないだろうけどね。
ただ……なんだろう。どうにもそれを感じさせないっていうか、ただの残念な人って雰囲気をばりばり感じるのはなんでかな?
「そんなことより、魔力分けるから。ほら座って」
『はい!!』
ジュイと似たような何かを感じる……。
それからボクはしばらく……数値にして30000ほどの魔力を譲渡した。今の最大魔力の4分の1を分けたんだから、全力で感謝してほしいところだね。
『…………』
「もうあげないからね! そんな目で見られたって、これ以上は困る!」
『……わかったのじゃー』
ものすごく残念そうに言って、殺生石……正確には狐の形をした魔力が肩を落とした。
……魔力って言うかこれ、魂だな。どうやらこいつ、石のほうはただの憑代にすぎないみたいだ。肉体はなくしちゃったのかな? それとも、地縛霊か何か?
「……それで? 君は一体何者なのさ? なんかやばそうなのがあるって聞いてきたんだけど、まさか魂魄が宿る石に出会うなんて思ってもみなかったよ」
『それは妾もじゃ。魔力が枯渇してどれほど経ったか、もはや妾にもわからぬが……』
そこで、殺生石がじろじろとボクの姿を見やった。上から下まで、なめるように観察されてる。
『……そもじは花のあやかしか? こんな住みづらい世の中で、同類に会うことになるとは思ってもみなんだよ』
「同類……同類、ね。まあ、それはそうか。ボクはセイバアルラウネ……世界樹の花から生まれたモンスターさ。そういう君は?」
『世界樹……聞いたことないのう。ま、置いとこう。妾は狐、九尾の狐じゃ! どうじゃ! えっへん!』
えっへんって自分で言っちゃうのか……。
「……いや、知らないけど」
『ふええぇぇ!? 九尾の伝説、知らんのか!? かつては国をいくつも滅ぼした生ける神話とは、何を隠そう妾のことぞ!?』
「うん、知らないけど」
『ふええぇぇん!』
泣くなよ……なんだかめんどくさくなってきたな……。
それでも魔力が枯渇したことを知ってるってことは、「1000年以上ろくにものを食べてない」って表現もあながち間違いじゃない気がする。より具体的に言うと、魔力が存在してた時代からの生き残りって可能性が高い。
もしそうなら、こんなところで石に憑依した状態で仮死らせてるなんてもったいない。意図してなかったとはいえ、ボクに危害を加えられないようになってるんだ。このままうまく仲間にできないかな?
そう思って、色々と話を聞いてみると。
驚くことにこの殺生石、生ける神話という言葉もさほど誇張表現じゃないくらいとんでもない存在ってことがわかってきた。
生まれは驚くなかれ、今からおおよそ5000年前。さすがの地球でもバリバリ魔力に満ちていて、魔法も普通に使われてた時代だ。今でいう清が治めている地域(広すぎるってツッコミはなしだ)の出身らしい。
その中で実力をつけてどんどん上位種になっていき、最終的には並ぶもののない大妖怪として君臨していたんだとか。
『截教の中でも三強と呼ばれ、中心的な存在として猛威を振るっておったのじゃ!』
そう言って、魂が胸を張る。
よくはわからないけど、截教ってのは彼女みたいな動物由来の上位種たちが信奉していた宗教の一種らしい。そういうの興味ないから、細かい内容は聞かなかったけど。
ちなみに、その三強の中にはボクみたいな花のモンスターもいたんだとか。せっかくだから会ってみたいところだけど……。
『風のうわさで枯死してしもうたという話を聞いたが……』
「……それはとっても残念だ」
この世界のアルラウネとか、とっても気になってたんだけどな。死んじゃってるならしょうがない。
まあそれは置いといて、ともあれ彼女は大妖怪として君臨していたらしい。大陸では何度も国を荒らして、迷惑を振りまいてたみたいだけど。モンスターならそれは別に、それほど珍しい話でもない。
っていうか、昔はベラルモースとさほど違いのない世界だったんだね、この世界。
『それが出来なくなったあの日のことは、今でもはっきり覚えとるよ。ある日、この世のすべての生物が神の声を聞いたのじゃ。「魔法を廃止する」とな』
「あ、一応神託はあったんだ……」
『あったが、あったからこそ妾たちのようなものは混乱した。幸い、魔法を廃止するというのが「新しく魔法を習得することができなくなる」という意味だったらしく、能力自体は今まで通り行使できたのじゃが……』
「魔法が廃止されちゃったから、魔力も供給されなくなっちゃったんだね」
『そうじゃ。おかげで、それからたった100年足らずで多くの同胞が死んだ。妾のような大妖怪とされたものも、多くが散って行ったわい。妾がこの地で眠りに着くころには、もはやほとんど残っておらなんだのではないかなあ……』
そう言って、殺生石がさみしそうに空を仰いだ。
『……あれ以降、新しい同胞が生まれることもなくなった。よくはわからぬが、きっと妾たちは見捨てられたのじゃろう』
ああ、ワールドアップデートでは確か、魔法と一緒に上位種の系統の廃止されてたんだっけ。人間由来のはまだしも、動物由来はその大半があおりを食らってそうだ。
『それでも、死のうなどとは到底思えなんだ。故に、妾は必死になって生きようとしたよ。生まれ育った土地も捨てて、この島国に移り住んで。人間の魂を喰らうことでかろうじて魔力を維持して、ひっそりと暮らすようになった。
元々、肉体は既に捨てて、他者の身体を乗っ取る生活をしておったからな。他の者に比べれば生き残ることはさほど難しくはなかったわい。必要に応じて憑代の生命力や魂を少しずつ食らうことで生きながらえる……そんな生活を、この島国で300年ほど続けたかのう』
「……話のスケールが大きすぎる」
まあ5000年も生きてればそうもなるだろうけどさ。ベラルモースだと5000年前はガチで神話の時代なんだよなあ。うちの世界の主神たちと同年齢って、なんていうか桁が違いすぎる。
『妾は当時、藻女という娘を使っておったのじゃがな。ある日、ふとした出会いから宮中に召し抱えられることになったのじゃ。
最初は大人しゅうしていようと思っておったのじゃが……元々長く生きて様々な知識も持っておったから、それを鳥羽上皇に気に入られてしもうてのう。そうして付き合いが増えて……玉藻なんぞという立派な名前までもろうてな……』
「ああ……情が湧いちゃったんだね」
『いや、食欲を辛抱できなくなってしもうてな……』
「食べちゃったのかよ! 宮中で何してんのさ!?」
『し、仕方ないじゃろ! 妾の主食は、夏王朝の頃から主に情欲を中心とした煩悩だったんじゃ! それをあの日以来極力控えて辛抱しておったんじゃ、ちょっとくらい食べても罰は当たらんじゃろ!?』
「……当たらなかったの?」
『当たった! 盛大に当たってしもうた!』
「ダメじゃん! 何やってんのさ大妖怪!!」
『ついカッとなって……。反省はしとるんじゃ、勘弁してたもれ……』
「後悔は?」
『しとらん! 鳥羽上皇の魂魄はまっこと美味であった!!』
「しろよ! 人生の計画性皆無じゃん!!」
ダメだこの大妖怪! よく今まで生き残ってこれたね!?
……いや、魔法が廃止されたからこそ生き残ってこれた、のか? ベラルモースだったら……うーん、どっかの宮中でそんなことしたら、勇者でも出てきて首が飛ぶだろうなあ。物理的に。
「……で、その後どうしたのさ。当たったってことは、処刑でもされた?」
『いや、それはかろうじて逃げたんじゃがな。追手を差し向けられてしもうてなあ。8万ほど』
「多っ!? それ今よりも前の話だよね? そんな人数の軍隊、よく用意できたね……」
『まったくじゃよ。おかげで憑代の玉藻は殺されてしもうたわい。で、妾はすんでのところでこの石に取り憑き、なんとか死なずに済んだというわけじゃ。その直後は周囲に殺してもいいような人間が大勢おったからのう、盛大に魂を食って潤わせてもらったわい』
「……ああ、石から出てるその魔力はそういうことか。魂食は知ってるけど、ボクの知ってるやつとはずいぶん違うんだなあ」
『うむ、それは恐らく、妾の術式が古いんじゃろうな。ともあれそのおかげで、なんとか石の身体でもやってこれたというわけじゃ』
単に世界が違うからだろうけど、それはまだ言わないほうがいいかな。
「……いや、でも君、仮死状態だったじゃん。死にかけてたんじゃないの?」
『う、うむ……その200年後くらいに来た坊主に砕かれてしもうてな』
「大妖怪弱くない!?」
ただの僧侶にやられたって……。
『し、仕方ないじゃろ! この身体は石なんじゃぞ! できることなんて限られとるんじゃ! ろくに身動きも取れんし!』
「にしたってやりようはあるでしょ……。大体、数万人殺したんでしょ? 魔力は? 200年くらいもつんじゃないの? 200年もこんなトコで何してたのさ?」
『ダメじゃったーすーぐ腹ペコになってしもうたー』
「燃費悪すぎか!」
『いや、つい調子に乗って色々やっておったら……なんかいつの間にやら枯渇しておった』
「ただの無駄遣いじゃんか!」
やっぱりこいつ、ただの無計画だ!
あれだろ、大富豪とかで、何も考えず初手に2のダブルとかやっちゃうタイプだな!?
『砕かれた時に四つくらいになってな……うち三つはどこかに飛び散ってしもうた。おかげで大幅に弱ってしもうてなあ……仮死状態になって、なんとか糊口をしのいで今に至ると言うわけじゃな』
「……え? ってことは今の君みたいなやつが、他にもまだ三つあるってこと?」
『うむ、どこかにあると思うのじゃが……ただ、既に力は枯渇しておるのではないかなあ。本体の妾すら半分死んだような状態じゃったからなあ』
「それは……ちょっと気になる話だな……」
んむう、と唇に指を当てて考える。
もし、もしもだけど、この殺生石を仲間に引き込めたとしたら、その力を取り戻すことは決して無駄じゃない。ダンジョンの陣容が厚くなるんだとしたら、むしろ歓迎すべきだろう。
もちろん、そのためには殺生石を引きこむことが大前提ではあるけども……。
それを抜きにしても、魔法が存在していた時代から生きてきた存在の力を手に入れること、そしてそれを解析することは、ボク自身の強化につながる可能性だってある。
何せ、ここは異世界だ。ベラルモースと似たような環境ではあるけど、決して同じじゃない。だから、この世界特有のスキルなんかも手に入るんじゃないかな……って、そう思うんだよねえ。
『なんじゃ!? そもじ、妾の力を取り戻してくれるのか!?』
「その察する力は別のところで使ったほうがいいと思うな!?」
ボクが思った瞬間ずずいって迫ってくるとか、読心能力でもあるの?
いや、あってもおかしくはないか。長く生きてきたわけだし……情欲を糧にするとなると、そういう空気を読み切る能力はないといけないだろうし。
「まあ……君のスキルには興味あるしね。条件次第では……」
『そもじは神か……! ありがたや……ありがたや……!』
「いやまだするって言ってないんだけど!?」
『ついでと言ってはなんじゃが、なんぞ活きのいい憑代を用意してはくれんかのお? もう石の身体はこりごりなんじゃー』
「ないよ!」
こいつ図太いなあ! いや、図太いって言うかずうずうしい? 自分の立場わかってるんだろうか。
……いやまあ、図太くないと5000年も生き抜けないか。魔法がなくなってからの生き様は、そういうものだったんだろうし。
今しがた「ない」って言ったけど、実はないこともない。
ベラルモースには、まだ実用化には至ってないけど、人造人間……ホムンクルスの技術もあるのだ。専門だったわけじゃないけど、魔法工学とかなり近しい分野だから、ある程度の知識はある。
確か、現段階での最重要問題は、造ったホムンクルスに魂を持たせることだったはず。つまり、生物の肉体を造り上げるところまでは行ってるのだ。その肉体に憑依させれば、それなりのものに仕上がるんじゃないかな。
ただ、ボクは霊魂学は本当の門外漢だ。それによってホムンクルス側にどういう影響が生じるかは想像できない。上手く行けばいいけど、殺生石に悪影響が出たらそれはボクも彼女も困る。
定期的に肉体を更新しなきゃいけないくらいだったらまだいいけど、これが自我を失って暴走とかしたら目も当てられないし……この選択肢はやめといたほうがいいんだろうなあ。
「……参考までに聞くけど、憑代にするのはどういうのがいいのさ?」
『うむー、それを一言で説明するのは難しいのう。まず何より重要なのは、その肉体が妾の魂と相性がいいかどうかなんじゃが……肉体の性能や潜在能力、あるいは生死なんぞは一切関係なくっての』
「相性が悪いとどうなるの?」
『短時間で肉体が崩壊してしまうな。程度は相性次第じゃが、最悪一瞬じゃのう。まあ、どれほど相性が良くてもせいぜい1000年くらいが限界なんじゃが』
1000年をせいぜいだなんて言わないでほしい。十分すぎるでしょ。
「それを見分ける方法ってないの?」
『見ればわかるぞよ。ただ、対象が眠っていたり死んでいたりしたほうが見分けはつきやすいゆえ、そこはちと便宜を図ってほしいところじゃ。乗っ取るのもそのほうが楽じゃし』
「なるほど。……それ、石でもよかったわけ?」
『いいわけないのじゃ! 我が借体形成の術はかなり融通の利く術じゃが、本来は人間に対して使うことが前提の術なんじゃぞ! ろくに身動き取れんってさっき言ったじゃろ、妾!』
まあそりゃそうか。そこまでできるんだったら、石に移ったとしても反撃できただろうし。
もう少し術式を改良して、他のものに対しても使えるようになったら便利だろうけどねえ。
「ふーん……」
『ふ、ふーん!? ふーんてそんな他人事みたいに! 妾にとっては死活問題なんじゃぞ!?』
「いや実際他人事だし。ちなみに乗っ取られた側はどうなるの?」
『ふえぇぇ……同類が手厳しいのじゃ……。うう、えーと、乗っ取られた側じゃな。妾の魂に最適化された肉体に改造されるとともに、意識は完全に落ちるのじゃ。妾がその後出ていけば意識は戻るが……その間の記憶は一切ないゆえ、時空を飛び越えた気分になるのではないかな。
まあ、今までの経験上わりとぎりぎりまで引き延ばしてから肉体を捨てておったから、直後に衰弱死したものがほとんどかのう』
「ろくでもないね、大妖怪。いや、それでこそモンスターって感じだけど」
『にょほほ、そう褒めるでない! 照れるではないかぁーもうー!』
「……いや、褒めてはいないんだけど……」
くねる金色の魂が気色悪い。躁鬱をよりタチ悪くしたみたいなテンションの乱高下は、長生きした結果性格がゆがんだのか元からなのか……考えたくもないなあ。
しかしそうなってくると……彼女をボクの仲間として十全に機能させるためには、相性のいい器が必要になるわけか。
でも最適解を見つけるのにどんだけかかるだろう……この世界全体を探れば、それなりにいるかもしれないけど……そんな余裕は今のところないわけで。
……あ、待てよ。幕府に協力した見返りを今後も人で要求してったら、結構確率は上がるかな? まだ最初の300人のうち100人来てないけど。
あと候補にできそうなのは……【モンスタークリエイト】か。あれは自我のない存在……つまりは魂がほぼないようなものだから、案外うまくいくかもしれない。
ダンジョンコアのレベルが2になった時に使えるようになったものの、今のところ使う機会があんましないの【改造】とか【合成】も、もしかしたらいけるんじゃないだろーか?
「……オーケイ、ちょっと相談しようか殺生石」
『なんじゃ? もしや既に当てがあるのかや?』
「当てはないよ。ただ、探すのは手伝える。ボクはちょっと特殊な存在でね……ボクの眷属になってくれるなら、ボクは君を保護するって約束する。どうだい? 悪い話じゃないと思うんだけど……」
『全力でよろしくお願いするのじゃあー!』
「決断早ッ!? いいの!? 眷属だよ!? ボクの命令絶対遵守だよ!? 下剋上も不可能なレベルで拘束されるよ!?」
『構わん! 一ッ向に構わん! もう人目を避けて隠れ続けるのは疲れたのじゃ! そもじが養ってくれるのなら、妾が言うことはなぁーんにもない!』
「……お、おう……それでいいのか大妖怪……」
『そんな矜持はもはやとうに捨てたわい。後生大事に矜持を掲げたところで、それで腹が膨れるわけもなし。大事なのは明日のことより今日のことじゃ。妾は決めたのじゃ、どれだけ泥にまみれさげすまれても、この魂が燃え尽きるその時まで生きるのだとな!』
へえ……なーんだ、やっぱりこいつ、ジュイの同類じゃないか。
何よりもまず、自分が生きるため。生き残るためにはどんな手段だって使うってことでしょ?
好きだよ、その姿勢。どれだけ美辞麗句を並べても、所詮ボクたちはただの生き物。その本能は、生きることと増えることなのだ。
「……オーケイ、君の願い聞き届けたよ。君がボクの眷属になるって決めた以上、ボクは君を守ろう」
『ふえ……そ、そんなこと断言してよいのか? 妾、大飯食らいぞ? きっとそもじが思っておる以上に食う、それでも……』
「いいってば。っていうか、今までの図太さどこいったのさ? 君はもっとずうずうしく、ちょっと抜けたことを言ってればいいんだよ」
『お、おう……ううう、ふえええ、せ、世話になるのじゃぬしさまよー!』
「ん。それじゃあ行こうか。ボクの城に案内するよ」
『うむ、うむ! どこまでもついていくのじゃよー!』
そうしてボクは泣きわめく殺生石を拾い上げると、ダンジョンに戻るべく【テレポート】を発動させたのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
というわけで、新キャラ殺生石(キャラ名)でした。
主人公とヒロインがわりと作者の嗜好を詰め込んだキャラなのはご承知の通りですが、こいつもその手のキャラです。おかげで他のキャラより既にキャラが立ってるっていうこの……。