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勇者のクセにデブだとは、何事か! 作者:zan
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反逆者を倒すために

「町長がどのように行動されようとも、私自身はいずれガーデスに戻り、彼を訴追しなければならないと考えております。彼のしたことを公にし、そして彼におそらく危害を加えられたであろう多数の人々を、救済しなければなりませんので」
「君は彼を恨んでいるのか?」

 エットナト氏はそれまでと変わらない声色で、静かに訊ねてくる。私はこれに頷いて応じた。

「はい、私の母も被害を受けております。そしてこちらにいるイリスンの姉、メリタも」
「そうか。ならば君がそのように考えるのも無理はない。
 ところで、私はリジフ・ディーに対して虚偽の報告をすることが可能だ。君が望むなら、君の望むようにその返答を書いてもよい」
「そこまでしていただけるとは。しかし町長はなぜそこまで私によくしてくださるのでしょうか」
「別に君に対して味方しているのではない、リジフの思うようにさせるのが気に食わぬだけなのだ。奴はおそらくこのホリンクにとってよい政治を行わぬ」

 彼はそう言って、「豚はまだ到着せず」という内容の返信を書き、その場で部下に託してしまった。
 完全に言い訳のきかない行動だった。この時点でエットナト氏はリジフと決別してしまったのである。だがリジフはまだこれに気付かないだろう。奴はおそらく自分で混乱に陥れたガーデスを掌握するのに忙しいはずだ。

 それからしばらくの間、私とイリスン、それにジャクはホリンクの町で過ごした。
 町長には頼りにされ、ちょくちょく呼び出されてはどのように行動するべきかを訊かれ、また町の警備団と手合わせを頼まれるなどする。そうして三日ほどが経過し、やがてホリンクの町にエイナ・エテスが戻ってきた。

 勝手知ったる様子でズカズカと町長の屋敷に上がりこみ、堂々とやってきたというのだから我が母は全く豪胆だといえる。もちろん、すぐさま私たちは町長の屋敷に呼ばれた。
 急いで駆けつけた私たちの前に、母は久しぶりに会ったな、という以上の態度をとらずにいる。
 彼女は、客間にふんぞりかえって私たちを待っていた。
 多少の手傷を負ってはいたが、すでに自分で処置はすませており、重傷といえるほどのものではない。

「お久しぶりね、スム」

 スムちゃん、とは呼ばれなかったことに少し安堵する。そして、メリタが一緒にいないことにすぐに気付く。
 私はひとまず無難に挨拶し、それから彼女に話を促した。
 そうね、と彼女は顎先に手を当てて、それから少しだけ俯くように下を向いて話し出す。

「メリタ嬢と、ケウアーツァ王女は助けられなかったわ。キコナ女史も残念ながら捕らえられてしまった可能性が高いわね」
「あまり聞きたくないのですが、みんな死んでしまったのですか?」
「つかまっただけで、死んではいないと思うけれど。特にケウアーツァ王女とキコナ女史は絶対に生きていると断言できる。王女は政治的な価値があるし、キコナはリジフ・ディーにはない能力をもっているからこそ仲間にされてきたはずだもの、今更それを手放すはずがないと思う」

 母はそのように言うが、あくまでも予想である。
 実際には戦いに巻き込まれて無残な死を遂げている可能性がある。誰一人、今現在彼女たちが生きているところを見たわけではないのだから。

「キコナはどうして捕らえられたのです」
「予想以上にリジフ・ディーの手が乱雑で、粗暴だった。正直なところ元老の一人の邸宅、それも地下室にかくまっていたのに。あいつときたらそれを非常事態だからって徴発しにかかってきたわ。多分、そこにいるってわかっていたんでしょうね」
「なんてことだ」

 私は思わず両手を握り締めた。キコナ・ヨズ・セケアとの約束が早くも破られてしまったからである。彼女は再びリジフ・ディーの毒牙にかかっているに違いなかった。
 なんとしても助けてやらねばならなかったのに!
 しかしそれ以上の問題としてメリタが捕まってしまっている。正直なところ母でも九割がたは無理だろうと考えていたが、やはり奪還は無理だった。

「残念だ」
「そうですね、しかしきっと救出にいく好機は必ずやってくるはずです」

 私の隣にいるイリスンは、あのときと同じように表情を殺し、平然とした声でそのように言う。
 だが本当にその機会がやってくるのかどうかはわからない。いまや首都ガーデスに戻ることはほとんど自殺行為に等しい。もはや、かの地は敵地となっているのである。

「姉のことなら心配ありません。全然、何の問題もなく生きているに違いないです。あれで結構図太いですから、牢の中であろうとも図々しく胡坐をかいていることでしょう」

 私に暗い顔を見せまいと、イリスンは無理に微笑もうとして失敗している。見ていられないので、私は軽く彼女の背中を叩くだけにとどめた。
 そこに、母はさらなる情報をだしてくる。

「もう一つ悪い報せがあるわ、スム。ルニカ・ダチェットが亡くなった」
「彼女が!」

 これにはさすがに、大きな声を上げてしまった。
 ルニカは、剣術大会の出場者の中でもかなりの腕前だった。屈指の実力だったといえる。その彼女が、亡くなったとは。

「リジフ・ディーに対して直接抵抗をしたから、直々に斬られてしまった。あの傷ではおそらく助からないでしょう、とても、残念だけれど。助けられなくて、ごめんなさい」
「い、いいえ」
「ケウアーツァ王女の親衛隊はかなり抵抗をしたみたいね。王女を守るために、魔物にもリジフにも、死を賭して戦った。私はそれを少しだけ見届けて、無理をさとって逃げた……。悪いわね、あなたの代わりを買って出たのに、こんな無様なことで」
「仕方のないことです。冷静を失った私が行ったところで、無駄死にをするだけだったかもしれませんし。情報を持ってきてくれた母様には感謝しかありません」

 嘘ではない。私は素直に母には感謝をしてもしたりない。
 だがメリタや王女、キコナが捕まり、ルニカが死んだ。この情報の悲しみをまだ受け止めきれていない。私はどうしたらいいのだろうか。
 いや、全てはガーデスに起こったことなのだ。私は、首都であるガーデスに平和を取り戻さなければならない。これは義務だ。英雄の孫として生まれた私の、スム・エテスの義務なのだ。
 そして同時に捕らえられてしまった人々を解放しなければならない。
 リジフ・ディーを倒し、ガーデスを解放するのだ。それが、最終的に私が成し遂げなければならないことだ。
 目標は決まっているが、問題はそこにいたる過程にある。どのような段階を踏めば、それが達成されるのか。そこが問題だ。キコナ・ヨズ・セケアがいればその話をするのだが、計略や戦略に長じたものはこの場にいない。
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