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勇者のクセにデブだとは、何事か! 作者:zan
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首都へ行く方法

 一人ずつ彼らを隔離し(もちろん部屋の前で待機していた一人も捕らえた)、口裏合わせのできない状況にして念入りに尋問した結果、グリゲーの居場所とそれに接触するための方法が判明した。
 奴隷商 (もどき)のふりをしてグリゲーに近づき、対面すれば間違いなく彼の首を取ることが可能だ。
 私は体型から言って無理だとしても、メリタやイリスンなら疑われることもないだろう。これでほとんどグリゲーの命は私たちの手中に落ちたといえよう。
 ただし、ここでは生け捕りにしてやはり情報を搾り取ることが求められた。今の段階ではグリゲー・ゴンなど小物でしかない。無論、ジャクの命を金で買い求め、その運命を捻じ曲げた元凶だ。その上長年にわたってガーデスの政治経済を腐らせ、多数の人間を泣かせてきた。私がこの目で見ただけでも彼のせいで女性が一人死に、メリタの同僚が多数死に、略取されかけた少女が王女の庇護をうけることになった。(王女が囚われている今、その少女のことも気になるが今はとても手が回らない)
 レプチナ王国の首都であるガーデスをこうも腐らせたグリゲー・ゴンの罪は重い。まともな裁判にかければ死刑以外はありえないだろう。
 だが今のガーデスに彼を裁くような力はない。正義を振りかざすものはなく、悪が臣民を食い散らかしている状態なのだ。
 私はそのことも我慢ならない。もっと早くにガーデスへ行っておくべきだったかもしれないが、今ごろそんなことをいっても遅い。ともあれグリゲーの命は我々の手の中にある。そこからいかにしてリジフ・ディーへつなげるか? これが問題だ。

「お前はリジフ・ディーの人となりについて何か知っていることはないか」

 私は奴隷商の一人に軽く尋ねた。他のメンバーとはあれからずっと会わせていないから、彼は仲間たちがどうなったのかを知らない。
 こちらでもわざわざ教えてはやらないので、さぞかし不安になっていることだろう。
 目の前にいる彼は、リーダーを大怪我させたところを見ているためか、素直に話してくれている。

「勇者の曾孫と自分で名乗っていて、とにかく女に目がないって評判だ。美女なら金にあかせてでも自分のものにしないと気が済まないとか。娼館をまるごと買い上げようとしたって話もあるくらいだ。表向きは衛生管理をするってことになってたが、そんなんじゃなかった」
「では、奴はお前たちから奴隷や『使い捨て』を買ったことがあるのか。資金は潤沢そうなのか」
「女を一人買っていったはずだ。かなりの額だったが惜しげもなく払ってな。『使い捨て』らしいことをしたらしい」

 ということは、リジフは結構金持ちであるらしい。御曹司ということだから、当然といえばそうだが。
 その女というのもまた気になるが、『使い捨て』ならもう亡くなっているだろう。私の隣にいるイリスンが舌打ちをする。
 気持ちはわかるがここは辛抱しておかなければならない。
 私はできる限りの精神力で真顔をつくって、しっかりと頷いて見せた。

「ならばお前たちにとって彼は大切なお客様だ。アフターフォローをせねばならんな。今日、お前たちのところに彼の好みそうな美しい奴隷が手に入ったのだから、これはお知らせしておくべきではないのか? それも無料で手に入っただろう。
 私としてはこの機会を逃すべきではないと思うぞ。なんだったらここも無料で彼のところへ奴隷を贈って、関係を強化しておくべきだ。何しろ実質、彼は今のガーデスの支配者なのだろう?」
「なんだって?」

 彼は私の言葉にたいへん驚いた様子だったが、すぐにこちらを意図を察して青ざめた。

「ま、待ってくれ。あいつは若い女にしか興味がなくてだな、あの女は色っぽいがあれじゃあだめだ」
「はぁ?」

 我が母は低い声でそんな間投詞を投げた。

「私が若くないとおっしゃいますの?」
「あっ」

 触れてはならないところに触れてしまった、と彼はおそらく理解したのだろう。ますます顔色を悪くして、大慌てに否定している。
 だがそれは悪手だ。母がああなったときは否定ではなく「全肯定のち褒めちぎり」が正解である。そうすれば、怒りは比較的早くおさまってくれる。否定してしまった場合はどうなるのか、考えたくもない。

「その若くない女の胸を見つめて、ぼんやりしてとっ捕まったあなたが言えることかしら。
 どうせ私は若くないわ。ええ、こんなに大きな息子がいるもの、若くないわ。そうよ、若くないわ。悪いかしら」
「いいえ、いいえ。しっ、失言でした。あなたさまはお若い、色気があり、肌につやがある」
「思ってもないことを言うわね」

 ぴしゃりとはねのけ、我が母は眉を寄せる。彼女は両手突き剣エストックを引き抜き、威嚇するように鋭く血振りをした。
 ああ、これはもうだめだ。そう悟った私はイリスンをつれて、部屋を出ることにした。
 今から行われることは、悲惨の一語。目に入れてはならない悲劇なのだ。


 さて、まずはグリゲー・ゴンを捕らえるために作戦を練らねばならない。
 彼はいまだガーデスにとどまり、リジフとともに政治経済の中枢に病巣として居座っている。まずはそこから出てきてもらわねばならない。
 奴隷商から聞いた話では、今のガーデスに行くのは危険と考えられる。念入りな準備をしたうえでならともかく、適当なことをしていたのではガーデスに入ることすら覚束ないだろう。
 つまり我々がガーデスから逃げ出したあの夜以降のことだ。
 魔物が集団で王城を襲っていたという情報はもちろんガーデスを揺るがし、首都を離れようとする人間が多く出たが、門は固く閉ざされてしまったのだ。
 そのことに説明を求める臣民に対し、国からは「魔物たちはちゃんと退治されたので安心して普段通りの生活を送ってよい」というお触れが出された。そうはいっても門が開放されるや逃げ出す貴族や豪商があふれるわけであり、その対策として門の通行は制限された。具体的には一家そろっての旅行などは禁止された。無論、逃亡を防ぐ目的であろう。
 こうしてタリブ女史やロカリーに現在滞在しているような令嬢たちができあがったのだ。
 退治されたとはいうもののその後もぽつらぽつらと魔物は出現した。このせいでガーデスの市民生活は荒れており、魔物退治に街に繰り出してくるリジフ・ディーを救世主としてとらえる向きが強くなってきていた。人間は追い込まれ始めると、どんなに胡散臭い希望にも出すがりたがるものだ。ガーデスの民衆は彼らの思った通りに操られているといえよう。
 ここまではタリブ女史などから聞いていた通りだが、まださらに続きがあった。
 グリゲーはなんと、たびたび彼を害し、またリジフ・ディーに正面から喧嘩を売った私ことスム・エテスを敵視しているらしい。彼は自分の私財から賞金をだし、私やイリスン、メリタ、我が母エイナ・エテスをおたずね者にしてしまったのだ。
 私にかけられた賞金が一番多い。その額はガーデスの平均年収の5倍に等しい。すさまじい額だ。イリスンやメリタを含めればその倍になり、母を加えると3倍近くなる。
 母の情報はさすがに少なかったのか、「凡庸なつくりの剣を使う凄腕の女剣士」くらいしか設定されていないらしいが、それでもまあ見事なものだ。ガーデスの危機を救おうと息巻いていたら、いつの間にやら賞金首になってしまったというのだから、笑えない。

「となると、一般の民衆でも私たちをみたら襲い掛かってくる可能性があるということだな。
 そうならないためには人目につかないようにするか、もしくは相手を傷つけないような自衛手段を用意するしかないわけだが、前者は無理か」

 メリタは私の顔を見ながらそんなことを言う。確かに私は目立つので、無理と言えば無理だ。
 だが早いうちにグリゲーへの接触をしておきたい。そこからリジフへとつなげなければならないのだから。

「まあ方法がないではないが」
「どういう?」

 こんな状況でもメリタはいい考えが浮かんでいるようだ。

「少し痛い目を見ても、確実に目的地へと着ける便利な方法だよ。私もそうやってキコナに輸送してもらった」
「ああ!」

 聞いて、イリスンも思いついたようだ。
 この村の牢獄にメリタがいたことを考えると、すぐにその便利な方法とやらが何を指しているのかはわかる。しかしその案はあまりにも、あまりだ。

「捕虜として運んでもらう、というのか」

 私一人ならそれでいいが、メリタやイリスンがそういう扱いで運ばれるのは、承諾できない。
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