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江戸前ダンジョン繁盛記!  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
1855年~1856年 拡張
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第九十六話 実験 2

本日2回目の更新です。

 それから数日後。ボクはかよちゃんと共に、実験室にいた。


 二人であちこち点検をしている装置は、お察しの通り地震エネルギー変換装置の最新バージョン。当初に比べてサイズは半分くらいになって、耐久性も2.5倍くらいになっている。変換後の魔力をストックできる量も、約4倍にまでなっている。

 これでもまだぜんっぜん足りなくって、恐らく2、30分も稼働させれば完全に許容量をオーバーして爆発するだろう。多少効果を抑えて時間を延ばそうとしても、1時間がせいぜいってとこかな……。

 コンピューターの試算上では、フルパワーで短時間にやるより、少し抑えながら時間を延ばしたほうが得られるDEは多い。それで得られるDEが、こないだボクが言った約80万ほどになる。


 最終的な目標は、常時連続稼働させてもメンテフリーで1年は持つようにすること。その稼働のレベルは、地震エネルギーが蓄積しない具合を目指してるんだけど……それはまだまだ遠い先のことになるだろうね。

 今回の改良にしたって、こないだの騒動で大量に仕留めた人間から得たDEをそれなりにつぎ込んで高品質素材を使った、いわばごり押しみたいなものだもんなあ。肝心なところは前回の実験からさほど向上はしてないんだよな……。


 まあ、それはともかく。


「問題なし、と……かよちゃん、そっちは?」

「はい、大丈夫です」

「おっけ、それじゃ実験始めようか」

「はい」


 最終チェックを終わらせて、かよちゃんには装置から離れてもらう。

 進化して彼女もだいぶ丈夫になったけど、装置の爆発はただの爆発じゃない。だからまだ間近にいてもらうのは不安なんだよね。

 装置の間近にいれば、もう少しDEへの変換効率は上がるかもしんないけどさ。そこは安全第一だ。


 ここまでは、いつも通り。今回はこれに加えてもう一つ、実験することがある。


幟子たかこちゃん、ティルガナ、そっちの準備はどう?」

『無論完了しておるんじゃよ! いつでも言ってたもれ!』

『同じくでございます、主様』


 用意したモニター越しに二人の言葉が届く。ダンジョンの外にいる二人は、地震エネルギーの抽出転送担当だ。


 転送担当がロシュアネスからティルガナに変わってるのは、ロシュアネスの仕事がここ最近すごく多いのと、ティルガナの一応の代わりとしてネイシュがいるからだ。ティルガナも、いい加減外に出てもいい頃合いだろうしね。

 かよちゃんのそばから離れなきゃいけない、ってことで号泣してたけどね……。


「装置のほうに問題は?」

『大丈夫そうなのじゃ! まあ、万が一装置による転送が失敗してもそこは妾がなんとかするゆえ、ぬしさまは大船に乗ったつもりでいてくれればええんじゃよ! と言っても、ぬしさまの装置が下手を打つとは思っておらんがの!』

『そこはわたくしめもいると言ってほしいのですけどね……わたくしめとて、時空魔法の使い手なのですから』


 幟子ちゃんの言葉にかぶせるようにして、ティルガナが言う。確かに、彼女の言い分ももっともだ。

 幟子ちゃんの実績のほうが多い分、彼女の言い方に少し棘があるのは仕方ないんだろうな。その辺りのことは、これからティルガナも実績を積んでいってほしいところだ。今回みたいにね。


 さて今回の実験だけど、実は今までと少し違う。どこが違うかって言うと、ずばり今し方幟子ちゃんが言った「装置による転送」だ。


 今までは、幟子ちゃんが地震エネルギーを吸出し、ロシュアネスがそれをダンジョンに転送し、ボクがそれを魔力に変換し、かよちゃんがそれをDEに変換する、という手順を踏んでいた。

 当たり前だけど、この流れ……特に幟子ちゃんとロシュアネスの担当する部分は完全に人ありき。極めて属人性の高い工程だ。

 それが悪いわけじゃないんだけど、将来の実用化を見据えた時、これではあまりにも効率が悪い。これに幟子ちゃんたち能力の高い幹部勢の時間を割くのは、できれば遠慮したいのだ。


 魔力からDEへ変換する工程は、ある程度仕方ない部分はある。

 地震エネルギーから魔力への転換は、万が一の事故を考えると人の目が欲しいし、魔力からDEへの変換は、ある程度自動化できるとはいえ、ダンマスのボクかサブマスのかよちゃんにしかできないことだからね。


 でも、それ以外のところはやっぱり、自動化したいじゃない?


 ってわけで、エネルギーの転送装置も並行して作ってたんだよ。今回は、その実験も兼ねているってわけ。

 最終的には、幟子ちゃんがやってるエネルギーの吸出しも魔法道具で代替したい。そうした一連の装置がすべて出そろって、この研究は初めて次のステップに進めるのだ。


「おっけ、それじゃ実験を始めよう。みんな所定の位置について」

『了解なのじゃよー!』

『かしこまりました』

「はいっ」


 ボクの合図を受けて、三者三様の了承が返ってくる。

 それに頷いて、ボクも装置のコンソールへ手をかざした。


「それじゃ行くよ。3……2……1……実験開始!」


 そして、実験は始まった。


『参るぞえ! 妖術【劈地珠へきちじゅ】!』


 モニターの向こうで、幟子ちゃんが魔法を使う。ボクにとっては何度も見てきた、土属性のエネルギーを操る高等魔法。

 それによって、地の底から吸い上げられたエネルギーが、魔法の燐光を伴って空気中にあふれだしてくる。


『次はわたくしめですね。転送装置、稼働! 万が一に備え、時空魔法のスタンバイも開始します!』


 そのエネルギーが、ティルガナが稼働させた転送装置へと吸い込まれ始める。

 地震エネルギー変換装置と同じくらいにはでかいそれは、魔力だけ一定量で少しずつ、継続して指定の場所へ転送し続ける機能を持たせてある。それによって、吸い込まれたエネルギーが……。


「よし、来たね。今のところ転送されてくる量や速度は問題なさそうだ」


 実験室に、地震エネルギーがどこからともなく流れ込み始めた。どこから、っていうのは実際には言葉のあやなわけだけど、ともあれエネルギーが次々に溜まっていく。


 それを見て、ボクは変換装置を稼働させる。

 瞬間、三度吸い取られた地震エネルギーは、装置の中で魔力へと変換され始める。そしてそれは、装置内の貯蔵タンクへとストックされていくのだ。


「うん……うん、今のところ問題なし、と。ティルガナ、そっちはどう?」

『はい、問題なく転送されております』

「よーし! それじゃ最終工程……かよちゃん!」

「はいっ! DEへの変換、開始しますね!」


 ボクの言葉を受けて、メニュー画面を開いて待機していたかよちゃんが、画面をタップした。すると、変換装置の貯蔵タンクに収められていた魔力がごっそりと消える。

 ダンジョンの機能は、一定量の魔力を、実行したタイミングですべて一気に変換するのだ。これが継続して変換し続けられるならボクも貯蔵タンクの優先度を下げられるんだけどね。こればっかりは仕方ない。


 そんなことを考えながら、しばらく実験を続ける。

 けれど、予想通り30分ほどが過ぎた時だ。


「……! そろそろ限界だ、幟子ちゃん吸出しストップ!」

『あいわかったのじゃよ!』


 変換装置が悲鳴じみた異音を出し始めたところで、中断を決断する。

 一応、吸出しからここまでに多少のタイムラグはあるから、実験自体はもう少しだけ、ほんの十数秒は続けるけど……。


『主様、こちらに残っていた地震エネルギーはすべて転送し終わりました』

「おっけー、そっちはそれでおしまいね。撤収準備!」

『かしこまりました』

「さて、最後はこっちだな……」


 まだまだ地震エネルギーは装置の中に残ってる。これが全部変換し終わるまでは、持ってくれよ……。


 その祈りが通じたのか、どうにかこうにかすべてのエネルギーが魔力へと変換された。

 と同時に、ホントに死にそうな音出してた装置の一部が、断末魔めいた音と共に崩落する。……あっぶなー、ぎりぎりか。もう少し限界が早かったら、何かしら爆発してたのは間違いないだろうね。


 装置の崩落に伴う爆発は普通に耐えられる威力だけど、痛いものは痛い。ないならそれにこしたことはないんだよね。

 ってわけで、そのまま完全に沈黙した装置を見上げて、ボクはそっと一息をついた。


「……旦那様、DEへの変換、終わりました」

「ん。実験時間は?」

「えっと……33分41秒です」

「お、結構もったほうじゃん。獲得DEは?」

「はい、合計で87万とんで19です」

「……相変わらず地球の自然エネルギーは破格の質だなあ」


 告げられた数値は、ボクの予想をかなり上回るものだった。最初の実験でもそうだったけど、今つぶやいた感想が本当にほとんどを占めるよ。


 まあ、ともあれ。


「よし、これですべての実験は終了だね。あとで細かいことは取りまとめるけど……ひとまず、3人ともお疲れ様、ありがとうね」


 そう告げたボクに、やはり三者三様の答えが返ってきた。


『それじゃ妾たちも戻るのじゃ。ぬしさま、たんと褒めてたもれー!』

『待ちなさい、装置の撤去を手伝うのです』

『わ、わかっておるのじゃよ……そう目くじらを立てんでたもれ……』


 モニターの向こうでは、愉快なやり取りがなされている。

 とはいえ、幟子ちゃんは毎回この実験で細かいコントロールが必要なことを、一度も失敗せずにやってくれているしなあ。褒めるだけってのも、さすがに申し訳ない気が……。


「旦那! 旦那! 大変てぇへんでさァ!」

「うわっ、甚兵衛君? いきなりどうしたのさ、まだ実験中の札かかってたでしょ?」


 突然の闖入者に、ボクは思わず顔をしかめる。


 ここは危険なんだぞ。下手したら、ただの人間なんて跡形も残らない可能性だってある。

 それに現れた甚兵衛君は、大変と言いつつさして大変じゃないことに定評があるんだもの。ボクのリアクションも、仕方ないと思う。


 けど、事態はどうやらボクが思ってた以上に、本当に大変らしく。


「すいやせん! ですがそれどころじゃありやせんぜ! お藤姐が、大けがして戻ってめェりやしたんで!」

「……なんだって?」


 波乱の予感がした。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


ある意味クイン一番の見せ場ともいえる、魔法道具の話。

でも完成はまだまだ先の話です。少なくとも、安政年間の完成はない感じだと思います。

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