第五話 カルチャーショック
いや、ちょ……はあ!?
待って待って、結構いろいろと待って。
ゴールドウルフとブラックウルフ、それはいい。いいよ、それは。うん。
なんだよt/Ms&わ+って。何がどうなってんの?
文字化けしてるし、説明にも地球産ウルフ固有ってあるから、それはまあいいとしても。
三行目! 現在は自然発生しないように調整されている、ってどういうこと!?
この世界ってどうなってるのさ!? 神様が何かしてるのかい!?
「……グゥ……?」
「ああいや……ごめん、ちょっと想定してなかったことがあってね……」
お座りの状態で首を傾げた白いのに、ボクは目頭を押さえながら応じる。
これは真理の記録案件だな……この一件が終わったらすぐにでも調べよう。
と、とりあえず……種族はt/Ms&わ+でいいよね。神様に目を着けられるかもしれないけど、どうせ固有種ならそれを利用したい。うん。
種族を選択すると、次はステータスの割り振り。使えるポイントは、前回も少し触れたけど、対象が今まで鍛えた魂の力……ぶっちゃけると獲得した経験値を使用する。ちなみに名づけを作るなら、DEから消費することになるよ。
ポイントを振れるステータスはとても多い。ダンジョンマスターの意向を反映させて、どういう方向性の個体にするかを決めることができるわけだね。
個体の方向性を考えるうえで、一番シンプルな考え方は長所を伸ばすか短所をつぶすかだ。さて、どうしようか?
ウルフ種は普通スピードタイプのアタッカーで、戦闘面においては素直で扱いやすいモンスターだったっけ。だったらここは短所を補うより、長所を伸ばして特化させたことにしようかな。
ただ、t/Ms&わ+という上位亜種は魔法関係の能力も持ってそうだから、それに関わるステータスにも振っておいた方がいい気がする。
……って、こいつ魔法関係のステータスすごい低いな。特に魔力とかゼロなんだけど、何がどうなってんの?
ベラルモースじゃ普通、どんなに魔法に才能がない人間でも、ゼロってことはありえないんだけどな……。
ってこれ、もしかしてボクの魔力回復速度が極端に遅いのと何か関係あったりする? 異世界だから、で片づけないほうがいいような気がしてきた。……これもあとで調べておこう。
まあそれはともあれ……ステ振りは終わりっと。最後は名前だね。ふむ。
この場合の名前は、ボクでいう【クイン】に当たる。ただの呼称だね。真名は本人にしかわからないもの、というのは動物だろうとモンスターだろうと変わらないんだ。眷属にしたと言っても、真名は取らないのが暗黙の了解。
とはいえ、呼称はあくまで呼称でしかない。疎かにしていいとは言わないけど、長いこと時間をかけるほどのものでもない。
というわけで……。
「そうだねー、うん。……よーし、今日から君の名前は【ジュイ】だ!」
それは故郷の言葉で「白い森の刃」を意味する。神話にも出てくる、世界樹防衛の英霊にあやかった名前だ。
それがわかったのかどうかはわからないけど、ジュイは一声高く吠え声を上げた。今まで聞いた声とは違う、朗々とした声だった。
彼の声にボクは、にいっと笑う。そしてメニュー画面を操作して、ジュイに対する設定を反映させた。
変化はすぐに、そして劇的に現れた。
ウルフ種としては小柄だったジュイの身体が、一気に二回りほど大きくなる。それに合わせて、脚も太さを増していく。牙は、大きくなりはしなかったものの鋭さが増し、名剣のように光を反射させるほどになった。
ジュイの特徴とも言える白い毛並はより白さが上がり、何らかの神性でも得たのかうっすらと空色の光を放つようになっている。赤い瞳はその透明感を維持したまま、まさに宝石のような輝きを得た。
「ウォオオオン!!」
進化を終えたジュイが、高らかに叫ぶ。先ほどの声と本質は同じ、けれど魔力を帯びた蠱惑的な音色となってダンジョン内にこだまが響き渡っていく。
こうしてボクは、異世界に来て最初の眷属を手に入れた。
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個体名:ジュイ
種族:t/Ms&わ+
性別:男
職業:ダンジョンキーパー
状態:通常
Lv:1/50
生命力:192/192
魔力:84/84
攻撃力:109
防御力:61
構築力:48
精神力:117
器用:38
敏捷力:200
属性1:神 属性2:天 属性3:土 属性4:木
スキル
噛みつきLv8 爪撃Lv5 咆哮Lv5 裂帛Lv1 念動Lv1 雷撃Lv1
夜目Lv9 追跡Lv6 気配遮断Lv3 氷耐性Lv4
生命力自動回復・微Lv1 耐毒Lv1 日本語Lv1
称号:dk#にqバ
クインの眷属
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……は?
いやいや、いやいやいやいや。
またとんでもないの持ってきてくれたよ!
何って君、属性1だよ君ぃ!
神属性って、本気で言ってる!? それ、故郷じゃ滅多に見れない最上位属性だよ!? レアリティで言ったら神話級だよ!
天属性はまだわかる。ダンジョンコアの属性が天だから、眷属にしたジュイにこれが付与されるのはわからなくはない。
土と木は、ボクの属性だ。これもジュイに付与されるのは別におかしなことじゃない。そうじゃないとしても、ウルフ種としてはどちらもさほど珍しくない属性だ。
……でも神属性! それは明らかにまずいでしょ!
「な、なるほどなあ……世界のバージョンアップで今は自然発生しないって、もしかしてこういうことかな……わりと簡単に上位属性がついちゃう的な……ゲームバランス的な何か……」
画面に表示されるジュイのステータスを見ながらボクは、とんでもないことをやらかしたんじゃないかとおののく。
「スキルの日本語Lv1は素直にありがたいけどさ……」
実をいうと、ボクはまだ現地の言葉がわからない。今喋ってるのは、故郷ベラルモースの言葉だ。
現地人とコミュニケーションを取りたいボクとしては、できるだけ早く現地の言葉……つまり日本語を習得しておきたかった。
まあ言語系スキルのレベル1ってのは、単語をかろうじて言える、聞き取れる程度でしかないんだけどさ。それでもないよりはましだし、眷属にスキル保持者がいるというのは大きい。
ダンジョンマスターは、モンスターはもちろん自身にもDE消費で好きなスキルを付与できるようになっている。【スキルクリエイト】って機能だ。ただこれ、DEがめちゃくちゃ高くつくんだよね。
けど、自分や眷属が持ってるスキルは消費DEが多少減ってくれるのだ。それも割合で減ってくれる(その割合はダンジョンコアのレベルと所有スキルのレベルで変動する)から、いろんなスキルを持った眷属を揃えるのは、ダンジョンマスターとしては必須の心得とも言えるんだ。
DEがたまったら、早速ボクも日本語を習得しとこう。
でもその前にジュイの種族とかについて調べるのも忘れずにやらないと。これはいろいろと気になる項目だ。
……ちなみに、ジュイのステータスは器用以外はボスとして用意したゴブリンナイトより既に上。属性のインパクトが強すぎて、なんかかすんで見えるよ。
「……グゥル?」
「や、なんでもない……とりあえず部屋に戻ろうか」
「ウォン!」
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さて、それからさらにたっぷり一ヶ月ほどかけて、色々と調べさせてもらった。
その間、ジュイには大きくなった身体を慣らすため、また周辺の偵察をしてもらうために、ダンジョンの外で主に活動させた。その際、食料にする以外の獲物も少し狩ってもらって、ダンジョン内でDEに変えてもらうのも忘れない。
そうして一ヶ月の間にジュイのレベルは7まで上がり、いくつかのスキルも伸びた。
で、調べた情報を反映させたジュイの今のステータスが、こう。
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個体名:ジュイ
種族:大神遣
性別:男
職業:ダンジョンキーパー
状態:通常
Lv:7/50
生命力:199/199
魔力:93/93
攻撃力:114
防御力:62
構築力:50
精神力:117
器用:39
敏捷力:211
属性1:神 属性2:天 属性3:土 属性4:木
スキル
噛みつきLv8 爪撃Lv5 咆哮Lv5 裂帛Lv1 念動Lv3 雷撃Lv2
夜目Lv9 追跡Lv6 気配遮断Lv3 氷耐性Lv4
生命力自動回復・微Lv1 耐毒Lv1 日本語Lv2
称号:アルビノ
クインの眷属
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うん……まさか一ヶ月で念動が2も上がるとは思わなかったな……。相当使ったんだろう、ソロで狩りをするにはきっと便利だったんだろうね。
あと、さりげなく日本語のレベルが上がってる。人里に辿り着いたんだろうか。
まあそこは追々ジュイに聞こう。それはさておき、だ。
明らかになった種族【大神遣】。意味は偉大なる神の御遣い、ってところかな?
称号【アルビノ】……遺伝子の異変で身体の色素が薄くなった個体からしか進化できない特殊上位種、らしい。
うん。
普通に神様の眷属だよ。そりゃあ神属性つくよ。っていうか、この世界じゃアルビノの称号ついた個体は神の眷属になりやすいらしい。神属性がこんなに安い世界とは思ってもみなかったな。
そんな固有種がどうして今は自然発生しないかについては、バランスブレイカーだかららしい。ボクの推測は正解だったよ! 嬉しくないけど!
真理の記録によると、この種族が廃止されたのはおよそ1800年くらい前らしい。
なんでも、当時のワールドアップデートで魔法という概念が廃止されたらしいんだけど、その分一部の種族の上位種が脅威過ぎる存在になっちゃったんだとか。そのあおりを受けて、大神遣はじめ多くの上位種が廃止されたという。
そして最大の問題。その数百年後のメンテナンスを最後に、このテラリア世界で神様が手を加えた記録は一切ない。つまり、その辺りで管理を投げたようなのだ。
……なんてずさんな運営だろう。今どきのMMORPGだってこんなやり方しないぞ。普通、バランスは丁寧に調整するものじゃないかなあ!? やるだけやってみて捨てるって、色んな意味で神様失格だと思う!
そして調べてる過程で、ボクは今後の生活において結構……というかとんでもなく重要なことに気がついた。
空行を除いて十行ほど前にさかのぼってみてほしい。なんて書いてある? うん。
【当時のワールドアップデートで魔法という概念が廃止されたらしい】
そうそれ! それ、大問題!
つまりだ。今この世界には、魔法という概念が存在しない。道理で魔力の回復が遅すぎるわけだ。魔法がないなら、そのために必要なエネルギーも存在しないだろうから。
遅くとも魔力回復が起きてたのは、きっとボクの種族固有スキル【吸収】と【光合成】のおかげだろう。
読んで字の通り、ボクは物質、あるいは光のエネルギーを、生命力や魔力に変換することができるのだ。これは変換効率さえ気にしなければどんなエネルギーだって利用できるから、なんとか魔力を賄えてたんだろうな。
あと、魔法が存在しない上での問題はもう一つある。それは、この世界にモンスターが存在しないだろう、ということだ。そしてこの推測は、魔法と併せて既に検索で事実だって裏付けが取れている。
ベラルモースでの定義になるけど、モンスターというのは魔力を帯び、魔力を何らかの形で使うことができる存在の総称なんだよね(この定義に当てはめると人間もモンスターになるんだけど、彼らはそれをかたくなに拒む)。
魔法の素とも言える魔力が存在しないとなると、そのままモンスターも存在しないってのは自明の理。
そしてそうなるとどうなるかっていうと……たぶんだけど、この世界の生き物は、全般的に弱い。
なんでかっていうと、魔力が使えるか使えないか、たったそれだけ違いが、故郷における生存圏争いを左右した歴史があるのだ。根本的に、魔力を利用できる方が強いんだよ。
そうなってくると、ボク(ひいてはボクのダンジョンで生まれるモンスターも含む)がこの世界では事実上最強の存在、ということをなる。
魔法完全封印の状態で人間が対抗できるモンスターは、せいぜいゴブリンナイトくらいまでなんだよね……。それもそれなりの装備を、腕の立つ人間が使うことが前提で、だ。
いや、もしかしたら魔法を使わないでもなんとかできる技術があるかもしれないけど、少なくとも生身の人間だったら、どれだけ束になっても超上位種であるボクには絶対敵わないだろう。伊達に、番付上位のダンジョンマスターから生まれていないのだ。
参ったね。
ボクとしては、ママと同じく融和派の方針でダンジョンを運営するつもりだった。もちろん開始直後に死ぬのは嫌だったし、検証も兼ねてそこそこの陣容を構築したわけなんだけど……。
このままだと、このたった1フロアしかない底辺クラスのダンジョンで、周辺の人間を一掃してしまいかねない。そうなると、ボクという存在が人類の敵なんて認定される可能性も現実味を帯びてくる。
それで殺されるほど弱くないつもりだけど、そうなっちゃったら本末転倒なわけで……。
うーん、どうしよう。ダンジョンの……というよりはモンスターのクラス、下げたほうがいいのかなあ。
……いや、でもまだ現地人との接触はできてないわけだし……。も、もうちょっとだけ、もうちょっとだけ様子見をしておこう、かな……。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ボクたちの世界は、神様が管理を諦めた世界だったんだよ!(キバヤシ