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第三十六話 拷問

 待った、ちょっと待った。色々と聞きたいことがある。


 ん? このやり取り久しぶりだね?


 ……じゃなくって!


 藤乃ちゃんのステータス、なんだこれ!? どんだけ鍛えてるのさ!?

 これが魔力のあるベラルモースの人間だったら、彼女一人で今の江戸前ダンジョン完全制覇されかねないんだけど!?


 文字化けしてるスキルは気になるけど、今はそれどころじゃない。


 彼女の話を聞くに、水戸徳川家に仕えて彼女のようにスパイ活動をしてる人間は複数いる。それは間違いない。

 その仲間も、彼女と同レベルの人間なんだろうか? だとしたら、これは由々しき事態だ。


 今のダンジョン構成だと、いくら魔法の恩恵がなくっても藤乃ちゃんクラスの人間には普通に突破される。ゴブリンとかバット程度じゃ、絶対無理。最低でも、コボルトリーダーといったボスクラスの戦闘力が必要になる。

 そんな連中が大挙して押し寄せてきたらまずい。まずすぎる。そうなる前に強い人間用のフロアを作らないと!


 ただ、藤乃ちゃんにさらに尋問した限り、彼女はこの業界でも最上位クラスの身体能力を持ってるらしいから、そこまで心配しなくてもいいかなとも思う。

 それでも、この世界の人間がここまで鍛えられるってことはかなり衝撃的な情報だ。できるだけ早く幕府に滞納してる対価を治めさせてでも、ダンジョンを強化したくなってきた。


 そして、一方でこうも思う。

 藤乃ちゃんは、どんな手を使ってでもうちに引き抜きたい、と。


 潜伏やら変装やらと、明らかに潜入捜査向けのスキルが揃ってるんだもん。これは、諜報役の仲間が欲しかったボクにとっては渡りに船だ。っていうか、ここで逃したら絶対後悔するし、絶対後で困る。


 問題は方法だけど……さて、どうするかなあ。


「……あたし……これからどうなるの……?」


 テーブルに突っ伏して、藤乃ちゃんが聞いてきた。


「さあ、どうなるんだろうね? 君はどうしたい?」

「いっそ一思いに殺してほしい……」

「どんだけ心にダメージ負ったのさ……ちょっと本当のことを聞いただけじゃんか」

「それがだめなのよ! あたしたち忍は絶対、絶対敵に正体なんか知られちゃいけないの! それが、それだけじゃ飽き足らず、情報を……敵に漏らすなんて……っ! そんなの、そんなの忍失格だわ……!」


 あらら、また泣き出しちゃったな。


 あれかな、自分の仕事にそれだけのプライドと自信があったってことだろうか。

 称号を見る限り、藤乃ちゃんなりに相当自分を鍛えてたんだろうしなあ。それに裏打ちされた自信を砕かれちゃったってことかな?

 あるいは今まで一度も失敗したことがないとか、そういう?


 いやー、でも、正直相手が悪すぎるよね。魔法耐性のない人間が、ステート異常系の魔法を防げるわけないんだよなあ。


「ちなみに、任務に失敗した……忍? が生きて戻ったらどうなるの?」

「よほどの失敗じゃなきゃ、謹慎とか降格で済む……けど、ご隠居様は過激なお方だから……たぶん、首が飛ぶ……」

「ああ、物理的にね。ふんふん」

「……あたしは女だから、命は助かるかも知れない、けど……」

「んん? それってつまり……そういうことでしょ? 君はそれでいいの?」

「よくない……生き恥をさらす上に慰み者なんて……死んだ方がましだわ……」


 ふむーん。どうも斉昭君、君主としてどうなのって感じがしてきたな。後で彼についてしっかり調べとこう。脇も固める方向で。


 まあそんな話は今は置いといてだね。


「じゃあ、いっそうちに来ない?」

「……はあ?」


 自然な提案だと思ったんだけどなあ。


 ボクの顔に、真正面から「何言ってんだこいつ」みたいな視線が突き刺さる。なんでだ。


「いや、だって戻ったっていいこと何もないじゃん。だったらいっそうちで働かない?」

「…………」

「あ、今だったら幹部の席も空いてるしさ。厚遇するよ?」

「あたしは……、……あたしは、二心は持たないって決めてるのよ。殿以外の人間には仕えないわ……」

「……どうしても?」

「そうよ……だから、これはあたしの、あたしの忍としての最後の矜持よ……っ」

「そっか……残念だなあ」

「わかったら、殺してよ……一思いに」


 どうやら、強硬手段に出るしかないみたいだ。

 スキル構成を見ながら、思いついた手段がある、それを使おう。まあ、藤乃ちゃんのセリフもヒントだったんだけど。


 いやさ、彼女、普通なら【性技】と同時にレベルが上がる【房中術】のレベルが際立って低い。これらのスキルは、前者が相手に対するもの、後者が自分に対する性交の技能を示している。

 だからこそ普通は両方が大体同時に上がるんだけど……どっちか片方だけが高いって状況は、その人の性経験はもちろんなんだけど、生まれ持った性癖が関係してることが多い。


 で、【房中術】だけ突出して低いってのは、その……つまり、だ。えーっと。


 ぶっちゃけて言うと、受けに回ると極端に弱い人、ってことになる。


 藤乃ちゃんの場合、毒や痛みに対しては相当の耐性がある。これはきっと、仕事柄必要な事だったんだろう。

 でも、そっち方面はそうでもない……ってことは、ここが狙いどころになると思うんだよね。


「残念だけど、殺しはしないよ。君は欲しい人材だもん。だから、強引にでも頷いてもらうよ」

「……っ! 拷問する気!? 無駄よ、あたしは毒にも痛みにも耐えられるよう訓練してるんだから!」


 ボクの言葉に、藤乃ちゃんが立ち上がって身構える。イスが倒れる音が、空しく響いた。


 へえ……生きて虜囚となるなら死ぬ、って目をしてるな。さっきまであんなに弱弱しい顔してたくせに。

 状態も悲嘆から警戒に変わってる。高レベルは伊達じゃないな。やっぱり、相応の修行を重ねてきたんだろうね。


「まあ拷問なのは正解だけど……どっちもしないよ。他の手段を使うのさ」


 でも、これを見ても同じことが言えるかな?


 ボクは、姿を偽っていた【イミテイトビジョン】の魔法を解くとともに、変化も解いた。

 その瞬間、ボクの身体がセイバアルラウネとしての本性を現す。


「……っ!?」


 それを見た藤乃ちゃんは、絶句して後ずさった。ふふん、驚いたろう。


 どれ、もう一押ししてみようか。触腕をうごめかせて、一歩前へ出る。


「ひ……っ!?」


 あ、状態が恐怖になった。


「もう一度聞くよ。うちで働かない? 厚遇するよ?」

「……い、……嫌だね……! ば、化け物の下でなんか、働けるもんか!」


 おっと。それでもまだそう言えるんだ。すごいね、余計見直したよ。


 でもま、いつまでそう言ってられるかな?


 ボクはさらに前へ出ながら、自分が持つすべての触腕を一斉に藤乃ちゃんへ伸ばした。そしてそのまま、彼女の身体をからめ取って中空に浮かせる。

 藤乃ちゃんはもちろん抵抗してるけど、はっきりいってまったく力を感じない。ステータスの差がありすぎるのだ。


「抵抗しても無駄だよ。君の力じゃ、絶対にボクからは逃げられない。君が全力の20倍の力を出せればいけるけど」

「ひぃ……っ! な、なにこれ、なんなのよこれぇっ! 気持ち悪い……っ!」

「人の身体に対して失礼しちゃうなあ。ボクだって、奥さん以外の人にこんなことしたくないんだけどね」


 自分で思ってる以上に嫌そうな声に内心ちょっと驚きながら、ボクは藤乃ちゃんを直接拘束してない触腕を彼女の目の前にもたげさせた。


 息を詰まらせて首だけでも後ろにのけぞる藤乃ちゃん。そんなに嫌? さすがにちょっと傷つくんだけど。


「藤乃ちゃん、これが最後のチャンスだ。うちで、働かないかい?」


 だいぶ不機嫌になってるのが、自分の声でわかる。さっきよりさらに低い声が出た。


 これに対して、藤乃ちゃんはなおも顔を触腕からそむけながら、絞り出すように言った。


「い……嫌、よ……!」


 うん、知ってた。


 だから、ボクは彼女の口に、遠慮なく触腕を突っ込んだ。


「んぶぅ!?」

「ちょっと苦しいだろうけど、君なら耐えられるでしょ? 少しの辛抱だよ」


 必死にもがこうとする藤乃ちゃんをがっちり固めつつ、彼女の口に突っ込んだ触腕から【粘液】スキルで世界樹の花蜜セイバネクターを一気に放出する。

 藤乃ちゃんは口はふさがれてるから、当然それを飲み込んでしまう。でも止めない。まだ止めない。せっかくだから、たっぷり飲んでもらおう。


 ……世界樹の花蜜セイバネクター。セイバ、つまり世界樹の花が生み出すほんのり甘い蜜。その本来の効果は、不老不死の妙薬とも言われるくらい劇的な治癒だ。同時に、一定確率で生命力と魔力の底上げもする伝説級レジェンドクラスのアイテム。

 ボクが生み出すのも当然これだけど……ただ、ボクはアルラウネだ。セイバの花が変じたモンスター。だから、ボクが生み出す世界樹の花蜜セイバネクターは、それ由来の効果が付与できる。


 普段なら、敵の動きを阻害する高い粘性、あるいは毒なんかを用意するんだけど。


 アルラウネが作る毒で、一番知られた効果がある。


 ずばり、それは媚薬だ。

 そんなものと化した蜜を大量に飲んだらどうなるか?


 答えは……まあ、お察しください。


「さて、藤乃ちゃん。ここから先は手下に任せる。理性のない部下だから、もしかしたら壊れるかもしれないけど……がんばってね?」


 藤乃ちゃんの口から触腕を引っこ抜きながら、ボクは笑う。


 同時に、【モンスタークリエイト】でキングスライムを作る。レベルは1、スキルもLv6の【性技】のみと、ものすごく偏ったステータスになるけど、それでも上位種。おまけに種族柄物理攻撃にはめっぽう強い。

 そんなキングスライムを、容赦なく藤乃ちゃんの身体にまとわりつかせた。


 指示は単純。「攻撃は【性技】のみでやれ」だ。


「ひいぃぃっ!? きっ、気持ち悪い……っ、気持ち悪い……!」


 うごめくキングススライムに、悲鳴が上がる。世界樹の花蜜セイバネクターが効果を発揮するまでまだかかるかな。

 あとは、名づけネームドじゃないから細かいことができないのもあるかもね。


 ……え? じゃあ自分でやれって?


 やだよ、ボクにはかよちゃんがいるんだぞ。そんな不義理はできないよ。大体、なんで好みでもない女性を犯さなきゃなんないのさ?


「それじゃ、ボクはちょっと席外すから。1時間……半刻くらいで戻るよ。あ……そうそう、キングスライム。絶対にオーガズムは与えないように」


 命令に応じて、キングスライムが動きを変えた。今までより、緩慢な動作にだ。

 命令に忠実なのは、普通のモンスターの利点だね。普通なら性欲に負けて盛っちゃうよ。


 ……おっと、藤乃ちゃん。今、舌を噛み切ったね? 死にたいんだろうけど、そうはいくか。


「土魔法【アースヒール】」


 全力の回復魔法を食らえ!


 かーらーのー……。


「天魔法【エンジェルブレス】」


 生命力自動回復を受け取るがいい!

 これで自殺もできないだろう。さてさて、どうなるかな? 1時間後が楽しみだ。


 その間に……新しく迎え入れた12人はどうなったかなーっと。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


おや、ノクターンの気配が……(懲りない奴

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