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第二十五話 クインとゆかいな仲間たち

 そこから、急いで応接室と客室を設置した。

 当然、ただ部屋を作っただけじゃ意味なんてなくて、テーブルやイスといった必須の家具はもちろん調度品も用意する必要がある。相応の出費があった……。

 まあ、今後も必要な設備だから仕方ないと納得はしたけどね。


 それから、人が訪ねてくるってことを知ったかよちゃんが慌ててる。顔を合わせた時に失礼がないかどうか、って気にしてるみたいだ。

 正直誰が来るかわからないのもあるし、そもそもその誰かが来るのはたぶん日も暮れてからだろう。そんな時間に、来客とかよちゃんが顔を合わせる可能性なんてほぼゼロだと思うんだけど……。


 それでも、侍が来るとなったら万が一があったらいけないって、彼女は言うんだね。


 少しずつ薄れてきてるとはいえ、かよちゃんの思考はあくまで日本の庶民のものだ。だから、密命とはいえ権力者の部下が来るって事態は、彼女にとっては大事なんだろうね。身分制度が根付いてるよねえ。

 今は、二人目に作成した名づけネームドを相手に練習をしてる。ボクはそこまでしなくてもって言ったんだけど、それでもし粗相をしたらボクに迷惑がかかるからって返されちゃってさ。いやあ、ははは、言い返せなかったよね。


 いい子だよ、うん。

 誰にもあげないぞ。かよちゃんはボクのだ。


「ティルガナ、どう?」

「はい、さすが主様が見初められた方です。これならどこに出しても恥ずかしくないと断言できましょう」


 練習風景を見ていたボクの問いに答えたのは、ゲスト役をこなしていた二人目の名づけネームド、ティルガナだ。


 見た目は、人間の十五歳くらいの女の子とほぼ変わらない。金髪碧眼のその姿は、この世界のヨーロッパのほうにいる人間に近いかな。

 フェイという妖精系統のモンスターで、主に魔法に向く種族だ。身体能力も人間と大体同じで、ダンジョン産じゃないフェイは、ベラルモースではボクのアルラウネ種と同じく魔人の一種として扱われてる。


 そんな彼女ステータスは、以下の通りになる。


******************************


個体名:ティルガナ

種族:フェイ

職業:ダンジョンキーパー

性別:女

状態:普通

Lv:2/50

生命力:110/110

魔力:153/178

攻撃力:34

防御力:40

構築力:132

精神力:89

器用:91

敏捷力:78

属性1:天 属性2:時空


スキル

体術Lv1 護衛Lv2 浮揚Lv2 魔力譲渡Lv1

水魔法Lv1 風魔法Lv1 天魔法Lv2 時空魔法Lv2

追跡Lv3 気配察知Lv2 魔力察知Lv2 魔力遮断Lv2

魔力自動回復・微Lv1 魔法抵抗・微Lv1

料理Lv2 裁縫Lv1 給仕Lv2 儀礼Lv3 教導Lv2 日本語Lv3


称号:クインの眷属

   ロイヤルガード

   禁断の愛に目覚めた者


******************************


 スキル構成を見てもらえれば察してもらえると思うけど、彼女は主に護衛のできるメイドを目指して作ったモンスターだ。この間みたくボクだけがダンジョンを離れる必要性がある時、かよちゃんを守ってもらうためにね。

 あわよくばかよちゃんの魔法の講師にも、と思って教導もつけてある。


 メイドが護衛って言われて地球人は首をかしげるかもしれないけど、これ実はベラルモースでは伝統。例の建築様式を確立した主神様が始めた伝統だけどね。かの神様は、功績に反してすごく俗っぽい。


 それはともかく……護衛にはもちろんジュイやユヴィル、それにもう一人仲間はいるんだけど、いざって時のことを考えるといるに越したことはないよね。

 それに、女の子には男や両性が踏み込めない問題があったりするものだ。そういうのが起きた時、正直ボクじゃ対応できない可能性もある。


 その辺のことを考えて、ティルガナを作った。名前は一株で大小二つの花を咲かせるベラルモースの木から。花言葉は「想いを捧げる」。


 与えた性格も、メインはずばり【忠愛】。サブも【献身】と【命知らず】で、ダンジョンマスターに対する忠誠をいかんなく発揮するためのものを与えてある。


 まあ……その……それでも誤算があって……。


 称号の【禁断の愛に目覚めた者】なんだけどさ……。これ……倫理的に問題とされる恋愛感情を抱いた者にしか出ないやつなんだ。

 この場合、同性愛や異種愛は含まれない。問題になるのは、あくまで倫理的な問題、つまり「既に相手のいる人を好きになった」時にしか発動しない。


 そして今、作られて日が浅いティルガナが知ってる「既に相手のいる人」はボクとかよちゃんしかいない。どうも、忠愛が行き過ぎたようなんだよね……。


 いや、それがボクに向くんなら、別にそこまで問題じゃない。ボクが取り合わなきゃいいだけだしさ。


 それじゃあ何が問題かって……。


「ああ、奥方様……会釈一つ取ってもかわいらしくて素敵……少しの佇まいにも色があって華やかだわ……」


 そうつぶやいたティルガナは、頬を桃色に染めて、恍惚の視線をかよちゃんに向け続けている。


 うん。


 その、ね。彼女のその愛は、どうやらかよちゃんに向いてるらしいんだよね……。


 そしてそれをボクの前で遠慮なくつぶやく辺り、【命知らず】がだいぶ見当違いの方に向きすぎてる。違うんだよ……そういうのを君の【命知らず】に求めたんじゃないんだよ……!


 与えたはずのない追跡・察知系スキルが今一番レベルが高いのも、きっとそう言うことなんだと思う。そのうち振動感知とか魂魄感知とか、難易度の高い感知スキルも取得しちゃうんじゃないだろうか……。


「ど、どうですかティルガナさん、私、ちゃんとできてましたか?」

「はい、もちろんです! やはり奥方様は神がこの世に遣わした至高の存在ですよ!」

「い、言いすぎですよぅ!?」

「そんなことはありません! 自信を持ってください!」

「だ、旦那様ぁ、助けてくださいぃぃー……!」

「大丈夫だよ、かよちゃん。君は確かにとてもかわいい!」

「ひゃ!? は、はううぅう……!」


 ……まあ、当のかよちゃんのリアクションが明らかに脈なしというか、ボクに褒められた時だけぼんってなるから、今のところは心配しなくってもいいと思うんだけど……。


 ……ティルガナ? そんな遠い目でボクを見るのやめてくんない? 一応、というか全面的に、ボクは君の主だからね?


 言外にそんな意味を込めてにらみつつ、ボクはそっとかよちゃんを手元に抱き寄せる。小さく声が聞こえたけど、すぐにボクに身体を預けてきた。夜のことを始めてからというもの、こういうスキンシップにも免疫ができてきたみたいでボクも嬉しい。

 ちらっと見れば、真っ赤になりながらもボクを上目遣いに見つめるかよちゃんがいる。今日も絶好調にかわいいな。


 って、だからそういうのは今することじゃなくって。


 プレイ部屋に直行したくなるのを抑えつつ、ボクは真顔をティルガナに向ける。

 そんなボクを見て、かよちゃんも表情を引き締める。


「……まあそれは置いといて、ティルガナ。君に命令がある」

「はい、なんなりとお申しつけください」


 ボクの態度から察したのか、それまでの恋する乙女とでも言うべき姿を改め、ティルガナは音もなくその場に跪いた。


 うん、恋愛感情が斜め上を突っ走ってるだけで、ボクという主に対する忠誠心は決して嘘じゃないんだよね。わきまえるべき時はわきまえてる。

 ……はずだ。


「先にも伝えてある通り、今夜日本の要人がお忍びでやってくると思われる。その人物が来たら、迎えに行ってここまで連れてきてほしいんだ」

「……しかし、それではわたくしめの役目が果たせません。奥方様に万が一のことがあっては……」


 わきまえてる……はずだよね?

 これ、言い方は違うけど要するに、かよちゃんから離れたくないってことだよね?


 だからぁ!【命知らず】の意味が違うってばぁ!


「わかってる。でも、迎えに適してるのは君しかいないんだ。ボクを含め今のうちのメンツは全員モンスターだ。驚かせちゃうだろ。かといって、かよちゃんを迎えにやるとかありえない。だろ?」

「……仰る通りです」

「ね。大丈夫だよ、君がいない間はボクがかよちゃんを守る。……安心しなよ、会談中の護衛は君に一任するから」

「はい、承りましたっ!」


 もう少し感情を隠してくんないかな、まったく。手のひら返すの早すぎるってば。


「奥方様、お待ちくださいね! わたしくめ、すぐに仕事を済ませて戻って参りますからね!」

「え、は、はい……あの、無理しないでくださいね、ティルガナさん」

「ああなんともったいないお言葉! 奥方様の優しさが五臓六腑に染み渡ります! これでわたくしめ、あと十年はがんばれます!」


 なんてことない言葉一つで頬を染め、だらしない顔をさらけ出して、身体を抱いてぐねぐねするティルガナ。なんていうかこう、すんごく、きもちわるい。

 愛という感情はここまで人をダメにするんだろうか。


 ボクも傍から見たらこんななんだろうか……。


「はあ……えっと……」

「それではわたくしめ、行ってまいりますッ!」


 そしてティルガナは、あっと言う間もなくマスタールームから走り出て行ってしまった。

 取り残されたボクたち二人は、しばらく唖然とその状態で固まるしかなかった。


 どうしてあんなよくわかんない性格のモンスターができちゃったんだろうか……。


「……あの、旦那様……」

「……ティルガナはフェリパに任せよう」


 思わず深いため息が出た。


 そのため息を察したかのように、マスタールームにのっそりと大型のモンスターが入ってきた。

 人間に近いと言えば近いけど、背は低めで四肢も胴体も分厚い筋肉に覆われている。むき出しになった牙や、ぎょろりとした目などは決して美形とは言えない……。


「クイン様、ティルちゃんがえらい勢いで表に走ってきよったけど、なんかあってんか?」

「いつもの発作だよ……」

「ああ……」


 ボクの返事にそのモンスター……三人目の名づけネームド、ゴブリンナイトのフェリパが遠い目で応じた。


 ゴブリンナイト、ってことで賢明な皆さんはお察しいただけるかと思う。

 そう、何を隠そうこのフェリパこそ江戸前ダンジョンの初代ボスにして、今は家畜担当として長らくニワトリの世話に従事してきたゴブリンナイトだ。


 そのステータスは、こうだ。


******************************


個体名:フェリパ

種族:ゴブリンナイト

職業:ダンジョンキーパー

性別:女

状態:普通

Lv:10/300

生命力:420/420

魔力:61/70

攻撃力:301

防御力:276

構築力:48

精神力:104

器用:107

敏捷力:120

属性1:天 属性2:土 属性3:木


スキル

剣技Lv2 大剣技Lv1 盾技Lv3 堅守Lv3 護衛Lv3 

土魔法Lv2 木魔法Lv2 天魔法Lv1

匂い感知Lv2 気配察知Lv1

生命力自動回復・微Lv4

養鶏Lv2 開墾Lv1 日本語Lv3


称号:クインの眷属

   剣を捨てた騎士


******************************


 ……と。まあこんな感じなんだけど……。


 うん。

 たぶん、みんなも思ったよね? ボクも思った。


 そう、お前女の子だったのかよ、ってね……!


 念願の養鶏スキルを彼女が手に入れ、名づけネームドに昇格させたのが二日前。その時、ステ振り画面を見て思わず硬直したよね。


 いや、そりゃ【モンスタークリエイト】で出てきたモンスターにもしないとはいえ性別はあるんだけど、自主的に決めない場合ランダムなんだよね。その上ゴブリンって男女比が99:1の種族な上に、外見上の性差がほとんどないんだよね!

 名前をつけた結果見た目が少し人間に近づいたフェリパは、確かに「あ、もしかしたら男じゃ……ない……?」って程度には女の子らしくなったけどさ……主に胸とか……。でも元の段階でそんなの、わかるわけないじゃないか……。


 まあそれはともかく、今は当初の予定通り養鶏の担当として、さらに空いた時間を第二フロアの余ってる土地の開墾を任せてる。

 それがどう巡り巡って彼女の心に作用したのかわかんないんだけど、元々ほとんど使ってなかった剣は二度と使わないと宣言されて、結果【剣を捨てた騎士】なんてボクでも初めて聞く称号がついた。


 せっかく名前をつけてステータスが元の倍以上になったんだから、優秀な戦闘要員になると思ってたんだけどね……。

 まあ盾を使って戦えるのがゴブリンナイトでもあるし、守る方向ならそれでも優秀だろう。だから、いざって時はティルガナと同じく近衛兵的な扱いをさせることになるかな。


「……とりあえずフェリパ、ティルガナを任せるよ。首に縄つけてでも引っ張ってきて」

「えぇー、うちまだみんなの世話残っとるんですけどねー」

「と言いつつも身体は素直なフェリパであった」

「やっぱり(自主規制)には勝てなかったよ……ってなんでやねん! うちそんなキャラちゃいますやん! どっちかってーと襲う側ですやん!」

「ゴブリンは女でも襲う側なのか……恐ろしい種族だね……」

「わぁぁぁ今のなし、なし! っていうか、それ言うたらクイン様かて似たようなもんですやん! 知ってまっせ、アルラウネが触手でぐちょぐちょにやらかす種族やって!」

「えー? じゃあそんなフェリパは、好きな人ができたらどう告白するのさ?」

「そらもちろん『犯せ』一択とちゃいますかね?」

「ほらぁ」

「しまった!? はかったなクイン様ァ!」


 オーバーリアクションで頭を抱えるフェリパは、にぎやかで良い。


 思わずにやけるボクの隣で、ストレートな下ネタにかよちゃんが赤面してうつむいてる。視線はボクの下半身から伸びる蔓だ。夜の触手を思い出したのかも知れない。


 そう、フェリパに与えた性格は【陽気】なのだ。サブに【優しい人】と【自己犠牲】がつく。結果、誰にでも人当たりのいいムードメーカーになった。今までわりとマスタールームが静かだっただけに、最初は少しはうるさいとも思ったんだけど、初日で慣れた。うざいノリじゃなかったし、空気を読めないわけじゃないからね。


「あ、そうそう。ティルガナ引っ張ってくる前に、殺してもいいニワトリ一羽選んどいて。客人の質問によっては何か殺さないといけなくなるかもしれないからさ、証拠として」

「殺す……!?」


 まあ、ただ……。


「勘忍してください! 無精卵ならともかく、一羽まるっとやなんて! うちには……うちにはそんなかわいそうなこと、できまへん……!」


 家畜のことになるとこうなんだよなあ……。


 育てるには有用と思ってつけた【優しい人】だけど、ある意味養殖業には一番向かない性格だったかもしれない。

 そういえば、名づける前にニワトリと引き離した時もやたら悲しそうだったっていうか、兆候はあったっけなー……。


「せや! どうせならうち使ったってください! うちが身代わりになります!」

「君は死んでもDEに変換できないだろ……殺したって意味なんかないじゃないか」

「そんな……」


 なんでニワトリ一羽程度で、この世の終わりみたいな顔されなきゃいけないんだ。最初に比べたら数も増えてるし、そもそも家畜ってそういうものじゃないか……。

 ニワトリの代わりに自分差し出すとか、そんな【自己犠牲】はいらないよ……。


『主よ』

「何?」


 ボクが頭を抱えてると、不意にユヴィルから念話が飛んできた。


『ティルガナが全速力で入り口に向かっているが……』

「忘れてた……うっかり外に出ないよう回収しなきゃ……」

『俺に任せろ』

「任せる……」


 ユヴィルが最後の良心だった。よかった……彼は本物の、完全な成功作だ……。


 で。


 結局、戻ってきたティルガナが、顔を絶望に染めたフェリパに対して【命知らず】な性格をいかんなく発揮してくれた。フェリパにとどめを刺しかねないことを言ったのだ。

 おかげでフェリパがガチギレして、全力のケンカが勃発。それを止めに入ったはずのジュイとユヴィルも順次巻き込まれ、最終的にボクが力づくで黙らせることになった。


 まあそのおかげか、四人ともレベルがぐっと上がってたんだけどさ。まったく嬉しくなかったよ……。


 客人を迎える準備、ほとんどできなかったし! こんなにも個性の強すぎるモンスターができるなんて、ボク聞いてないんだけど!?


ここまで読んでいただきありがとうございます。


てなわけで、新キャラを二人追加です。そして日常回。

想定してる限りまだ仲間になるキャラが控えてるんですが、そろそろ作者の描写力が限界に近いです(白目


ところで、ティルガナの登場で百合色が少し出てきましたが、これってGLタグつけたほうがいいんですかね?

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