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第二十一話 江戸城潜入

あらすじ:井伊さんちの真向かいでダンジョンを再開した結果……

 夜が明けて、最初の侵入者はやっぱりというかなんというか、農民らしい男たちだった。

 まあ、ほどなくゴブリン達に遭遇して、一目散に逃げてったんだけど。


 彼らの平均レベルは11だった。勝てなくはないだろうけど、彼らに戦闘経験はないだろうから、判断としては間違ってない。

 それにしても、田舎より都会のほうが魂を向上させる機会が多いのかな。見た目は甲斐の……えーっと、五郎兵衛君とさほど変わらない感じだったけど。


 ともあれ、逃げた彼らがどこかに報告したんだろう。一時間半ほどしてから、二十人近い侍たちがダンジョンに入り込んできた。

 彼らは全員が剣で武装していて、平均レベルも20台後半と総じて高い。一部は、笹山君と同程度の人もいた。ゴブリン達じゃちょっと……いや、かなり厳しい相手だろう。

 ただ、残念ながら戦力を分けてダンジョンに散ってしまった。迷宮仕立てにしておいたから当然かもしれないけど、通信手段もないのによくばらける気になるね?


 ……って、あー。所属してる家ごとにまとまってるのか。ダンジョンの常識を知ってる身としては、仲良くしなよって思っちゃうなあ。それじゃ奥まで来れないよ?


 実際、モニターを見ている今まさに、三つのグループにファイターに率いられたゴブリンたちと交戦が始まった。もちろん、そこにはポイズンバットに率いられたバットたちもいる。

 一グループが最低三人、多くても五人なのに、その全員が近接職ってことを考えると、生き残れるのは半々ってところかな。


 侍たちのグループは全部で五つなんだけど、うち最も人数の多いグループはゴブリン達に遭遇することなく、落とし穴に全員がはまって出られなくなってた。あれは放っておいたら餓死まっしぐらだろうけど、利用価値があるかもしれないからしばらく殺さずにおいとこう。

 ちなみに彼らが、井伊家の家臣たちらしい。残念ながら、武勲の誉れある譜代の一族も、平和な時代が続けばこんなものなのかもしれない。


 最後の一グループは、かわいそうなことにジュイに遭遇してしまったようだ。ただ、運がないっていうのは少し違う感じもする。

 ジュイの中身はわりと残念な大食いマンなんだけど、その見た目は迫力満点の威容を備えてる。だからなのか、彼に遭遇した侍たちは思わずといった感じで拝み始めたのだ。


 これにはジュイも困惑してしまい、ボクに助けを求めてきた。

 とりあえず外に案内させることにしたんだけど、結果的に全員が無傷で生還した侍はこの人たちだけだった。


 他のグループはというと、例の落とし穴にはまった連中はもちろん全員が未帰還。モンスターと戦ったグループは、予想通り半分くらいの仲間を喪って、撤退していった。


 ここまで、大体二時間くらい得られたDEは全部で8211だ。ごちそうさまです。これで残りDEは9828となかなかの数値になった。

 まだ殺してない相手がいることも考えると、近いうちに一万を超えるのは間違いない。うんうん、ダンジョンってこういうのですよ。


「……うん、ひとまずはオッケーってとこかな」


 一段落したところで、ボクは満足して頷いた。

 そこにタイミングを見計らってだろう、かよちゃんがお茶を差し出してきた。ありがたくそれを口にしながら、時計を見る。


 大体10時前ってところか。確か、老中の仕事が10時ごろから14時ごろまでだから、そろそろ動き始めてもいいかな。

 10人近く侍を殺したし、しばらくは報告のためにもあまり侵入者はこないだろう。動くなら今だと思う。


 そう考えて、ボクは着けている腕輪のスキルを発動させ、人の姿へと変身する。


「……よし。かよちゃん、ボクはそろそろ出かけてくるよ。その間、留守はお願いね」

「はい、わかりました。ええと、お召し物を……」

「あ、うん。ありがとね」


 ボクの言葉に頷いたかよちゃんは、次いでクローゼットからボクの服を出してきた。彼女との初対面で使った、例の一張羅だ。それと、人間時用のズボン一式。

 下半身を整えるボクの一方で、かよちゃんはさっとボクの後ろに回って、上着をボクに着せてくれる。そして彼女は、それに腕を通すボクの前に回ってボタンに手を伸ばした。


「……ええと、ボタン、は……こう、でしたよね」

「うん、そう。こういうのにもだいぶ慣れてきたね」

「はい、がんばりました」


 えへへ、とはにかみながらもボタンをかけていくかよちゃん。料理に関することもだけど、ベラルモースの文化や技術に慣れようと彼女ががんばってるのは本当だ。ちゃんと成果も出してる辺り、彼女のがんばりがどれほどのものかわかるってものだ。

 そんなかよちゃんの頭をひとなでしてから、ボクは少しおどけてポーズを取る。


「どお?」

「はい、よくお似合いです」

「ふふふ、面と向かって言われると照れるね。ありがとう」


 もう一度かよちゃんをなでて、改めてメニューに目を向ける。

 新しい侵入者、なし。うん。


「それじゃ、行ってくるよ」

「はい、行ってらっしゃいませ」


 そうしてボクは、深々と頭を下げるかよちゃんに背を向けながら、ダンジョンの入り口に転移する。

 そこから【ステルス】のコンボで姿を消すと、ゆっくりとダンジョンの外へ。出発前に周りの状況は見ておきたい。


 どれどれ……おお、周りの景色は夜のうちにわかってはいたけど、昼に見るとやっぱり印象が違うね。

 それに何より、入り口を遠巻きに囲む形で人垣ができてる。その人垣は、侍たちが立ちはだかって作る肉の壁で阻まれていて、近くには来られないようになってるみたい。


 うん、ここは大体思惑通りかな。

 それじゃ、ちょっと偉い人とお話してくるとしよう。


(時空魔法【テレポート】)


 そしてその魔法の発動と共に、ボクの身体は時空の揺らぎの中へ溶け込む。

 次の瞬間には、ボクの目の前には先日例の男が上申書を提出していた門が忽然と現れていた。お察しの通り、言ったことのある場所に転移する魔法だ。超便利。


 さて、ここからはより念を入れて、【ステルス】のコンボではなく時空魔法による【ヴォイドステルス】のコンボに切り替えよう。


 このコンボは、時空魔法【ハイド】と【フェイズマニピュレート】もしくは【ショートジャンプ】を利用するコンボだ。人目につかず行動するという目的は同じだけど、「そこに存在するけど存在しない」という状況を作り出しているため、うっかり何かに接触することがないという、より高度なコンボになる。

 気配を悟られない、他者との接触事故を避けられる、闇雲に繰り出される攻撃を受けないという強みに加えて、障害物をすり抜けられるという強みもある。実に強力な技なのだ。


 まあ消費はもちろん難易度も、【ステルス】とは比べ物にならないんだけど。その場にとどまるだけならさほどでもないから、こういう状況では最適って言えるだろう。時空精霊の血を引くボクにとっては、実は【ステルス】より得意だったりするのはここだけの話だ。


 ちなみに、【ハイド】は存在位相をマイナスにして「存在するけど存在しない」状況に身を置く魔法、【フェイズマニピュレート】は位相を少しずつずらして移動もしくは回避する魔法だ。【ショートジャンプ】は、目に見える範囲限定のテレポートだね。


 たとえば、今ここで【フェイズマニピュレート】を使う。ボクの存在位相を、前方向に百メートル分ずらす目的で発動させる。

 すると、その指定した距離だけ、ボクの身体は音もなくぬるぬると勝手に進む。【ハイド】の効果で、どんな頑丈な門だってするりと抜けて。姿が見えていたら、この動きはすごく不気味に見えるだろう。


 ともあれ、これを使って移動していく。見える範囲なら、【ショートジャンプ】のほうが効率はいい。見通しがいい屋外にいる時は【ショートジャンプ】、屋内に入ったら【フェイズマニピュレート】と使い分けるのが一般的だ。


 ……と、まあそんなわけで江戸城内にあっさり潜入。案の定相当に広い城だけど、見取り図は検索済みで、ばっちり記憶してる。人のスケジュールもだ。だからどこに何があって、誰がいて、どういう風に動いているかもボクには筒抜け。

 ボクは時空魔法を連発しつつ、目当ての場所に向かうのだ。


 行先は御用部屋。老中たちが仕事をする、いわゆる執務室で、城の中でもかなり奥に近い場所にある。

 まあ、【ヴォイドステルス】中のボクにはほぼ関係ない話だ。直線距離で進めるから、大体の距離を計算しつつ突き進むだけさ。


 そしてほどなくして、ボクは御用部屋へとたどり着く。


 そこは、畳(植物で作ったマットレス的なもの)が敷き詰められた部屋だった。そこに六人の男が囲炉裏(炉の一種かな)を囲んでいる。

 全員が腰を下ろしていて……っと、そういえばこの国は、建物の中じゃ土足禁止だったね。靴は脱いでおこう。


 んーっと、この六人が老中、いわゆる大臣的な人たちなわけだね。一応全員を調べてあるけど、一番重要なのは……えーと、上座にいる彼かな。


 第一印象は、随分と太ってるなあ、だ。この国の支配者階級はほぼ武官のはずだけど、とても戦える身体には見えない。今の【鑑定】レベルじゃスキルはそうそう見通せないけど、その手のスキルがゼロでも驚かない。侍としてどうなのって感じだ。

 顔も丸っこい。ただその造形は穏やかというか、一目見て「ああ人畜無害そう」って思えるくらい、温厚な顔つきだ。これがあるから余計、武官であるはずの侍っぽくないね。


 彼こそ、老中首座の阿部正弘。今現在、最も権力を持っていると言っても過言じゃない人物だ。ボクの今回の目当ての人でもある。

 とはいえ、他の人も重要だ。何せ、国の大事は彼らの合議で話が決まる。彼らにも、ボクの姿や真意は伝えておかないといけないだろう。


 ……ところで、会議をしてるわりには一言も会話がないなあ。何してるんだろう?

 って思って囲炉裏を覗いてみると、どうやら囲炉裏にある灰に字を書いて筆談してるようだ。


 なるほど、ボクなら【サイレント】を広域で使って音を遮断するけど、この世界に魔法はないもんね。盗聴を警戒するなら、筆談しかないってわけか。

 会議の進行はその分遅くなるだろうけど、スパイ対策なら仕方ないか。


 盗み見てる側としては、正直まどろっこしくてだるくなっちゃうなあ。

 でも……いきなり彼らに割って入るのはやめておこう。せっかくだから、どんなことを話してるのか見てからでも遅くないよね。



ここまで読んでいただきありがとうございます。


老中六人衆登場。ただ、メインなのは今回出てきた阿部正弘と、せいぜいあと一人くらいなのでさほど重要じゃない人はスルーしちゃって構いません(暴言


あと、今更なんですけど作品タイトルが間違ってたことについさっき、ご指摘を受けて初めて気づきました。

繁盛期じゃなくて繁盛記ですね……何してるんだって話ですよ……ケジメします……(死


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