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妖術と神術

「ねーねーご主人様ー」

「どうかした?」


 地震エネルギーを利用する各種魔法道具をいじってるところに、アルヴァがにゅるりと顔を出してきた。

 今日も何故かラミアスタイルの彼女は、どうも変化が苦手ってのに加えて、周りからの熱視線に応えて敢えて、っていう要素もあるような気がする。

 仮にも龍種がそれはどうなのかとも思うけど……まあ、彼女がいいならそれでいいんだろう。


「あのー、あのさー、ちょっとお願いしたいことあんだけど、いーい?」

「内容によるかな?」


 ボクとしても今は作業中。あんまり手間のかかることは、正直したくないのが本音だ。


「だいじょぶ、きっとご主人様も得することだかんね」

「ふーん?」


 妙に自信ありげなアルヴァに空返事をしつつ、工具を動かす。

 こういう時ってのは大体、大したことないってのがお決まりだよね。


「えっとね、あんね、いっこ教えてほしーことがあんだけど、いーい? 魔法に関することなんだけどさ」

「ははーん、ボクがその手の専門だからいけるって思った? 残念だけど、そういうのは大体かよちゃんのために出した本に書いてあるから、頼んで貸してもらいなよ」

「ところがぎっちょん、載ってなかったんだなー、これがー」

「……んー? ってことは何、超級以上の大魔法について? それはちょっと、いくらなんでもアルヴァにはまだ早いよ」


 かよちゃんのために用意した教本は、基礎から中級者辺りまでを対象としたものが多い。そして進化して以降、彼女は幟子ちゃんから妖術……つまりこの世界の魔法を中心にして勉強してる。だからかなり上の魔法についてだと思ったんだけど……。


「ぶー、ざぁんねーん。アタイだってそんなの早いってわかってるよー。アタイが知りたいのはもっと別のこと!」

「うーん……?」


 ここでボクは、初めて手を止めて振り返った。


 ……あ、今日はちゃんと服着てるんだな。


 そんなことを考えながら、アルヴァに質問を促す。


「へへ、あざーっす! えとねー、あんねー、すっごい単純なことなんだけどぉ……妖術と神術って、どう違うの?」

「……しん……じゅつ……?」

「あれ? あれあれ? ひょっとしてご主人様、気づいてなかったー? ご主人様ともあろうお方がぁー?」

「……待って思い出す。気づいてなかったんじゃない、忘れてるだけ」


 にまにまと笑いながら、にじり寄ってくるアルヴァを触腕で遠ざけながら、ボクは唇に指を当てて考える。


 妖術ってのは要するに、幟子ちゃんをはじめとしてボクたちも教わってる地球の魔法だ。メンバーは大体、これを少しずつ習得して言ってる。

 じゃあ神術って言うと……。


 と考えながら、やっぱりにまにま笑ってるアルヴァを見て、ふと脳裏をよぎるものがあった。


「……そうか、アルヴァだけ神術なんだ」

「あ、せぇかーい! へへー、やっぱご主人様ってぱないねー」


 なんで彼女が嬉しそうなのかはさておき。

 そういえばと、ボクは彼女のステータスを思い返していた。


 彼女を進化させた時、彼女についた特殊な称号や進化のほうにばかり目が言ってたけど、確かに彼女が進化するにあたって修得したのは、妖術じゃなくて神術だった。こっちのほう、完全に意識から抜けてたんだな。

 八坂の神様の影響ってのはわかるけど……。


「……むむ、わかんないな。この世界の魔法についてはまだわかんないことも多いし……」

「あれー!? ご主人様ならとっくに調べてあるって思ったのに……」

「ごめん、完全に忘れてた。もっとインパクトの強いやつがあったからね……」

「そっかー……。たかちゃん様なら知ってるって思ったけど、まだやっぱ怖いし、ご主人様に聞きに来たんだけど……」

「あー、そういうことね……」


 ほぼ同質の存在に憑依されていいように使われていたからか、アルヴァは幟子ちゃんにだけ苦手意識を持っている。っていうか、ある種の恐怖すら抱いてる様子がある。

 まだうちのメンバーになって日が浅いから、これは仕方ないのかもしれない。


 そして、まんまとその気にされてしまったボクは、こうなったらそっちが気になって仕方ないので。


「とりあえず、一緒に聞きにいこうか」

「う……っ、うぃーっす……」


 逃がさないよ?



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「妖術と神術の違い? そりゃ単に、流派の違いじゃよ」


 ボクに問われた幟子ちゃんは、実にあっけらかんと答えた。


「え、それだけ? もっとこう、質の違いとかそういうのは……」

「残念ながらないぞえ? 少なくとも、妾が知る当時はそうじゃったな」


 少し遠い目をしながら言う幟子ちゃんに、思わずへえーと声が漏れる。


「妖術ってのは要するに、截教せっきょうの術でな。主に妾たち妖怪が使っておったから、いつの間にやらそう呼ばれるようになったんじゃよ。逆に神術は、截教せっきょうと対を成す闡教せんきょうが使う術のことなんじゃ」

「ふむふむ……その二つの流派はどう違うの?」

截教せっきょうは妾のように、自然から長じて変じたものが扱う流派で、あまり厳密な系統なんかはなかったのー。元になった存在だからこそ思いつくような術、とにかく他者のことなぞ考えんそやつ独自の術、被害度外視の過激な術なんかが多いのが特徴じゃ。この辺はぬしさまもようわかっとるじゃろうが……」

「まあね……」


禁鞭きんべん】の威力を思い出すにつけ、背筋が凍るような気分になる。あれはそうそう使っていいものじゃないよね。


「個人主義が強い連中が多かったから、強い奴すごい奴が強い術すごい術を創って、知りたいやつは見て盗めって感じじゃったな。そんな連中の数だけ術もあって、ごちゃごちゃしておったのをよく覚えとるよ。

 そういうのをできるだけ系統だてて集積して、一つの流派としてまとめあげたのが通天教主と呼ばれた男でな、妾も一時は教えを請うたもんじゃよ」

「へえー、やっぱどこにでもそういうすごい人はいたんだね」

「まあ妾の前身が間接的に殺したんじゃけどな……」

「台無し!!」

「ひぇ……っ」


 そういえば、彼女は元々歩く災厄みたいな化け物だった。


 ボクのすぐ後ろで、アルヴァがおびえた様子で縮こまってる。今の幟子ちゃんはそんな危険人物じゃないから、大丈夫だよ。


 たぶん。


「ま、まあ、その、なんだね。つまりはアクの強い魔法の一派……混沌の魔法って感じなんだね」

「そんなようなもんかのー」

「じゃあそれに対を成すってことは、闡教せんきょう……神術ってのは」

「うむ、察しの通り最初から知恵を持ち、高い社会性を持つ人間を中心にした流派じゃ。それゆえに協調と秩序が重んじられておって、術の内容もしっかりと系統だって作られておる。師が弟子を取って育成する仕組みも確立しておったな。その分、使いやすさや覚えやすさが重視された術が多かったと記憶しとるよ。

 こっちは元始天尊というジジイが頭に座っておったな。確か約3000年前に起きた仙界大戦当時、既に5000歳くらいじゃったか」


 人間出身でその年齢まで生きてるってことは、恐らく人間種の正統進化系統最上位種、真君しんくんまで進化してたんだろうな。この世界独自の種かもだけど、ともあれこの世界でもかつてはそう言う人がいたんだね。


 そして自然の中では決して強くない人間たちを導くのは、やっぱりこういう到達点に至った人がしてたんだろう。そのための、癒しや守りってことか。だからこそ神術って呼ばれるのかも。


「なるほど、こっちは癖の少ない魔法の一派……秩序の魔法なんだね」

「まあ、その仙界大戦を起こしたのはこやつらなんじゃがの……」

「台無し!!」

「人間って怖ぁい……!」

「最上位の位階にまで至っておった神や妖怪が、軽く200人近く死んだんじゃったかな。それに近しいものも100人は固いんでないかのー。修行中の連中や一般人まで含めれば、街一つ分の神妖が死んだ気がする」

「なんでまたそんなことを……」

「いやなんか、天帝からの指示じゃったらしい……」

「……え、天帝って、確か中国で創造神を指す言葉じゃなかった?」

「うむ!」

「なんでそんな偉い神様が戦争なんてさせんの!? この世界おかしくね!?」


 アルヴァが思わずって感じで叫んでから、「あっ」て感じで口をつぐんで幟子ちゃんの様子をうかがってる。

 そんな気にしなくっても、幟子ちゃんは気にしてないからいいのにね。


 それにしても、やっぱりこの世界もかつては創造神が世界の運営にちゃんと関わってたのか。

 指示で戦争させるってのも一見すると外道っぽいけど、運営する上で何かしらの意味があったのは間違いないだろう。


 となると……ますますわかんないのは、なんで1800年ほど前に急きょ方向性を変えた上に、以降一切世界の管理に関わってこないんだろう?

 こればっかりは、本人に聞いてみないとわかんないかもなあ……。今ここで考えても仕方ないか……。


「……ま、まあ、大体のことはわかったよ……ありがとう」

「気にせんでたもれ! 当たり前のことをしただけじゃからな!」

「ついでに聞くんだけど……幟子ちゃん自身は神術は使えないんだよね?」

「うむー、そっちの術はてんでじゃなー。戦った相手に使い手はたくさんおったが、教えを請えるような友人知人となるとのー」

「えーっ、ってことはアタイ神術のスキラゲできないってことー!? ……ですか?」

「うーむ、ステータスの表記はようわからんが、あれはわりと適当なもんだと思うがの……。記憶にある限り、両流派の術を使うやつもおったし」

「……妖術の練習してもスキラゲになんのかな? ……なるんですか?」

「さあのう……。根っこは大体同じじゃし、妾は上がる気もするが……」

「そこは試してみないとわかんないね」


 何せ二つとも、ベラルモースにはなかったスキルだ。表記の上ではベラルモースシステムであるステータスに反映されてるけど、それが実際にどういう挙動をするかは、正直やってみないとわからない。


「神術の使い手に心当たりがないわけじゃないけど……」


 八坂の神様ならもしかするかも、と思わなくはない。恐らくは相当長生きしてる人だし、【習合体】の称号からいって、色んな存在の記憶や技術を受け継いでる可能性は極めて高い。

 ……ただ、その対価を要求される可能性も考えると、躊躇するよね。彼女、【土着神】ってあったからたぶんあそこから離れられないだろうし……。


 その辺りをわかってるのか、幟子ちゃんもアルヴァも乾いた笑いを浮かべた。


「……今も生き残ってる神術の使い手がその辺り散歩でもしてたらいいんだけどねえ」

「ぬしさまよ……それはいくらなんでも」

「ありえないっしょー」

「わかってるよ」


 まあそれは冗談にしても、神様や大妖怪の眠りを覚ましかねないと知れてる今、そのためのハザードマップ的なものを作成したかったりする。その時についでに調べたら、二つの目的を同時に果たせるかもしれない。

 それがいつになるかは……まあ……5年くらいはほしいかな……。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


ちなみに、地球の過去の魔法であるこの二つの流派は、地域差が大きくて場所ごとに内容も違ってほぼ別物、という設定を最初考えてましたが、それはとんでもなく面倒なことになるうえに収拾がつきそうにないので、没にしました。

なので、幟子が知る由もないので本文中には書きませんでしたが、創造神が隠れるまではこの世界の魔法技術に地域的な格差はあまりなかった、という方向で現在考えてます。

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