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江戸前ダンジョン繁盛記!  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
1855年~1856年 拡張
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第百十四話 神との邂逅

「すまないが、花魄かはくの精霊よ。今はいかなる皇の御世であろうか?」


 唖然としたままのボクたちに構うことなく、それは言う。

 その言葉に、なんとか我に返ったボクはあたふたと藤乃ちゃんに助けを求める。


「藤乃ちゃん藤乃ちゃん、すめらぎって何?」

「……はっ!? あ、ああーっと、は、白龍様、今は統仁おさひといみなとされます第121代(孝明天皇のこと)の御世にございます!」


 がばっとその場に跪いた藤乃ちゃんが、慌てた様子を隠すことなく言い上げる。


 ……待って、色々待って。

 ハクリュー? ナニソレ、ホワイトドラゴンってこと? とてもそうは見えないんだけど……もしかして、この世界の固有種だろうか?


 そう思ったボクは、危険だとは思うけど、相手を【鑑定】することにした。


《鑑定を遮断されました。情報を読み込めません》


 ひいいいいぃぃぃぃぃ!?


 一部失敗したことはあるし、一部読み込めなかったことはあるけど、情報を一切読み込めなかったのは初めてだ! これとんでもない実力差があるぞ! 次元が違うレベルだ!


 初めて幟子たかこちゃんに会った時以上の、とんでもない警鐘が脳内でガンガン鳴り響く!

 やばい、やばい、やばい!


 これは、この相手は、勝てるかどうかってレベルじゃなくて、生きて帰れるかどうかってレベルの相手だ!


「そう怯えずともよい。を害するつもりはないのだから」

「は、はあ……」

「むしろ感謝している。に力を分けてくれたのは、であろう?」

「え……ええぇーっと、それは、その、偶然であって、ボクたちは特に何もしてないといいますか……」

「ふむ……は謙虚なのだな」


 いや違いますからね。謙虚にならざるを得ない存在に語りかけられてるからですからね!

 その辺りをどうも理解してないっぽいこの白いお人(?)は、それでも納得してないっぽいので、仕方なくこれまでの経緯を説明することに。


 ついでとばかりにあれこれ聞かれるから、今の日本の状況なんかも(主に藤乃ちゃんと幟子ちゃんが)説明したけど……ボクたち帰りたいんだけど……。朝もどんどん近づいてきてるし、いい加減まずいんだけど……。

 でもなあ……こんなとんでもない存在の前から立ち去るのもな……。それで機嫌損ねて暴れられたら、どうにもならないし……。


「……そうか。ではが眠りに着いてから、1200年近い時が流れたのだな」

「ほほー、では妾がまだ大陸にいたころかのー。やはり各地の神格は、力を回復する手段を断たれたことでみな眠りに着いておるんかのー?」


 そしてそんな中で、相手に普通に接してる幟子ちゃんはやっぱただ者じゃない。


 っていうか、おかしいなあ。

 彼女は妖怪で、属性も妖だ。これは前回言ったけど、神属性とは相反する属性で相性が悪いはずなのに。おまけにたぶん、っていうか確実に、彼女より格上だと思うんだけどな……。

 なんでだろ? 気になる。気になるけど、さすがのボクでも今それを言う勇気はない。幟子ちゃんの図太さを見習いたいところだ。


 彼女があまりにおびえないし、あまりに畏まらないから、傍目には雑談してる雰囲気ではあるけど……化け物二人の対談ってみると、恐ろしさしかない。


「ふむ……ありがとう、大体のことがわかった」

「役に立てたなら、幸いなのじゃよー」

「どうやらかつてに比べて、術やまじないなどへの想いは相当薄れつつあるようだ。人口も相当増えているようだし、のような神が軽々に顔を出してよい時代ではなさそうだな。

 眠りの内にあってもなお信仰は絶えることなく届いていたから、何かしらの形で報いたいとは思っていたが……仕方ないな。時代が変われば人と神の付き合い方も変わるのが世の常だ」


 ああ……やっぱり神様なのね、この人……。

 でもまあ、聞き分けのいい神様というか、話の分かる神様みたいで一安心ではあるかなあ。


「ところで、花魄の精霊よ」

「あ、はい。なんでしょう」

「偶然とはいえ、を目覚めさせてくれたにこれ以上を求めるのは図々しいとわかってはいるのだが、一つ頼まれてはくれまいか」

「ええまあ、よっぽどじゃなければ、対応しますが」

「うむ。の術の残滓を吸収することで、はなんとかこうして意識を呼び起こすことができた。しかし、このままではいずれその力は枯渇し、近いうちにでもまた眠りに着かねばならないだろう。それはやはり、できるなら避けたいのだ。月に1度程度で良い、力を分けてはくれないだろうか」


 ああうん……そんなような気はしてた……。

 この神様も、創造神様のよくわかんない突然な管理システムアップデートのあおりを食らって、混乱の渦中に叩き込まれた被害者の一人なんだろう。

 恐らく、【魔力自動回復】のスキルがないんだろうね。この辺りは、幟子ちゃんと似たような事情だと思う。


 神様すら魔力枯渇のあおりを受けて、仮死状態なりなんなりで生きながらえるしかなかったってのは、末恐ろしい話だ。当時の混乱がどれほどのものだったか、うかがえるってものだね。

 ホント、この世界の創造神って何を考えてあんなことしたのやら……。


 まあでも、それはそれとして。


「……うーん……ボクも忙しいので、そこまで頻繁に来るのはちょっと……。それに、神様を満たせるだけの魔力は確保できる自信もないですし……」


 できなくはないんだけど、正直に言えばあんまりやりたくないのが本音だ。


 確かにボクたちはこの世界にいても自動で魔力を回復できるけど、常に満タンでいられるわけじゃない。

 そもそも、ボクたちの持ってる魔力はを全部合わせても、たぶんこの神様にとっては微々たる量にしかならないだろう。そんな大量の魔力の譲渡は、できれば御免こうむるんだよね。


 自然エネルギーを変換する方向でもいいかもだけど、この神様を賄い続ける魔力となると、この辺一帯の自然エネルギーを軒並み吸い尽くして不毛の地にしかねないんだよなあ。


【魔力自動回復】のスキルをつけてあげられればいいんだけど、そのためにはボクの眷属になってもらう必要がある。神様相手にそれは、いくらなんでも不遜すぎるだろうし……。


「そうか……いや、無理を言ってすまなかった。誰でも貴重なものだ、最初から期待はしていなかったよ」

「そ、そうですか……」


 ほっ……。

 このままどんな無茶ぶりをされるかって、戦々恐々だったんだよ。ホント、話の分かる神様でありがたいや。


「だが、何か状況を打破する切っ掛けなどがあれば、知らせてほしい。些細なことでも構わないから」

「あ、はい、それくらいなら……」

「すまない、恩に着る」


 ぺこりと頭を下げてくる神様。まさかボクの人生で、神様に頭下げられる日が来るなんて、思ってもみなかったよ。


「これは礼と言うには足りないかもしれないが……受け取ってくれ」


 そしてわざわざ物理的なお礼までしてくるとか! この神様、随分と謙虚だなあ!

 普通神様って、下賜するみたいな物の与え方はしても、礼物を渡すなんて聞かないぞ。


 そして普通なら、ボクももらえるものならってもらうんだけど、差し出されたのがボクの全身くらいある、巨大な純白の鱗だからさてどうしたもんか。

 嬉しいけど、正直持て余しそうな予感がひしひしと!


 でも、これを断るのはさすがにまずいよね……。


「あ、ありがたく頂戴します」


 と受け取ったのはいいけど……重い!


《称号【八坂刀売命やさかとめのみことの加護】を獲得しました》


 ……!?


 いや、え? は……!?

 ま、待って、待って待って、ものすごく待って!?


 何こんな簡単に加護とか与えちゃってるのこの神様!?

 いや、ありがたいけどさ!? ありがたいけど、大丈夫!? ただの偶然でちょっと起こしただけの通りすがりにそんなことして、ホントに大丈夫!?


「ふっ、随分とうろたえているな。それほど意外だったか? だがこれでも、打算も含めてのことだ。気にするな」

「えあ!? は、はい……」

「さて、でははそろそろ眠りに戻るとしよう。せっかく僥倖で得られた力だ、無駄遣いはできぬ」

「あ、はい……」

はいつでもこの湖にいる。と言うよりは、離れられぬと言うほうが正しいが。ともあれ、近くに来たら寄ってくれると嬉しい。歓迎するぞ」

「は、はい……その時はよろしくお願いします……」

「うむ。では、さらばだ」


 短く別れを告げると、神様は静かに湖の底へと還っていった。

 その姿が魔力の燐光に包まれ、空間からほどけるようにして消えていくのを確認しつつ、ボクは加護を得た今ならもしかして、と思って【鑑定】をしてみた。


****************************************************


個体名:八坂刀売命やさかとめのみこと

種族:「%ャ久Z

性別:女

職業:祭神

状態:魔力枯渇

Lv:1022

称号:アルビノ

   大食らい

   ジャイアントキリング

   四象神

   信仰が集う者

   瑞獣

   守護神

   千年蛇身精

   スネーク種の頂点

   禅譲を受けし者

   土着神

   木神

   雷神

   氷神

   習合体

   祖神

   逃亡者

   諏訪大明神


****************************************************


 強すぎ!!

 ステータス見なくってもわかる。このレベルに称号の数からして、もし神様が万全だったら、ボクが100人束になってもたぶん勝てない!


 で、でもまあ……これだけの神様から加護をもらえたってことは、ボク自身相当な強化にはなったよね……。


 久々の文字化けも気になるところかな……確実にこの世界の固有の種族だろうね。

 それに、後で【真理の扉】を使って調べるにしても、きっかけになる単語がだいぶ手に入ったし……神様……えーっと、ヤサカ……トメノ……ミコト? 様のことも調べられそうだ。


 ただ、今回一番の収穫は、この世界の各地には、魔力さえ差し出せば色んな神様が復活できる状態で眠ってるっぽい、って事実を知れたことだな……。

 日本だけでも、かなりの数の神話があって、かなりの数の神格が存在してたはずだ。それらがすべて生き残ってるとは限らないけど、全滅してるとは思えない。

 今後は、ダンジョンの外で迂闊に魔法をぶちかますのはやめたほうがいいかもしれないね……。それがわかっただけでも、あの神様に会った意味はあった……と、思いたい。


 そうやって無理やり自分を納得させたところで、ボクは深いため息と共に仲間に振り返る。


「……みんな……それじゃ帰ろうか……」

「おー! なのじゃよー!」


 そこには、それなりの時間、強烈な神様の気配に中てられたせいで、完全にグロッキーになってる仲間の姿が。

 唯一無事なのは幟子ちゃんだけだ。いやホント、なんで彼女そんな元気なの? いつの間にか神属性ついてたりするの?


 ……まあいいや、その辺も含めて後回しだ。

 今日はもう、帰ろう! そして休もう! 疲れた!!



 ちなみにこの日、諏訪湖周辺で無数の神様目撃談があっちこっちで出てきたのは、ボクのせいじゃないから。やたら話しこんでくれた神様のせいだから!

 なんか、吉兆だとか凶兆だとか、色んなことがあることないことまことしやかに語られたらしいけど、そんなことないから!


 でもきっと、こういうのがあの辺の地域の民話とかになっていくんだろうな……。

 そんでもって、何百年と経ったらそれが神話とかになっていくんだろうね……。

 実態は、ほとんど中身のない会話でしかなかったんだけどね……。



ここまで読んでいただきありがとうございます。


諏訪湖の話が出たあたりでこの辺りの神様について感想が来てましたが、ほぼ正解でした。

本作における地球の主だった神様は、この八坂様の「習合体」のように、複数の神が習合したものである、という設定です。

今回登場した八坂の神様で言えば、諏訪周辺の神話に関係した神話が入り混じってる感じですね。某STGで言えば、ガンキャノンとケロちゃんがフュージョンしてる的な解釈をしていただければ。


ちなみに……八坂の神様のステータスは、万全なら全部300万前後です。クインどころか幟子ですら勝てません。

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