自由のツバサ 〜loneliness in god blessing〜縦書き表示RDF


えっと、英語の表記は多分あってる筈です
間違ってたら教えてください! 孤独の中の神の祝福って意味です。

自由のツバサ 〜loneliness in god blessing〜
作:飛焔


自分は何時も1人だったと思う。
誰も信じれなくて。

誰からも期待されず。

誰も本当の僕を知らない。

本当の僕は……こんなに笑ったりしない。
偽りの僕はただ愛想笑いとかするだけ。ただの演技だ。
そんな僕の何が良いのか? 多数の女子から告白された。
どれも断ったけど。
誰も表の僕しか見えて無い。都合のいい所しか見えてないんだ。

形だけの友人。煩いだけの先生。
どれもが、本来の僕を知らない。
本来の僕は、優しい人なんかじゃない。
心にいつも……

兄貴に対する嫉妬の感情があるからだ。

そんな自分が醜かった。
自分でも僕は馬鹿だと思う。

僕はただ兄貴の影を背負って行くだけだから。
兄貴が凄いのは分かる。
だから憎いんだ。

今回もまた……

兄貴の賞をただ眺めるだけなのだ。


『八神の落ちこぼれ』
それが、世間が抱く僕に対する目だ。

父親は大財閥の総帥。

母親はフィギアスケートのオリンピックの金メダルの常連選手。

長男は親父の会社を継ぐ事になる技量がある。

長女は大病院の御曹子の息子との結婚が決まった。

それぞれがそれぞれの道を進んでる。エリートの道を……次男もだ。
兄貴はピアノの道を進みだした。今では金賞の常連だ。

そうして僕……僕は何も長けている物がなかった。
兄貴より僕はピアノを前からやっていた。
5歳から……高校2年に至る今まで……ずっと……。

でも、賞は1つも取った事がなかった。
いくら練習しても。
いくら楽譜を繰り返して見ても……。
1つも賞を取ったことがなかった。

『才能が無いんだから止めろ』皆が皆、僕にそう言う。
僕は何回も……何回も……幾度も。
苦虫を咥えていた。

誰からも期待されず。独学でピアノをやり。何度も土下座してコンクールにだしてもらった。
しかし……結果は惨敗。
当初は先生が居なかったからだ。と、何度も自分に言い聞かせていた。
できない子に講師をつけるほどウチの親たちは甘くなかった。

どういうわけか、兄貴もピアノをやり始めた。
初めてのコンクールでイキナリ金賞。
それから、コンクールがあるたびに兄貴は金賞を取っていった。
『天才現る!!』新聞の見出しに3冠した次の日の新聞に載った。

兄貴にピアノの講師がつけられた。
僕にはつけないで……。

何度も悔しい思いをした。何度も何度も何度も。
僕はアイツの影に隠れていたのだ。

スポットを浴びる兄貴。
その影で光を憎む、『闇』が本来の……
本当の自分だから。




もう、夕方か……。

音楽室から外の夕日を見る。
野球部やサッカー部の声が聞こえてくる。
僕は起き上がり、外の夕日を眺める。
眺める事しか僕はできないのだ。
僕は……何時だって

「僕は……」

ピアノに目を向ける。
楽譜が散らばっている。
僕がやったものだ、自分の才能に嫌気が注して。
ピアノも、兄貴からもオレは逃げ出したんだ。
もう、なんでピアノを始めたか分からなくなった。
練習用のピアノも兄貴に取られ、僕には学校の音楽室で練習するしかなかった。

「・・・・・・・・・」

今、ピアノを止めたら……僕には何も残らない、全て、消え失せる。
今までの時間も。苦労も……そして涙も。
何もかも……全て。

悔しい悔しい悔しい悔しい!!
凄く悔しかった、僕の有一の趣味であったピアノも夢でもあった金賞も全て消えるのだ。
何年も努力して努力して……何回もやったピアノを止めようと思った自分が憎かった。
悔しくて涙が止まらなかった。
最後に泣いたのはいつだったろうか。
兄貴に初めて賞を取られたからだろうか?
水が楽譜にポタリと、落ちた。
止めようと思っても止まらなかった。

これで、ピアノとはおさらばしよう。
半泣きの状態でピアノと向き合う。
引いてみればわかる。10年以上の『無駄』な時間の結集を。

適当に楽譜を拾い立て掛ける
そうして、ピアノと最後にもう一度向かい合い、鍵盤に指を駆け巡らせた

引き終わった……。
自分でも思う、兄貴なんかこの何万倍も上手いじゃないかよ。
涙も止まり、落ちていた楽譜を拾おうとしゃがんだ時のことだった。

「キャッ!!」

ドスン! と、音を発てて誰かが倒れてきた。
泣いていた事を知られたくなかった。だから倒れてきた人を見ない事にした。
多分目が赤くなってるだろう。

「イタタタタァ? あ! スミマセン!! 邪魔ですよね!! 今、出て行きますから」

声からいって女性だろう。

「いいよ、別に」

最初は、自分でも何を言っているか分からなかった。

そうか、暫らくして気がついた最後の最後……。
自分でも未練がましいと思った。
最後は……観客が居る前でピアノを引きたかった。

「僕の、本当の最後の演奏だから……聞いてくれないかい?」

笑顔で僕は彼女に向かいそう言った。
適当な楽譜を掴に椅子に座り直す。

集中する。最後で観客が居るから失敗したくなかった。
告別式……だから。
鍵盤に神経を集中させて、鍵盤を叩く。




ポロン♪ と、綺麗な音色で演奏を終える。
こんなヘタクソの演奏よりコンクールへ行って聞いた方がいいであろう。
特に、兄貴の……。
席を立ち、楽譜を拾おうとした時だった。
パチパチパチ!! と、大きな拍手が音楽室に響き渡った。

「凄いよキミ!! 凄く音色が綺麗!!」
「凄くなんかない」
「イヤ! それが凄いんだよ! それはね、誰にもできるってな物じゃないんだよ」
「練習さえできれば、誰にだって……」

できるさ、僕なんかより上手にね。
そう言おうとしたが言えなかった。
彼女が口を押さえたのである。

「そんなこと言わないの 自由がある翼わね、いっぱい羽ばたかないとね勿体ないんだよ? キミはそれを持ってるんだから」

彼女はそうにこやかに答える。
僕は彼女の笑顔にドキッ。と、させる。
彼女の笑顔に見惚れてしまっていた。

!!ッ。正気を取り戻せ!!

「翼はもがれたよ……ずっと前にね」

兄貴に、ずっと前にね……。
僕がずっと1番望んでいた……1番欲しかった翼は。
だから、羽ばたくことなんて、できっこ無い。

「だから……これで、お別れなんだ」
「もったいない。キミは。飛ぶ力があるのに」

そんなの、僕に存在しない。
ツバサは……もがれたのだから。
彼女はなんでそんな事を言うのだろうか? 彼女は僕の何を知ってるんだ!!

「キミに僕の何がわかる!!? キミは本当の僕を知らないだろ!! なんでそんなに無責任なんだよ!? 僕の気持ち! キミに分かるか!!」
「わかるよ」

彼女は優しい顔で僕に向かい合い。こう、答えた。

『キミのピアノにキミ自信が存在してるんだよ』

と……。
この言葉が頭から離れなくなった。

「キミがピアノが好きな気持ち。いーーーーーーーっぱい。伝わったよ」
「!」
「キミは人を優しくするほど、綺麗な音を出せるんだよ」

彼女の言葉が全てが僕の『闇』を攻撃していた。
1言1言がオレを光へ誘う。
僕も……アソコへ行けるのだろうか?
八神の落ちこぼれの……僕が?

ずっと、光に当たりたかった。

ずっと、光に当たる兄を憎んでいた僕が。

スポットなんか浴びれるはずが無い。
自分でも卑屈だと思う。

そして、いつも光の影に隠れるだけの僕が……?

「大丈夫♪ キミならできるんだから。私が、保証するんだよ?」
「キミは? 気安く……気安く僕の心の中に入り込むなよ!! キミは何様だよ!! 僕の……何を分かってるつもりだよ。 僕は! ピアノをやめるつもりで今日やめたんだ!! 今更、なんだ!!! 僕は……何をしたら……いいんだよ」

初めてだろう、他者に本当の醜い自分を見せたのは。
本音を吐いた事に、自分でも驚いた。
嗚咽が止まらない。
僕は彼女を見上げるしかなかった。

「キミは、神様って信じる?」
「はっ?」

唐突に、彼女が聞いてきた。

「私はね……」

一回間を空ける。
彼女が口を開けようとした瞬間だった。

「あら、見つかっちゃった? つまんなーい」

大きな黒づくめの大男達が入ってきた。
当然イキナリの事に僕はたじたじになる。

「神様はね
         ちゃんと居るんだから」
彼女はそう言い残し教室から立ち去った。






いおり! おーい。起きてるかぁ〜」

僕の頭の中から彼女が消えることが無かった。
昨日あのひ……僕は彼女が気になり、音楽室から出ていった時にすぐに彼女を追うようにでて行った。
しかし、影すら消えていた。

「庵! 無視しないでくれ!!」
「ん? 羽岡か……」
「羽岡か……。じゃ、ねぇよ!!」

コイツは羽岡博十はねおかはくと。僕の友人だ。
サッカー部のエースストライカーだ。コイツの力でサッカー部は国立で優勝。名実ともにサッカー部の救世主だ。
2年を差し引いて1年生がサッカー部のキャプテン……。
人望も厚く人情に弱い。
どこぞの主人公なんだか。
現3年生も納得してるらしい……。

「庵〜♪ 頼みがあるんだけど〜?」
「数学の宿題か? ったく、持って来い教えてやるからよ」
「さっすが! 持つべきものは頭が良い人材もとい! 親友だよな!」

羽岡は自分の机に向かい、筆記用具を用意する。
後ろに人の気配があるので振り返って見る。
居たのは、クラス委員長の東雲しののめゆかり……僕の女友達だ。

「東雲もかよ? ったく、しっかり頼むぜ委員長」
「いいじゃん♪ 私は写させてもらうけど♪」
「あ、ズリ―ぞ! 東雲!!」
「早いもの勝ちよ!」
「オレが先に庵にお願いしたんだぞ!!」
「いいじゃない☆」

オレの席の前で喧嘩しないで欲しい。
うるさい……。

「「庵!!」」

とばっちりも要らん!

「うるさい!! お前等2人とも教えてやるから座れ!!」
「「は、はい!!!」」

チャイムが鳴るまでの10分弱。
オレは羽岡、東雲と数学の宿題を手伝っていた。
僕の隣の席が空いてるので机を付けて。東雲を座らせる。
もちろん羽岡ヤローは地べただ。

知っていたがこいつ等、まったく数学ができなかった。
ためしに小学生にも分かる問題を出す。
<11922962×64892299×123456789×0>
を、だしてみる。もちろん答えは『0』だ。
どんにに大きな数に0をかけても答えは0になるからだ。
それを、あいつ等ときたら・・・・・。

羽岡博十<数え切れないほど>

東雲ゆかり<庵もすぐにできないくせいに…>

なのだ。
2人共数字じゃない。
しかも、東雲のヤツ……僕を馬鹿にしてるな。ってか、愚痴か? 愚痴なのか!?
「はぁ〜」僕はココにも絶望した。





「転校生を紹介するぞ」

大野がSHRショートホームルームが始まった途端、そんな事を言った。
当然、転校生だ。クラスが騒がないはずじゃない。

ヤローですか? 女ですか!?」

と、男子。

「喜べ男子、女子だ」

と、大野は答える。
男子は歓声を挙げる。女子はなーんだと落胆する。

「可愛い子ですか?」

と、羽岡が質問する。

「ハッキリ言うぞ……」

一同が息を飲む。
たっぷり10秒ほど溜めて大野が口を開く。

「絶世の美人だ」
『シャァァァァァァァァァァァ嗚呼嗚呼!!』

最後の方、男子が壊れてないか?

「入れ」

大野が短くそう言う。

「はい」

澄みきった女性の声だった。
ガラガラと、扉が開く。

あんなに騒がしかったクラスが一気に静まりかえった。

神崎魅瀬かんざきみらいです」

僕はハッとした。
彼女は……昨日の?

「魅瀬さんは、3ヶ月だけ親の事情でこの学校に転入することになった。短い間だが仲良くするように」

大野の言葉に誰も反応しない。
クラス中が彼女……神埼魅瀬に見惚れたためだった。
男女構わず見惚れてしまうような完璧なその容姿に……。
白髪しらがと言うより汚れの無い純白が似合う白髪はくはつ
紫外線すらも見惚れて、与える事を忘れてしまったかのような白い髪に白い肌。
僕も……その内の一人だ

「席は……そうだな。 八神の隣が空いてるな」
「先生!! 僕の隣の席も空いてますよ!!」
「下心があるヤツの隣にはさせんよ」

クラスが笑いに包まれる。
先生……僕が女に興味が無いって遠回しに言ってませんか?
それって果てしない勘違いですよ?
と、ツッコミを入れてる間に彼女が近づいていた。

「久しぶりってか昨日ぶりだね? 『庵』♪」

!? ボクの名前を知ってる?

「なにっ!! 彼女を知ってるのか八神庵ぃ!!」

すると、先ほどの馬鹿が声を挙げた。

「昨日少し話しただけだよ。五十嵐遊馬いがらしゆうま様」
「キサマに様を付けられたくないわ!!」
「いやいや。ウチより名門だからね。一応ね」
「鬼、鬼鬼鬼鬼鬼・・・・・鬼叉魔きさま嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼!!!!」

壊れたか。
この馬鹿は五十嵐家の1人息子の五十嵐遊馬。
五十嵐は不動産屋の父親を持つ、しかも、世界を股にかけるほどのな。
ま、クラス1のナンパヤロウだけど。

「まぁ、よろしく」
「うん」
「こらぁ! 逃げる気か!? 八神庵ぃぃぃぃぃぃぃぃいい!!!」
「お前なんか眼中にないよ」
「八神庵ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいい!!!!!!!!!!」

ヤツの叫び声と同時にチャイムが鳴った。




「・・・・・・・・・・・」
「なんだよ? 東雲?」

今は昼休みの途中。
僕達はいつもの場所で昼食をとっている。
メンバーは。僕、羽岡、東雲、なぜか五十嵐である。

「ふん。乙女心もわからぬクズが何を」
「鈍感なヤツって罪だよね」
「何が言いたいんだよ?」
「「「・・・・・・・・・・」」」
「3人共黙るなよ……」

僕がいったい何をしたというんだ?

「あ、そうだ。東雲?」
「・・・・・・・・・」

く、黙るなよ。

「映画のチケット。頼まれてたヤツ手に入ったんだけど。それが、すぐる兄さん、何を勘違いしたか2枚くれたんだけどさ、一緒に「神崎さんと行けば?」はっ? お前が欲しいって言ったから」
「私なんかより神崎さんの方が良いよ? 神崎さん美人だしさ?」
「し、東雲?」

なんで怒ってるんだよ?
僕なんかやっちゃいました?

こうして僕は、東雲をあやすのに昼休みを使いきった。

クソ野郎……





神崎が転入してから2ヶ月近くたった。時期は真冬の12月




「「庵♪ お昼一緒にたべよ♪」」

神崎とゆかりが同時に誘ってきた。
2人共睨み合ってる……後ろにサルとイヌが見えるのは気のせいだろう。
僕が東雲をゆかりと下の名前で呼ぶのにはワケがある。

たしか、神崎が転入してきた時だったか、ゆかりが何故か怒ってた時だったな。
あの時、頼まれてた映画のチケットをゆかりに渡そうとしたんだけど言うことを無視しやがって、なんだかんだあって僕がゆかりを名前で呼ぶことでなんとか和解したのだ。

今から思い出すと懐かしい。

そんな干渉に浸る暇はこの2人が与えてくれないのだ。

「庵は1年の時から私達と一緒にお昼を食べてたの!!」
「たまにはいいんじゃない? 他の人だって?」

何回このやり取りを繰り返してるんだよ?
1ヶ月ほどこのやり取りを何度も僕の前でやっている。
他のクラスメートもこの2人の中には……訂正

「魅瀬ちゃん。八神庵なんかほおっておいてこの、五十嵐遊馬とご一緒に「「黙れ!!」」グハァ!! ふふ、魅瀬ちゃん、キミの愛のムチ……受け取った………よ」

血を吐いて、馬鹿五十嵐は倒れた。
懲りないやつだ……。

「はぁ〜」

今日も果てしなく絶望するのだった。

そんな時だった。

「八神ぃ!!」

担任の大野が罵声を挙げて教室に入って来た。

「なんですか?」

助かりました、大野先生。
内心大野に感謝する。

「お兄さんが……悠一君が交通事故にあった!!」
「! 兄貴が?」
「意識不明の重体だそうだ」
「・・・・・・・・・・・」

兄貴が……死にそう?
自分の心がどちらに片寄ってるかわからなかった。

兄貴を恨む自分と。
すでにピアノをやめて普通の兄貴の弟である……僕。

自分がだちらに片寄ってるか自分でも何がなんだか分からなかった。

この日僕は早退して姉の旦那が勤める病院へ急いだ。




「……悠一兄さんは?」
「生と死の1枚皮……」

姉はそう僕に向かいそう言う。
僕は「そう」と、だけ軽く言う。

長椅子に腰を落す。

僕はただ見るだけ
今後の展開を……。
ただただ、見るだけ。




兄貴は一命を取り留めた。
ただし、当たり所が悪かったらしく、兄貴の左腕が使い物にならなくなった。
別に兄貴は右利きだから別に生活に支障は無いが。
ピアノが出来なくなった。両手で弾くピアノだ……片腕では弾くのは無理だ。
やろうとしたらできる。でも……それは編曲をしなければ不可能だ。
兄貴ならできる……才能があるから






「諦めるよ。悔しくもない」

僕は兄貴のその一言でカチンと、きた。

「ふざけるな!!」
「落ちつけ! 庵!!」

卓兄さんが僕を羽交い締めにして押さえるが僕はそれを払いのける。
許せなかった「ピアノを辞めるの?」
と、聞いたら兄貴はそう即答したからだ。

自分の才能に嫌気が刺しあんなに好きだったピアノを兄貴に譲り……。
凄く悔しかった。
ピアノを辞めた次の日にはただ手を見てることと、彼女の言葉しか頭に無かった。

「才能があるのに! あんなに練習したんだろ!! なんで、即答できるんだ!!」
「庵!」

卓兄さんが制止するが僕は止まらない。

「なんで、すぐ諦めれるんだよ!! なんで、悔しくないんだ!!?」
「始めから、ピアノをやる気は無かったからだ」
「悠一も!」

身体中の血が頭に血液が熱く。灼熱の炎のように熱い血が僕の頭に昇って行く。
悔しさが、憎しみが、人間の不の感情が全て僕の身体を駆け巡った。
そして、頭の血管が切れた音が脳内に響いた。

「やる気が無かったのに、僕からピアノを奪ったのかよ……」
「・・・・・・・」
「庵も悠一も!! 落ちつけって!」
「卓兄さんに僕の気持ちがわかるか!!」

僕は卓兄さんに罵声を挙げる。

「あんた等、ここは病院よ?」

みさお姉さんが入って来た。
その時、卓兄さんが説明しようとした時、力が緩んだ。
僕は卓兄さんを払い除けて病室を出て行く。

商店街を抜けてから、雨が降り始めた。
服が濡れ、靴までも濡れてしまってる。

身体が重い……。

疲れた……。

身体中が熱い……。

雨足が強くなっていく中、僕は行くアテも無く僕はずっと走っていたのだった。
途中で勢い良く転ぶ。
立ち上がろうとするが力が入らない。
走る気力さえ無い。
服が濡れて気持ち悪い……。
目から、雨以外の水が手に生暖かく……じっとりと。
何粒も何粒も……目から落ちていった。

暫らくして立ち上がる。
そのまま路地裏にひっそりとしていたネコを見つける。

「お前も……1人……イヤ、1匹か?」
「ニャー」
「そうか……そ、うか……」

ネコがこちらに近づく。
僕の目の前に座る。

「シャー」

ネコは再び路地裏に歩いて行く。

「付いて来いってか?」
「ニャー♪」

僕はネコにつられて路地裏にひっそりと佇んだ。





「1泊ありがと」

ネコにそう言い僕はその路地を後にする。

「ニャ!」

またな! そう言いたいのだろうか。
野良なのにやけに懐くじゃねーかよ。
僕は気が付かないうちに口元を緩めていた。

「・・・・・・・・」

昨日とは違い雲1つもない快晴の空……。
僕は足を進める。
当然、アテも無く。




財布の中を確認する。
12000円……十分ある。
今後泊まる際はネットカフェを使おう。
2週間ぐらいはもつだろう。

「庵!!」

呼ばれたので振り返る。
歩道橋の階段で羽岡と、ゆかりが居た。
逃げ様と思ってたら逃げれていた。
だけだ、逃げ様と思わなかった。

2人が近寄ってきた。

「庵! 卓さん達探してたんだぞ!?」
「ノープランで飛び出すなんてアンタらしくないじゃん!?」
「そこじゃないと思うぞ……ゆかり?」

オレはちゃんとツッコミを入れてやる。

「服もこんな濡れて……」
「雨の中走ったからな」

オレは自分のポケットからアレを取り出しバレないようにゆかりのバックに入れる。

「庵、帰った方が良い」

羽岡が心配そうに聞いてくる。

「……そうかもな」
「なら!」
「……でも、帰ったって何も無い」
「いお……り?」

ゆかりが驚いた顔で僕を見てきた。

「僕にはピアノも……何もかも!! 全て!!」
「お、おい。庵?」

羽岡が手を差し伸べるが僕はそれを払いのける。

「僕は2ヶ月前……僕の全てを消し去った」

「お前等に、僕の気持ちはわからないだろ」
「・・・・・・」
「庵? なんで?」
「・・・・・・」

羽岡は黙り、ゆかりは僕に質問する。
僕は黙るだけ。

「僕は、お前等を本当に友達と思ったことはないんだよ。
            なれなれし過ぎなんだよ!!」

それだけ言い残し僕は反対方向に走り去る。

前にも1度、こんな事があったはずだ。
そうだ、神崎魅瀬……あいつだ!!
アイツと初めて会ったあの時だ。

人の心境を見抜いたアイツなら……。

この、深い闇に落ちた僕を……救ってくれる。

そう、思った。

根拠も……何も無い



『キミのピアノにキミ自信が存在してるんだよ』
彼女の言葉が僕の思考の中に蘇った。

「……しまったな、ノープランすぎたか」

住所がわからなければ意味が無いじゃないか。
ご利用は計画的に。の、CMを思い出す。

そうですね……。

そうだ……
こんな時にこそアイツじゃないか!

僕は近くにあった公衆電話に入り、アイツに電話をかける。
テレホンカードを入れてあいつの家に電話をする。

「五十嵐だな」

『キサマは八神庵かぁ!? なんだキサマ!?』

「落ちつけ馬鹿」

『馬鹿とはなんだ!? 遊馬様と呼べ!!』

「で、五十嵐聞きたい事があるんだが」

『無視か!? キサマに耳はないのか!?』

「アホ、耳がないとキサマの声が聞こえないわ」

『あぁ、そうか』

「納得してどうする?」

『ったく、お前が電話するんだから重要なことなんだろ?』

「……そんなに重要じゃないな」

『おい!』

「まぁいい。神崎の家の住所を教えて欲しい。お前ならしってるだろ?」

『魅瀬ちゃんの? お前にはゆかりちゃんが居るじゃないか?』

「どういうことだよ?」

『お前等付合ってるんじゃ?』

「誰がそう言ったんだよ?」

『オレ』

「テメーかぁ!!」


いろんな事があったが神崎の住所をてにいれた。

神崎に会えば……。なにか、大きく変わるような気ががした。
いや、期待……なのだろうこれは。


                   ―Yukari Shinonome―


「・・・・・・・・・」

私は布団の中でずっと泣いていた。
庵の言葉が胸に突き刺さっていたのだ。

『お前等に、僕の気持ちはわからないだろ』

私は本来の庵を見ているつもりだった。けど、あの時の庵は私の知らない庵だった。
全てを受け入れず。すごく、冷たい目をしていた庵だった。
なにも、隠してないのがわかった……17年近くも一緒だったのだから。

私は初めて全ての感情を表に出した庵を見た……。
私だけでもない……羽岡ですら息を呑んでいた。

私は庵を知っていて庵を知らなかったんだ。

それが、凄く悔しかった。

もしかしたら、私があの庵さえ……知っていれば……こんなことにはなっていなかった。
そう、考えてしまったから。
あんなに、近くに感じていた庵が……消えていた。

<ピンポーン>

下でインターホンが鳴った。
庵かもしれない!? そんな、勘が私の中に駆け巡った。
急いで、階段を降りて玄関のドアを開ける。

≪ゆかり……≫

そんな幻聴が聞こえた。

「ゆかりちゃん!!? 庵は!?」

玄関の前に居たのは、庵ではなかった。
八神の長男の八神卓やがみすぐるさんだった。

「す、卓さん!? なんでここに?」
「庵は!? 庵は居る?」

その言葉の真意が私にはわからなかった。

「GPS! 庵のケータイ……っはぁ」
「! 庵の携帯にGPSがついていて、それを辿ったらここに?」
「そう! 庵は?」

なんで? なんで庵の携帯のGPSがここで反応してるのよ?
私はそれを繰り返すのみだった。
すぐに自分のポケットから携帯を取り出して庵の携帯に電話をかける。

卓さんに上がってもらって発信源を探る。

反応は私の部屋であった。

私のハンドバックの中で庵の携帯は鳴り響いていた。
いったい……いつ、私のバックへ?

私は幾つかの疑問符を頭の上へ挙げていた。



               ―Iori Yagami―

「東区3丁目……ここら辺だよな?」

僕は未だに神崎の家を探していた。

昨日の汗と雨と、さらに今日の汗で服が本当に気持ち悪かった。

「ん?」

子供が球遊びをしていたのが視界の中に入ってきた。
そんなに珍しくは無いと思うが危ないなぁと、思った。

ここは歩道が狭くて車の通りが結構多い。
しかもT字路だ、もし……ベタな展開があれば……。

ヒヤヒヤしながら僕は子供を見ていた。



案の定だ。子供はボールを取りこぼし、球は公園から毀れて、車道にでる。子供は道路へと取りに向かう。

「!!ッ」

子供からは視野に入ってないだろうが、子供の反対側に居た庵からは視界に入った……。

トラックだ。

「危ない!!」
「?」

ボールを取って大きな声をだした僕の方向をみて立ち止まる。

「ちぃ!!」

全力で駆ける。
もっと速く……速くしないと!!

赤の他人でも……死なせて為るものか!!

<ドォン!>

その轟音は周りに響いた。





                    ―Hakuto Haneoka―

「・・・・・・・・・」

オレは庵を自分に例えて考えていた。

もしオレが……サッカーは好きだけどドヘタで才能のある親友……いや、弟の雄祐ユースケで考えてみようか。ユウがサッカーの天才となっていたら?
幼少の時からやっていたものを好奇心でやり始めた弟が才能を開花させる。
親の目は弟に向いて、監督も、友人もユウしか見えなくなる。
そして、オレは……オマケ扱い……。いや、『落ちこぼれ』なのだろう。
……庵はこれ以上にも悔しかったのだろうか? 才能があったオレにはわからない。
オレだったら凄く努力してがんばろうとする。
もちろん、ユウの方も力をつけるけど。

庵は人が良すぎるんだ……。
オレだったら譲れない。
譲りたくない。
考えただけでも……憎くなった。
帰ったら苛めてやる。

……庵は、それを譲ったんだよな。アイツは……優し過ぎなんだよ。

『危ない!!』

そういう少年……歳は同じぐらいだろうか? 少年が叫ぶ。
ユウが居ない!!

さっきまで、野球の練習をやっていたユウが忽然と姿を消していた。

イヤな予感が全身を駆けた。ここの歩道は狭いんだ。

「ユウ!!」

公園から勢いよくオレは飛び出すが……直後。

<ドォン!>

その轟音は辺りに響いた。




               ―Iori Yagami―

僕はどうなったのだろうか? あの子供は・・・助かったのかな?
僕の思考の中に、それが残った。

助かれば……良いなぁ……。
そう、考える。

___自分の生死より他人の心配をするんだ。

どこからか、幼い少女声が聞こえた。いや、頭の中に響いた。

「? お迎えかな? どうせこんな声が聞こえるなんて僕があの子供を突き飛ばして僕が弾かれたんだろ?」

___人間にしては、理解が速いじゃねーか。

幼い少年の声も脳内に響いた。

「死は受け入れるよ、僕は……」

それが、1番……本当に楽なのかもしれないから。

___珍しいね? 普通の人なら死から逃げ出そうとするのに?
___けぇ! 新手のMかよ。

「んだと?」

___この、馬鹿が失礼なことを言ってスミマセン。
___馬鹿言うな。

こいつ等……馬鹿か?

「聞いていいか? 君達はなんだ?」

“生と死の最終審判者です(だ)”

2人の声が重なった……仲が良いんだか悪いんだか?

「死でいいよ」

___自殺志願者?

「そうじゃない」

___じゃあ、なんだよ?

「オレは必要のない人間だから……誰からも、僕を僕として見ないから」

暗いトーンで話しかける。
誰も……僕のことを必要としていないのだから。

___良いの? 泣いてくれる人も居るんだよ? 帰りたいとも……
___他の連中と違って即断できるから楽じゃねーかよ。

「僕はね……なんも無いんだよ」

___なにも……無い?

少女の声が質問してくる。

「僕が唯一……本気になったものが奪われたんだ……だから、何もない」

___唯一……本気になったものだぁ〜?

「ピアノ……だよ」

___ピアノ……綺麗な音色ですよね。

「だよね」

___そうかぁ? オレはギターとかの方が好きなんだけど?
___あんたねぇ……。

「ギターも好きだよ……ってか、音楽は大好きだよ……、
ま、兎に角……僕は『死』を選ぶよ」

___いいの?

少女の声が僕を探る。
僕の決意は揺るがない。
まぁ、神崎と話せなかったけど……どうでもいいや。

___LAST−JUDGMENT。

少年の声が聞こえる。
僕に、最後の審判が下されようとしていた。



              ―Yukari Shinonome―

「………………ウ……ソ、だ」

目の前が真っ暗になった。
なにも、考えれないくて、ただ……胸が痛いだけで。

私は無意識のうちに足を崩していた。

八神庵が、交通事故にあったのだった。
意識不明の重体……



                 ―Yuuma Igarashi―

「八神……庵が……?」
「はい。お坊ちゃま」

僕は……自分の苛立ちが隠せなかった。
アイツからの電話でただ事じゃないことはわかっていただろぅ!?
あの、朴念仁で落ちこぼれで……と。挙げたら限が無いほどイヤなヤツだった……
けれども。

八神庵は最高の好敵手ライバルなんだ。

アイツが居なければ僕は暇つぶしもできない。
死ぬなら別に良いが。死ぬなよ! 八神庵!!

「お父様の、知り合いに名医がいたよな?」
「はい。五右衛門ごえもん様です。奥様がお坊ちゃまをお産みになる時に危険な状態になったお坊ちゃまを無事に生還させたお方です。たしか、緊急病院の名医だとお聞きしています」
「わかった。八神を助けてくれと伝えてくれ」
「わかりました。旦那様にお伝えします」

そう言いメイドが下がった。

……なぁ? 庵……。お前が居ないと、競い合う相手が居ないのは寂しすぎる。





                 ―Iori Yagami―

最後の審判が僕に告げられようとしていた。

___審判……完りょ「ちょっと、待って。メルにメア」


審判に待った! と、いう声が『聞こえた』

___!!
___何故、あなたが?

この2人とは違って……聞こえたのだ。
しかし、この声に聞き覚えがあった。

「神……崎?」

この声の主は、神崎魅瀬の声だった。

「やぁ、庵♪」

その、本人だった。





「信じがたいがお前は神様ってこと?」

僕は胡座を掻きながら神崎に問い掛けた。

「キサマ! セレナ様に対してお前とは……!!」

この口生意気なガキはあの少年だ。
茶毛の小学生くらいの男性。

セレナとは神崎の真名(本名)らしい。

「こら。メア! セレナ様の御前でそういうのは口にしないの!」

と、クソガキに注意する少女はメル……淡い光のような金髪の小学生くらいの少女である。

「いいのよ」

と、だけ神崎……イヤ、セレナ様が仰る。

「ねぇ? 本当に死んでいいの?」
「神埼……じゃなかったな、セレナ様。僕はすでに決断しておりました」

にこやかに笑顔のまま僕はセレナ様に返す。

みるみる内に頬を膨らませる。

「神崎でいいよ」
「神様ですから」
「キサマ!! 神崎様の頼みすらきけないのか!?」
「アンタに言ってない言ってない」

と、メルが返す。

「……はぁ〜」

神崎はため息を落す。そして、真剣な目で僕をみてきた。
僕は笑顔を消し。真剣な顔で神崎に向かい合う。

「……僕はまだ、死ね無いんだな?」
「!」
「肉体と魂が離れ切れてないんだろ?」

なんとなく、感じていたことを口にする。3人の表情を見る限り正解なのだろう。
絶望的な状態には変わらないのだろうが。

「そうよ。庵は……正確には生きている」
「やっぱり……か」

僕はそう呟くだけ。

「……ま、完全に魂と肉体が離れるまで待ってろよ」

と、メアが呑気に言う。

「神埼……お前が神ならよぉ……頼みたいことがある」
「ん?」

「兄貴の……悠一兄さんの腕を直してくれないか?」
「・・・・・・・・・・」

神崎の目が真剣そのものになる。
アイツの視線がオレから外れない。

「どうして? キミは恨んでたんじゃないの?」

神崎がオレに聞いてくる。

「確かに、僕は兄貴を恨んでるよ。自分勝手な兄貴を……けど、尊敬……嫉妬でもあるんだ」
「嫉妬?」

神崎の代わりにメルが僕に問い掛ける。

「才能だよ。誰もが思うよ……天性の物なんだから。僕は、誰よりも兄貴を尊敬してるんだよ。僕とは違って金賞を取る兄貴を僕は尊敬してたんだ。そして、僕もあんな才能が欲しいと……願った。でも、才能と努力は違うって……最初から知っていたんだ。だから……兄貴がピアノを辞めるって聞いた時には怒ったさ。よくよく考えるとさ……何時の間にか……本心は、兄貴を事故に合わせたヤツを恨んでたんだよ……尊敬していた人物を奪われたのだから。本当は、兄貴の事が……大切だったんだって」
「……治ったって悠一さんはピアノを辞めるわよ」

相変わらず、僕から視線を外さない神崎が僕に……そう告げた。

「・・・・・・・・・」

神崎の次の言葉は……なんとなくわかっていた。

「兄貴は……僕を執念の力っていうのかな? 兄貴は自分もピアノをやってライバル心を持たせようとしたんだろ?」
「……えぇ」

とだけ、神崎は軽く答える。
普通逆効果だろぉが……
「……。気に食わないんだよ。やれるなら僕はその実力をだしていたさ!!」
「出してても、お前の兄貴には勝てないんじゃないか?」
「メア!!」

メルがメアに注意する。

確かにそうかもしれない。いや、そうなんだろう。

「でも! 僕はね___





                   ―???―

「庵……オレさぁ。高校卒業したらイタリアのセリアAに行ってみようと思うんだ」

サッカーボールを上手にリフティングしながら、羽岡は僕にそう告げる。
これは、高校生活最後の春の事だった。その時、僕は大学の進学も決まり安定した時の事だった。

「そうか。お前はウチのサッカー部の救世主だもんな」

まだ、寒さが抜けないので、僕達はトレーナーを着ている。
羽岡の蹴ったボールが僕の足元に転がる。それを、つま先でボールを上げてリフティングする。

「2年の冬……覚えてるか? あの時は12月なのに雨が降ってさぁ。まぁ、明日は天気が良かったけどな。それよりよぉ? お前さ「僕はお前達を友達だなんて思ったことはない」的な事言ったよな」
「うん」

僕は軽く答える。あの時の僕は本当に荒れていたから……。
それに……精神的に不安定だから。言い訳にもならないけど……。

「オレさぁ、やっぱり人の気持ちってわからないんだよな。お前がなにを考えてるか悩んでた……」
「悪い。あの時の僕はぁ__……言い訳はしないよ。ゴメン」

ボールを羽岡の方に返す。
羽岡は美味く胸で勢いを殺して足元に運ぶ。

「違うよ、やっぱりオレは馬鹿だ。友達とは思ってないんだら? なら、『親友』だよなって♪」
「はは。羽岡らしいじゃん」
「だろ?」

親友……そう、言われた時、本当は泣きそうになった。
あんな、暴言を吐いたのに、この馬鹿は『親友』と呼んでくれた。

「がんばれ」
「ん?」

僕は小声で呟いたが聞き取れなかったみたいだ。
だから、僕は大きく深呼吸する。

「がんばれ! 『博十』!」
「……あ、あぁ!!」

球が高く上がる。顔を上げてやっと見えるぐらいに。
そのボールは僕の手元に落ちてくる。

「その前に英語すらできないだろ?」
「うっ!」




羽岡と分かれて1時間もたたない。けど、僕にはとても長い時間に感じた。
2年の冬を思い出してたからだ。

今でも、思い出せるよ?
『あの時』の、僕の『答え』……。




「でも!、僕はね……これで良いんだと思うんだ。それが生きている事で幾度なくあることなんだから。人と人は当然それぞれ違う、それを分かってるから。人は……人なんだよ」

拳を強く握り締める。今なら、人生最高の握力を出してる感じがする。

「当然の事なんだけど……人は劣等感を覚える。「アイツに出来てなんで僕が出来ないんだろうか?」「僕の方が優秀なのになんでアイツが出来るんだ?」そう、考えてしまう。僕みたいに」

飽きることなく、僕は続ける。
自分でも、久々にいっぱいしゃべってる。

「そう……完璧じゃないと許せないんだよ。人間って馬鹿だからさ。1日……頭を冷やしたよ」

「僕は僕だから僕のままでいいんだって」

「だから、知ったんだ。僕は僕らしく生きればいいんだって。僕は出会ったネコみたいに……自分の居場所すらないのに、他人の居場所を作ってしまう馬鹿なんだって。そして、ピアノが大好きな阿呆なんだってさ」

特上の笑みで僕はそう言う。

「庵は優しすぎるよ」

神崎がそう呟く。

「欲張りは言わないよ。僕はどうなってもいいからさ。兄貴の事……頼んだよ」
「それでいいんですか?」

メルが僕に質問してくる。

「僕は半分が死人だろ?」
「正確ではないけど。身体のほうが魂を切り離した時点でアナタは完全な死人。死なない限り私達は本題に入れない」
「……そぅ」

僕が犠牲になれば兄貴が助かる……考えが甘すぎたか。

「なぁ、神崎?___




ケータイが鳴った。人が折角思い出してるっつーのに、ダレだよ?

「はいはい、僕の思考の邪魔をする馬鹿は誰ですかぁ〜?」
『・・・・・・・・』
「悪戯なら切りますよ?」
『・・・・・・・・』

お、おかしい? 何故黙るんだろう?
恐る恐るケータイの画面を覗いて見る。

<東雲ゆかり>そう、出ていた。

「ゆ、ゆかり?? 」
『私、邪魔ぁ? 庵ぃ……』
「なんで涙声なの!? 僕が悪かったからさ! ゴメンって!」
『庵の馬鹿ぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!! ぷつっ』

切られた。どうしよう、怒ってるよな〜。
……まぁ。
          どうでもいいか♪

布団の中に入ろうとするが、またもやケータイが鳴る。
手にとって着信を確認。<東雲ゆかり>と出る。

「なんだよ?」
『ゴメンね♪ 庵〜〜〜〜〜〜〜〜』
「煩い。なんのようだ? キサマも呼び出しか?」
『超能力者か!!? 超能力の才能あるんじゃないの!?』
「ないない」

くっ。どいつもこいつも……。今日は厄日か?

「んで、何処に行けばいいんだ?」
『学校』
「忘れ物だなんて言ったら、友達の縁を切るぞ」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「さよなら、ゆかり。この3年間楽しかったよ」

僕は携帯の通話を切ろうとする

『待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええ!!!!!!!』

携帯からゆかりの絶叫が聞こえた。
しぶしぶ、言い訳を聞くことにした。

「なに?」
『なんでわかるのよぉ? じゃない! 今、切ろうとしたでしょう!
ちょっと! 話しを聞いてよぉ。忘れ物もそうだけど、庵に会って話したいの』
「まったく。今から行くよ」

僕は、また一階いっかいに下りて。「出掛けて来るから」と、親に伝えて玄関へ
お気に入りのスニーカーを履いて外にでる。
そして、歩きながら僕は学校へと足を進めた。



校門前に差し掛かった。
校門ではゆかりが待っていた。

なんだ? 念入りに髪を手入れしてる?
まるで、デート前の乙女だな

「おい。さっさと終らせて帰っぞ」
「う、うん!」




ついた場所は音楽室だった。どうやら……この馬鹿の魂胆は……。

「ね、ねぇ? 庵?」
「……お前……忘れ物は口実だろ?」
「テヘッ♪」

忘れ物を口実に……また、僕にピアノを弾かせて……またピアノと向き合って欲しいって事ね
ご丁寧に……羽岡に五十嵐も居やがる……。

「お前等も隠れるなよ……バレバレ」
「ちぃ。折角庵と話してセッティングの時間を稼いだってのに」
「完璧だったのに……クソ」

第一あんなに速く次から次へとくるかってんだ。

「庵……」
「はぁ〜。1曲だけだぞ?」

そうだなぁ……。
何を弾こうか?

そうだ……これが、自分らしいのかもしれないな……

フランツ・リスト作曲
「詩的で宗教的な調べ」第3番
【孤独の中の神の祝福】

そういえば……最後に弾いたのも……コレだったな……。

終りがコレで……始まりもコレか……

この譜面は頭の中にある……。

うん。弾こう……コレからも。
ずっと……

なぁ? 神埼……? コレで良いのか?

アイツの言葉を……思い出した。
最後に……アイツはこんな事を言っていた。

『ツバサが折れたから庵は空に向けないんじゃないの。庵はね、お兄さんと戦うコトを恐れた勇者なんだよ。ツバサが折れたコトを言い訳に、お兄さんとピアノと向き合わなかった。死を受け入れる勇気があるなら……お兄さんとピアノに立ち向かう勇気はあるよ』

この、曲同様に……
僕の孤独の中に神崎が居たそして、彼女が救ってくれた……
これは……本当に僕らしい……曲だ。

前に進めないRPGは……全クリは不可能なのだから。

前に歩こう……魔王たる兄貴を超えるタメに。

行ってやるさ……待ってろよ兄貴……
僕も、ヨーロッパの舞台に立ってやるからな。
まずは……ここから始めて……。

孤独とはあり得ない、心の内に必ず一人は居るんだ
自分を照らして前に押してくれる孤独の中の神様は
自由のツバサで、高みの空へとも、押してくれる。 

それを、みんなと出会えてわかった。

神崎だけじゃなくても……みんなが、僕の孤独の中の神の祝福となる者達なんだ。

前へ後押しを受けよう……素直になって。

鍵盤に自分の思いを乗せて弾き始めた。

やっぱり僕は……ピアノが好きなんだ

これが、僕の物語の終りと始まり……
間逆の物語……


                 ―END―


庵「結局僕はどうなったの?」
作「う〜ん。僕の書いてるのは行き当たりばっかだし考えてねぇや」
庵「……」
作「アハハハ」
庵「ってか、ゆかりから電話が来た時の前に僕が神崎に言いかけた言葉……ありゃなんだよ?」
作「……いいかい……読者様のご想像にお任せだぃ!」
庵「……僕に暴力の力があれば……」
作「和君でも太郎ちゃんでもないからな」
庵「ピアノ線……人の首なんて簡単さ」
作「ま、待てぇ……さ、最後の最後で悲惨だぞぉぉぉぉぉ・・・
(後はご想像のままに)

八神庵
本作の主人公。超イケメンの捻くれた野郎
ピアノが大好き。
神崎魅瀬
本作のヒロイン。気がついた方は多いと思いますが神様です
絶世の美女
東雲ゆかり
本作のサブヒロイン。周りを元気にする女性
庵が大好き
羽岡博十
庵の親友。サッカーの天才で将来性は大有り
ゆかり同等の馬鹿
五十嵐遊馬
バーーーーーーーーーーーカで女好き
八神悠一
庵の兄貴。左手の手術も成功し、現在ではヨーロッパで音楽と向き合ってる
庵に負けないほどイケメン
八神卓
長男
八神操
長女
メル&メア
天使と悪魔


以上
『さようなら!』
遊馬「……僕を罵倒しなかったかい?」













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