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アイデア短編

勇者学園のヤンキーさん異世界へ行く

作者: せおはやみ

 如月隆盛(きさらぎりゅうせい)

 世間で云う所の不良であると周りから評価されている。だが彼は今現在そういった所謂不良らしい事を全くしていない。そもそも彼は漢である事を目指してはいても不良であることを目指しては居なかった。だが見た目の凶悪さ、そして恵まれた体躯、そして生まれや世間の常識から外れた態度が彼をヤンキーさんと周りから見られる事で勘違いされる事を訂正するのが面倒になった挙句にそう見られていただけという少々変わった経歴の持ち主だった。


 そして何より今現在彼は戦闘中であり必死だった。

(予想はしていた、だが……)


 襲い掛かってきた液状多細胞生命体、俗にいうスライム相手に打撃攻撃のみで立ち向かう隆盛、これでも召喚を受けたれっきとした勇者であった。なのにも関わらず。


(魔法が使えないとは普通に無理ゲーと云われる部類だろうが!)


 そう、彼は魔法が一切使えない。一度使われたら次は100年の歳月を置かないと使用出来ない召喚魔法で呼び出した勇者が魔法を使えない事は大問題だった。事は闇に葬られるかと思われたが隆盛の持ち前の肉体とある種の幸運が重なってその危機を逃れる事が出来た。


「まさかこんな馬鹿な!?」とは彼のステータスを調べた神官長の言葉だったか。

 一応彼のステータスは魔法で調べる事が出来た。これは世界魔法と云われる物で誰にでもどれだけ(………………)魔法の才が無くとも視れる物だそうだ、聞いた時に隆盛は若干切れそうになったのは致し方ない。


 種族 :人族

 性別 :男性

 年齢 :18

 婚姻 :未婚

 戦闘 :格闘技術適正

 武器 :闘具適正

 魔法 :皆無


 彼の神官を驚かせたのはその魔法の適正が【皆無】となっていた事だ。魔物との戦闘を任せようと呼び出した希望の勇者がまさかの魔法適正0であれば驚いた神官には罪は無い。問題はそれを知った召喚を行った司祭たちであった。実はステータスを視る事ができても本人以外には詳しいステータスまでは見ることが出来ない。それを確認できるのは本人だけなのだが隆盛はそんな事は知らなかった。説明を受けた後にその神官の手引きによって逃げ出したからだ。


(意外といい人だったな……無事だと良いが)


 大丈夫ですと笑顔で送り出してくれた人物である。多少の路銀と食料を持たせてくれた恩はいつの日か返したいものだと隆盛は心に誓った。だが司祭などは隠蔽を行おうとしたらしく逆に天罰を喰らわせねばと思う隆盛のその考えはまさに彼がアウトロー(ヤンキーさん)と呼ばれた一因だった。


 二つ名:ヤンキーさん

 身長 :179cm

 体重 :82kg

 STR:72(0)

 DEF:32(0)

 VIT:50(0)

 AGI:45(0)

 INT:11(0)

 DEX:45(0)

 HP :1700

 MP :1200

 特技 :肉体言語 生存術 如水流格闘術 威嚇 眼光 異世界人補正 造型者


 そして魔法特性が無いにも関わらず彼の自身でしか確認出来ないステータスは普通ではなかった。もしかしたら魔法が使えないと知っていてもこのステータスを視る事ができたら司祭達も踏みとどまった可能性が在るほど凄まじかった。この世界にはステータスと云う物は存在しても所謂LVは存在しなかったしスキルポイントなどといったゲーム風の強化方法などは存在しなかった。何かをすればステータスは上がりもするし下がりもするのが常識なのだが、一般人のステータスで高くて15、戦士や魔法使いや神官ですら高いステータスは20と云ったところでしかない。だが今のところ彼は逃げ出した事もあって全くもってその力の凄さを理解どころか知りさえしていない。


(下らん授業だとは思っていたが案外役にたったな)


 隆盛が思い返すのは地球での授業内容だ。そこは不思議な学園だった。全員が殆ど身寄りの無い孤児が中心で集められていて全寮制で授業料は免除どころか生活費の支給すらされていた。勇者学園、それがその学校の名前だったが実際は異世界に召喚される人身御供を養成するための学校だったと隆盛は認識している。入学するには一芸に秀でた才能と身寄りが無い事が条件だった。だが卒業すればそれなりの企業や国家公務員になれたりと一流の職に就くことも可能だが確実に数年に数人の割合で生徒が居なくなるという事から事情の無い生徒など一人も居ない学校でもあった。斯く云う隆盛もその口であり孤児でかつ肉体的な優秀さが戦士向きとされ普通の高校など行ってもどうせ不良とレッテルを貼られるのだからと勇者学園を選んだのだ。


 授業には様々なケースが想定されたサバイバル技術や調理、戦闘技術などが盛り込まれていて少なくとも大学を目指すような学校では無かった。だが意外にも学力の低いものは少なく授業レベルもそれなりだったのだ。ではなぜ隆盛がそこまでの学校を卒業間近まで居たにも関わらず魔法適正が無いのかは不明だがよく分からない所だとしか云えないだろう。隆盛の言葉を借りるならば「そんなの神様にでも聞いてくれ」である。


 ともかく彼は魔法に関する才能が一切無かった。天才とまではまかり間違えても云えないが頭は悪くないのに不運としか云い様の無い悲劇だった。


 故に現在肉弾戦の最中だ。


「ヌォォォッルラァッ!」


 スライム相手に素手で格闘をする男、無謀だが彼には彼なりの考えがあった。もしも打撃だけで倒せれば儲け物であり倒せないとしても何か意味ぐらいはあるだろうと考えた。そして一応は攻撃しないと判らないのだからやってみるとスライムは一応吹き飛んだのだ、ダメージは通っているだと彼は感じていたし、事実徐々にではあるがスライムの動きは鈍くなっていた。多細胞生命体のアメーバのようなスライムではあるが実は魔物となっているのには魔核の存在がありそれが傷つけば消滅してしまうのだ。


「ヌ?」


 ブルブルと振るえながら消滅したスライム、確かに一撃を放った瞬間に何かを捕らえた気がする隆盛は倒せる事に安堵したがゲームにありがちなお約束のお金や宝物や薬草の類は見当たらない。残ったのは何やら判らない石だけである。これが魔核なのだがそんなことは隆盛には判らないのだが一応残ったのだからとポケットへと突っ込み街道を進む事にした。


(拾える物は拾っておけ)これも勇者学園での授業の内容だった。


 町に着くまでに隆盛が倒したのは魔物としてはスライム20匹、角が付いた兎のような生物3匹、狼のような生物3匹だ。蔦を使って獲物をを引っさげて来た隆盛はハンターだと思われたのか町に入る時には弓などを見につけてない事から近くの村から来た人間だと思われた。


「この町では通行税は取っていないが獲物の持込には税が掛かるのだが身分証はないか」

「すまない身分証はないのだが」

「ふむ、猟師ではないのか、冒険者にしても装備もないしな」

「実は冒険者登録に来たのだが」

「そういうことかならば冒険者としてなら冒険者組合(ギルド)へ行けばいい、その前に審議の石に触れてくれ罪科のある無しはこの石で判定ができるんだ」

「ふむ」


 手を当てると石が青く光る。


「よし問題ないか、まあ出来れば獲物を持ち込むなら冒険者か猟師の組合(ギルド)に所属してくれ、それだけの腕前なら十二分に稼げるだろう」


 勇者学園の教えは生徒の生存第一であり様々なケースを想定されているのは伊達ではなかった。ヤンキーさんと云われても実際は真面目な授業態度だっただけあって隆盛も優秀な部類である。召喚先で何が待ち受けているかなどわからないのだからもしも不測の事態に陥った際には生き残るにはどうするのが適切なのか教えられていた。なので隆盛が選んだのは冒険者として生活する手段を得る事だったのだ。

「実は……」と召喚した後に逃がしてくれた神官曰く今回の召喚に関しては疑問が付きまとうらしい。確かに魔物の活性化は問題となっているのだが魔王が現れたなどという話は教会だけが云っているのであって比較的世情は安寧であるらしいのだ。「ここだけの話ですが……」とさらに聞いたら魔物と魔族は意味合いが違ってきて教会が魔族といい忌避しているのは違う宗教の神を信奉する国家に対しての貶称のような物なのだとか……そんな事の為に勇者召喚をするなよ馬鹿野郎と云いたいが一大勢力である教会は騎士も大量に抱えているらしく危険、ある意味その神官が良識をもった人物であったのが隆盛にとっては救いであったとしか言いようが無い。


 そういう事で神殿から逃げ出した隆盛が冒険者になるに際して問題は無かった。字が読めない隆盛であったが通行人に声を掛けて場所を聞き出し直ぐに冒険者組合(ギルド)へと足を運ぶことが出来た。

 若干通行人が怯えていたのは獲物のせいなのか隆盛の威圧感からなのかは判断が難しい所である。


「ようこそ、冒険者組合(ギルド)【探求者】へ。本日はどのようなぁっ!?」


 まず隆盛の顔をみて一瞬引きつったあとで抱えている獲物をみて再度驚いた受付の女性に罪は無い。


「失礼しました、本日はどのようなご用件でしょうか」

「冒険者の登録に来たのだが」

「承知しましたではご説明から……」


 受付嬢曰く冒険者となるに際して資格などは存在しない、名前とステータス登録と試験官との対戦によってランクが決定されるとの事、ランクはF・FF・FFF~SSSと各ランクに3種類ありランクを上がるには規定の依頼と試験もしくは特定の依頼をこなす必要がある事。規約に関する説明を聞く限り普通にしていれば違反するような項目は無く受けれる依頼は1人につき1件のみだが獲物や採取物さえあればその場で依頼完了させる事も可能だと説明を受けた。最初の試験官との戦闘では負けても失格になる事は無いが余りにひどい結果だと組合(ギルド)の方から受注内容を制限されるらしい、其の獲物を見る限り問題なさそうですがと顔を引き攣らせていたのは敢えて隆盛も触れなかった。試験は明日の朝からになりますが、その前にその獲物の方は換金可能ですがどうしますかと問われたので換金を頼み翌日に受け取る事で金額が変わりますと云われたので助かると一言告げて宿を紹介してもらうと隆盛はそのまま宿へと向かった。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



「ほう、君が……」

「宜しく頼む」

「フフフ、あの量の魔物を刈ってきたと聞いたが、実際相対してみるとデカイな」

「体だけが資本なんでな」

「ふむ、魔法特性が無しとは珍しいが、体術のみでもまあ実力があるなら構わんさ、ただ護衛なんかの依頼は気をつけたほうがいいだろう、魔法を相手に素手のみではな、世の中には盗賊にも普通に魔法を使う者はいる」

「忠告感謝する」

「こう見えてトリプルBランクだ手加減は必要無さそうだが、武器は何を使うんだい?」

「武器は徒手空拳」

「フ、本当に面白いな、それで魔法は無しの方がいいかな?」

「いや、普通に対処してくれて構わん」

「面白い……ではいくぞ」


 馬鹿の見本のような受け答えだが漢である事を目指すだけでなく、実際に魔法の戦闘力が如何程の物なのか知らなければ今後の事も考えて必要だと隆盛は受け答えしただけだ。だが仮にもトリプルBと云えば冒険者では中堅、それに対して徒手空拳で相対すると言い放ったのである。一応は刃を潰した訓練用の剣とは言えど武器を持つものと持たないものでその差は歴然である上に魔法まで使っていいと云ったのだ、普通ならば馬鹿にされたと思ってしまう。昨日の獲物の量から只者ではないと考えていたにも関わらず試験官もついつい馬鹿にされたかと思ってしまった。


 それだけに、隆盛の突然の飛び込みと身のこなしに衝撃と共に対処が遅れてしまった。

 反射的に放ったのは炎弾の魔法だった。本来は牽制程度に留める心算で用意していた魔法を暴発させていた。


「しまっ!」


 だがそれすらも想定内であるかの如く信じられない事に手に巻いた服で払いのけた隆盛。勇者学園の制服は伊達や酔狂で作られておらず防刃、耐熱、耐冷に優れていた。彼の上げた叫び声は暴発させた魔法に対しての物でもありと同時に中途半端に終わったのはまさか魔法で攻撃したにも関わらず弾いて接近を許してしまった事に対しての驚きの結果でもあったのだ。


(この攻撃がこの世界の冒険者レベルにも通じればいいのだが……)


「ッ!」


 選んだ技は打撃の基本【流水(りゅうすい)】其の中でも比較的弱めの技である【流水・掌破(りゅうすいしょうは)】一応はこの町に来るまでの体験から全力でやればかなり危険な事は理解していた。元々の世界であってもこの系統の技は危険なのだ。異世界の補正がある今の全力は危険だと隆盛は理解はしてはいるもののトリプルBランク、そして防御する皮鎧もあるので吹っ飛ばす程度に抑えた攻撃を放った。


 グァッ!と云いながら後ろに吹き飛ぶ試験官。確かに手加減はしたものの見事に自分から後方に飛んで威力は抑られてしまった。


「これは……思ったよりも凄いな、これでもストレートで次にはAランクに上がれると評判なんだが」


 さもあらんと云った具合でそのまま追撃しようとする隆盛に手で止まれと合図する試験官は試験の終了を告げた。


「これは文句なしで合格だね、まさか魔法の攻撃をあんな手段で防ぐだけでなくそのまま一撃入れてくる上で僕を吹き飛ばす程の攻撃だ、出来るだけ上のランクから始められるように進言しよう、とはいってもDランクが精々でそれ以上は無理だろうけどそこは我慢して欲しい」


 隆盛としては失格にならず魔法がどのような物か判っただけで収穫は十分であり自分としても世界に慣れていくのにいきなりの高ランクは困るので問題は無かった。試験官としては実力があるのに申し訳ないと思ったのだろう。実際いきなりの高ランクにしないのは冒険者組合(ギルド)としての活動に慣れてもらう必要もある措置なのだが冒険者とは常に名誉と稼ぎが重要なので其の手の不満は時折あるのだとか。


 ともかく隆盛は見事に冒険者の資格を得てトリプルDの保有者となった。


 組合(ギルド)で討伐報酬と皮などの部位と魔核を処分して金を得た隆盛は道具やへと向かい旅に必要な物を買い何でも入る安めの魔法の袋と大きめの鞄を買い、武具店へと向かった。


「失礼する」

「いらっしゃい、なんがいるのか必要なら相談にのるぜ」

「闘具というのを見せて欲しいのだが」

「闘具とはまた……珍しい物に興味を持つもんだ」

「珍しいのか」

「ああ、珍しいぜ、なにせコレだからな」


 ドンと台の上に乗せられたのは所謂篭手等なのだが、どうやら通常の篭手ではないらしい。


「これはな、コレ自体が武器でありそして防具でもあるっていう変り種だ、うちの店でも一応は作ったものの……これが使い手が全く居ないもんでな、ガッハッハ」


 剣も魔法もある世界、それで何故にこんな装備があるのか、武具店の店主曰くその道の流派もあり王都では廃れつつあるが近衛部隊にも嘗ては数名の拳士が居た程なのだとか、拳神と呼ばれた者は当時12名の近衛十二剣ですら太刀打ちする事ができ無いほどだったと云われると熱く語っていた。


「まあそんな訳で作ったは良いが使い手が居ない残念装備だ、もしも兄さんが使いこなせるってなら譲ってやっても良いぜ」

「使いこなす?」

「おうよ、これを装備してあの岩を砕けたら、まあ皹でも入れる事が出来たら持ってっていいぜ」

「ふむ、やってみよう」

「おお、いいねえ、まあこれでも鋼鉄だけじゃなく多少はアダマン鉄も溶かし込んで強度だけは一流のはずだ、純正のアダマン鉄やオリハルコンなんかにゃ届かんがな」


 其のあたりの強さが実際にどの程度かわからんが……気を纏えば良いのだろうと気楽に構える隆盛。


「まさか!?」

「ではいくぞ、セィァ!」


 ボウっと篭手自体が揺らめく様に光ると同時に突き出された拳は岩を砕き吹き飛ばしていた。


「お、お、おい、兄ちゃん、もしかして適性持ちなのか!?」

「どうやらそのようだ」

「すげーな、まさか本当に砕いちまうとは……よしその闘具は兄ちゃんのもんだ大事にしてやってくれ」

「いいのか」

「ああ、なにせ使う拳士がいなきゃ鋳潰すつもりだったんだ、そいつもそのまま使ってくれる主ができて幸せだろう」

「助かる、その代わりと云ってはなんだが他の部位の装備も見せてもらおう」

「おう、毎度あり」


 動きを重視した皮鎧などを購入した隆盛はそのまま装着すると礼を述べて武具店を後にした。

 そうそう心配はしていないが神殿からできるだけ離れるために町を直ぐに出発したのである。


 何故か行く先々でトラブルに巻き込まれては拳一つ、またはその顔と眼光、そして何故か評価されない頭脳的な解決によって人々を救う奇妙な冒険者の旅はこうして始まりを告げた。

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