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お諏訪様

 この世界全体から突如として魔力が消えた時のことを、彼女、八坂刀売命やさかとめのみことは今でもしっかりと覚えている。あるいは、彼女の中の彼女も、彼も、彼も、彼女も、彼も。


 それは彼ら彼女らにとって、まったく予想だにしない出来事であり、彼女に限らず近隣、遠方問わず、当時はすべての生き物が大いに混乱したものである。

 悲観するもの、楽観するものに分かれ、様々な議論を交わしたのはある意味では有意義な時間でもあった。


 だが時が経つにつれて、弱い者たちが次々に力を失っていった。世界中に存在していた魔力から力を得ていた神や妖怪の末端、あるいは下位種などは特にその影響を大きく受け、100年、200年のうちに死滅していったことは、彼女にとって直近の悲しい記憶だ。

 それでも当時、悲しみに暮れる暇など彼女にはなかった。力を回復させる手段が他者を取り喰らうか、世界そのものの自然エネルギーを奪う以外に存在しないと、多くの者が理解してしまったからだ。


 結果、多くの存在が他者を喰らう修羅となり、神々、あるいは妖怪たちの戦いがあちこちで勃発する。これにより神や妖怪は著しく数を減らし、彼らの文明、文化は一気に衰退へ向かった。中には早々に滅んでしまった地域もあったと風のうわさに聞いている。

 たとえば西方では、特に争いが激しかったと聞き及んでいる。そこではなんと主神が巨狼の化け物に飲み込まれてしまい、世界が滅びを迎えたとまで言われたという。その巨狼すら直後に別の神に敗れ、遂には何もなくなったという話は、誰からともなく神々の黄昏と呼ばれ、各地に激震が走った。

 特に、あまり争うことなく、神も妖怪も垣根を越えて知恵を出し合おうとしていた列島の存在にとっては、その噂は驚きでしかなく、また同時に恐怖すら抱かせる話であった。そしてそのようなことはすまいと、誓い合ったものである。


 神々の黄昏は各地に暗い影を落とし、結果的には神や妖怪たちの争いを著しく鈍化させた。だがその影響は既に力なき人間や動物、植物たちにも及んでいた。

 だからこそ、彼女たちは民のために力を尽くした。これ以上国を衰退させるわけにはいかぬと、国内だけでなく国外の存在との争いを避け、限りあるリソースをやりくりし、減っていく力を隠しながら……。


 けれども、限界はやってくる。300年が経過した頃から、少しずつ神々すら力を失っていったのだ。

 こうなっては、彼女たちは身体能力が高いだけの存在でしかない。超常の力を操るための原料とも言える力がなければ、彼女たちにか弱き民の願いに応えることはかなわない。結果、多くの神々が決断を迫られた。

 ある者は死を受け容れ、ある者は眠りにつき、ある者は他に牙を剥き、ある者は他の糧となった。


 だが彼女は、決断を先延ばしにした。限界まで粘り、何か方法はないかと探ったのだ。

 彼女の想いに賛同してくれた神々と共に、自らが神格となったなじみの土地すら離れ、言葉も通じぬ異境の神々と友誼、あるいは干戈を交わしたこともある。


 しかし……結局力を取り戻す方法は見つからず、彼女は決断する。

 複数の神々と一つになり、決断の時を引き延ばす決断を。


 そのために彼女は各地を巡り、やがて夫の任地でそのための力を持つ神に出会った。


 彼女の名は、洩矢モレヤといった。八坂刀売命の夫に国神としての座を禅譲し、戦乱を避けた賢き神の1柱で、八坂刀売命にとって友と呼べる龍の女神である。


 だが八坂刀売命が帰還した時、留守を守っていた洩矢の身体は既に彼女だけのモノではなくなっていた。複数の神々、あるいは妖怪などの実力者たちの習合体となっていたのである。


と同じ結論に達したのだな」


 そう声をかけた八坂刀売命は、返ってきた悲しげな微笑みを決して忘れないだろう。


 滅びにしか辿り着けない自分たちの道から外れ、新たな道を拓くべく、あらゆる努力を惜しまず、諦めなかった優しい龍神の苦悩が、隠せないほどそこにあった。

 洩矢は理解していたのだ。習合という決断も、ただの先延ばしでしかないと。

 他の存在と一つになるという、他者の心を度外視した手段を取ってもなお、根本的な解決にはならないと。

 だから彼女は、ただ微笑むに留めたのだ。


 そして八坂刀売命も、その現実を理解していたがために、かける言葉もなくただ抱擁することしかできなかった。


 実際に……世界は確実に彼女たちを追い込んでいく。

 やがて八坂刀売命たち全員に限界が迫り、それでもなおあがこうとした彼女たちは、遂にすべてを束ねて一つになる道を選んだ。

 かくしてここに、土着神にして岐の神、祟り神にして龍神、そして国津神という、奇形とも言うべき神が誕生する。


 何がどう作用して、それの中心的な人格が八坂刀売命となったかは、誰も知らない。なぜ洩矢の身体が残ったのかも、また。

 恐らくそれらに理由などはなく、ただの偶然だろう。

 そのことを感謝し、また謝罪しながら、彼女はまた足掻き、足掻き、足掻き……結局、最後の決断をせざるを得なくなる。これ以上衰弱する前に眠りにつき、未来にすがるという決断を。


 こうして八坂刀売命は諏訪湖をしとねとして、死すらも死せる永劫の眠りへ没入した。大きな願いと希望、それと同程度の不安と諦観を抱きながら……。


 その日からおよそ1200年。


 人々の心から術、まじないといったものが次第に失われ、世界はすっかりありようを変えた。


 動物や植物、器物から神性、あるいは妖性が消え、知恵を失ったまま移ろいゆく世界。

 唯一知恵を残し、術にもまじないにも頼らない技を作り上げた人間たちの世界。


 もはや神話は残滓しかないような世界で……かつて守ろうとした国とその民が、科学の暴威にさらされようとしていたまさにその時、彼女は偶然目覚めることになる。

 そして出会う。魔力を軸に発展した異世界、ベラルモースからの来訪者と……。


◆おまけ・クインとの邂逅時の彼女のステータス◆

個体名:八坂刀売命やさかとめのみこと

種族:御社宮神ミシャクジ

性別:女

職業:祭神

状態:衰弱

Lv:822

生命力:47201/280127 +2837196

魔力:7342/261005 +2837196(貯蓄数:0)

攻撃力:52507 +2837196

防御力:57818 +2837196

構築力:50091 +2837196

精神力:58274 +2837196

器用:61122 +2837196

敏捷力:48967 +2837196

属性1:土 属性2:水 属性3:風 属性4:木 属性5:雷 属性6:氷 属性7:闇(完全隠蔽ON) 属性8:冥(完全隠蔽ON) 属性9:妖(完全隠蔽ON) 属性10:光 属性11:天 属性12:神 

※順番隠蔽ON。【鑑定】結果ではばらばらに表示される。


スキル

習合Lv- 逆鱗Lv- 神約Lv-

奇襲Lv10EX 神威Lv8 貯蓄Lv6 変化Lv6 神霊変化Lv10EX 短剣術Lv7 弓術Lv7 解体Lv8 吸収Lv5 金剛Lv7 結界生成Lv9 神能Lv10EX 千里眼Lv10EX 多聞耳Lv10EX 呪詛Lv10EX 荒魂あらたま変化Lv5 超力Lv7 指揮Lv7 腐食Lv6 風水Lv10EX 祝福Lv7 隠蔽Lv7 連続魔法Lv7 鑑定Lv6

神術Lv9

(水魔法Lv10EX 風魔法Lv10EX 土魔法Lv10EX 木魔法Lv10EX 氷魔法Lv10EX 雷魔法Lv10EX 光魔法Lv9 闇魔法Lv8 天魔法Lv9 冥魔法Lv8 時空魔法Lv8 創造魔法Lv8)

気配察知Lv10EX 気配遮断Lv10EX 魔力察知Lv10EX 魔力遮断Lv10EX 赤外線感知Lv10EX 熱源察知Lv10EX 熱源遮断Lv9 震動察知Lv9 反響定位Lv10EX 土中機動Lv10EX 水中機動Lv8 空中機動Lv4 夜目Lv8 魔力譲渡Lv6 魔力節約Lv6 自動翻訳Lv5

全異常耐性Lv5 痛覚遮断Lv5 鑑定遮断Lv4 物理抵抗・大Lv8 魔法抵抗・大Lv9 反射Lv4 耐飢餓Lv6

古代日本語Lv9 古代儀礼Lv9 古代祭事Lv9 交渉Lv7 拘束Lv8 潜伏Lv7 冶金Lv6


称号:アルビノ

   共食い(完全隠蔽ON)

   大食らい(確率隠蔽ON)

   ヒューマンスレイヤー(完全隠蔽ON)

   瑞獣

   信仰が集う者

   土着神

   千年蛇身精

   スネーク種の頂点

   水神

   百発百中(確率隠蔽ON)

   ジャイアントキリング

   風神

   岐の神(完全隠蔽ON)

   鎮める者(確率隠蔽ON)

   土神

   習合体

   畏怖が集う者(完全隠蔽ON)

   ジェノサイダー(完全隠蔽ON)

   祟り神(完全隠蔽ON)

   守護神

   国譲り(完全隠蔽ON)

   国津神(存在隠蔽ON。【鑑定】結果では祖神と表示される。)

   氷神

   木神

   雷神

   逃亡者(確率隠蔽ON)

   禅譲を受けし者

   諏訪大明神

※順番隠蔽ON。【鑑定】結果ではばらばらに表示される。


【御社宮神】

テラリア世界の地球産スネーク種固有系統の最上位種の亜種。

青竜が更なる力を積み重ね進化した蒼龍の亜種であり、複数の神、妖怪が融合した唯一無二の特別例外種。

その名は悪霊や祟り神の総称ミシャクジに由来し、それらを束ね鎮めた功績により災い転じて福となし、御社宮神の文字があてられた。

このため高い神性と共に妖性を併せ持つ存在であり、畏怖による能力補正も受けることができる。

その能力はテラリア世界地球における最上位五本指に入るとされ、並みの最上位種を大幅に超えるまさに神。

進化条件:以下四称号の所有者が【習合】する もしくは 【合成】される。

     (称号を所持していれば構わないので、最低二者で十分)

     称号【千年蛇身精】

     称号【アルビノ】

     称号【信仰が集う者】

     称号【畏怖が集う者】


化け物化け物アンド化け物。なお、諏訪湖周辺だとさらにプラス補正がかかる模様。

これほどとはいわないにしろ、紀元前はこんな感じの生物がわりとあちこちにいたのが本作の舞台、テラリア。

なお大量の称号は、複数の存在が混ざり合っていて、それぞれのものを大半受け継いでいるから。

どの称号がどんな存在から受け継いでいるのを考えてみるのも楽しい、かも?(なお特に景品は出ません

ちなみに……幟子が妖怪なのに八坂の神様の影響を受けず普通に受け答えしていたのは、彼女の持つ【皇族】の影響。

天津神、つまり天照坐皇大御神の子孫である肉体を持つ彼女は、国津神系統の気配にいい意味で鈍感なのです。

一応、大和王朝以外に由来する各地の土着神は全部国津神と解釈できるのですが、本作における国津神は出雲由来の神様のみを指すものとしています。

また、八坂刀売命は綿津見命や天八坂彦命の娘ではない別の土着の神様、という設定でいます。

だって親がその二人どちらかが有力視されてるとはいえ、実際そうだとしたらこの神様、天津神であり国津神でもあるってことになって、よりとんでもない存在になっちゃうから……。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


ということで彼女の簡単な来歴と詳細なステータスでした。

諏訪大社に祀られる神々のことについてはいろんな説があって、恐らくタイムマシンかタイムテレビかでもない限りは解明されないのでしょうが、素人ながらこういうのをあれこれ考えるのは結構好きだったりします。

本作ではこんな感じなんですよ、ということで一つの説というか、言葉遊びみたいな感じで適当に受け取っていただければ。


さておよそ一ヶ月に渡って更新してきた拙作ですが、ストックが無事なくなりましたので、いつも通りここで一旦更新を止めて書き溜め期間に入ります。

楽しみにしていただいてる方には申し訳ありませんが、なにとぞご了承ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] あのー、6年くらい書きためを待っているのですが…
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