第百十六話 【始祖】について
待って待って、なんでその称号得ちゃったかなあ!?
って思ったけど、あれか。地球的にはオリジンセイバアルラウネって存在は、世界で最初に発生したってことなのか。
確か【始祖】って、その世界で最初に発生した個体か、絶滅後最初に発生した個体が得る称号だったはず。
ってことは、ダンジョン内はベラルモースのシステムで動いてるけど、世界による情報のカウントは地球のそれが利用されてるってことなのかな。
……待てよ? だとしたら、ティルガナのウィッチ、ロシュアネスのハイエレメントやネイシュのバイオロイド、ウェルベスのノーブルエルフなんかも、この世界的には初めてなんじゃ?
ジュイたちこの世界固有の種族で【始祖】がつかなかったのは、まだ昔の時代から今まで生き続けている個体がいるのが、調べがついてるけど……。
エレメントだのなんだのは、この世界じゃ初めてだと思うんだけど……なんで?
うん……わかんないな。ここはやっぱり、調べてみるしかないだろう。
それじゃ早速、【真理の扉】を使いまして……。
えーっと、何にアクセスしようか。世界によるカウント数を調べればいいかな。
「この中でさらに『フェアリー』とかそういうので検索だな……」
そうして調べてみた結果。
フェアリー、エレメント、バイオロイド、エルフ、すべての種族において「生存者各1」って出てくる! つまりうちのメンバー以外に該当者はいないってわけだね!
そりゃそうだ! この世界にそんなものいないはずだもの! やっぱりおかしい!
なんでだ? なんでボクに【始祖】がついた? 他にそれらしい要素……って、あっ。
「……『オリジン』セイバアルラウネだからか……?」
わからなくはない。
となると、やっぱり地球からは、一応最初に発生した個体とみなされてる、のかな?
通常、ベラルモースにはあるけど地球にない生物を作っても、個体数はカウントされても【始祖】はつかない。でも、オリジンの名を冠する種族だけは例外……ってこと?
……なんか、この辺りのことは例外どうこうって言うより、管理システムが同期したことによるバグ(問題が起きてるわけじゃないけど、予期しない現象が起きてるわけだから似たようなものだ)、って言ったほうがよさそうではあるけど……。
検証のためには、ロシュアネスかウェルベスを進化させる必要がありそうだ。彼女たちの種族も、最上位種はオリジンの名を冠する。答えを出すのはそれまで保留だな。
「……【アルラウネ種の頂点】は要するに各種の頂点系称号で、オリジンセイバアルラウネとセットの称号だからこれはいいけど」
しかしまいったな。何がって、かよちゃんも【始祖】の称号を持ってるんだよ。
この称号の効果は、子供が必ずその称号保持者の系統になるってことなんだけど……双方が持ってた場合、どんな子供が生まれてくるんでしょう?
そもそもベラルモースでは、違う種族同士が子供をもうけた場合、両親いずれかの種族に、半々の確率で生まれてくる。【始祖】はその確率を、保持者の種族に100%傾けるんだよ。
まあアルラウネ種は多くの触手系と同じく例外で、ほぼ確実にアルラウネ系の種族になるんだけど、【始祖】の称号はそれを上回るんだよね。
だから今までの状況だと、たぶんボクが種付けをしても、アルラウネ種としての特性はかよちゃんの持つ鬼種としての【始祖】に打ち消されてたと思う。恐らく、アルラウネ種としての性質は何も残さない子供ができたんじゃないかな。
それはそれで、別にかまわないって思ってた。先に言った通りそもそもアルラウネ種が例外なだけで、子供が自分と違う種族ってのはベラルモースでは普通のことだし。
ところがここにきて、ボクにもアルラウネ種としての【始祖】が加わってしまった。しかもその加わった理由は、確定してないけれど「2つの世界管理システムが同期したことによるバグ」という可能性が一番高い。こうなると、どんなことが起こるのやら……。
実はベラルモースの歴史上、【始祖】同士の婚姻、出産は例がなかったりする。神話にある通り、ベラルモースはその歴史が始まるよりも前から存在していた世界が土台になってるからね。
だから、双方が【始祖】持ちの場合どうなるかわからないんだよねえ。どうなるんだろ、ホント?
単純に互いの効果を打ち消し合って、ベラルモースの普通の状況に落ち着いてくれればいいんだけど、万が一のことは覚悟しておかないといけないかもなあ。こればっかりはふたを開けてみないとわからない。
うーん……もしかしたら、ボクは魔法工学者にとって、歴史的な瞬間を目の当たりにできるかもしれない。
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驚愕の夜が明けて、朝。
「わあっ!? だ、旦那様、どうされたんですか!?」
起きてきたかよちゃんが、ボクを見て開口一番そう言った。
何のことかと思って首をひねってると、ボクの花を示される。
「だ、だって旦那様、お身体が光ってますよ! 仏様の後光みたいです!」
「ああ、これ。いや、実は昨夜進化したんだよ」
それからボクは、自身の身に起きたこと、それからオリジンセイバアルラウネという存在について、順を追って説明する。
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【世界樹花精・真祖】
ベラルモース世界産固有のアルラウネ種の最上位種。
百年に一度の周期でのみ咲くと言われる、世界樹の花がモンスターと化した存在。
中でも世界樹が最初に咲かせた花がなった存在と言われ、世界樹と同質の輝きをまとい、空色の美しい花を咲かせる。
すべてのアルラウネ種の頂点に立つ存在であり、膨大な量の魔力を武器にする魔法の化身。
進化条件:称号【花精王の子】の所持 もしくは 称号【花精女王の子】の所持
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「……ってわけでね」
「ははあ……そういえば旦那様は、ご神木のお花の化身でしたね……」
「まーね。光ってる件については、気を付ければ消せるから大丈夫だよ」
言いながら、勝手に光ってる花の部分にちょっと力を入れる。
すると、まさに神々しい光、と言わんばかりの光がすうっと引いていった。
「この状態だと、今までとあんまし変わんないでしょ? 花びらが大きくなって、少し色がついたかなって程度?」
「本当だ」
ちなみにこの光、【光合成】のスキルに反応する。日常の中での太陽光による回復にそのまま加算されるから、ボクの生命力と魔力は数値の上だとなかなか減らないようになってる。
自動回復スキルはあるに越したことはないけど、これのおかげで下手な自動回復スキル持ちよりよほど継戦能力は高い。
ただ気を抜くと光っちゃうから、隠密行動にはまるで向かないけどね。結構派手でさあ。
いやまあ、ダンマスが自ら隠密行動するなよ、って話もあるんだけど。
それはともかく、彼女には話しておきたいことがある。昨日の称号【始祖】の問題だ。
「かよちゃん、あのさ、子供の件なんだけど……」
「はう!? は、はい!?」
かよちゃんはいつまでも初々しくてかわいいなあ。
まあでも、今回は行為に及ぶわけじゃなくて解説して理解を得るだけなんだけど。
「実はかくかくしかじかでさ……」
ともあれ、【始祖】による効果について説明する。かよちゃんは最初赤かったけど、すぐに真顔になってこくこくと内容に耳を傾けてくれた。
秘密にする、っていう選択肢もないわけじゃなかったけど……夫婦の問題だし。こういうことは包み隠さず打ち明けるほうがいいって思ったんだ。
「……そんなわけで、もしかしたらボクたちにまるで似ない子供ができるかもだし、最悪子供そのものができない可能性も出てきたんだ」
「…………」
「だからね、一応覚悟だけはしておいてほしいな、って」
「わかり、ました……」
「ごめんよ、まさかこんなことになるなんて思ってなくって」
「そんな。旦那様が悪いわけじゃないです」
ふるふると首を左右に揺らすかよちゃん。美しい黒髪が、ふわふわと舞う。
「……それに、旦那様と一緒にいたら、いつもびっくりしっぱなしですから……。今更、そんな気にならないですよ。いざとなったら、幟子様もいますし……」
「んんんん……そこで幟子ちゃんが出てくるのがボクとしては不本意ではあるんだけど……。無理に子供を作らなきゃいけないなんてこと、ないと思うよ?」
「旦那様はそうかもしれませんけど……私はやっぱり、お家を残すのは大事だって、思いますから……」
やれやれ、この話になるといつも平行線だ。
ボクが子供をたくさんもうけるのは、良い面と悪い面があって、ボクは悪い面のほうが気になるからあんまりやりすぎないようにしたいんだけどね。
でもなあ、相手がその気だからなあ。どこかで妥協しないといけないんだろうなあ。
「……ま、うん。この話は置いとこう。みんなは?」
「あ、はい。えっと、魔法が使える人たちは、九尾の欠片に魅了された人たちの治療に当たってます」
「……まだやってるの? 昨夜ボクが起きた時、もう始めてたよね?」
「ええ……やっぱり極大格の治療は難しいみたいで……」
「……置き土産まで面倒だなあ、さすがは九尾の狐ってところか……」
普通の魅了なら、術者が死ねば自動で回復するはずなんだけどなあ。名前が一緒だけで別のステータス異常だったりする?
死んでまで苦労させられるなんて、ホント面倒な相手だよ。他の九尾の欠片もそうなのかな……やだなあ。
それにしても、治療とか回復の訓練もしたほうがいいかも? これも後でみんなと相談だね。
「ロシュアネスとウェルベスは?」
「お二人は既にお仕事に行かれましたよ」
あらら。スキル【世界樹種子】のことで2人には意見を出してほしいことがあったんだけどな。
「……あの蛇については?」
「少し前に気絶からも衰弱からも脱したみたいです。今はネイシュさんが面倒を見てます」
「意識は戻ったのか。じゃあ、先にそっちをなんとかしようかな」
「? 先に、ですか?」
「うん……ちょっとみんな……の意見を聞きたいことがまだあるんだ。でも急ぐことじゃないし、みんなから聞きたいことだから、みんなの都合がちょっと悪いなら後でもいいってことで」
「そういうことでしたか」
【世界樹種子】については、ボクが意図してスキルを使わない限りは先に進まないことだ。一度きりの特殊スキルだけど、使わない限りは残り続ける。だから後回しで問題ないのだ。
使えば使っただけボクの得になるから、本音を言えば使いたいけど……ベラルモースだと間違いなく世界規模で影響も出るから、こっちの世界だとなおのこと下手に使えないんだよね。
ってわけで、今は蛇を進化させるほうを優先しちゃいましょう。
「それじゃ、蛇のところに行こうかな。かよちゃん、どうする?」
「えと、じゃあ私もご一緒に……」
「わかったよ」
彼女の言葉に頷いて、ボクは彼女の手を取る。
そうして手を繋いだ状態で、蛇のいる部屋へ向かうのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
前話でクインが気にしていたのはこの称号でした。
ちなみに【世界樹種子】にレベルが設定されていないのは、一度しか使えない固有スキルだからです。
この他、レベルの概念が存在しないスキルもこの段に配置されます。後で出る予定ですが、龍種の【逆鱗】なんかがここに当てはまりますね。