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双転生物語 降臨の章
作:北野 鉄露



降臨の章22


 眩しさの余り思わず顔を背けた美菜。目が慣れないながらそうっとそちらの方へ視線を移すと、涼輔が光壁を放って触手の大群を阻んでいた。光と化した彼の意志と、邪な生命の波動が競り合い、例の音が発されていたのである。
 ふと、美菜は気が付いた。
 なんと、涼輔はあの無数のおぞましい触手を、左の片手だけで押さえている。宙ぶらりんの右手はというと――やっぱりポケットに突っ込んでいた。
 その是非はともかく、彼の強靱な意志、そして生命力の強さに、美菜は舌を巻いた。涼輔本人はただでは済まない程の怪我を負い、加えて、度重なる攻撃からの回避でさんざん体力を消耗しているのである。
「……ォオオオオオォ!」
 光と触手の向こう側で、酷性が大きく咆えた。
 金属音のような、耳障りな音が一層大きくなった
 酷性から派生した触手が、さらにプレッシャーをかけてきているらしい。光壁を突き破ろうとして、光壁が発する拒絶のインパクトと激しく衝突し合い、断続的にフラッシュが続いた。例えるなら、記者会見などで一斉にたかれるフラッシュにも似ていた。
 しかし、涼輔の横顔は少しも動揺していない。生命力を込めている左手をしっかりと突っ張り、どこまでも触手の大群をシャットアウトして寄せ付けない。
 一瞬、心のどこかで安堵していた美菜。
 が、涼輔の背中から不規則に飛び散る血飛沫が目に入った瞬間、彼女は我が身の浅はかさを恥じた。恵を守ることと引きかえに受けた傷であるのに、さらには自分までも守られっぱなしでは、彼に対して何一つ申し訳が立つものではない。
 何かアクションを起こす必要を思った。
(あ、あたしも、なんとかしなきゃ……!)
 といって、この状態で、どう手を貸していいものやら、見当がつかない。
 命の鍔迫り合いをしている最中に、横から飛び込める訳がないではないか。
 美菜が躊躇している間も、生命力の拮抗は続いている。
 やがて、無尽蔵に繰り出されてくる触手の多さに、埒が明かないと思った涼輔。
 彼はポケットから右手を引き抜くと、素早く左手に合わせて突き出した。
「……このォ!」
 気合いと同時に、光壁が一際激しく閃いた。
 すると、今まで受けに回っていた光壁が涼輔の手を離れて反転し、間髪を容れずに前へと驀進していった。その様はあたかも、壁全体が押し出されていくようであった。
 涼輔が撃ち放った気合いによって瞬間的に勢いを得た光壁は、それそのものが巨大なプレッシャーとなって触手を片っ端から粉砕し、消滅させていく。彼の一撃の前に、小賢しい狡猾な生命の象徴とも思われる触手など、何ら意味をなさなかった。
 空間を走った光壁、もとい命術は、そのまま酷性本体にも襲いかかった。
「……ォオオオオォ!」
 酷性の口が大きく開かれた。
そこから放出された、濁った黄色い光。それは酷性の前面にパッと展開し、涼輔の白い命術を間一髪のところで支障した。
 またも繰り返される、命術と命術との鍔迫り合い。眩むような閃光が簿異空化した校舎内に満ち満ちている。軽く地震のように揺れているのは、その強力な命術同士の衝突による振動であるらしかった。
 力と力の拮抗は、やや涼輔が押している。
 守りの光壁を一瞬で攻撃の命術に転化させるという凄業を彼がやってのけようとは、酷性も予想できなかったらしい。咄嗟に打ち放った波動によって何とか防御したものの、涼輔の命術に具わった勢いは、受け身な酷性のそれを少しづつ退け始めた。
 肉眼で確認できないながらも、その感覚は、撃ち手の涼輔にも当然伝わっている。
(このまま押し切ってやる!)
 彼は両手に、更にぐっと念を込めた。
 命術が、一層激しく光芒を放ちだす。
 生死の拮抗線がぐぐぐと酷性側に見る見る押されていき、その状態で決着がつくかと思われた時であった。
 目も眩むような光の中、涼輔はふと目の前を過ぎる影を認めた。
「……?」
 次の瞬間、彼はそれが何であるのかを悟っていた。
 例の、消滅させられた筈の幻魔衆の影達である。いつの間にか音もなくすぅっと涼輔を取り囲むように現れていた。
 と思った瞬間、影達は彼を素通りして背後へと抜けていった。
 狙いは涼輔ではない。美菜であった。
「……この!」
 不意を衝かれたといっていい。
 強烈な閃光に視覚を奪われていた美菜は、その異変を察知出来ていなかった。
 はっとした時には、囲まれていた。
 前と左右に、表情のない、幽鬼のような幻魔衆の影がある。意志のない、人形のような相であった。
「……!」
 恐怖が、美菜を凍りつかせた。
 一方、涼輔は両手にかかる抵抗がふっと抜けたことに気が付いた。
 酷性が彼に命術をぶつけるふりをして、その実、幻魔衆の影を放って美菜を襲わしめる策に出たのだろうと受け取った。
 となれば、話は早い。
 これを奇貨とばかりに、彼は右腕だけに念を移行させると、そのまま右後方の美菜に向かって振り向けた。
 涼輔の腕を離れた白い光が宙を走る。
 そして、まるで生き物のように美菜の足元に収束すると、一気に下から上、一点から放射状に展開し、幻魔衆の影と彼女とを遮断するようにした。
 が、次の瞬間には、影達は一斉に掻き消えていた。
 そこで、涼輔は酷性の本当の意図を悟った。
(――ダミーだってのか!)
 気付いた時には遅かった。
 前から、巨大な光弾が、ほとんど間合いを奪いつつ迫ってきていた。
「……野郎!」
 涼輔が左手をそちらに差し向けたままでいたのは、かなり奇跡的であった。
 光弾が今まさに彼をとらえようとした刹那、ぎりぎりのところで光壁は生まれた。
 が、不完全なままの光壁は、光弾の直撃こそ防いだものの、圧倒的なプレッシャーを散らすことまでは出来なかった。
 左手で光弾を支えたまま、涼輔の身体はぐっと後方に押されていった。
 彼は、すぐ背後にいる美菜の身を思った。光弾は人間の一人や二人は簡単に呑み込んでしまいそうな程に大きい。光壁が展開しきれていないから、黙っていれば光弾の余波は彼女に直撃してしまうことになる。
(……姑息な手を使いやがって!)
 涼輔は左手を前に突き出しているから、二時の方へ身体を開いている。
 美菜の守りに当てていた右手をさっと前に向けるや否や、彼はその手にありったけの生命力を吹き込んだ。腕全体が、たちまち白い光を纏った。命術を撃ち放って酷性のそれを霧散させ、急場を凌ごうとした。
 しかし。
「何――」
 彼の左手にかかっていた悪意の光弾は、突然アメーバのようにぐうぅっと左側へ方向を変え始めた。つまり、美菜に向かおうとしている。ここまで素直でない命術は、さすが涼輔といえども遭遇したためしはなかった。
 酷性の光弾は大きく、しかもその勢いは衰えていない。とても、片手であっさり展開した光壁などで防げるものではないと、涼輔は瞬時に判断した。
 光弾に半ばもっていかれるようにして左手を右側へ回し、同時に右手に溜めてあった生命力をそれにぶつけていく。
 一際激しいフラッシュが、美菜の目の前で起こった。
「……きゃっ!」
 思わず身を竦ませる美菜。
「……滑り込み、セーフ……」
 間一髪、美菜と禍々しい光弾の間に、真っ白なウォールが立ちはだかった。
 涼輔はといえば、そのプレッシャーに押されまくり、美菜よりも後ろに下がってしまっている。正面きって防ぐのならともかく、不規則不定期に捻じ曲がってくる酷性の命術は、とてもまともに支えきれるような代物ではなかった。
 恐るべき、負の執念の象徴である。
「……あ、浅香君?」
 ようやく、状況を理解した美菜。彼女の命綱を、涼輔が必死に握り締めているかのような格好である。
 光弾の威力は、なおも衰えない。
「その、まま……うご、く、なよ……」
 全身全霊で、光壁を支えている涼輔。ちょっとでも気を緩めれば、光壁は弾かれ、美菜に光弾が直撃するのは目に見えていた。
「あ、あ、あたし――」
 言葉にならないまま、何かを言いかけようとした、次の瞬間である。
「――正気か!」
 涼輔が叫んだ。
 美菜に向けられた一撃がなおも生きているのというのに、追い討ちの一弾が、今度は涼輔目掛けて放たれてきていたのである。
 がら空きになっている涼輔の正面。
 無情にも、酷性の命術は彼を外すことなくとらえていた。
 涼輔にしてみれば、自分で回避できない美菜を庇うべく彼女側に光壁を集中させるのが、精一杯だった。
 彼の手から生じている光壁は、ちょうど美菜の手前で十時の方向を向いて展開している。手の数がもっとあれば別であろうが、これ以上涼輔にはどうすることもできない。強いて彼は、美菜へのそれを緩めることなく、なおも強力に展開させ続けた。
 追い撃ちの一撃は美菜を掠め、背後に直行していく。
 霊魂のように覇気なく鈍い光球は、いきなり空中でパッと幾つかに分裂し、速度をゆるめることなく涼輔に向かって突進した。
 相当にダメージが効いてきている彼には、咄嗟にそれを防ぐこともかわすことももはやままならなかった。
「……!」
 何とか回避しようとした体制のまま、無情にも酷性の命術がヒットした。
 肩、腕、胴、脚と、瞬く間に貫通していく。
 瞬間、身体が持って行かれそうになるのを、ぐっと涼輔は耐えた。打ち抜かれる瞬間、身体のあちこちで爆竹が鳴っている様な、激しい衝撃を感じた。
 物理的に刺された訳ではないから、穴こそ開かなかった。
 が、悪意と殺意が濃縮されたその光丸が抜け通った直後、その部位が激しく切り裂かれ、血を噴き出させた。フッと舞った血が、たちまち壁や床に散らばり、殺人現場のような見るもおぞましい光景を造り出した。
「……くっ、この……」
 涼輔はなおも踏ん張り持ち堪えようとしたが、さすがに力が奪い去られていた。傷口という傷口から、血と一緒に噴き出してしまっているのである。
 ほんの一瞬、気が遠くなるような心地がし、その途端に彼はがっくりと膝から崩れ落ちた。 そのまま、倒れ伏した。
「あ、あさ、か……君?」
 顔から血の気が引いた美菜。
 彼女の傍で、涼輔が残した光壁と光弾とが相互に作用しあって、パァンと弾け跳んだ。本命が涼輔への一撃であったから、こちらの光弾は威力が落ちていたものらしい。
 しかし、美菜にはそんなことはわからない。意識は、傷ついて倒れた彼にだけ向けられていた。
 涼輔の限界と美菜の動揺にはお構いなしに、なおも事態は進行している。
 もはや狂気でしかない酷性に、遠慮も情けもあるものではない。
 容赦なく、とどめの一撃が放たれた。
 新たに酷性の全体から発されたそれは、光弾などではない。真っ黒い、闇のような球体である。軌道に従って、濁った赤色の尾を引いていた。涼輔の命術のように光速ではなく、ゆるゆると宙を流れながらこちらへと向かってきている。
 触れただけで生命力を吸い尽くされてしまいそうなその禍々しさに、美菜は身体が震えてくるのをどうしようもなかった。とても自分の力でどうにかできるような代物には思えなかった。
 が、しかし。
 重ねて負傷し倒れている涼輔が、自力で起き上がって回避できる余地は、どうみてもある筈がなかった。
(あたしは……あたしは――)
 どうしても、身体が、足が、動かない。
 迫り来る邪の生命力の凶暴さに圧倒され、明らかに生命が芯から怯えていた。
 美菜にはこれまでなかったことである。初めて幻魔衆と対峙した時にも、彼女は果敢に挑み、そして退けた。
 が、この酷性の、いかにも凶悪で執拗な生命悪の波動は、そんな彼女の生命にも簡単に作用しつつある。多少の心構えなどでは、人間は自らを律し続けることは不可能である。何も、真っ向から打ち破られるばかりではない。巧妙に、少しづつ、その内側に侵食し、気が付いた時にはもう毒されてしまっている、人間の生命悪は時としてそのようにして人間を退廃せしめていく。
 膝ががくがくと震え、力なく床に座り込んでしまった美菜。
(……駄目。あたしになんて、あんな、ヤバいもの防ぐことなんか――)
 言い訳のように心の内で何度も呟いていた。
 そうしている間にも刻々と、不気味な黒弾が迫ってくる。
 赤のような黒のような、もやもやと不定形に揺らめくその存在を、美菜は虚ろな目で見つめている。
 ふと、異空から舞い戻った恵の嬉しそうな表情が浮かんだ。
 浅香さんがずっとあたしのこと、庇ってくれたから――。
 そうだった。
 美菜の心の、どこか別の部分が、ぱちんと弾けた。
 妹を、恵を守ってくれた彼を、見殺しになど出来るものではない。ここで胸中に立ちはだかる壁を打ち破って助けなければ、いよいよ彼女はただの恩知らず、というだけではない。裏切りである。最も卑劣な、決して許されざる生命の働きである。
(……裏切り――)
 様々な思いが彼女の中で駆け巡っていく中、思いがけなくもその言葉だけが妙にはっきりと、心の中にずしりとした重みをもって、留まっていた。
 かつて、何よりも大切に思っていた人が、彼女にぶつけた突然の一言。
 お前の存在は、俺には必要ない――。
 美菜にとって何よりも辛いその言葉だけを残し、その人は姿を消した。それきり、彼女の前に現れることはなかった。またいつか、誰かに傷つけられることがただただ怖くて、いつしか彼女はとにかく自分を守る自分になってしまっていた。たった一人、無邪気に自分を慕ってくれる妹の恵にだけは心を許しつつも。
 過去に自分がされて最も悲しく、そして自分だけはするまいと心に固く誓っていた筈の、人間最低の行為、「裏切り」。その根源にあるのは、自分のことしか見えない、自分のためなら平気で恩をも忘れてしまう、卑怯、臆病という忌むべき生命であるといえる。その生命のために、この世の中でどれだけの数限りない悲劇が繰り返されてきたことだろう?
 それを、今、まさに自分が繰り返そうとしている。臆病という生命悪が狡猾にも、紛らわしい形をとって美菜の生命に付け入ろうとしていたのである。
 しかし、我が生命の働きを見つめ、そのことに気が付けたならば、決して生命は毒されてしまったりはしない。
 裏切り、という言葉が反芻された時、美菜はハッとした。
 同じ過ちを二度と、二度と繰り返させてはならない。
 例え、再び自分がそれを受けようとも、決して、自分がそれをすることは――。
 なのに、命を賭して恵と、自分を庇ってくれた、浅香涼輔に対して、今それをしてしまおうというのか? ここで彼を救えるのは、もはや誰もいない。いや、美菜本人しかいないのである。
(そう……そうよ! ここで彼を救えなかったら、その時あたしは――)
 生命を絶たれてしまう、という次元のことを思っているのではない。
 もはや、人として、あるまじき存在に成り下がってしまうであろう。そうなった時、果たして自分は恵に合わせる顔があるのか。いや、真っ当な人間であるといえるのか?例え言語に絶する苦痛を負い、あるいはこの場で彼女自身が喪われてしまったにせよ、貫き通すべきものを、彼女は覚知していた。
(あの人なんかのようには、断じてならないわ。あの人のようになんか……)
 その強い一念が彼女をして、咄嗟に果敢な行動を取らせた。
 この絶体絶命の中で、それだけの決意を復旧させることに成功した彼女の生命もまた、本来は根底に尋常ならぬ強靱さを備えていたといえる。
(……絶対に、やらせるものですか!)
 反射的に、床を蹴って飛び出していく美菜。
 酷性の凶弾の速度が遅かったのが、幸運であった。
 滑り込むようにして、宙を走る命術の前に立ち塞がった。すかさず、それを防ぐようにして、両手を思いっきり前に突き出す。
「こんのォ!」
 そんな気合をはしたないと思う余裕はなかった。
 ただただ、守らなければならないという意識が彼女の全身を満たした瞬間、奇跡は彼女に味方した。
 美菜の目一杯に広げられた十本の指という指先から一気に光が迸る。光はちょうど、酷性の命術を遮るように彼女の前面に展開し、一本一本が有機的に連携し合い結合しあってたちまち壁状を模した。
 間一髪、光のウォールは黒い波動を真っ向から受け止めた。衝突しあっている部分が凄まじく摩擦し、火花が断続的に散っている。その激しさたるや、ほとんど視界を奪われてしまった程である。
 押しつ押されつ、光同士の鍔迫り合いが始まった。
「……な、に? 双転の娘、光壁、だと?」
 驚きの色を隠せない酷性。フラッシュの向こう側から、例の不愉快な声が轟いた。
 が、仰天したのは涼輔も一緒であった。彼はぐっと頭をもたげ
「お、お前、光壁使えなかったんじゃ……」
「……知るもんですか。人間、必死になれば何だって出来るのよ!」
 無我夢中で酷性の術を防ぎながら、美菜が叫んだ。余裕こそ全くないにせよ、これまでにない闘気を漲らせて幻魔衆に立ち向かっている彼女の姿に、涼輔は言い知れぬ好意を覚えた。
「……それもそうだ」
 が、初めて駆使する光壁の術である。集中力が途切れかけてきたのか、次第に美菜が押され始めた。
「……!」
 彼は傷ついて体力を消耗していることすら忘れて跳ね起きると、素早く美菜の傍に駆け寄って援護するように光壁を展開した。
 弱まりかけた光が、再び強く輝き出した。
 もはや、生命力という、力と力のぶつかり合いである。瞬息でも気を抜いた方が、たちまちのうちに吹き飛ばされてしまうであろう。
 激しく体力を失っているであろう美菜を気遣って、涼輔は両腕に自分の意識の全てを集中させた。
 彼の全身から実体化した生命力が光と化して腕に集い、手の平から四方に放射されて一層激しくフラッシュする。しかしそれは、彼の全身の傷という傷から、更に出血を強いる結果にもなった。
 時々思い出したように血飛沫が飛び、床を紅に染め上げていく。
 それでも涼輔は光壁を弱めない。
 張り合うように、美菜もまた薄れかける集中力を必死に高めては、光壁を一段と厚くした。
「怪我人は休んでたら? このくらい、あたし一人で平気よ」
 美菜が皮肉交じりにからかった。
 微かに笑みを浮かべ、それに応じる涼輔。
「君だって、今は怪我人だろう」 
「……素直じゃないのね」
「……まぁな」
 その瞬間、二人の光壁は対峙している酷性の姿も捉えられない程に輝きを増した。
 自分と美菜の生命力が完全にシンクロした瞬間を、涼輔は見逃さなかった。
「――てえぇ!」
 刹那、彼は渾身の気合を込めて光壁を命術に転化させ、そのまま狙いもせずに撃ち放った。
 美菜のそれと完全に調和して一つになった巨大な涼輔の生命力は、酷性の術を中央から侵食し、微塵に弾き飛ばしつつ酷性目掛けて空間を走った。同時に、涼輔の血が夥しく吹き上がった。
 間合いは十分あった。
 しかし、光の力を帯びた命の波動は、恐るべき光速をして進んでいく。揺ぎ無い確固たる意志を秘めた、不退転の生命の象徴であった。
 自らの術が打ち消されたことに気付いた時にはもう、酷性が避ける余裕すらない間近なところまで光の弾丸は迫っていた。
「何ィ――」







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