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江戸前ダンジョン繁盛記!  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
1855年~1856年 拡張
129/147

第百八話 対峙

 諏訪湖。日本は信濃の国って言われる地域に広がる湖だ。

 その周辺には大きな神社が4つあって、まとめて諏訪大社と呼ばれている。日本でも有名な聖地のひとつだ。


 それは誇張でもなんでもなく、れっきとした事実。なぜなら今、諏訪湖のほとり、全体を眺める位置に立つボクの目には、4つの神社が互いに影響し合って、浄化のための(魔力的な意味で)力場を形成しているのが見えている。

 今この世界に魔法はないし、魔力というものすら存在しないけど……かつて存在していた時代は、ここに膨大な量の魔力が集められ、束ねられ、神属性の力となって周辺を常に守っていたことだろう。それを用いて人々を守る、神もいたんじゃないだろうか。後で調べてみよう。


 まあそれはさておき……その法則性や術式は、明らかにベラルモースのものとは違う。きっとこの世界独自のものだ。

 つまりボクにはとても気になる場所で、すぐにでも調べてみたいところだけど……今は後回しだ。


 時間は夜明け前。ボクは闇の中を進み、諏訪湖の真ん中へ向かう。水面すれすれを浮いて移動してるけど、波はほとんどなくて穏やかだ。海だとこうはいかない。


 そしてボクの手には、鞘に納められた小狐丸。今回は、母親である狐(幟子ちゃん以外も全部母親と認識してるっぽい)と直接戦いたくないってことで、原形の武器としての参戦だ。参戦って言っても、ボクと幟子たかこちゃん以外の人には使ってもらいたくないみたいだから、【アイテムボックス】で見学だけど。

 ただ、この状態でもフォックス種の妖怪を察知できるから、今回はこれが最大の見せ場になるかもしれない。


 その小狐丸が、かすかに振動していた。これの意味するところはもちろん、近くにフォックス種の狐がいるってこと。


「小狐丸」

『はいちちぎみさま! ははぎみさまとおなじだけど、ちがうけはいがこのさきにあります!』


 それを裏付けるように、ボクに問われた小狐丸が答えた。

 これはスキルの【念話】。原形だとしゃべれないから、ってことで急きょ与えたスキルだ。おかげですごく助かってる。


「うん……ここまで来れば、ボクもわかる。この辺り一帯に空間の揺らぎがあるね」


 小狐丸の誘導に従って、諏訪湖のほぼ中央まで来た。そこらに漂う気配に、ボクは大体のところを把握する。


 傍目にはわからない、魔法の力を駆使して確認しようとしてもなおわかりづらい、空間の隠ぺい。

 時空魔法のスキルレベルにして、恐らく6相当だ。今のボクが8だから、事前に幟子ちゃんと訓練してなかったら苦戦は必至だったろうな。


「よし……それじゃ、乗り込むよ。みんな、準備はいいかい?」

『いいよー』

『ああ』

『いつでもいけるでぇ』

『同じくでございます』

『御意に』

『もちろんなのじゃよー!』

『ま、しょうがないわね』

『イエスマイマスター』

『はい、旦那様』


 ボクの問いかけに、同時にいくつもの答えが返ってきた。

 その答えの多さに思わず苦笑する。


 うん。結局、かよちゃん含めた戦闘要員全員を連れてきちゃった!


 いや、何も大勢連れて行けばそれだけ有利だろうなんて思ってないよ。レベリングしてもなお、相手とは恐らく相当のレベル差があるんだから。現状でも、相手と正面から戦えるのはボクか、幟子ちゃんくらいのものだろう。


 ただ、相手の事情もわからないのに、危ないかもしれないからってだけでいきなり攻撃をしかけるのはどうかとも思うんだよね。

 だからまずは、生活は保障するから暴れたりしないでほしい、って話をつけたくって、ボクが直接出た。


 で、まず幟子ちゃんが出ると、何かと都合が悪いから彼女は潜んでてもらわないといけない。

 相手に互いに同じ存在だったことは、顔を合わせるだけで把握しちゃうだろう。それでうっかり逃げに徹されると困るのは前回も言った通り。それだけは避けたいんだよね。戦うにしても交渉するにしても。


 かといって、他のメンバーを使者にして殺されたくもない。元々使者ってのは危険な役目なんだけど、それでもだからってむざむざと殺されていいようなメンバーじゃないんだ。

 だとしたらあとは誰が行けるかっていうと、ボクになる。幸い、レベリングのおかげで今のボクは最上種直前まで来てる。相手とのレベル差は恐らく実質100程度。これなら、いきなりやられることはそうそうないはずだ。バフもかけてあるしね。


 そしてこれはレベリング中に、幟子ちゃんが使える魔法を聞き取り調査してる時に発覚した可能性なんだけど……仮に戦いになった時、相手が数に物を言わせた飽和攻撃を仕掛けてくる可能性がある。最上位種にそういう技を使われたら、ボクじゃまだ力不足だ。その間に逃げられたり、反撃されるのも困るんだよね。

 だから、万が一そういう事態に陥った時には、ついてきたメンバーに雑魚を蹴散らしてもらうことになるだろう。今の彼らなら、それだけの実力は十分についてるはずだから。

 そうならないのが、一番だけどね。


 かよちゃんに関しては……完全に裏方に回ってもらうつもりでいる。ボクの魔法の構築をバックアップしてもらうことで、戦闘中の魔法開始から発動までのタイムラグを少しでも削ろうって魂胆だ。

 ネイシュの元になった人間の、情報を書き換えた時に手伝ってもらったような感じになるかな。

 だって、前線に立たすなんてボクが嫌だし。かよちゃん自身も、後方支援で納得してもらってる。元々切った張ったの活躍には向いてない子だし。


 ちなみに、今のボクは正体を隠して人の姿をしてる。これはもし戦うことになった際、ボクの正体であるアルラウネ種としての姿を隠しておくことで、種族特有の弱点を悟らせないためだ。火は怖い。


「……これでよし、っと」


 そんなことを考えてる間に、亜空間の入口をこじ開けることに成功した。

 成功してもなお、隠ぺいはそのままの状態を維持してる。我ながらなかなかうまく行った。

 すぐ気づかれる可能性もあるけど、そうなった時は仕方ない。


「よし行くぞっ」


 ボクは自分の頬を叩いて気合を入れると、小狐丸を【アイテムボックス】にしまって、入口から亜空間へと踏み込んだ。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 ずぷり、と言った感じの音をかすかに聞きながら、空間と空間の狭間を抜け、亜空間の内部に着地する。


 周囲にはもう、音はない。耳が痛くなるような気さえするくらい、静かだ。

 おまけに、亜空間内の景色が宮殿みたいに広いのに、生活の気配が一切しないのが不気味だな。

 正確に言えば宮殿前の広場って感じかな。日本の様式じゃない。文化面はあんまり詳しく調べてないけど、造りの精度はお世辞にも高いとは言えないから、昔のものなんだと思う。余裕があれば調べておこう。


 で、「生活の気配は一切しない」って今し方言ったけど、生物の気配はある。それも数えるのが億劫になるくらい、無数に。

 その証拠に今、ボクの視界の大半は、何らかの方法で時間を凍結された生き物が、天井(パッと見空だけど、ここは亜空間だからね)から吊り下げられている。内訳は人間だろうとなんだろうとお構いなしで、はっきり言ってまともな光景じゃない。


 そんな場所の下。恐らくは、この亜空間の物理的中心地と思われる場所。

 そこに、そいつはいた。


 青緑の鱗を持った、蛇の下半身。人間っぽい体格ではあるものの、やっぱり青緑の蛇に覆われた上半身。極めつけに、狐みたいな骨格の頭部。

 あの日【リプレイビジョン】で映し出された化け物と、一致する。

 間違いない、こいつが幟子ちゃんの欠片の一部だ。


「……まさか、ここに侵入を許すとは思っておりませんでした」


 そいつが、緩慢な動作で振り返りながら言った。

 幟子ちゃんと同じ赤い瞳が、けれど蛇のそれみたいな剣呑さを伴ってボクを見据える。


「それも、ここまで入り込まれるまでこの身が気づかないとは……一体何者ですか? この身と同類であろうことは、なんとなくわかりますけれど」


 丁寧な言葉遣いとは裏腹に、態度は尊大だ。慇懃無礼ってやつだね。

 警戒はしているんだろう。けれど、ボクとの実力差も理解している雰囲気だ。やっぱり、素直で無邪気な幟子ちゃんとは違って、一筋縄じゃいかなさそうだな。

 とりあえず、潜んでる幟子ちゃんに亜空間の制圧を頼みつつ……。


*************************************************


個体名:なし

種族:アオダイショウ(九尾)

性別:女

職業:ドリフター

状態:普通(憑依)

Lv:80

生命力:4001/4224

魔力:6390/89772(貯蓄数:2)

攻撃力:2507

防御力:1888

構築力:8012

精神力:7561

器用:3993

敏捷力:1904

属性1:妖 属性2:冥 属性3:魂 属性4:時空


スキル

神能Lv2 千里眼Lv2 多聞耳Lv2 読心Lv4 魅了Lv10EX 指揮Lv4 性技Lv10EX 房中術Lv10EX 貯蓄Lv3

妖術Lv7

気配察知Lv8 気配遮断Lv7 魔力察知Lv10EX 魔力遮断Lv8 魔力節約Lv4 空中機動Lv6 熱源察知Lv2

毒無効Lv2 麻痺無効Lv1 混乱無効Lv2 魅了無効Lv5 痛覚遮断Lv3 物理抵抗・中Lv4 魔法抵抗・大Lv1 耐飢餓Lv4 魔力自動回復・微Lv9 耐寒Lv2

古代中国語Lv9 古代魔法工学Lv8 古代儀礼Lv9 拷問Lv10EX 交渉Lv7 日本語Lv3 潜伏Lv6 鍛冶Lv4


称号:千年狐狸精

   肉体のくびきから解き放たれし者

   傾国

   フォックス種の頂点

   逃亡者

   ヒューマンスレイヤー

   大喰らい


*************************************************


 相手の話に答える前に、後々のためにとまず鑑定した結果がこれ。


 うん、大体初めて会った時の幟子ちゃんに似たステータスだ。各種ステータスが彼女の殺生石当時より高いのは、生き物を憑代にしていてちゃんと活動できてるからだろう。

 もちろん、人間と融合を果たしてる今の幟子ちゃんと比べると、相応に見劣りはするけど……気軽に挑める相手じゃないのも間違いない。


 それに、幟子ちゃんとの明らかな違いもある。


 まず、ステータスから分体関連の表記が消えている。これは、先だって幟子ちゃんが欠片であることを拒否した影響だ。


 白面金毛九尾の狐は4つの欠片に分かれていて、それぞれは本来1つだった存在の一部でしかなかった。

 けれど幟子ちゃんは、他の分体と融合しなおすことを拒否。自身を1つの独立した存在とすることで、二度と他の欠片とは融合できないようにした。この影響で、他の分体も強制的に独立状態になってステータス表記も変わったんだね。


 早い話、組織から脱退した人がいたために、元の組織が瓦解してばらばらになったようなものだ。

 そんな状態だから、個々のステータスは以前に比べると若干下がってしまっている。けど幟子ちゃんにとって、その程度は気にならないみたいだった。相手になる欠片たちのステータスも下がってるはずだから、現状この点はさしたるマイナスにはならない。


 それから属性に、時空が加わってる。これはつまり、スキルが同レベルの属性無保持者に比べて、時空魔法の精度や威力、耐性が段違いに高いってこと意味している。

 そこに自信があったからこそ、侵入者に気づけなくて警戒してるのかもしれないな。


 次に、【熱源察知】。これはたぶん、憑代が蛇だからかな。蛇って、そういう機能を持ってるもんね。

 パッシブの【耐寒】も、似たようなものだろう。こいつが寒さに弱い蛇なのに、北国にいたから身に着いたんだと思う。


 ここまではいい。よくはないけど、対策はそれなりに思いつく。


 問題なのは、【貯蓄】のスキル。これ、正直想定外だ。やばい。


 このスキルがどんなものかって言うと、最大値に達した魔力をそのまま別口にストックしてとっておけるってスキルなのだ。

 その貯蓄数が2ってことはつまり、こいつは実質18万にも及ぶ魔力を保有してるってことになる。


 それに、パッシブ枠にある【魔力自動回復・微】もまずい。これも想定外なんだよなあ。

 これがあるってことは、魔力の存在しない世界にあっても魔力を得る手段があるってこと。段階が微だから、9万近い最大値のこいつにとって回復量はかなり物足りないだろうけど、この世界では絶対的なアドバンテージだ。


 おまけに称号の【大喰らい】は、食べ物を食べた時に、確率で魔力を回復する効果を持っている。


 とにかく、魔力を回復させるためのスキルが、幟子ちゃんに比べるとかなり豊富なのだ。

 ここから、こいつが自我を得てからはとにかく貪欲に、食べることで力をつけようとしていたって察せられる。周囲にたくさん置かれた生き物は、そのものずばり、餌なんだろうな。


 これらの最大の問題は、ボクたちのアドバンテージが相対的に弱体化してしまうってことだ。魔力を枯渇するのを待つっていう持久戦が、ものすごくやりづらくなったって言いかえてもいい。


 どうしたものかな……って、ん? 今、【読心】をかけてきたな。対策はしてあるから、とりあえずは無意味だけど……。


「……精神障壁を持っているのですか。ますますもって、只者ではありませんね?」


 ぎらりと瞳を光らせながらも、そいつの目がすっと細められた。

 相変わらずボクを凝視するその視線は、間違いなく「答えろ」と言っていた。


 はてさて。どう答えたものかな。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


長々とお待たせいたしました、ようやく九尾の欠片とのイベントです。

まずは越後の国にいた欠片と。それなりの話数を割く予定であります。

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