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勇者のクセにデブだとは、何事か! 作者:zan
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英雄と王族の舌戦です

 それは、見覚えのある若い女性だった。
 私がメリタに誘われて行った先の、酒場にいた踊り子。確か、メリタの治療も少し手伝ってくれたかと思う。
 彼女はどうやら私の顔を覚えていてくれたらしい。

「王様を処刑するなんてどうかしている! 私たちはお前のような乱暴な王を望んでいない!」

 そうだ、よく言ってくれた。
 革命と言えば聞こえはいいが、奴のやっていることは内乱。また、仮に彼の言っていることがすべて事実だとしても、そのやり方はあまりにも性急であり、適切な判断とは思われない。
 このような輩が王座についたとしたら、暴君となる可能性は高かった。
 踊り子は歌うような美しい声でリジフ・ディーを非難してくれた。これに同調する声が次第に広がる。
 もともと王族の処刑には難色を示す人々のほうが多かった。自分たちの思っていることを代弁してくれている者が勢いづいたので、声をあげてくれるようになったというだけだ。
 だが、それでも心強いではないか。味方である。

「おお、そうとも!」
「俺たちの王様を勝手に殺そうとしやがって!」
「王女だって私たちに優しかったぞ、なんで殺す必要がある!」

 ざわめきが大きくなり、敵意となった。
 リジフは己の不利を悟ったか、かなり色めいているが、それでもどうにか落ち着き払った態度を取り戻そうとしている。一気に畳みかけたいところだが、これ以上奴を追い込んで大丈夫なのかという気もする。
 私は少しだけ下がり、彼の動向を観察した。
 英雄たるリジフ・ディーは腰の剣をついに引き抜き、血走った眼で吠える。

「やかましい、民草どもがっ!
 この俺様が身を削って調べ上げたっていうのにそれを信用しやがらねえのか! この国が魔物の手に落ちてからじゃあ遅いんだぞ。先手を打って、こいつらを皆殺しにして、平和を取り戻そうと言っているんだ。
 そりゃあ確かに残酷に聞こえるかもしれないが、このままじゃあガーデスは全滅だ! お前らも、お前らの家族もまったく誰一人助からない地獄になるんだぞ!」

 これにヤチコも続いた。相変わらず煽情的な衣装を着ているが、真面目な話をするには似合わない。
 それでも彼女もリジフをかばうため、こう言い切った。

「みなさん聞いてください! リジフのいうことを信じてください!
 今はわからなくても、あとできっとそうしておいてよかったと思う日が来ますから!
 今の王様では、きっとレプチナ王国はだめになってしまいます!」

 彼女自身はそう信じているのかもしれないが、なんの根拠もないことだ。私は必死に民衆に呼びかける彼らをよそに、縛り上げられている王族に近づいた。
 衛兵たちはいくらかの抵抗をしてくるが、私が軽く手を振り払うだけで、彼らは何もできない。というより、本気で抵抗する気がないように見える。もしかするとリジフは衛兵たちの心まで完全につかんでいるわけではないのかもしれない。衛兵らは何か弱みを握られたか説得されたかして形式上リジフの命令に従っているが、本気で王を処刑するということには抵抗があった、ということも考えられる。
 いずれにせよ、私は簡単に王族に近づくことができた。私はまず衰弱している王妃を助けようとしたが、王女がひどくアピールしてくるため、何か作戦があるものとみられる。私は腰の剣を抜いて、その剣を下賜した張本人、ケウアーツァ王女の拘束を断ち切った。

「ありがたい。すまないが少しの間、それを返してもらえるか」

 短く礼を言った彼女は私から剣を取り上げ、民衆の前へと進み出る。弱っていたとは思えない、気丈な足取りでだ。
 やはり何か作戦があるのか。あるいは、言いたいことがあるのか。
 私はいつでも飛び出してリジフから彼女を守れるようにしながら、王妃の拘束を解く。剣がなくともこのくらいの縄は素手で千切れるだろう。
 衛兵の邪魔もないので楽な作業だ。しかしそうしている間に、ケウアーツァ王女は力強く足を踏み、抜き身の剣を掲げる。

「我が愛する民よ、きけ。私たちはこの男の言うような外道な行いなどしていない。すべてはこの男の虚言だ」

 特別大きな声でもないのに、ひどく聞きよい明朗な声で、王女は話した。
 衰弱した王妃より、またやり玉に挙げられている王よりも、見目麗しく、それでいてどこかに厳しさをも併せ持つケウアーツァ王女がこうするのが良い。王太子でも問題なかったはずだが、リジフ側にやたらと肌を露出したヤチコ・ベナがいるのでちょうどよかったかもしれない。
 事実、ヤチコの肌に見とれていた若い男たちも、王女の登場でそちらへと目を向けている。

「ケウアーツァ・レプチナの名において、私たちは無実。衛兵ども、妄言を放つリジフ・ディーを捕らえろ!
 レプチナ王は正当である。愚鈍ではあるかもしれないが、暴君では決してない。
 諸君らはこういっても、なおも私らを断頭台にかけるつもりがあるのか! こたえろ!」

 張りのある声で叱りつけるような言葉をぶつける。
 さすがに王族。この演説とも言い難い短い反論は、すばらしい効果があった。
 これによって完全に、リジフ・ディーは英雄から一転して反逆者に落ちる。彼はそれでもどうにか自分の主張を押し通そうと努力していたが、衛兵たちも乗り気でない上、民衆も敵にしてしまったのでは勝ち目がない。
 だが、リジフは王女を突き飛ばした。衰弱していた王女はよろめいて倒れかけたが、私は彼女を受け止めることができる位置にいたので、大事には至らない。
 そうまでして舞台を奪い返したリジフは落ち着いた様子を必死に取り繕って言い放った。

「見苦しいぞ、王女! 今更何を言い訳することがあるか。
 お前たちが身分の上にあぐらをかいて、民衆から搾取していたことは明白だ! 皆、税金の異常な釣り上がりをどう思っているんだ。
 俺が少し調べただけでも、このレプチナ王国の税収は20年ほど前から増加の一途をたどっているんだぞ! かといって特別政治がよくなり、皆の暮らしがよくなったかといえばそういうことはない!
 要するにそれだけぶん、こいつら王族が贅沢をしているということだ! 俺たちが苦労をしている中、こいつらは堂々と楽をして遊んでやがるんだ。
 これからそれが改正されると思うのか! いままたこの機会に、こいつらに政権をゆだねて、本当にいいと思っているのか!
 衛兵ども、さっさとそいつを取り押さえろ、もう一度拘束して、断頭台へかけろ!
 王への忠誠心も結構だが、今はこの国を愛しているかどうかの問題だ! わずかでもこのレプチナ王国を愛しているのなら、この国の病巣を切り取れ!」

 なるほど今度は具体的な情報を出しての説得にきたか。
 だが、これはいくらなんでも民衆をなめすぎである。よほど無学なものなら勢いに流されて王が不当に税を搾り取っているように思えるかもしれないが、彼が行っていることが真実であるとしても、これだけでは人の心は動かない。
 私は勝ち誇るようにしているリジフに対し、たしなめるような声を上げた。

「見苦しいのはそちらのほうだ、リジフ・ディー。
 王国の税収が増加しているのは当然だ、この国は英雄スリムを輩出したことから剣術を中心に発達し、発展し、人口を増やしてきたのだから。
 人口が増えたのだから収入は増えるだろうが、それと同時に村々への兵士の派遣も増え、また猥雑な仕事も増えるから支出も増加する。税収の額だけを見て、不正があると断じるのは早計にもほどがないか。
 私の知る限り、この国は増加した収入をもって、国土の発展のために策を講じてきたはずだ。この首都ガーデスにおいてはその効果は実感されにくかろうが、新たに開発されて増えた村もあり、収穫高の増えた土地もある。また、疫病や水害を未然に防ぐ取り組みもあっただろう。
 これこそ、国の発展というものではないか。本当に王族が増加した税収を搾取しているのであれば、そのような国はとうに隣国や魔物の脅威によって淘汰されているはずであろう」

 私の言葉もまた、民衆には受け入れられたようだ。というより、皆このくらいはわかっていただろうが。
 とにかくしっかりと反論していくことが大事なのだ。この場での正義が誰にあるのか、それをわかってもらわなくてはならないのだから。
 と、足元を踏ん張りなおした王女が私の手をとった。そこで気づいたが、この体勢はまずい! 彼女を抱きとめた私は、なぜか王女の伴侶のようなかたちになってしまっていたのだ。本当に彼女の夫となるべき人物なら何ら問題ないのだが、一国の王女を抱きかかえて、そのままというのはあまりにもまずかった。緊急のときはかまわないのだが、すぐに離れなければ。
 だというのに王女は私の手をとり、優雅にふるまう。おかげで私は離れられない。

「衛兵たちよ、繰り返すがリジフ・ディーを捕らえろ。
 お前たちがいかなる脅しをうけているのかはしらないが、やっていることは反逆だ。奴と同じ罪をかぶりたくないのなら、王への忠誠を示せ。
 それと、リジフ。
 これも繰り返しになるが、お前は断じて英雄ではない。私が考えるこのレプチナの英雄はこちらにいる、スム・エテスだ」

 ケウアーツァ王女は堂々として、しっかりとした口調で言う。リジフはまだ民衆を味方につけることをあきらめていないようだが、どう見ても無駄なあがきだ。

「そんなデブのどこが英雄なんだ。王女、少しは考えてからものを言われよ。
 長年の不正を暴かれて焦る気持ちはわかるが、そのように怠惰に太った男をかばって、言うに事欠いて、英雄とは!
 大きく出すぎだぞ、あんまりにも! そもそも」
「いいや! そんなことはない。少なくともお前に比べたら」

 リジフの言葉が終わらないうちに、王女は強く言葉を重ねて打ち消す。よほどの自信があるのか。
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