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勇者のクセにデブだとは、何事か! 作者:zan
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不意打ちには慣れています

「ちがいます。親しい関係ではありますが、夫婦ではありません」

 私はすぐに否定しておいた。放置するとあまりいいことにならなそうだった。
 イリスンは不服そうに私をにらんでくるが、相手をしていられない。

「まあ。ご夫婦でないならどのような? その服装からすると、イリスンさんもスムさまへお仕えなさっておられるとか」
「ちがいます」

 今度はイリスンが否定する。
 いや、そこは否定するべきでないのではないか。我が母には「メイドです」とこたえておいて、今度はそれを否定する。そういうことをするのはよくないと思うが、私と結ばれるという目標をもって行動する彼女をむやみに咎めるのも難しい。私は口をつぐみ、余計なことを言わぬように努めた。

「不思議ですね。お二人はとても信頼しあっているように見えますのに。ご結婚はお考えにならないので?」
「近い将来、必ずやそうなります」

 質問に対して断言するイリスンを放置し、私はタリブ女史を見やる。背中を倒木に乗せただけで、ほとんど大の字になって寝ているような格好だ。よほど疲れたのだろうが、大した距離は歩いていない。
 あまり順調とはいえないが、それでも日が暮れる前には村にたどりつけるだろう。今度もまた、番兵に追い返されるようなことになったらとても困るが、私たちと違ってタリブ女史の身元は確かだし、大丈夫だろうと信じるしかない。最悪、馬だけでももらえればいい。そうすればホリンクかバルディエトまで負傷兵を運ぶことができる。

 その後も私たちは適宜休憩を挟みながら歩き、どうにかロカリーの村までたどり着いた。
 予想よりは少し遅れて周囲は薄暗いが、許容範囲内。以前と同様に、番兵が村の入り口を守っているのが見える。
 多少の疲れはひきずっているものの、歩けているタリブ女史を先頭にする。まずはこちらの身分を明らかにし、危害を加えるつもりはないと伝えなければならない。

「おい、そこの者ども、私はヒャブカ・デン将軍が子女、タリブ・デンである。
 緊急事態につき、馬を一頭買い入れたくこの村を訪ねた次第だ。中に入れてはくれまいか」

 態度は大きいが、言っていることは間違っていない。私たちは交渉を見守った。

「これは、なんと。しかし我々とて村の平和を守るためにここを閉ざしている身。
 失礼ながら、ヒャブカ将軍の……何かそれを証明するものはお持ちか?」
「うむ」

 番兵に何やら首飾りのようなものを差し出すタリブ女史。これを見た番兵の一人が顎をしゃくると、もう一人の番兵が村の中へ走って行ってしまう。
 おそらく、村の長あたりに確認をとりにいったか、あるいは呼びに行ったかだ。

「あなた方を疑うわけではないが、いまは微妙な時期。しばし、待たれよ」
「わかっておる。私とてわがままを言いはせん」

 持ち前の態度は崩さず、タリブ女史はふんぞりかえっている。

「馬を買い入れたあとは、ここへ戻ってくるつもりですか。それともバルディエトに?」

 私は胸を張る彼女へ小声で訊ねる。彼女の行き先はバルディエトということだったが、兵士たちの疲労の具合から見てロカリーで全員を休ませるという選択肢も十分ありえた。あるいは、ホリンクへ向かうということもできる。そちらはエットナト氏が表向きはリジフに従いながら私たちを保護してくれている。そこでなら安心して休息をとれるだろう。
 タリブ女史は、私の問いに頷いて、それから軽く首を振った。

「おそらく、首のあたりをやっている兵士はもう動けまい。一度は全員、ロカリーへやらねばならん。それを皆、期待しているだろうしな」
「では、しばらくここにご滞在を?」
「まあそうなるな。お主らはガーデスへ行ってしまうのだろうが、あの地は今や混迷を極めるぞ」

 こちらを見やり、彼女は警告のようにそう口にする。
 ただの脅しとは見えない。

「存じております。ですが、それでも行かねばなりません。ときに、ヒャブカ将軍はどちらに」
「タフィーバの町まで戻られてな、そこでガーデスの異変に気づかれた。父は王の安否確認のため、ガーデスへ向かっている」

 いくらか気を許してくれたのか、タリブ女史はヒャブカ将軍の所在を話してくれた。どうやら、将軍もガーデスを目指して移動中らしい。当然ながら彼は軍隊を率いているだろうから、到着してくれれば好影響が期待できる。
 しかし、本当に今ガーデスはどうなっているのか。

「ガーデスを襲った魔物たちは討伐されましたか」
「ああ、そうだ。大半はリジフ・ディーが倒したと言っている。しかし生き残りはいるみたいで、日々あちこちで目撃情報と死体があがるばかり。
 英雄の曾孫といったところで、すべての魔物を討ち果たすなんてことは無理なんだからな!」

 今のガーデスはどうやら、そこまでひどい大混乱状態ではないらしい。それでも、日々魔物たちが人々を襲っていて、安寧からは程遠い。メリタやケウアーツァ王女がどのような扱いになっているのか、キコナは無事なのか。
 私は情報をくれたタリブ女史に礼を言った。
 そこへ番兵が何人かの男性を伴い、戻ってきた。どうやらこの村の中でも指導者的な地位にある人物であるようだ。なかでも背の高い白髪の人物が最も威厳に満ちている。彼が村長だろう。

「ヒャブカ将軍がご息女、タリブ・デンさま。ようこそロカリーの村へおいでくださいました。
 ただいまこの村は緊急事態のさなかにあり、このような場所でお待ちいただいたことをお詫び申し上げます。
 まずは中へどうぞ。狭いところではありますが、お話をうかがいましょう」
「うむ!」

 丁寧に案内され、タリブ女史は機嫌よくロカリーの村へ入っていく。彼女の護衛である私たちも中へ入ることを認められた。
 ようやくロカリーの村を見ることができる。
 私の故郷よりはほどよく都会だ。村とはいうものの、ガーデスに近いことからよくお金が落とされるのだろうか。建物はみな石造りで、豊かな緑と調和しているように見えた。住み心地のよさそうなところだといえる。
 しかし嫌な予感がする。私は思わずイリスンに目をやった。彼女は口元の傷を気にしながらも、こちらの目線に気づくなり小さく頷いてきた。
 殺気、とまではいかないが敵意を感じる。
 村長にしても我々を心から歓迎する意思がくみ取れない。何かまずい、できれば逃げたほうがいいと思われた。

「タリブさま、何か様子がおかしいです。逃げたほうがいい」
「何を言っている。村長も話を聞いてくれると言うていたではないか。それに、馬を買わねば我が兵士たちを迎えにいけんぞ」

 気をまわしすぎだ、と言わんばかりにタリブ女史はさっさと村長についていってしまう。仕方がない、私たちだけでも用心しておいたほうがいいだろう。

「イリスン、君はメイドさんを頼む」
「承りました」

 簡単にそれぞれの役割を決めて、気を引き締める
 私たちはそのまま村長の屋敷へと案内され、客間に通された。
 予想通り、その客間は私たちが中に入ると同時に扉を閉められ、出入口は武装した男たちがふさいでしまう。
 さすがにこの状況にはタリブ女史も焦りを見せたが、村長は落ち着いている。

「なに、この村はいま色々と不安定な状況を抱えております。賓客の姿を村人に見せたくはないし、余計な詮索をされたくはないのです。
 少しばかり、厳重な警備をするのもお許しください」
「そう、よな」

 こたえたものの、かなり震えた声音になっている。やはりこの状況からは悪意しか感じ取れない。
 タリブ女史はソファに腰を下ろしたが、私とイリスン、メイドは壁際に控えた。するとさっそく私たちを静かに拘束しようと男たちが近づいてくる。
 こんなことだろうとは思っていたが、実際にこられると面倒だ。
 私は伸ばされた手をつかみ返し、軽くひねり上げてお返しした。イリスンも音を立てずにダガーを引き抜き、悪意のある手を傷つけて返した。

「ぎゃっ!」

 私たちを捕らえようとした男たちが悲鳴を上げ、腕を抑える。どうやら彼らはあまり訓練されていないようだ。
 もう、隠すつもりもないらしい。客間の中にいた男たちが一斉に私たちへ飛びかかってきた。一気に引きずり倒して袋叩きにしようというのだろう。私はともかく、女性である他三名が捕囚の身になってはまずい。ここは手荒な手段をとってでも、切り抜けるべきだと思える。
 軽く後ろに下がって、私は肩から彼らへと突っ込んだ。
 体重を乗せたぶちかましで、男たちは三人ほどまとめて吹っ飛んでいく。

「なんだ、どうした」

 タリブ女史が振り返る。そのときには警備として立っていた男たちの大半が床に沈んでいる。もちろん、メイドさんもしっかりとイリスンが守っている。
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