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江戸前ダンジョン繁盛記!  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
1855年~1856年 拡張
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第百二十話 変質

 九尾の欠片が取り憑いた石が、無事に(?)紀州徳川家の江戸上屋敷に搬入されたと連絡が来た。

 これでようやく、話が前に進むね。あとは、老中の誰かに折を見て訪ねてもらって、石の謂れと来歴を聞いたうえで是非幕府にほしい……なんて持ちかけてもらうだけだ。


 その辺りの調整は改めてロシュアネスたちに任せるわけだけど……ボクのほうでは、警戒と監視を継続していかないとだ。


 江戸と言えばこの国に留まらず、この世界では有数の巨大都市だ。人口もかなり多いから、餌を求める九尾の欠片にとっては天国みたいなところだろう。餌に限らず、その器にできる人間が見つかる可能性もかなりある。

 だからできる限り早くダンジョンまで持ってきて、そこで対処したい。でもそれまでにはまだ少し時間がかかるから、それまでは気が抜けないね。

 一応、港での積み上げ、屋敷への搬入はずっと鳥たちに監視させてきてて、今のところ九尾の欠片が暴れ出す気配はない。

 屋敷にもあらかじめ、ベラルモース式のと地球式を融合させた魔法封じ結界を張っておいたから、この状態で暴れられることはないと思うけど……可能性はゼロじゃない。このままうまくいけばいいなあ……。


 ……なんて思っていられたのは、1時間程度だった。

 ロシュアネスがやってる調整交渉の様子を確認しようと、屋敷の方の監視映像から少し目を離していた時に、それは起こった。


 屋敷の様子を映していたモニターから、『ゴッ』っていう竜巻のような音が聞こえてきたのだ。ついでにすごく光った。


「何!?」


 思わず声を出しながらモニターに目を向けると、屋敷の周辺に魔力の残滓が相当な量漂っている様が映し出されていた。


『上様! 紀州屋敷から魔法の発動を確認! そっちでも見えてるわよね!?』

『主、紀州家上屋敷で高密度の魔力が噴出した! まずいぞ!』


 と同時に、現場の監視をしていた藤乃ちゃんとユヴィルから同時に念話が飛んできた。

 うん、もう、なんていうか、もう、早速九尾の欠片が動き出したんだろうね! やってくれるよホントに!

 っていうか、せっかくかよちゃんと幟子たかこちゃんと一緒に考えた結界、意味なかった! 悔しい!


「ユヴィル、君は大急ぎで現場周辺の封鎖して! 藤乃ちゃんは人の避難誘導を!」

『わかった!』

『御意!』


 二人の返事を聞きながら、今度はロシュアネスに緊急事態を告げる。彼女から、幕府側でも避難誘導や情報統制などをやってもらうとして……。


「よし、ボクも現地へ……」


 跳ぼう! ……として、ちょっと妙な点に気づいて、改めてモニターにかじりついた。


 紀州江戸屋敷を映すモニター。そこには、今もなおかなり高度な魔法が使われたと思われる魔力の残滓が漂っていて、尋常な様子じゃない。こんな光景を、よもや日本の街中で見ることになるとは思わなかったんだけど……。


「……後が全然続かないな……? っていうか、あんな目立つ魔法をいきなり使うなんてあり得るのかな。一体何を……」


 つぶやきながら、ふと脳裏をよぎるものがあった。

 一度きりで大体二度目はなくって、かつ最初に九尾の欠片が使いそうなもの……。


「……まさか、【借体形成】?」


 それならあり得る。石の身体じゃろくに効果を発揮できないから、九尾の欠片が人間に移った可能性は高い。そしてそれが実行されれば、次に使うのはこの魔法になるだろう。


「……だとしたら余計まずいな。ボクも急がなきゃ」


 そして今度こそ跳ぼう! ……と思ったら、また念話が飛んできた。


『上様……あー、その、なんていうか』

『主……とりあえず俺を起点に【テレポート】してきてくれるか……』

「?」


 妙に歯切れの悪い念話に、ボクは首をかしげるしかない。

 まあでも、どの道行って調べたいとは思ってたし、二人に改めて言われるまでもない。


 ボクは彼らに了解と返しつつ、ユヴィルを目印にして【テレポート】を発動させた。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「なにこれ」


【テレポート】直後、ボクは思わずそう口にした。せざるを得なかった。


 跳んだ場所は、屋敷の敷地内。それも庭園の、先だって庭石が搬入された場所だった。

 そこで、当主の徳川慶福よしとみ君(と、お付きの人が何人か)が呆然とした様子で石の山を眺めている。


 正確には、石の山の手前でぺたんと腰をつけた状態で座り込んだまま取り乱している女の子を、だ。

 ついでに言うと女の子は全裸で、十代半ばくらいの見た目。眼の色は見覚えのある赤。けど腰まである髪の色は、日本人らしい黒。そして肌の色は、なんとざらざらとした鈍い光沢のある黒色だ。


 うん。


 誰だ。


 みんな呆然としてるのも無理はない。


「ユヴィル……」

『うむ……俺たちが来た時既にこうだった。とりあえず、【鑑定】してくれないか』

「そ、そうだね。それが一番だね」


 わからない時は調べる。大事だね!

 えーっと、どれどれ……。


***********************************************


個体名:濡羽ぬれば

種族:元君げんくん

性別:女

職業:なし

状態:混乱

Lv:1

生命力:119062/119062

魔力:65840/65840

攻撃力:10005

防御力:15224

構築力:6998

精神力:7452

器用:5120

敏捷力:2851

属性1:妖 属性2:冥 属性3:魂 属性4:土


スキル

神能Lv2 千里眼Lv2 多聞耳Lv2 読心Lv4 魅了Lv10EX 指揮Lv4 性技Lv10EX 房中術Lv10EX 形態変換Lv10EX 金剛Lv1 地脈操作Lv1

妖術Lv7

気配察知Lv8 気配遮断Lv7 魔力察知Lv10EX 魔力遮断Lv8 魔力節約Lv3 反響定位Lv1

毒無効Lv10EX 麻痺無効Lv10EX 混乱耐性Lv7 魅了無効Lv5 痛覚遮断Lv10EX 物理抵抗・中Lv4 魔法抵抗・大Lv1 飢餓無効Lv1 斬撃耐性Lv5

古代中国語Lv9 古代魔法工学Lv8 古代儀礼Lv9 拷問Lv10EX 交渉Lv7 日本語Lv3 潜伏Lv6 鍛冶Lv4 護衛Lv1


称号:転生岩石精

   肉体のくびきを操る者

   傾国

   マテリアル種の頂点

   縁起物


***********************************************


【元君】

テラリア世界固有の生物であり、器物系統の最上位種。

更なる修練と、魂魄の研鑽に努めた存在が至る最後の境地。

神にも匹敵する強大な妖術を操り、時には神と同一視されることすらある。

進化条件:称号【千年○○精】の所持

     スキル【形態変換】のレベルが最大


***********************************************


 よーし、わかんない! 誰なのさ君は!


 ステータス的にはほぼほぼ九尾の欠片と同じだから関係性はあるだろうし、っていうか【転生岩石精】って称号からして九尾の欠片が何らかの形で変わった? ってことはかろうじてわかるけども!


 もう、なんなんだよホント! ここ最近わかんないことが起きすぎだよ! 地球ってホントわけわかんない!

 創造神が管理を放り投げたせいなのか、元々成り立ちからしてベラルモースと方向性が違うのかはわっかんないけどさあ!


 まあ、やりがいがあるのは事実だけど……。一研究者としては、この手の謎はとても興味深いよね……。


『何かわかったか?』

「さっぱりだよ! だから調べる! わからないことを調べるのは好きだし、世界のシステムに関することを調べるのは元々本分みたいなところあるからいいんだけど、最近ちょっとペース激しいね! 嬉しい悲鳴だよ!」

『そ、そうか……。なら、俺たちは引き続き封鎖を続けたほうがいいか』

「そうだね、少なくとも原因がわかるまでは続ける方向で!」

『了解だ』

「藤乃ちゃん、君はこの屋敷の中の制御をお願い。これから起こることを見られないようにするために」

「ぎょ、御意……」


 と、そこまで話をした直後だ。


 どうも濡羽という名前になってしまったっぽい九尾の欠片が、ボク目がけて猛然と殴り掛かってきた。

 大坂の港で監視してたことは、やっぱりバレてたかなー。そして困惑してる状況下で、とにかく敵っぽい相手に攻撃するってのはわからなくもない。


 でも、スピードアタッカーだった九尾と違い、今の彼女はどうもゴーレムみたいな種族になってしまってる。ステータス的にも、どう見たってスピードのないパワーアタッカー。明らかに身体が変化についてきていない。推測は合ってるのかも?

 そんな状態じゃあ、ボクが魔法を使うのを止めることはできないな。


「【バリア】」

「んくっ!?」


 ボクの身体を包み込んだ魔法の膜に阻まれ、彼女の拳は止められた。そのまま彼女は止まることなく連続で殴り続けてくるから、そのうち壊れると思うけど……今はこのわずかな時間があればそれでいい。

 その隙に【祝福】でバフをかけると、ボクは相手の無力化に取り掛かる。普段なら【触手】スキルを使うところだけど、あいにく今は人間に化けてる最中。人目もある。だから、これだな。


「【バインドオルビス】」

「うっ!?」


 光魔法【バインドオルビス】。光り輝くリングによって、四肢を固定してしまう魔法だ。光魔法って、結構こういう搦め手もあるんだよ。


 ついでに言えば、【魔法乗算】でさりげなく効果もアップしている。最上位種といえども、多少は効くはずだ。

 まあ、それでも結構あっさりと破られるんだけど……これも時間稼ぎでしかない。本命はこっちだ。


「【スペースプリズン】!」

「なっ!? そ、それは……!」


 時空の流れを阻害し、存在そのものを封印してしまう時空魔法。【永久氷壁】とは似て非なる魔法だ。けど、あそこまで強力な封印魔法じゃない。

 これにより、濡羽は完全に動きを止める。恐らくは【永久氷壁】と勘違いして、驚愕した表情をそのままにだ。


 ……もしかしなくても、ボクかなり強くなってるな。仕事の合間にしてる訓練で多少違いは理解してたけど、最上位種がこれほどとは思わなかった。混乱してるとはいえ、相手も最上位種なのに。

 いやでも、あれか。相手が一切魔法を使おうとしなかったのも大きいか。なんで使わなかったんだろう?

 ……あれ? 今落ち着いたところで気づいたけど、結界まだ生きてるな? 一体どういうことなんだろう?


 …………。


 ま、まあそれはともかく……あとはとりあえず、【ホーム】とかにしまっておけばとりあえずこの場は一段落かな。うん。

 さてさてここまで既にかなり注目を集めてるわけだけど……とりあえず人払いはある程度済んでるみたいだな。藤乃ちゃんさすがだ。


『幟子ちゃんヘルプ! 結構な人数に記憶操作とか必要な事態になってて!』

『な、なんじゃってー!? 了解なのじゃよ今すぐ飛んでくんじゃよ!』来たのじゃよぬしさま!」


 相変わらずの速さだ。こういう時は本当に頼りになる。


「幟子ちゃん、野次馬の記憶操作して集まらないようにしといてくれる? それからこの屋敷でも記憶操作してもらうから、一通りしたら藤乃ちゃんと一緒に待機で」

「了解なのじゃよ!」


 びしっと敬礼して、ばたばたと駆けて行く幟子ちゃん。その後ろ姿はどう見ても見た目通りの子供なんだけど、あれがたぶん、一番彼女らしい姿なんだろうなって改めて思う。


 あとは、と……。


『ロシュアネス、ひとまず元凶は捕まえたよ。江戸城のほうに【アイソレーション】で完全秘密会議できる体勢整えといてくれる? 人手足りなかったらティルガナも動員していいから』

『仰せのままに』


 ふう……これで各所に一通りの対処はできる……かな?


 問題は……状況をどう説明するかだなあ。老中たちへの説明はまだいいんだけど……たぶん今回一番の当事者は、慶福君だよなあ。

 彼へどう説明すればいいか……。いくら聡明な子とはいえ、彼はやっぱりまだ幼いからなあ……。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


思い通りにことが運ぶのは1話が限界のようです。

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