第百十七話 新メンバー追加
「マスター、サブマスター。ようこそいらっしゃいました」
ダンジョンの一室、あの蛇のために用意した個室に入ると、ネイシュがよどみない動作で頭を下げてくる。種族が種族だけに、顔に表情はあんまりないけどね。
「ネイシュ、お疲れ様。あの蛇が意識を取り戻したって聞いてね、来てみたんだ」
彼女に話しかけながら、楽にするよう手振りで示す。
一方で、かよちゃんは居心地が悪そうにあいまいにほほ笑むにとどまってる。相変わらずこういうやり取りが苦手みたいだね。
「はい。こちらに……」
それはともかく、ネイシュに示されたのは部屋の奥のほう。ソファーの上だった。
そこに、例の蛇がいた。ぴくりとも動かず、ただじっとしている。ソファーの後ろには、八坂の神様にもらった白い大きな鱗がインテリアみたく立てかけられてた。
間近でまじまじと見るのは、なんだかんだで初めてになるっけか。
全長は大体、4~5尺(大雑把に約1メートル半程度)くらいかな? ベラルモースの蛇と比べると、やっぱり太さや長さはさほどでもない。
ただ、憑依の影響で上半身に当たる部分が少しだけ人間のような形状に変形している。
これがラミアみたいな完全な人間の上半身なら、もう少し印象もいいんだろうけどねえ……。
人間みたいな、とは言うものの、今まで何回か言ってきた通り人間とは程遠い。九尾の欠片が憑依してた時はもう少し人っぽかったけど、今はもうホントに、人っぽい何かってだけだ。腕らしきものが生えかかってるかな、って感じ?
影響はそれだけじゃない。上半身だけ、蛇って言うには明らかに大きい。人間に比べれば小さいんだけどね。上半身と下半身の大きさが、全然かみ合ってないんだよね。
顔の部分も、ほとんど蛇だ。その顔も、普通の蛇と比べればかなり大きいだろう。
ベラルモースでも、こんな奇妙な姿の蛇はいない。
そんな奇妙な身体になってしまってる蛇だけど、九尾の欠片に憑依されていた時と違って全身が白くなっている。
こいつを回収した時はあんまり深くは考えなかったけど、白い身体に赤い目ってのはアルビノを思わせる。たぶんそうなんじゃないかな、これ。
それが憑依時は違う色になってた理由はもう、今となっては探りようがないけど……何かしらの理由で九尾の一部はその外見をわざと隠してたのかもしれない。
白蛇って目立つし、確か縁起物扱いされるから、人目を避けるために……くらいしか理由は思いつかないけどね。
「……改めて見ると、すごくこう……なんと言いますか……不気味、ですよね……」
「そうだね……言っちゃ悪いけど……。九尾の欠片にとって、本当にただの器でしかなかったんだろうなあ」
こいつにとってみれば、災難でしかないだろうね。
いっそ餌として食い殺されたほうが、気は楽だったかもしれない。まあ、憑依されてる間の記憶があるなら、だけど。
どっちにしても、今の状態でこの蛇が自然界で生きていくのは難しいだろう。
……と、一通り観察が終わったところで、【鑑定】してみようか。
*************************************************
個体名:なし
種族:アオダイショウ
性別:女
職業:なし
状態:衰弱(盲目 聾)
Lv:190/20
生命力:88/461
魔力:0/112(貯蓄:0)
攻撃力:79
防御力:55
構築力:198
精神力:215
器用:154
敏捷力:39
属性1:闇
スキル
警戒Lv3 奇襲Lv2 貯蓄Lv1
気配察知Lv1 気配遮断Lv3 魔力遮断Lv2 魔力節約Lv1 熱源察知Lv2
精神耐性Lv4 耐飢餓Lv2 耐寒Lv1
潜伏Lv4
称号:アルビノ
大食らい
残滓
限界を超えし者
*************************************************
案の定、典型的な憑依の後遺症が出てる。
……長時間、あるいは肉体や精神に多大な影響を及ぼすほどの激しい憑依をされると、器になった者には【残滓】っていう称号がつく。これはプラスとマイナス、2つの効果を及ぼす称号だ。
プラス要素は、ステータスの引き継ぎ。憑依してた存在のスキルや属性なんかが一部反映されるんだ。だからステータスも、ただの蛇に比べると明らかに高い。これはその影響だ。
レベルがとんでもないことになってるのも一緒だね。憑依してた九尾の欠片がとんでもないレベルなのに元が普通の蛇だから、限界突破しちゃったんだろうな。
ちなみに【限界を超えし者】の効果は、進化した際に残りのレベルが進化先に反映された状態で進化できるってものだ。
そして進化すると、この称号は消えるから効果は一度しか得られない。もし次もそれを狙うなら、何かしらの方法でレベルを限界突破する必要がある。
話を戻そう。
逆に【残滓】のマイナス要素は、ステータスには反映されない部分の悪影響がかなり残ること。身体か精神、あるいは両方。そこに障害を持った状態になってしまった、って言えばわかりやすいかなあ。
この蛇に関して言えば、奇形とも言うべき肉体の変化が顕著な例だろう。こいつはそれに加えて、視力と聴力を完全に失ってるみたいだね。だからまったく動かないんだろう。
けど、これでも軽症なほうだ。重症になると、指一本動かせないとか、完全な心神喪失状態とかになるからね。九尾の欠片との相性は、比較的いいほうだったんだろうな。
ただこれ、厄介なことに、これらが基本の状態で固定されちゃうから、回復魔法で治療することはできないんだよね。病気の後遺症で、脳性まひが残ってる家定君と状況的には似てると言える。
当たり前だけど、憑依した側がどうこうすることもできないから、された側としては本当に災難としか言いようがない。
ただ、何事も例外はある。それはボクみたいに、禁呪が使える人間だ。【存在概念改変】を取得していれば、摂理を捻じ曲げての治療ができる。
「……やっぱ障害が残ってるや」
「治せないのですか?」
「禁呪を使わない限りは無理だね」
「…………」
やってあげて、って視線が飛んできたけど、眷属にする以上はもちろんやるつもりだ。どうせなら、十全に動いてもらいたいからね。
それに、今のボクは進化して最大魔力が劇的に増加しているうえに、進化の影響で最大まで回復している。構築力も増えてるから、恐らく今なら1人でも【存在概念改変】をある程度行使できるだろう。
まあ、それでもきついだろうから、かよちゃんと幟子ちゃん、あるいはどちらかに手伝ってもらうけどね。
そんなわけでかよちゃんには頷きながら、ただその前にやることがあるからと、一歩前に出る。
ボクのその行動に、蛇が怯えた様子でびくりと硬直した。見えも聞こえもしないはずだけど、察知スキルがあるからかちゃんと警戒はできるみたいだ。少し大げさな感じがするのは、怖い化け物に憑依されてたせいかな?
「君の選択肢を、1つ増やしてあげる」
なんて、ちょっとカッコつけてみたけど、蛇にこの言葉が理解できるとは思えない。そもそもこの蛇、今は完全に聴力を失ってる状態なわけだし。
そんなわけで、言いながら【眷属指定】のメニューを開く。開くと同時に、蛇に対して【眷属指定】を実行する。
相手の魂の部分で、ボクからの勧誘に対するはい・いいえの選択肢がこれで出る。魂で理解できてるはずだ。
条件の項目に色々書き加えてあるけど、この辺りのこともわかるようになってる。便利な機能だよね、これ。
ちなみに眷属になることで蛇が得る見返りは、障害の除去と衣食住の確約。ほとんどいつものって言ってもいい。
九尾の欠片に言われたけど、確かに相手有利の破格な扱いかもしれない。
「……イエス。即答か。嬉しいね」
ただやっぱり、野生の動物はこういう点でやりやすい。基本的に悩まない、その場で即断してくれるから時間がかからないんだよね。
まあ、多少の見返りを用意すればすぐ承諾してくれるってのもあるんだけど。そこは動物だからこそ、目の前のものに惹かれるってことかな。
その分強さはお察しだけど。
さてそれはともかく……。
「旦那様、どうなさるのですか?」
「とりあえず、八坂の神様がたどったであろう進化のルートを進ませるつもりでいるよ」
「あの神様の……?」
「うん。龍だね」
「あっ、やはりそうだったんですね……!」
かよちゃんがすごく驚いてる。ボクも昨夜調べたからわかるけど、龍ってのは時には信仰の対象にもなるすごい存在だから無理もない。
八坂の神様みたいな変異種を狙うのは難しいだろうけど、普通の最上位種でも龍種ってのは他のモンスターよりステータスも高かったから、最悪追えなくっても何も問題はない。
「……ってわけで、こんな感じで、【眷属指定】実行っと」
つらつらと、かよちゃんに説明しつつ操作を完了する。
*************************************************
個体名:アルヴァ
種族:蛟
性別:女
職業:ダンジョンキーパー
状態:普通(盲目 聾)
Lv:170/300
生命力:891/891
魔力:587/587(貯蓄:0)
攻撃力:401
防御力:528
構築力:822
精神力:956
器用:374
敏捷力:205
属性1:闇 属性2:水(New!) 属性3:天(New!) 属性4:土(New!)
スキル
逆鱗Lv-(New!)
警戒Lv4(Up!) 奇襲Lv3(Up!) 貯蓄Lv2(Up!) 威圧Lv1(New!) 念話Lv1(New!) 堅守Lv1(New!) 神託Lv1(New!) 変化Lv1(New!)
神術Lv1(New!)
気配察知Lv2(Up!) 気配遮断Lv4(Up!) 魔力遮断Lv3(Up!) 魔力節約Lv2(Up!) 熱源察知Lv3(Up!) 土中機動Lv1(New!)
精神耐性Lv5(Up!) 耐飢餓Lv3(Up!) 耐寒Lv2(Up!) 生命力自動回復・微Lv5(New!) 魔力自動回復・小Lv1(New!) 物理抵抗・微Lv5(New!) 魔法抵抗・微Lv5(New!)
潜伏Lv5(Up!) 拘束Lv1(New!) 日本語Lv3(New!) 祈祷Lv1(New!) 祭事Lv1(New!) 奉納Lv1(New!)
称号:アルビノ
大食らい
残滓
八坂刀売命の神使(New!)
クインの眷属(New!)
*************************************************
【蛟】
テラリア世界の地球産スネーク種固有系統の中位種。
水を住処とし、清流の中で時を経たスネーク種が進化する。
時に信仰をも集める龍種の幼体だが、まだその実力は成体には遠く及ばない。
モンスター系統としては成長上限が高く、レベル上限が300となっている。
テラリア世界のバージョンアップに伴い、現在は自然発生しないように調整されている。
進化条件:水属性の所持 もしくは スキル【水中機動】のレベルが3以上
*************************************************
…………。
…………、はあっ!?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
クインを驚かせる出来事はまだまだ続きます。