第百十五話 情報整理とクインの進化
久しぶりに泥のように半日以上眠って、深夜。
昨日の一件の情報整理のために、ボクは1人、自室でパソコンに向かっていた。
まず、かねてからの懸案だった、藤田東湖と千葉栄次郎の暗殺については無事成功。ダンジョンを全力で敵視しつつ、集団を形成しかねない人間たちの芽は、事前に摘み取れたと見ていいだろう。
もちろん、色んな人がいるから今後ボクらに反感を抱く層が出てくるのは間違いないだろうけど、現段階で出てこられるのが困るのであって、もうちょっと地盤固めが進んでからなら、さして問題にはならないだろう。
で、それに絡まって問題になったのが、伝説の大妖怪の欠片たちについて。
「本体だった幟子ちゃんは、欠片であることをやめて独立。ボクたちの仲間だ。そして昨日、欠片を1つ倒した。これで残るは2つ」
画面には日本の地図が表示されていて、残る2つの欠片の所在地に光点が表示されている。
1つは萩の街中、1つは美作の山の中だ。
最大の問題は、前者の欠片。早々に魂と相性のいい器を見つけてしまったみたいで、既にだいぶ長州の状況は悪くなっている。
おまけにかなり政治の中枢に近いところにいるみたいで、ボクたちが乗り込んでいけば解決、って段階をとっくに超えちゃってるのが悩みの種だ。
こうなると、幕府の問題でもあるからね。っていうか、ほぼほぼ幕府の問題か。原因となった九尾の狐は、元々この世界の妖怪だし。
目覚めさせた直接の原因はボクだから、見て見ぬふりはしないけど……それでも他国の内部に関わることだから、なんでもかんでもボクたちが勝手にやっていいことにはならないんだよなあ。
にもかかわらず、幕府側に対応を主導させると恐らく大量の犠牲者が出る。この世界の現状では、最上位種の妖怪は絶対に勝てない相手だもの。
かといってボクたちが出ても、被害は出るだろうなあ。
昨日のやつも、追いつめられたら無関係な人たちを盾にした。萩にいる欠片は、そのやり方から言って、あの手のやり方を躊躇しないだろう。昨日は人数が少なかったからどうにかできたけど、あれを主要都市規模でやられたらと思うと……。
「……ってわけで、こいつについては幕府と調整進めるのと、被害をできるだけ抑えるためにボクたちの強化がもうちょっと進んでからのほうがいいよね」
幕府とのすり合わせについては、ロシュアネスに任せる。その辺は、ボクにはたぶんできないし。
「その間に、ボクはもう一つの欠片をどうにかすべきだろうなあ」
後者の欠片は、急いでどうにかしなきゃいけない事態にはなってない。自分の魂が取り憑くのに都合のいい、相性のいい生き物が見つからないみたいで、殺生石の欠片に宿ったままなんだよね。
動向は鳥たちを使って見張らせてるし、不用意に生き物が近くを通らないようそれとなく誘導もさせてる。
明確な行動を起こしてないから相手の性格がよくわからないけど、少なくとも石に憑依した状態なら、今のボクたちでもなんとか対処できると思う。
「昨日のは絶対人に従わない性格、萩にいるのは多分元の九尾の悪い部分。美作にいるやつは、もう少し穏やかな性格だといいなあ……」
そうすれば、もしかしたら強力な仲間として迎え入れられるかもしれないし。
「近いうちに、この欠片には接触しよう。今のところダンジョンや日本の情勢で大きな問題は起きてないし」
うん、と1人で頷く。
次は、神様についてだ。
諏訪湖周辺が神属性の力の集積装置になっていて、そこにかつて神様がいたことは察しがついてたけど、その神様をうっかり起こしてしまったのは本当に想定外だった。
普通、魔法の残滓から魔力を得ることは不可能なんだけど……たぶん、【吸収】かそれに類するスキルを持ってるんだろう。仮死状態なんかでそれが使えるのもありえないから、もう一つ何か工夫なり仕掛けがあったとは思うけど、そこはステータス読めない超格上の神様だからね。とにかく、想定外だったのは間違いない。
そしてそれを受けてざっとだけど調べてみたところ、どうもこの日本国内には、結構な数の神様が今もなお眠りについていることがわかった。
大体はあの八坂の神様みたく、人目につかない場所で仮死状態、ないしは封印状態になってるみたいだけど、土地に縛られる土着神は少なかった。おかげで彼らの具体的な現在地はバラバラだ。
まあそれを調べられるのがボクの強みではあるんだけど、八坂の神様みたく湖の底はかわいいほうで、惑星のかなり核に近いところとか、成層圏近くとか、とんでもないところにいる神様も結構多くってね……。
その辺りの、手出しできないところにいる神様はまあ、いい。手出しできないなら申し訳ないけど、そのままでいてもらうから。
問題は、手の出せるところにいる神様だ。仮に彼らが全員、八坂の神様みたいに魔力を入手できるとなると、ボクたちの活動に引っ張られて復活しかねない。そうすると、面倒なことになりかねないんだよな……。
「考えられる問題として、神様が人間の政治とかに口出しして、情勢がしっちゃかめっちゃかになることか」
八坂の神様は神様ぽくなかったっていうか、神だろうと世界の変化には従うべきみたいなスタンスが見えた。全員がああいうのだったらいいんだけど、とてもそうは思えない。
最悪なのは、誰かが何かの拍子で機嫌を損ねて、神様が暴れることだ。信仰の数に応じてステータスが底上げされる神様相手じゃ、ボクはおろか幟子ちゃんすら戦いにならないんだよね……。
「ってわけで、さわらぬ神に祟りなしだね。この世界らしい言い回しだけど、その通りなんだよなあ」
やばそうな神様がいるところには、極力近づかないようにするしかないよね。
で、残る問題は……。
「……これは絶対称号の効果だよなあ……」
つぶやきながら、ダンジョンメニューを開く。そのまま【フロアクリエイト】へ。
ダンジョンそのものの操作、設計なんかを行う機能だけど。この中に、知らないうちに「New!」ってあったんだよね……。
で、開いてみたらこれだよ。
「諏訪神社の各種施設が設置できるようになってる……」
まさかのダンジョン内オブジェクトで、神社。ベラルモースのシステムと地球のシステムが、一体どんな噛みあい方をしたのやらって感じだ。
諏訪神社は、諏訪湖周辺の魔力集積装置としての諏訪大社を総本山とした、末端の神殿ってところだ。全国各地にこの系列の神社があって、それを通じて八坂の神様への信仰に繋がってる。
うちに今ある神社は、都度住人に作ってもらったわけだけど……タップ一つで神社ができるのは便利だなあ。既存の神社もできるようになんないかな。
で、この他称号のダンジョンへの効果としては、【モンスタークリエイト】にもいくつか影響があった。
「スネーク種全モンスターの製作費用がすごい減ってる……」
最上位種すら1割引きになってるんだよ、これ。下位種なんか、軒並み半額だよ半額。
これは素直に嬉しい効果ではある。
称号に【スネーク種の頂点】ってあったし、八坂の神様は蛇の神様なんだろうね。その影響ってことだろう。
そしてさらに、この世界の固有種らしきモンスターがいくつも【モンスタークリエイト】可能になってる。
中でも目につくのは、恐らく八坂の神様の進化系譜と思われる龍種だ。
調べた感じ、やっぱりドラゴンに近い感じだけど見た目は全然違う。おまけにどう見ても、どれもこれも強いんだよなあ
これらを今、ボクは格安で【モンスタークリエイト】できるんだなあと思うと、逆に恐ろしいよ。
ちなみにこの龍種とやらは、進化の系統が複数あって、超上位種のところに青竜、白竜、赤竜、黒竜、応竜と色々あったし、最上位種のところにも黄龍、八岐大蛇とか色々あって、マニアにはたまらないと思う。
八坂の神様は、その固有な最上位種である御佐久神だ。進化条件がさらに厳しい種だったから、ここを目指してもたどり着くのは相当な時間がいるだろうけどね。
あ、あと、ちなみついでに。
八坂の神様はアルビノ持ちだったけど、この系統における白竜ってのは、アルビノ持ちじゃないとなれないってわけじゃないみたい。
ただ、彼女についてはどうも【習合体】の称号にあるように、複数の神様が融合して生まれた存在っぽくて、その詳細は複雑かつ多すぎて、とても短時間で調べられそうになかった。
で、だ。
「こないだ九尾の欠片が使ってて、うちで引き取ったあの蛇……この系統で進化させてこう」
せっかく値段も下がってるし、強そうなモンスター作れるようになったし。
説明文から察するに、たぶん水中も空中も動けるオールマイティな存在になってくれると思うんだ。
ダンジョン内に水を多用したフロアを作る時の参考になるだろうし、単純に水中で活躍できるメンバーがいるに越したことはないとも思うしさ。
「あの蛇はまだ気絶してたから、実際に【眷属指定】するのはもう少しだけ後かな。今から楽しみだ」
さて残る後処理は……。
「ボク自身についてだな」
あの戦いで、ボクはセイバアルラウネとしてのレベル上限に達した。つまり、進化が可能になったってことだ。
最上位種への進化。まさかこんなに早く達成できるとは思ってなかったけど、それだけ九尾の狐っていう存在が強すぎたってことだね。
進化すると、ボクはオリジンセイバアルラウネになる。これになると同時に世界樹の種が手に入れられるようになるから、その処遇も考えなきゃだけど、それは進化してから考えればいい。
ってわけで!
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個体名:クイン
種族:世界樹花精・真祖
性別:両
職業:ダンジョンマスター
状態:通常
Lv:1
生命力:21005/21005
魔力:252918/252918
攻撃力:5377
防御力:6002
構築力:12338
精神力:11972
器用:7831
敏捷力:4191
属性1:木 属性2:土 属性3:時空 属性4:光 属性5:天(New!)
スキル
世界樹種子Lv-(New!)
触手Lv8 粘液Lv8 毒Lv8 吸収Lv6 寄生Lv5 堅守Lv6 誘引Lv6 搾取Lv5 種子Lv5 呪歌Lv4 魅了Lv6 祝福Lv4(Up!) 性技Lv7 房中術Lv7 魔法乗算Lv3 霊能Lv1(New!) 神霊変化Lv1(New!)
妖術Lv5
(水魔法Lv5 風魔法Lv5 土魔法Lv7 氷魔法Lv3 木魔法Lv7 光魔法Lv6 雷魔法Lv3 闇魔法Lv2 天魔法Lv5(Up!) 時空魔法Lv8) 禁呪Lv7
夜目Lv6 気配察知Lv7 気配遮断Lv7 魔力察知Lv10EX 魔力遮断Lv10EX 魔力譲渡Lv5 並列思考Lv5 魔力節約Lv2(Up!)
毒無効Lv1 耐混乱Lv6 風耐性Lv4 氷耐性Lv3 闇耐性Lv5 耐継続ダメージLv2 光吸収Lv1(New!)
光合成・大Lv3(Up!) 物理抵抗・小Lv5 魔法抵抗・中Lv7 弾性・小Lv3(Up!)
日本語Lv5 英語Lv3 料理Lv3 歌唱Lv5 造園Lv4 魔法工学Lv7 中型魔導車Lv5 小型飛法船Lv4
称号:花精女王の子
時空精霊の子
修士
真理を垣間見た者
世界を超えし者
ダンジョン【江戸前ダンジョン】の主
木下・かよの婚姻契約者
救済者
八坂刀売命の加護
始祖(New!)
アルラウネ種の頂点(New!)
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……あっれえぇぇー!?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
地球の存在と接触するたびに何かが起こるのはもはやお約束。