降臨の章5
「――いやぁ、びびったのなんの。いねぇと思ったら、いきなりいるんだもの」
休み時間。
公司はじめ咲貴、来未、希香、隆幸、それに美菜は一階の玄関傍にある自動販売機までコーヒーを買いに出ていた。眠気覚ましということなのだが、金のない咲貴は予定通り希香にたかっておごってもらっていた。
話の中心はもっぱら公司と咲貴である。
先程の転入生失踪(?)事件を、二人は熱心に語るのだが、聞いている面子が悪い。
うんうんと聞いているのは希香だけである。
隆幸、美菜は二人の怪談を真面目に聞くほど人は良くない。むしろ、また始まったか、程度に聞き流して横でコーヒーをすすっている。
来未は咲貴と公司の話はそっちのけで、二人が意気投合している方に興味がある。
いきおい、二人は希香相手に喋らざるを得ない。
が、希香は聞いているだけで話にのってこない。自分から議論を展開する程自己主張が強くないのである。いつものことなのだが、公司にしてみればじれったい。
「妙だと思わない? どうやっていなくなったか、どう考えてみても不可能なんだよ」
「……妙ですねぇ」
にこにこしている。
結局、そのまま話題はフェードアウトした。
来未と隆幸は、次の授業に来る教師の話をしている。
「……さ、教室に戻るわよ。二時間目が始まるわ」
美菜が一人先に歩き出した。
続いて歩きながらも、公司はまだ納得していない。
彼には一つの推理があった。
「……咲貴さ、俺、ふと思ったんだけど」
「何? 浅香君のこと?」
「うん。あいつって、実はさ――」
言いつつ上階への階段を上ろうとすると、一同は上から降りてきた恵にばったりと出くわした。
「あら、恵。どうしたのよ? 図書室はもういいの?」
「あ、お姉ちゃん、探したのよォ。教室に行ったら、霞美さんが下へ降りてったって教えてくれたから……」
なぜか、恵は必死そうである。
「もう来てたのかい? まだ早いのに」
「誰かさんと違って恵ちゃんは勉強熱心だものねー」
公司や来未が軽口を叩いても、恵は笑わない。
美菜は怪訝に思った。
「何かあったの? 行ってみたら鍵かかってたとか?」
恵は首を横に振った。
何かどうしても伝えたいことがあるらしく、美菜の腕をとったまま離れようとしない。
彼女の顔を覗き込みながら美菜が言った。
「もう二時間目始まっちゃうから、次の休み時間に聞かせてもらえる? それまで、そうね……」
多分地下で何かあって自分を追いかけてきたのだろうと察した
美菜は、自分がすぐ行ける場所を教えた。
「前庭に銅像とか校旗がかかっている広場があったでしょ? あそこならのんびり座っていられるから。今日なら天気も良いし、教室からでも見えるから。ね?」
正門から玄関に通じる道の途中に、そういう場所がある。美菜の言う通り、全ての教室から見える位置にあった。
自分が見えなくても、窓際にいる希香なら見ていてくれるだろうと、彼女は思ったのである。
無愛想な美菜が、妹に対しては、別人のように優しい姉の表情になっていた。
恵がこっくりと頷いて、玄関の方へ出て行った。
彼女を見送りながら、希香が
「恵ちゃん、どうしたのかしら? 何か様子が違ったみたいだけど……」
理由がよくわからないから、美菜は何も答えようがない。
階段を上りながら、不意に隆幸が言った。
「悪い予感がする。できれば、後で俺も一緒に話を聞いても構わないだろうか?」
思慮深い隆幸の頼みである。
美菜は「いいわよ」と快諾した。
ちょうど公司にも、さっき咲貴に言いかけた、思う節があったが、そのまま黙っていた。
あとで恵に聞けばわかるだろうと思ったのである。
教室に入ると、浅香涼輔がじっと窓の外を見ていた。
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