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勇者のクセにデブだとは、何事か! 作者:zan
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英雄の又姪

 イリスン・ボックはどうやら怒っている。あのように低い声で他人に命令する彼女を今まで見たことがない。
 彼女に任せたほうがいいのでは、とも一瞬考えたが、やはりまずかろう。私は激昂するイリスンを左手で制し、おびえる女の子の前に座り込んだ。

「連れの者の無礼をお詫び申し上げます、申し訳ありません。
 私とあなた方ではあまりに身分の違いがあるかもしれませんが、私たちは田舎者ゆえにあなたの身分を存じ上げません。
 それでは十分にあなた方への敬意を示すことができない、ということもどうかご理解いただきたいのです。私どもは名を名乗り、行動の目的を明らかにしました。どうかあなた方もお手数ではありますが、身分を明らかにしていただきたい。
 また、先ほどの騒動で私たちが本当に謝罪すべきであるなら、言葉だけでなく心からそうすることもできるでしょう」

 なるべく刺激しないよう、丁重に伝えてみる。
 女の子はイリスンに大きな声をあげられたことがよほどショックだったのか、こちらをねめつけているものの何も答えない。さらに一言必要らしい。

「だんまりでは、私どもはあなた方への協力ができません。
 あなたを守ろうとした兵士たちは怪我をしており、一人では動けないものもおります。助けが必要なのではないですか」

 そこで女の子はついにこちらを見て、何やらもぐもぐと口を動かす。全く言葉らしいものは届かなかった。
 私はしばらく黙って、待った。やっと女の子がこちらに意味のある言葉を投げてくるころには、ずいぶんな時間が経ってしまっていた。

「わ、私はヒャブカ・デンが子女、タリブ・デンである。
 父ヒャブカ将軍からの命令により、バルディエトへ移動する途上だ。貴様らは命令遂行の妨げとなり、我々に時間を取らせたゆえ、謝罪を求めた」
「はぁ」

 イリスンがこれを聞いていたのか、深いため息をつく。色々な意味があるため息だろうが、もちろん私にしか聞こえないようにしているあたりはさすがといえよう。失礼な行為であることは間違いないが、気持ちはわかる。
 ヒャブカ将軍の子女という割に、ものの道理がわかっていないな。というのが私の感想だ。とはいえ将軍にはさんざん世話になっており、迷惑もかけた。その子女と名乗るタリブ女史をここへ置き去りにはできない。
 やはり、ロカリーの村までは同行するしかないだろう。

「そちらの事情は分かりました。ヒャブカ将軍には私もお世話になりましたし、恩もございます。
 タリブさまのお手伝いをさせていただきたいとも思いますが、命令遂行の妨げという件については謝罪いたしません」
「なぜだ。頭を垂れ、跪いて謝罪するのは当然ではないか。我が父の世話になったというたのに」

 私はそこで、タリブ女史の声が少しばかり震えていることに気づいた。
 どうやら私も冷静でなかったかもしれない。ガーデスが見舞われたのは、未曽有の大惨事だ。彼女のように戦う力を持たないものからすれば、私たち以上の恐怖と驚愕を感じたであろう。となれば、家柄しか頼るもののないタリブ女史が必死に自分の地位を振りかざして偉そうにふるまうのも無理はない。
 そもそも、彼女とてスリム・キャシャの血を引いているのだ。ヒャブカ将軍の子女というのなら、スリムの又姪まためいにあたる。私から見れば、再従妹はとこだ。その血筋があるのなら、真に虚勢を張って当たり散らすばかりの者ではなかろう。
 もっとも、リジフ・ディーも同じ血族だから血筋ばかり信じるのもまずいが。
 とにかく私は少し気を落ち着けて再度、タリブ女史へ話しかけた。

「タリブさまは、本当に私どもに謝罪を求めることが正しいとお思いですか。今のガーデスが恐ろしく混迷のさなかにあることは存じております。
 そんな折だからこそ、秩序と風紀は求められはしますが、実践されることは非常に難しい。
 私どもは、確かにタリブさまをお守りしている方々をお助けしたと考えております。結果、タリブさまのご一行は別の魔物に遭遇し襲われこそしましたが、より強力な魔物からは逃げることができました。
 こうした状況で、労をねぎらうこともなく、まずはともかく陳謝せよとおっしゃる意味を、わからないあなた様ではないと思います」

 丁寧な言葉を崩さないで、私はタリブ女史の目を見て言葉を並べた。
 ここで私の言葉をすべて跳ね除け、早くしろ、などと言うようであれば終わりだ。だが、彼女はそうしなかった。私の言葉を聞いて、どうしていいかわからずにいる。自尊心が強すぎて、素直に自分の非を認められないのかもしれない。
 たぶん、そうだろう。もうひと押しが必要だ。

「おそらく、タリブさまはこれまで部下の方々を守ろうと必死に気を張ってこられたのでしょう。
 でなくては、あのように乱暴なことをおっしゃるはずはありません。ヒャブカ将軍の子女というのであれば、なおさら。
 私どもも戦いの後で気がたかぶっておりましたので、非礼があったことはお詫びいたします。
 不躾とは存じますが、これで、おあいこということにはできませんか」

 私はそのように提案して、タリブ女史とそれに付き添うメイドにもしっかりと目線を送った。タリブ女史よりは少し心を保っていそうなメイドは、私の目線に気づくとわずかに頷き、すぐに行動を起こしてくれる。タリブ女史のそばにつき、彼女を支え、いくらか言葉を交わしたようだ。その内容までは聞かなかったが、ここは意地を張っても仕方がないということを諭してくれたに違いなかった。
 周囲から攻めたこの攻撃は、あたったようだ。ついにタリブ女史は頷いて、いった。

「うむ。我らにもいきすぎたところがあったのは認めよう。
 それと、お主らの助けがなければ我らは困窮していただろうし、命がなかったやもしれぬ。礼を言おう」

 よし、と私は満足した。
 やはり、冷静になればこのくらいのことは言える人物。見誤ってはいなかった。先ほどまでの高慢な態度は、ガーデスの混乱が人の心まで刺々しくさせていただけだ、と思っておこう。
 私は彼女の言葉にこたえ、応じた。

「礼を言われるほどのことではありません。私どもは当然のことをしたまで。
 ところで、護衛の方々の負傷はひどい様子。このままバルディエトには到底たどりつくことはかなわないでしょう。ロカリーの村で治療し、身体をお安めになったほうがよろしいかと」
「うむ、そうだな」

 今更尊大な口調は変えられないのか、タリブ女史は相変わらず上から目線というか、目下の者に対するような言葉遣いだ。そんなことだけで怒っても仕方がないので、私はもうその辺は突っ込まない。へりくだるだけでうまくいくのなら、そうしてやるべきだ。
 その後も少し話を続けた結果、私たちは彼女らに同行してロカリーの村へ行くことを許可された。
 タリブ女史の物言いにイリスンはずっと怒ったままだったが、問題はむしろここからだ。色々とすべきことができてしまった。
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