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双転生物語 降臨の章
作:北野 鉄露



降臨の章6


二時間目が始まって二十分も経ったであろうか。
 授業時間は五十分だから、まだ半分くらいである。
 希香はひっきりなしに窓から校庭で座っている恵の姿を確認し、公司は公司で転入生の方に何度となく目をやっている。
 涼輔はというとあれ以来消えることもなく、黙ってノートをとり続けている。
 授業は数学であった。
 新学年となって新しい分野の内容に入ったこともあり、クラス中の誰もが真剣に聞いているようである。聞き流していても何とか点数を取れる国語や歴史とは違い、数学では授業を理解していないと、自分で勉強してもわからなくなってしまうからである。
 やがて、一区切りの解説を終えた教師が、
「じゃ、ちょっと簡単な問題をやってみてもらおうか」
と言った。
 皆、自分が当てられてはかなわないから下を向いている。
「そうだな……じゃあ、今日入ってきた浅香、どうだ?」
 思いがけない指名が出て、ほっとした人間も多かったであろう。
 はい、と軽く返事をして、涼輔は前に進み出た。
 転入生の学力がどんなものか、まだ誰も知らないので、皆がじっと彼に注目している。
 涼輔は適当にチョークを手に取ると、教科書の問題を眺めていたが、やがて一気に書き始めた。
 すらすらと並べられていく解答に、クラス中が密かに舌を巻いた。教師が解説をする前にも関わらず、それを見ながらノートをとる者もいた。
(へぇ、浅香さんてすごいのね。ちょっと愛想ないけど、勉強できるんだ)
 数学の苦手な希香はしきりに感心しつつ、ふと窓の外に目をやった。
 下の方に小さく、恵の姿が見える。
 石段に腰掛けて、何やら読んでいるようである。
 と、その時だった。
 正体のわからない白ずくめの二人組がまるで、その場に降って湧いた様に現れ、彼女を遠巻きに囲むようにした。
 あっと思った希香は咄嗟に美菜の方を鋭く振り返った。
「美菜さんっ!」
 異変に気が付いた美菜が立ち上がるのと、公司が叫ぶのと、ほぼ同時であっただろう。
「あいつ、また消えたぁ?」
 消えていた。
 つい今しがた、黒板に向かって数学を解いていた筈の転入生、浅香涼輔の姿は、蒸発した様にその場から姿を消していた。
 もちろん、ドアから出て行った訳ではない。
 それは公司自身がずっと見ていた。
 動揺はあちらとこちらで進行している。
 美菜が窓際に駆け寄るのを見て、何事かと思った来未もまた勢い良く立ち上がって窓の外を見た。彼女もまた、希香の叫び声に反応していたから、涼輔がその場から消えたことには気が付いていない。
 が、彼女らはすぐ、窓の外の光景に驚愕することになる。
「……あ、あれ、浅香君?」
「何であそこにいるのよ? どうやって降りた訳?」と言って来未は振り返り
「……いないじゃない」
 教壇にいないことを確かめた後、
「それよりあれ、幻魔衆の奴らじゃない? 浅香君、あいつらと戦ってるの?」
 美菜は無言で窓の外を見つめていたが、すぐに教室から飛び出して行った。恵のもとへ向かう気であろう。
 希香と来未は呆然と恵と涼輔の姿を見ていたが、公司や咲貴の声に、我に返った。
「二人とも、早くここを出るわよ! 囲まれたら逃げ場なんてないわよ!」
「どっから来るかわからないぞ! 廊下に出て左右を守るんだ」
 公司も言い捨てて、廊下へ走った。
 後に続いていく咲貴に来未、希香に霞美、それに隆幸。
 こうなると、当然教師や同級生らは騒がなければならない。
 が、なぜか皆の姿はその場から全て掻き消えていて、一人もいないのであった。沢山の机と椅子、そして教室の光景が後に残されていた。つまり。今この空間にいる人間は彼らだけということになる。
 このありうべからざる現象と、公司らのとった行動、そして次の瞬間に来未が口にするであろう幻魔衆の存在については、後に語らねばなるまい。
 とにかく、彼らは教室を飛び出した。







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