第百十二話 総力戦
《そうか……あやつめ、【霊珠】を使いおったな!?》
《何!? それは確か、自分の分身作るやつだろう!? 最大魔力と同量の魔力を使う!》
《えーっ!?》
ただの分身じゃなくって、自律思考、稼働する……まさにもう一人の自分とでも言うべき存在を作り上げる、これまた禁呪レベルのとんでもない妖術だ。
……ん? これは仙術でもあるんだっけ……いや細かいことはいいや。
ともかく、この魔法が使われたなら現状も理解できる。つまり、さっきボクが倒したのは限りなく本物に近い偽物だったってことだね。
ここまで【禁鞭】のような大魔法を何度も使っていたのに、それでもなおこんなコストの高い魔法を容赦なく使うか……思い切りの良さは、ある意味幟子ちゃんに似てるって言えるのかな。
でも、いつどこで入れ替わったんだろう? あるいは最初から入れ替わっていなかったか……むむむ、だめだ頭が回んない。【可能性創造】の反動がまだ抜けてないんだなこれ。
《主、回復と回避に専念しろ! 呆けている場合じゃないぞ!》
《う、うん、そうだね!》
当たり前だけど、【シンキングタイム】なしで考えすぎるのは自殺行為だね! ただでさえ今考えまとまんないのにね!
ほら、眼前に刀が迫ってる!
《旦那様、まずは治療を!》
《したいけど、余裕ない……お願いしてもいいかな……!?》
《は、はい! 一度魔法の補助を止めますね!》
念話するあんまり余裕もない。今もまた、せっかく回復したばかりの触腕が一本持っていかれた。
痛いよ! くっそー、明らかに相手がさっきまでより強いぞ。
まあそれも当然で、何せこいつ、例の千葉栄次郎なんだよね……。
見た目がものすごく変わってるからわかんないけど、情報を読む【鑑定】で読んだからわかる。たぶん、【借体形成】で色々改造されたんだろう。よくわかんないけど、それができるまでの時間稼ぎがさっきまでの蛇……?
いや、それはひとまず置いとくとして……でも見た目が変わっても、栄次郎の持っていたスキルは失われていない。剣士としては相当上位にいる相手……しかもそこに九尾の欠片が取り憑いてるとか、怖すぎる。
《しかしぬしさま、あの人間はどう見ても妾たちの器には相応しくないのじゃ。恐らく、勝つために相性を無視して強い器を引っ張り出してきたんじゃろう》
《なるほど、周りに器にできそうな生き物いっぱいいるしね》
餌として保管されていた、封印状態の生き物たち。その中で、一番強いと見た人間を選んだ。それが栄次郎だったんだろう。
でも幟子ちゃんの見立てが正しいなら、相手の憑依は長くは続かないはず。ボク自身も魔力の残りも3分の1切ってて【可能性創造】は使えないし、ここはいっそ【ハイド】で粘るか……。
そう決めたあたりで、思考のもやが晴れた。かよちゃんが回復してくれたんだろう。ありがたい。
「おっと、そうはさせませんよ」
なんとか時間を稼ごうとしていたボクに、相手が言った。
また何をするつもりだと思ってたら、何故かボクから離れていく。
逃げるのかなと思ったけど、そんなわけないよなとも思う。実際それは正しくて、相手はなんと周囲に封印状態で吊り下げられていた生き物たちの封印を一斉に解除したのだ。
「な……!?」
「この状態で、その身はどう戦いますか? ああ、もちろん隠れたら一人ずつ殺します」
「……これだから悪者はずるいんだよなあ。人質なんて取られたら、従わざるを得ないじゃないか……」
手段を選ばないってのは、悪役の特権だよね……。
……でもまあ、この可能性は考えてなかったわけじゃない。だからこそ、大人数で押しかけながらもボク1人に見せかけてたんだし。
けど、どうやらこれで終わりじゃないらしい。相手は意地の悪い笑みを見せて、狐の尻尾を指揮棒のように振った。
「ほほほ、勝者こそ正義。そのためには手段など選びませんよ。さて、今のままでも効果があるでしょうが、この身はその身を侮っておりません。最後に仕上げをいたしましょう」
「この状態で何を……」
「【傾世元禳】」
《んな――!?》
ただならぬオーラを全身から放った相手。その意味するところがわからずボクは首を傾げるけど、ボクの影の中で幟子ちゃんが絶句した。
これも【禁鞭】と一緒で、消費が激しいから使われはしないだろうってことで名前と大まかな効果しか聞いてなかった魔法だけど……そんなにやばいの? ただの魅了魔法じゃ……。
なんて思ったけど、すぐにそのやばさがわかった。封印が解けて、状況が分からず混乱していた人々(動物も含む)の目つきが一斉に変わり、ボクに向かって敵意をむき出しにしたのだ。その目は比喩でもなんでもなく怪しい光を放っていて、操られているのは一目瞭然だ。
効果出るの早すぎでしょ! 普通どんだけ早くても数秒はタイムラグあるはずなのに、一瞬ってどういうことさ!
おまけにちらっと【鑑定】してみれば、全員が治療困難なレベルの魅了状態に陥っている。何、「魅了(極大)」って? 実際に見るの初めてなんだけど!?
あーもう、最後の仕上げってそう言う意味ね……!
《幟子よ……いくらなんでもあれは凶悪すぎるだろう……》
《うむ……妾もそう思う……。あれこそかつての妾が、ただ1人で10万もの大軍を操って見せた術での……?》
《うわあ……》
《性質悪っ! なるほどここまでやられたら確かに、伝説の大妖怪だよ!》
ツッコむ以外にリアクションが思い浮かばない悪辣さだ。かよちゃんなんてドン引きだよ!
「関係ない人を巻き込んで、その人たちにボクを攻撃させるなんて……」
「ほほほ、その身にはこれが一番効果的でしょう? さて、その状態でどこまで持ちますか?」
殺到する、操られた人たち。
くそっ、ダンジョン内の侵入者なら容赦なく殺すけど、さすがに何の罪もない人を殺すわけには……いかないと思う頃には、眼前に刀が迫っている!
もー! 栄次郎のスペック高すぎ! 狐もその力うまいこと引き出しすぎ!
逃げるしかないじゃん! もちろん考えながらの逃げるだけど! 主神様も最後に残る戦法は、いつも「逃げる」だけだって言ってたはずだし!
《ユヴィル、幟子ちゃん、なんとかなんない!?》
《【太極図】を使う以外に、この人数を一気に即解除することはできんと思う……》
《ナニソレ初めて聞くけどすごそう! それを使うには!?》
《世界で一人しか使えん魔法じゃから説明を省いた魔法での……? もちろん妾も使えん……》
《ダメじゃん!?》
《こちらからの解除が不可能となると、効果が切れるまで拘束するか拿捕するかしかない……か?》
《そういうことになるのぅ……》
迫りくる魔法攻撃と斬撃を、使えるすべての防御魔法を駆使して、ユヴィルのサポートも受けつつかろうじて避けながら、亜空間の中を逃げ回る。
どうやら解決策は少ないみたいだ。ってなると、使いどころは少し想定と違うけど、やっぱりみんなに出てもらうしかないか!
ただでさえ強い人間の栄次郎に、とんでもなく強い化け物が取り憑いてる以上不安は残るけど……こうなったからにはボク1人じゃ絶対無理だ!
「【ハイドアンドシーク】コンボ解除!」
仲間を隠し続けてきた魔法を、一斉に解除する。
その瞬間、ボクの影からジュイ、ユヴィル、幟子ちゃん、ラケリーナ、ネイシュが飛び出す。さらに、相手の後方からティルガナ、藤乃ちゃん、フェリパが出現。
……かよちゃんだけはそのまま潜み続けてもらう。引き続きボクの魔法的補佐に専念してもらうつもりだから、外に出すのは危険過ぎる。
「……!?」
変わりすぎた栄次郎の顔をゆがませて、相手が驚く。その視線は、ボクではなく幟子ちゃんに向けられていた。
まあ、気づくよね。そりゃあ。
「その身は……まさか……そうか、そういうことですか……!」
「どういうことかはわからんが、ぬしさまには指一本とて触れさせんのじゃよ!」
すぐさま二人の狐がぶつかり合う。
その直前、前へ飛び出した幟子ちゃんがボクに【紫綬羽衣】をかけていった。うん、ナイスアシスト。この防御魔法の安心感たるや!
この隙に……。
「みんな、周りの魅了された生き物を拘束もしくは封印して! 気絶でもいい! 殺すのはホント最悪の場合だけね!」
ボクの声に、一斉に了解の返事が来る。それと同時に、全員が派手に動き始めた。
ジュイは激しく吼え、【神威】(【裂帛】と【威圧】を複合した上位スキル)を放ちながら縦横無尽に駆け回り、主に動物を気絶させて行っている。まさに神速って感じだ。
あと些細なことかもだけど、手加減できるようになったんだね。なんていうか、彼の成長を感じる。
ジュイと同じような役回りに徹してるのは、藤乃ちゃんだ。ただし彼女が相手にしてるのは、主に人間。適材適所だね。天狗だからか、速度はジュイに勝るとも劣らない。おまけに彼女は空が飛べるから、魅了状態とはいえ敵にとっては地獄だろう。
うちのスピードアタッカー2人で、大体の穴を埋めてしまえるんじゃないかな。2人がタッグを組んだら、進化が禁じられてる今のこの世界じゃ、誰もついてこれないだろう。
彼らの活躍の後ろの方で、魔法によって拘束や封印を施してるのはティルガナとラケリーナだ。方や時空魔法の使い手、方や妖術の使い手。見た目は地味めな2人だけど、手加減した状態じゃ一気に大勢を倒せないジュイや藤乃ちゃんより撃破数は絶対多いと思う。大勢と戦う時は、やっぱり魔法使いのほうが有利だよね。
ただ、当たり前だけど近づかれたらヤバいわけで、それを守るのがフェリパとネイシュ。この2人は、それぞれティルガナとラケリーナを守る形で立ち回っている。もちろん、守るとはいっても攻撃力は人間とは比べ物にならない。だからいらないかもとも思ってたけど……最悪のことを考えると、やっぱりいるに越したことはない。
そして、彼らを上空から統括しているのがユヴィルだ。抜け目や押し込まれているところは、すべて彼によって仲間内に共有される。統率する人間のいない(正確に言えば、幟子ちゃんに足止めされている)群れなんて、彼の前では烏合の衆に過ぎないってわけだね。
なお、この全員がレベリングの結果進化を遂げている。今のボクと同じ、超上位種になったメンバーもいる。進化直後ではあるんだけど、それでも以前に比べれば格段に強くなっている。
……そんな彼らですら、近づくのが危険なのが今回の敵なんだけどね。
そいつは今、幟子ちゃんと真正面からぶつかりあっている。
見た感じ、だんだん相手が使う魔法の手数が減って、刀による戦いにシフトしつつあるのに対して、幟子ちゃんはずっと全力全壊で魔法をぶっ放しまくってる。今までずっと温存してたからね、さもありなんって感じだ。
おまけに、彼女は完全に幟子という人間と同化して、九尾の狐の一部であることをやめている。これによって伝説の大妖怪としてではなく、新しい別個の九尾の狐として独立した彼女は、未だに欠片でしかない相手よりステータスの上でも優位に立っているからね。
ド派手すぎるのが難点ではある。彼女、やっぱり物量で押しつぶすタイプっていうか、力こそパワーって感じの戦い方をするんだよね。
……だからかわかんないけど、空間が悲鳴を上げ今にも消失しそうな状態なのに、決着がつく様子はない。相手を褒めればいいのかなあ、この場合……。
え、ボク? ボクは今、全体へバフとデバフを施しつつ、亜空間の制御を幟子ちゃんから引き継いで実空間に影響が出ないようにしてる。要は裏方だ。
もちろんそれだけじゃなくて、【ディメンションカッター】と【可能性創造】で相当減った魔力を、かよちゃんから譲渡されてる真っ最中だ。ボクも進化目前で、最大魔力がやたら増えてるから回復しきらないんだよね。
「この身と元は同じ九尾でありながら、何故他者の下に着くのですか!」
「ぬしさまに命を救われて今の妾があるんじゃ! 妾の身体と心はすべてぬしさまのものよ!」
「嘆かわしい……! それだけの力があれば、あの身を滅ぼすことも不可能ではないでしょうに!」
「そもじと一緒にせんでもらえんかの! ぬしさまに受けた恩を裏切るなぞ、妾にはできんわい!」
そんな応酬を繰り広げながら、2人の戦いは激しさを増していく。
相手は、刀に何らかの魔法がかかってるみたいだ。その力があるからか、斬撃は離れていても届くみたいだし、その斬撃も被弾する直前に大量の剣筋を同時に発生させる多重攻撃になっている。
それに対して幟子ちゃんは、豊富な魔力に物を言わせて正面からひねりつぶしている。彼女を包む【紫綬羽衣】は攻撃のほとんどを寄せ付けてないし、はっきり言って理不尽の権化みたいなことになってる。
相手はそれを寄せ付けないために、フェイントはもちろん器にされてる栄次郎が培ってきただろう無数の剣技を振るってるわけだけど、思わしくなさそうだ。効いてないわけじゃないんだけどな……相手が悪いって言うかな……。
でも正直、相手の戦い方が老獪なだけに、幟子ちゃんの戦い方もかなりもったいなく感じる。相手と同じくらい考えて戦えば、もっと強く見えるんだろうけど……。
《だ、旦那様……そろそろ私の魔力が危ないですっ》
《ん……わかった、ここで切り上げよう。無理しないで、休んでて》
《はい……》
元々、後衛かつ魔法使い系に特化したボクのステータス上、かよちゃんから相当量の魔力を譲渡されても全回復には程遠い。
それでも、半分くらいにまでは回復した。まだこの状態じゃ【可能性創造】は使えない(使えなくはないけど使ったら気絶しそう)けど、今はこれで十分とするべきなんだろうな。これ以上もらうと、魔力の急激な減少でかよちゃんに悪影響が出るからね。
一方、ジュイたちによる人質の確保は一通りめどがついたみたいだ。さすがに、操られた普通の生き物じゃ彼らの敵じゃなかったみたいだ。
よーし。
「……幟子ちゃん、ボクも前に出る!」
「おお、待っておったんじゃよー!」
「く……!」
2人の狐から、正反対のリアクションが来る。どっちも当たり前っちゃ当たり前だね。
「幟子ちゃん、『跳ばす』よ!」
「む……わかったのじゃよ!」
ボクの言葉に応じて、幟子ちゃんがすぐさま魔法を展開する。
彼女の周囲に次々現れるのは、絶対追尾の魔法弾、【五光石】。それが、無数に発射される。
やられるとわかるけど、ある程度以上の力があればこれを回避するのはそこまで難しくない。でも、最終的に食らわずに済ますのは、ものすごく難しい。それでも、相手が九尾の一部であることを考えれば、命中させられない可能性のほうが高いだろう。
ならどうするか? そりゃ、回避できないよう工夫すべきだよね!
「時空魔法【ミニマムホール】!」
空間のあちこちに、小さな穴が空きまくる。あれはすべて、小さいワームホールだ。
そこにいくつもの【五光石】が飛び込んでいく。これによって、一時的に周辺から魔法弾の数は激減したわけだけど……。
「ぬうぅぅっ! 小癪な真似を!」
少しの時間を置いて、消えた魔法弾が相手のまったく予期しない場所から出現する。
そう、【ミニマムホール】は攻撃を任意の場所まで跳ばす魔法だ。特に遠距離攻撃系の魔法と相性が良く、これを駆使することで相手をその手の魔法の雨の中に閉じ込めることすらできる。
しかも【五光石】は知っての通り、基本的に絶対追尾をする必中の魔法だ。【ミニマムホール】との相性は抜群って言っていいだろう。
それでも数十秒も食らわずにいる辺り、相手がいかに強いかがわかる。
ただ、その状態でずっとぼんやり相手を見てるわけがない。ボクも幟子ちゃんも、とっくに次の攻撃のため行動していた。
「ぬしさま、アレをやり返すんじゃよー!」
「おっけー合わせるよ!」
2人で相手を挟む形に位置を取り、同時に魔法を放つ!
「【万里起雲煙】!」「【ホーリーアローレイン】!」
その瞬間、魔法で創られた無数の矢が一斉に相手に襲い掛かる。前後上下からは魔法弾が、そして左右からは魔法矢で追い詰める形になる。
でもここまでだと、ボクも回避できた攻撃だ。だから相手も、ここまでは回避できると見ていいだろう。
「さらにダメ押し行っとこうか!」
「任せておくのじゃよー!」
《でも、さすがに全力でやるにはボクの魔力回復しきってないし、構築にも少し時間取られるから、殺さない程度に抑える方向で》
《うむうむ、わかっておるのじゃよ!》
念話で連携を取りながら、再び魔法を宣言する。
ボクの利き手がプリズムみたいな複数色の魔力に包まれる。一方、幟子ちゃんの利き手には黒く、太く、長い獲物が出現する。
「【ディメンションカッター】!」「【禁鞭】!」
弱くしてあるとはいえ、今のボクの魔力の3分の1近くが減っていく。空間が砕ける音と共に、そこが断裂して巨大なクレバスができていく。
これが連発できれば、苦労はしないんだけどねえ。今更言っても仕方ないけどさ。
幟子ちゃんのほうは、まあ、気にする必要なんてないだろう。ボクの言葉に従って規模は小さくなってるけど、相変わらず【禁鞭】は理不尽な魔法だよ。彼女が流派最強魔法って言うだけのことはある。
そんな二つの魔法により、ただでさえ逃げ場をほとんど失ってる相手が、ここに軽い追尾機能を持ちつつ、面をふさぐ攻撃である【禁鞭】を両面から受けたら、回避なんてできるはずがない。
……いや待てよ、ボクなら逃げる方法を持ってるな。念のために、保険かけておこうか。
「ぐぬう――!」
「時空魔法【スペースジャマー】!」
「【ハイド】――何ッ!?」
おっと、どうやら念のためはすぐに意味のあるものになったみたいだ。
まあ、同じ属性を持ってる相手に同じ魔法を何度も見せれば、解析して使えるくらいにはなってるか。保険かけて正解だった。
時空魔法【スペースジャマー】。それは指定した範囲内の空間に干渉して、一時的に時空魔法の発動を抑制する魔法だ。
発動してる魔法は消せないし、絶対に防ぐわけでもない。成功率50%減がせいぜいなんだけど……覚えたてかつ、見よう見まねの魔法を抑止するには十分だったようだ。
魔法が不発に終わった相手の顔が、驚愕で歪む。その瞳に、絶望の色がかすかに差したように見えたのは、見間違いじゃないだろう。
そして……。
「くあああぁぁぁッ!!」
激しい悲鳴が、空間内にこだました。かなりの量の攻撃が、相手に命中したのだ。
ここまで弾幕を張りまくったからには、どの攻撃がどれくらいの量が当たって、どれくらいの被害を与えられたかはちょっと想像できない。
ただ、【ゴッズアイ】の効果がまだ残るボクの目には、栄次郎の身体から金色に輝く魂魄が抜け出て、攻撃の大半から逃れたのが見えた。
ここまでに放った攻撃は、【ディメンションカッター】以外は魂に攻撃できないからな……こればっかりは仕方ないか。
でも。
「幟子ちゃん!」
「無論準備はできておるのじゃよ! 【落魂陣】!」
彼女の宣言と共に、今まで掌握はしたけど状態は維持されていた亜空間の気配ががらりと変わる。
周囲の景色も、古代の王宮を思わせるものから、いつも見慣れているダンジョンのコアルームの景色へと変貌する。
もちろんこれは、コアルームに場所が移ったわけじゃない。幟子ちゃんが己の心象風景をここに投影しているだけだ。
そしてこの亜空間は、前回ボクが使った【落魂の呪符】の空間バージョンだ。すなわち、魂魄への直接攻撃を空間自体が行うという、完全上位互換の魔法になる。
この手の魔法は、身体と魂がしっかり結びついてる普通の生き物には、あんまり有効じゃないんだけど……魂魄で移動しているさなかの相手にとっては、抜群の威力になる。
「散滅すべし! かつての妾の一部よ!」
その言葉に応じる形で、亜空間内に光が満ちた。一見穏やかな、ともすれば神の祝福にも見えそうな光だけど、実態は真逆だ。敵対する者の魂を消滅させる、破滅の光なんだよね。
『がああああぁぁぁぁああぁぁぁ――!!』
光の中で、断末魔の声が響き渡る。肉体がないから普通の声じゃなくて、テレパシーのような声だけど。
それでも確かに、死を感じさせる悲痛な叫び声だったのは間違いない。
《戦闘経験により、個体名:クインのレベルが1000に上がりました》
《戦闘経験により、スキル【魔力節約】を正式取得しました》
《戦闘経験により、スキル【吸収】がLv6に上がりました》
《戦闘経験により、スキル【祝福】がLv3に上がりました》
《戦闘経験により、スキル【魔法乗算】がLv3に上がりました》
《経験値を11ポイント獲得しました》
《レベルが上限に達しました。進化が可能になりました》
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ダンジョンのメンバーの戦闘シーンを挿入しようとしたら、無双ってレベルを通り越して操られた方々がかわいそうなことになったので、割愛させていただきました。自分の力不足を感じます。