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第十六話 本当の

に、日間総合ランキング218位……だと……!?

い、一体何が起きてるんだ……!?

 さて翌朝。大体朝五時くらいから既に周りが動き出してるみたいで、生活音が聞こえ始めた。

 ボクはそこまで寝なくていい種族だから気にならないけど、気にする人は相当気になるレベル。


「おお、朝から活気あふれてるね」


 朝食も済ませて(思ってたよりこの国の料理がおいしかった! ご飯と味噌汁おいしい!)チェックアウト直後に、店先で思わずそんな言葉が口をついて出てくるレベル。


 まだ朝も早いってのに、この国の人は本当にみんな朝が早いんだね。大勢の人が道を行き来してるよ。その人の姿は様々だ。


 腰に剣を佩いた人は、笹山君のように侍って言われる人だろう。侍はいわゆる貴族階級だと思ってたけど、同じ侍でもこうやって市井の中を出歩く人もいるのか。侍としては下級なんだろうか。

 同じく腰に剣を佩いてる人でも、例の頭の一部をそり上げた髪型じゃない人もいる。どういう違いなのかわからない。服装の程度から言って、そり上げてない人の方が身分が下なのかも。


 あと気になったものとしては、天秤のようなものを肩に担いで、声を上げてる人。見ればその天秤的な何かには野菜が乗っている。行商人なのかな、あの人は。

 そのほか、昨日の道中でもよく見た旅装の人たち。向かう方向はちょうどボクたちが来たほうだから、あの山と森に用があるんだろう。


 とまあそんな感じで、本当に大勢の人がいる。この辺りはまだ江戸の中心地じゃないみたいだけど、それでもこれだけの人がいるなんて、すごいな。


 そしてボクが一番すごいと思うのは、それだけの人がいるはずなのに、この街に高層建築が一つもないことだ。せいぜいが二階建て程度で、それ以上は遠くに見えるお城だけ。決して広くはない土地にこれだけの人数が住んでるって、人口密集しすぎなんじゃない?


 そんな江戸の街並みを、城のほうに向かってのんびりと歩く。ここまで来たらもう目と鼻の先だし、さほど急ぐことでもないよね。

 目下の問題は……。


「ねーかよちゃん、機嫌直してよー。今朝のことはボクが悪かったからさー」

「し、知りません。旦那様なんて知らないです!」


 つーんとそっぽを向いて、かよちゃんがすねる。


 いやあ、昨夜彼女を抱き枕にして寝たじゃない? となると寝起きは彼女が目の前にいるのが当然なわけで、そんな彼女にうっかりおはようのキスをしてしまったのだね。

 ただ、この国ではキスってのはあくまで性行為の一環らしいんだよね。あいさつの一環じゃないらしいんだ。

 そのことを知らなかったわけじゃないんだけど、寝起きでボクもネジが緩んでてつい、故郷での習慣が出ちゃったんだよね。


 それを起きぬけにされたものだから、かよちゃん今朝はずっとご立腹なのだ。おでこに軽くしただけなのに。

 ただ、彼女としては無遠慮にキスされた(その解釈もボクにとっては想定外なんだけど)のが嫌なのではなく、昨夜抱き枕にするだけした上に、朝キスまでしたのにその後行為に及ばなかったことが一番腹に据えかねてるらしいんだよね。一人前の女を自認する彼女にとって、こういう寸止め的な行為はすごく馬鹿にされてる気になるらしいんだ。

 もちろんボクにそんなつもりはまったくなくって、あくまで二人の価値観の違いからくる認識の違いなんだけど……だからこそ着地点が見つからない。


 こういうのはホント難しいなあ。育った文化がまるで違うから仕方ないと言えば仕方ないんだけど……。


「ボクだって我慢してるんだよ? かよちゃんの身体じゃ、まだボクとの行為には絶対耐えられないだろうからさー」

「どうせ私は小さいです、子供です! そんなに我慢してるなら、い、色町にでも行けばいいじゃないですか!」

「えー、なんで妻がいるのに他の人とシなきゃいけないのさ。そんなの不義理にもほどがあるよ」

「つ……ッ。も、もう! そ、そう言うならもっと、その、ちゃ、ちゃんとしてください! き、昨日だって……ど、どうして抱いてくださらなかったんですか!?」

「……かよちゃん」

「めとるって、言ったのなんだったんですかっ? か……か、かわいがってあげる、って……あれは、あれは嘘だったんですか!?」

「かよちゃんストップ」

「わ、私、……私、ずっと、ま、待ってるのに……一度も抱いてくださらないじゃないですかぁ……!」


 わわわわ、こりゃダメだ。感情が高ぶってて聞く耳持ってくれない。こうなると朝一なのに人通りが多い都会が恨めしい。


 っていうか、かよちゃんそんなこと考えてたんだ!? そりゃ、世間で言う夫婦の営みはしてなかったけど、そこまで考えるかな!?


 この国じゃ、女性は子供を産んでなんぼだという考え方があるのはわかってたけど。ボクから手を出されないというのは妻として、女として存在を否定されたような感覚陥るほどだったなんて思わなかったよ。

 っていうか、夜のアレがイコール責任を取るっていうのはちょっと短絡的すぎるでしょ? 子供を産まないって選択肢も普通だと思うんだけどな。


 いやまあ、ちゃんと言わないとわからない、って彼女に言いつつボクの身体のことをちゃんと説明してないボクも悪いか。なまじ下半身以外は人間と変わらない見た目だから、余計かもしれない。彼女を迎えた日……はそんな余裕がなかったにしても、話をするタイミングは取っておくべきだったよね……。


 と、とにかく木魔法【アロマセラピー】を発動しつつ、ボクはまだ何かぶつぶつと言ってるかよちゃんを抱きしめた。


「……きゃ!? だ、旦那様!?」

「ごめんね。でもそろそろ周りの目が、ね?」

「~~~~!!」


 絶句して赤面するかよちゃんに気づかれないよう静かにため息をついて、ボクは視線を周囲に向ける。


 案の定、ボクらは周りからすごい視線を集めてた。朝っぱらからいきなり口げんか始めたらそりゃ無理もないけど、それだけじゃない。

 ハグもこの国じゃ、人前ですることじゃないらしいんだよね。さながら、天下の往来で全裸のストリップショーしてるようなもんだろうな、彼らにしたら。


 もちろんそれはかよちゃんだってわかってる。だからさらに真っ赤にした顔を伏せてしまってる。不意打ちのハグは荒療治としては成功……かな。


「いやあ、ははは。朝から痴話げんかなんかお見せしてしちゃってすいませんね」


 彼女の言葉が止まったことを確認して、ボクは愛想笑いを浮かべて言い訳がましくそんなことを言う。

 そうしたら、周りから舌打ちが次々と上がった。きっとモテない男たちだろう。気持ちは分からなくはない。今再認識したけど、かよちゃんはかわいいからな。


 でもやらないぞ。この子はボクのものだ。


「ほら、行こう。早いところここを離れたほうがよさそうだ」

「うー……は、はい……」


 そんなわけで、まだ真っ赤な彼女の手を取って、ボクは足早にその場を後にした。


 まだ釈然としてないみたいだったけど、あんまりごねても周りからの視線にさらされることに気づいたからか、以降は態度を改めてくれた。

 機嫌? いや、それはわかんないな。表面上はそうでもなさそうなんだけど。

 とりあえず……この辺りでいいか。人目の少ない路地裏は、都会ならどこにでもあるものだね。


「今日は本当にごめんね。あれはボクが悪かったよ。思わせぶりなことしといてノータッチってのは、いくらなんでもひどいよね」

「い、いえ……その、わ、私も言いすぎました……ごめんなさい……」

「そんなことない、今回のことはちゃんと説明してなかったボクが悪い。君は当然の疑問を言っただけだよ。だって、君には知る権利があるんだから」


 自分の言葉に、ボクはそうだと頷く。そもそも、ボクは人間じゃないんだ。ボクに対する疑問なんて、たくさんあるに決まってる。

 だから人間のかよちゃんを妻にしたからには、ボクには説明する義務があるんだ。


 そう思いながら、彼女としっかりと視線を合わせてボクは続ける。


「ただ、わかってほしい。ボクらアルラウネ種との性行為は、本気で危険なんだ。命に関わる。だからボクは、まだ完全に成熟しきってない君との行為は遠慮してたんだ」

「……命、って……死ぬってことですか……?」

「うん。何の準備もなしにだったら、良くて廃人悪くて腹上死だ。実際、ボクのパパ……父親はそれで死んでる」

「……っ!?」

「だから……その、そういうことは君の身体がしっかり出来上がってからって思ってたんだよ。それに君、栄養不足で痩せてるだろ? そんな状態じゃ、余計君を壊しちゃいかねない」

「…………」


 かよちゃんの顔が少し青い。無理もない。彼女は今、改めてボクが人間じゃない、化け物なんだ、ってことを再認識してるはずだ。


「ボクは君を壊したくないし、死なせたくもない。だからできる限り配慮はするから……もう少し、もう少しだけ待ってくれないかな? 準備がちゃんと整うまで……」


 でも、ボクのその言葉で彼女の表情は変わった。恐怖を感じていた顔から、何かを決意した顔に。

 それから少しだけ、彼女は考えてたようだけど、やがてゆっくりと口を開いた。


「あの……わかり、ました。旦那様が、私のことちゃんと考えてくれてたんだって、それがわかったから、十分です。だから、えっと……私も、わがまま言って申し訳ありません、でした」


 そして、ぺこりと頭を下げる。

 それから、顔だけをこっちに向けて、上目遣いに続けた。


「その……えっと、だから……その時は……や、優しく……お願いします……」


 そう言う彼女の顔は真っ赤だった。


 うん。


 なんだこのかわいい生き物。


「ひゃあっ!? だ、旦那様……」

「ごめん、かわいくってつい」


 つい抱き寄せしちゃった。てへ。


「だ、だめです、こ、こんなところで……!」


 かよちゃんはそう言うけど、抵抗する様子はない。むしろ身体の力を抜いて、ボクに身を任せてる感じすらある。


 ……いや、しないよ!? さっきも言ったけど壊しかねないから! それに、いくらなんでも外でそんなプレイ、するわけないじゃないか……。


 っていうか、壊しかねないって言ったのに自分からしたいって思われかねないこと言うなんて、かよちゃんはマゾなんだろうか?

 ……いや、それは彼女に失礼か。純粋に、ボクのことを慕ってくれてるんだと思いたい。


「うん……それさっきも言ってたけどさ、ボクの故郷じゃこれはただの愛情表現の一つでね? やましい意味はまったくないんだよ」

「へ……!? え、……え、じゃあ、あの、昨夜も……」

「うん、ただかよちゃんの近くにいたかっただけ」

「はう……うう……!」


 かよちゃんの赤面は留まることを知らないな。っていうか、こんなずっと顔に血上げてたら頭の血管に穴開くんじゃなかろーか。


「まあなんっていうか、今回はお互いの常識がすれ違った、っていうことなんだと思うよ。自分が育った環境の認識はそうそう変えられないからね」

「……はい……」

「でも別に悪いことじゃないとも思うんだ、ボク。そりゃ、何かあるたびにこうやって口論になる可能性はあるけど……でもそれって、同じ国の人同士だって起こるものだと思うんだよね」


 かよちゃんの頭をそっとなでて、ボクは言う。

 腕の中で、彼女が身じろぎした。その視線が、ボクに向けられるのを感じる。


「だから、異世界人のボクたちでそれが起きないわけがないんだから。それはしょうがないって考えて、その時その時にこうやってしっかり話し合って、気持ちを伝えるようにしよう? たぶん、夫婦ってそういうものなんじゃないかな」


 そしてそう言って、ボクは笑った。


「……そう、ですね……そうですね」

「ってわけだから……かよちゃん、改めて言うよ。これから、ボクの隣にいてくれるかい?」

「はいっ、お傍にいさせてください、旦那様」


 返ってきたのは、遠慮がちではあるけど、はっきりした肯定だった。それと一緒に、微笑みも投げかけられる。

 それに応じる形でボクも笑うと、ボクたちはそのままくすくすと笑い合った。


 笑いあいながら、ボクは思う。


 わりとその場の勢いの、しかも思惑あって彼女をもらったつもりだったけど。どうやら、ボクはかなり本気らしい。ボクが単純なのか、彼女が魅力的なのか……って、それはどっちでもいいか。

 大事なのは、ボクがさっき言ったことが本音で、それをかよちゃんが受け入れてくれた、ってことだ。


 ボクたちはきっと、ようやく本当の意味で夫婦になった。そんな気がした。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


朝から爆発物を見た江戸の人々の心中をお察しします(真顔



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