第四十五話 諜報部隊を作ろう
11/23 第四十話、第四十三話の交渉内容に関するシーンに、「日本側にのみ義務を要求している」という問題点を指摘するシーン、それに対する動きの結果をそれぞれ追加しました。
あと少し前になりますが、11/20付でかよちゃんの初期保持スキルに祭事Lv3を追加してます。報告遅れましてすいませんでした。
その日の夜のことだ。
夜にしては珍しく、藤乃ちゃんが真顔でボクのところにやって来た。
いや、本当に珍しいんだよ。普段の彼女は、夜と言えば部屋にこもってキングスライムとにゃんにゃんだからさ?
一体何事かと思わず身構えたボクは、何も悪くないと思うんだ。
「上様、相談があるんだけど」
「何? えっちグッズはあげないよ?」
「あるの!? あっ、いや、そうじゃなくって……」
この子は本当に、深刻な性欲魔人だな……。一体どこで道を間違えたんだろうね、まったくもう。
いやー、なんでだろうなー。見当もつかないなー。
でもその手の話じゃないとすると、なんだろう? 正直心当たりはないんだけど……。
「実は……人手を増やしてもらいたくって……」
「……大丈夫? 熱ある? 有給出そうか?」
「平熱よっ! 上様はあたしをなんだと思ってるの!?」
「性欲魔人」
「そうですぅー! どうせあたしは性欲魔人ですぅー! ちょっと時間が空いたらすぐ助平なことしか考えられない生粋の性欲魔人ですぅー! だから虐めてください!!」
「誰がそこまで言えって言ったかなー……」
「はあはあ……うふふふ」
開き直りながら頬を紅潮させてる姿には、すさまじい業の深さを感じる。
一体何が彼女をそこまで追い込むんだろう?
いやー、わっかんないなー。心当たりまったくないなー。
一応、行為中じゃなきゃだいぶ性欲はコントロールできてるみたいだけどさあー。
「いやそんな話じゃなくって。人手ね、うん。人手……そうだねえ、今後のことを考えると、もうちょいほしいよね」
「そうなの……しばらく幕閣の調査になるんでしょ? だとしたら、あたし一人じゃさすがに無理だと思って……」
ほら、真面目な会話もとりあえずはできるんだよ。
「だよねー。うーんと、DEの残量は……およそ2万か。これだと6,7人が限界かなあ」
「それでもいいわ、一人じゃないなら十分」
「ふむ……じゃあ、モンスターと人、どっちがいい?」
「できれば人が……。育てる手間が省けるのは大きいし、何より日の本の事情や常識は単に【モンスタークリエイト】じゃつかないでしょ?」
その指摘は正しい。【モンスタークリエイト】はあくまでダンジョンの機能で、そのデータはほぼベラルモースに準拠してる。例外は、ボクが【真理の扉】で地球(っていうかテラリア世界)の真理の記録に接続したことのある事柄だけ。
だから、そこから作りだされるモンスターは、名づけの別なくベラルモース側の存在なのだ。
一方、【眷属指定】をするとこの世界の人間にベラルモースの知識を与えられるから、二つの世界の知識を持った存在になる。
だから逆の方法、なんとかみつからないかなあって常々思って調べてるんだけどさ。【スキルクリエイト】以外で。でもなかなかねー。そうすれば、もうちょっと楽に眷属増やせるんだけど。
この世界の生物、経験値を消費する機会がないから、その分ベラルモースで【眷属指定】するよりは安上がりにはなるけど……それでも決して安くはないからなあ。
「そうだね、そのほうがいいだろうね。でもそうなると、経験者を引っ張ってくる必要があるけど?」
「それは大丈夫。前々から目星着けてた元同僚が何人かいるから、そこに当たってみるつもり」
「準備ずっとしてたもんね。ああ、そういえば昨日口頭だけど引き抜きの許可もらったし、せっかくだからすぐに始めようか」
「いいの? ちょっと急じゃないかしら?」
「そうなんだけどさ、明日からどころかもう既にその手の行動始まってる可能性があるから、やれるなら早めにやっときたいなって」
「あ、なるほどね……わかったわ」
本当ならこれから夫婦の営みで忙しいんだけどね……でもまあ、夜って言ってもまだ早い時間だし、急げばなんとかなるだろう。
出来るだけ早く終わらせるようにしよう、うん。
「じゃあ……はいこれ。データはこれにまとめといたわ。ベラルモースの魔法道具って、本当に便利よね」
「さすが、やればできる女……どれどれ?」
渡されたのは、諜報活動用に藤乃ちゃんに持たせてあるスマートフォンだ。どうやら、文書管理アプリにいろいろまとめてあるみたいだな。
えーっと、候補は六人と。職業も年齢も見事にばらばらだな……。
「……全員候補が女性なのには何か理由があるの?」
「元同僚の中でも仲の良かった面子……の、中でも江戸にいるのを選んだの。同じ師匠に学んだ間だし、警戒心持たれず近づけると思ってね」
「なるほど」
別の職場に移っても、友達との関係は壊したくないってことかな。
その気持ちは分からなくはないね。
「あと、女ならあたしと同じ方法使えるだろうし……」
「……もしかしなくてもそっちが本音だよね?」
「うん」
「即答かー、そっかー」
思わず頭を抱えてしまったよ……。
これ以上性欲魔人が増えたら、いろいろと面倒なことになるのは目に見えてるぞ。大丈夫かな……。
でもなあ。正直やってみて思ったけど、あの方法が有効なのは間違いないんだよね……。そっち方面に特化したダンジョンやモンスターが、なんで今もベラルモースに根強く存在し続けてるのかよくわかったもんね……。
ただ、ボク個人としては、他に方法があるならあんまりしたくない。藤乃ちゃんのときは最速で仲間にしたかったのと、それができるだけの名案がなかったからであってだね……。
「……あの方法使うのはまあ、止めはしないけどさ。他に効率やり方があるならちゃんとそっち使ってよ? たぶん、人によって向き不向きもあるだろうしさ」
「わかってるわよ。わざわざ非効率なことなんてしないわ。ただ、選択肢は多いほうがいいってだけよ」
「ならいいけど。……壊さないでよ? 大切な未来の仲間なんだから」
「もちろんよ、そんなヘマはしないわ」
「確かに、君は【拷問】スキルもあるしそこは信じてもいっか……」
それでも妙な不安を感じるのは、ボクだけだろうか。嫌な予感って言うか?
何事もなきゃいいんだけどね……。
「……まあいいや。それじゃ、始めようか。ボクは独房のほうで待機してるからよろしく」
「御意。じゃあ、まずは一人目連れてくるわね」
ボクが頷くと同時に、藤乃ちゃんの姿がかききえる。
……今のは【霊能】スキルかな。ベラルモースじゃ滅多に手に入らない特質級スキルで、普通なら魔法に頼らないとできない透明化や分身、瞬間移動なんかの多種多様な能力が使えるやつだったはずだ。
いいなあ、ボクもほしい。【スキルクリエイト】しちゃおうかな……?
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眠い!
あ、いやごめん。思ったより時間かかったって言うか、全員を説得プラス【眷属指定】するのにかなり時間かかっちゃってね。
うん、現在深夜2時半です。草木も眠る丑三つ時、って言うんだっけ?
いや、しんどかった。身体の負担はほとんどないけど、精神的に。
藤乃ちゃんめ、6人中3人を快楽責めしてくれた。確かにその3人は房中術のスキルレベル低めだったけどさ!
濃厚なスライムレズプレイを見せられるこっちの身にもなってほしい! いや、ボク女の子好きだから、女の子+女の子の構図は大好きだけどさ。むしろ録画も考えたけどさ。
自分が性欲抑えてしてる仕事なのに、近場で嬌声が聞こえるのってすんごくイライラするんだ!
でも今夜はもう遅くなっちゃったから、かよちゃんとはできないよなあ。仕方なかったとはいえ、本当に腹立たしいよ!
まあ、それは置いといて……。
「……水戸徳川家ってのは本当になんなのかなー」
今ボクが手にしてるのは、斉昭君の密書だ。あて先は、都の公家たち。
驚いたことに、引き抜いた6人の内2人が同じ内容の密書を持っていたのだ。あて先はそれぞれ別ってことを考えると、かなりの人間に情報をばらまいてることになる。彼女たち以外の人間もやってるだろうし。
「とりあえず、密書を持ってた2人は今後しばらくは今までの身分を保ったまま行動してもらおう。二重スパイって奴だね」
「御意。あたしは他の4人と一緒に他の情報の流れを追うわね」
「うん、そうして。黒の人間はボクが【真理の扉】で探そう。その情報は逐次【テレパシー】で送るよ。現場での細かい判断は、藤乃ちゃんに一任するから取りまとめよろしく。みんなもいいね?」
「「「「「「はっ!」」」」」」
藤乃ちゃんの後ろに控えた6人が、一斉にこうべを垂れた。
既に6人とも、【眷属指定】でボクの眷属になっている。武術全般に造詣があって、それぞれが色んなスキルを被らないように持ってたので、諜報以外にも活躍してくれそうだ。
ステータスなんかについてはさすがに藤乃ちゃんほどのレベルには達してなかったから、すぐに進化させることはできなかったけどね。
それでも、元に比べると相当強化されている。この世界の人間数人程度なら、彼女たち一人一人で十分立ち回れるだろう。
とはいえ、藤乃ちゃんと同じ【快楽に溺れた者】が称号についた人は誰もいなかったわけだけど。
藤乃ちゃん、やっぱり元々そういう趣味だったんじゃないかな。この世界の人間があそこまで自分を鍛えるって、正直被虐趣味じゃないとやってられないと思うんだよね。ナルシスマゾっていうか。
ちなみに、一人【同性愛者】の称号が新しくついた人がいたけど、見なかったことにした。恋愛は個人の自由だ。形について人がとやかく言うことじゃないよね。
と言いつつ、実際のところは藤乃ちゃんもっと困れっていう、個人的な些細な仕返しなんだけどさ。
そんなことを考えながら、出発する新設諜報部隊の姿を見送るボクだった。
さて……今夜は徹夜かな。ちょっと休憩挟んで、睡眠代替のポーションでも使うかな……。
「……旦那様?」
「ぅえっ!? かよちゃん……まだ起きてたの?」
部屋に戻ったら、かよちゃんが寝間着姿で出迎えてくれた。嬉しいけど、びっくりしたよ。
「いえ、その……小用で目が覚めました……」
もしやとは思ったけど、どうやら単純にそれだけみたいでほっとした。
かよちゃん、最初の頃はボクに合わせて起きてようとしてたからなあ。それが復活したのかと思っちゃったよ。
「お仕事は終わりましたか?」
「んー、そうだよって言いたいんだけど、今日はちょっと寝れないかもー」
「そう、ですか……」
がっかりって感じで肩を落とすかよちゃん。その下半身が、もじもじと動いてる。
……えーっと? これはもしかして?
一回くらいは大丈夫な流れかな?
「かよちゃん?」
「え! あ、い、いえ……大丈夫です。その、旦那様のお仕事を邪魔するわけにはいきませんから……」
「待って、休憩のつもりでいたから今は大丈夫だよ。それより、今日は結局何もできなかったから、一回くらいしたい。ダメかな?」
「へ!? あ、あの、……えっと」
手を取ってこちらを向かせたかよちゃんの顔は、どう控えめに見ても問題なしって書いてある。
実際、すぐにこう言ってきたもんね。
「……あの、だ、抱いていただけますか……?」
「喜んで!」
嫌なわけないじゃない!
早速プレイ部屋に直行だ!
――その後。
まあ、当然って言ったらアレだけど、一回で済まなかったけどね。
そのうちお互いに【快楽に溺れた者】なんてついたらどうしようかなって、ちょっと脳裏をよぎったのはここだけの話だ。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
最近おとなしくしてたのに、ここに来て急にアレな雰囲気になってしまった。
いや、ここしばらくまっとうに歴史ものっぽいことしてたから、ちょっとはまっとうに(?)ダンマスものさせてもいいかなって……。