第二十四話 新しいフロア、新しい仲間
正弘君たちに話をして、十日が経った。あれ以来、幕府のほうでダンジョンに軽々に入るなと通達が江戸全体に出たようで、侵入者はいない……こともなく。
怖いもの見たさなのか官憲逃れなのか……はたまた復讐なのかよくわかんないんだけど、一日に一回くらいのペースで侵入者がある。大体夜に来るから、まあろくな手合いじゃないことは間違いないだろうけどさ。
ちなみに、落とし穴に落としといた井伊家の家臣たちは二日目に全員自害した。ボクとしては止めたかったんだけど、鬼気迫る様子でしかも儀式めいたやり取りをした上で割腹したものだから、すごくびっくりして止められなかったのだ。
侍たち特有の、切腹っていう儀式的自殺って後で調べてわかったけど、「そういうもの」と理解はできても納得はできない。死んだらどうにもならないじゃないか。どんなに無様にあがいても、最終的に生き残った者が正義だとボクは思うけどね……ジュイみたいにさ。
まあ、おかげでDEは今までにないくらいに潤ってるんだけどね。上を見たらきりがないけど、江戸前ダンジョン史上最高の備蓄になってることは間違いない。
ともあれこの十日間で、ボクはいろいろとダンジョンを拡張してる。やっぱりDEがあるとやれることも増えて嬉しいし、楽しい。
最初に取り組んだのは、フロアの追加だ。今まで一フロアしなかった我がダンジョンにもようやく第二フロアができたのだ。
構築したのは空間型のフロアで、草原、森林、川がほどよく入り混じったフロアに設定した。そしてここをマスターフロアの前フロアにした上で、その入り口を館でカムフラージュすることにしたのだ。
【アイテムクリエイト】でぽんっと出した館の見た目は、ベラルモース・ミソロジー様式の三階建て。石材と木材を併用して、魔石コンクリートで用いて築かれたその見た目は、どことなく日本の城に似た空気がある。以前江戸城を見た時に言った、日本の城や壁に似てる建築様式がこれ。
これは今から五千年は昔の神話の時代、世界を牛耳る悪神を放逐して今のベラルモースの基礎システムを築き上げた主神が、好んで築いた神殿に共通した特徴から命名された建築様式。同時代の建築物とは比べ物にならない高度な仕組みと、洗練された外観を持つ優れた様式として、歴史の授業でも文学の授業でも必ず習う様式だ。
どうも現代建築と比べても遜色ない技術で造られてるらしいんだけど、世界樹とかダンジョンに住んでたボクとしては、建物はそこまでこだわりあるものじゃない。
だから、外観が日本の建物に近い、っていう理由が採用理由のすべて。どうせならそのほうが、日本人が来た時の心証もいいかなって思ってね。
とはいえこの館、見た目と中身は一致してない。入り口はマスターフロアに直結してるから、ただのはりぼてなのだ。中身は、ただみっちりとコンクリートが詰まってるだけなんだ。
だって、マスターフロアなら内装の限界もないんだもん。館だったらそれを拡張するとなると、それまでの部分との整合性を斟酌するだけでも結構DE使うんだよね。
まあ、マスターフロアの構造はダンジョン→コアルーム→マスタールームの形から変えられないから、目に見えて何かあるってわかる館と繋げるリスクは高めなんだけどさ。そこはコアルームを神殿風に拡張した上で、ジュイを正面に配置して強引に解決ってことにした。
入り口をくぐってコアルームに入れば、目に飛び込んでくるのは中空に浮かぶ空色のコア。そしてそれを守る形で、悠然とたたずむ純白の狼。どう、映えるでしょ?
〈ダンジョンコアのレベルが2に上がりました〉
〈これにより、ダンジョンメニュー【モンスタークリエイト】【アイテムクリエイト】に【改造】および【合成】機能が追加されました〉
〈これにより、DE端数加算の加算率が10%上昇します〉
と、ここまでやって遂にダンジョンのレベルが上がった。コアの見た目はまだ変わらないけど、色々とパワーアップした。
メニューに追加された機能は追々紹介するとして……DE端数加算ってのはあれだ、みんな忘れてると思うけど毎日微生物とかから獲得できる定期収入の正式名称。これに1.1倍の補正がかかるようになったので、最近コンスタントに35ほど入ってきてたDEが、38くらいに増える。少ないように見えるけど、これは大事なのだ。
この一連の出来事が、大体江戸城から戻ってきた初日でやったこと。あ、あとマスタールームに浴室兼プレイ部屋も作ったか。
初日はなんていうか、かよちゃんとキャッキャウフフしようとして張り切りすぎた。自分でも思ってた以上に高ぶってたみたいで、速攻で気絶させちゃったのはやりすぎだったなあ。今は反省して、毎日のアレはちゃんと加減してるよ。最近は少しずつ使う触手を太くしてて……って、その話は別に今することじゃなかったね! ごめん!!
おほん。
その次の日以降ボクがやったのは、名づけモンスターの配備だ。これもDEに余裕ができたからこそできるようになったこと。今回は、全部で三体の眷属を用意した。
彼らを紹介する前に、モンスターのシステムを改めて説明しよう。
ダンジョンマスターのみが有する特殊スキルにしてダンジョンの機能【モンスタークリエイト】は、その名の通りダンジョンを守るモンスターを作成する機能だ。これで作成されたモンスターに魂はなく、ただダンジョンマスターの命令に従うだけの人形でしかない。生命としては不完全な存在なのだ。
だから彼らは繁殖することができないし、応用・融通を利かせることもできない。不意の事態に弱いし、上級クラスの探索者にはどれだけ強力なモンスターでもあっさり負けることもざらだ。
この欠点を補うための機能が、名づけシステム。名前を与えることでモンスターに魂を宿らせ、一個の生命として確立することで飛躍的な強化を行う、というのがその概要。
名前がいかに重要かは、ダンジョンに命名する時に説明した通りだ。名前があればこそ存在は完成する、というのがベラルモースの真理なんだ。
ただ、この機能は当然大量のDEを必要とする。具体的に言えば、対象となるモンスターの元コストの10倍。
たとえばゴブリンの作成コストは3DEだから、30DEが必要になる。仮に超上位種であるボクの種族、セイバアルラウネでやるなら、25000×10DEが必要。
そしてここに、ステ振りやスキル構成をするためにDEが別途加算されていく。
こっちはステ振りなどに応じて数値が増えていき、確定する際に一気に支払う形だから多少融通は利くけど。
とまあ、名づけについてはこんな感じかな。
それじゃあいよいよ、今回ボクが作ったモンスターを紹介しよう。まずは一人目。
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個体名:ユヴィル
種族:霊烏
職業:ダンジョンキーパー
性別:男
状態:普通
Lv:3/50
生命力:103/103
魔力:99/115
攻撃力:85
防御力:53
構築力:91
精神力:97
器用:79
敏捷力:199
属性1:神 属性2:天 属性3:風 属性4:木
スキル
嘴撃Lv1 飛翔Lv2 蹴撃Lv1 炯眼Lv3 眷属支配Lv3 指揮Lv2 念話Lv3 念動Lv2 雷撃Lv2
風魔法Lv2 光魔法Lv2 天魔法Lv1
夜目Lv2 追跡Lv2 魔力察知Lv2
魔力自動回復・微Lv1 日本語Lv5
称号:クインの眷属
野鳥の長
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翼をはためかせてボクの腕に止まったこのカラスがユヴィルだ。名前の意味は「大空に戦うもの」。
体格は日本によく住んでるカラスより一回り以上大きく、翼を広げるとその大きさは三尺弱(1メートル20センチ弱)もある。小柄なボクがその身体を支えられるのは、ひとえにステータスのおかげだ。
種族の霊烏というのは、ジュイの大神遣と同じく動物ながら神の眷属として扱われる中位種。見た通り、そして文字通り、カラスから進化する。色は進化前と同じなんだけど、その色はどこか青々としてる上に、ほのかに光ってるように見える。この辺りは、当然のように追加された神属性か天属性が理由だろう。ジュイもそうだったからね。
能力は当然進化前よりもパワーアップしてて、元の能力が伸びた形。高い知能と持ち前の器用さから、魔法メインのスピードアタッカーになるかな。物理メインのジュイとは似てるけど、その実どこまでも対照的だ。色的にも、白の彼とは双璧を成す存在として君臨してくれるんじゃないかって思ってる。
その顔つきはかなりいかつく、鋭いくちばしに脚はもはやカラスというより猛禽類だ。実際、今の地球で彼と空中戦をして勝てるものはいないと思う。それくらいの存在に仕上がってる。
けどそんな見た目とは裏腹に、作成時に与えたメイン性格は【人情家】。情に厚く人を大切にする人格者なのだ。サブ性格に【頭脳明晰】と【リアリスト】を与えてるから、情に流されることはそうそうないだろうけどね。
そんな彼に期待する役割は、ずばり副官だ。あと、空軍としても期待してるところではある。空からの地形の確認や偵察を中心にやってもらいたいんだけど、現状は諜報もやってもらうことになるかな。
ユヴィルにつけた眷属支配や指揮、念話といったスキル、それに人情家やリアリストという性格は、もちろんそのあたりを狙ってる。その目論見通り、彼は早くも江戸周辺の野鳥を従えそこから得られる情報を逐次もたらしてくれている。今のところ地味なポジションではあるけど、なくてはならない存在だ。
いやあ、頼れる仲間がほしかったんだよ。参謀っていうかさ。ボク自身は戦闘力はまだしも、決して万事に目を向けられるようなタイプじゃないし。
かよちゃんとジュイ?
かよちゃんは癒し枠だよ。そういう話をするつもりはないよ。
ジュイは……ジュイも癒し枠かなあ……。
なんて益体もないことを考えてると、ユヴィルから念話が飛んできた。
『主よ』
「どうかした?」
『急ぎの報告だ。先ほど、阿部正弘の密命を受けた男が江戸城を出た。一度自宅に戻り仮眠を取った後、深夜にこちらへ来る手はずになっているようだ』
「む、それは気になる知らせだね。正弘君の命令ってことは、用があるのはダンジョンじゃなくってボクだろうなあ」
『俺もそう思う。あいにくと城の奥に入れる部下がまだいないから、具体的な目的まではわからんが……』
「まあ、きっと質問とかだろうね。何を聞かれるかはわかんないけど、心構えくらいはしといたほうがいいかな」
腕の上で頷くユヴィル。彼に応じるようにボクも頷きつつ、まだ顔も名前も知らない男が来るまでのこと、来てからのことを考える。
そうだなあ。
とりあえず……応接室や客室をマスタールームに準備、かな!?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回はダンジョン回でした。そして、遂にネームドシステムを解禁です。
残る二人の新キャラは次回に持ち越し。
なお、ユヴィルの名前はつい最近までDQ8やってた影響でレティスとかラーミアにちなんだ名前にしようとしてましたが、名前の意味だけにとどめてたぶん正解だった。