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勇者のクセにデブだとは、何事か! 作者:zan
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村には入れてもらえません

 顔を上気させて何やら嬉しそうにくねくねしているイリスンはさておき、私は衛兵たちの様子をもう少し慎重に調べてみる。
 矢を受けていない者は、何によって倒されたのか知りたかったのだ。

「あれは、なんだ」

 私は小さな短い矢を見つけた。普通に使われいてる矢よりも、ずっと小さいものだ。
 恐らくだが、あれはクロスボウに使われるものだろう。クロスボウ。
 剣術大会の会場で、ヤチコ・ベナと思われる女性が使っていた武器と同じだ。かなり遠い位置で戦っていたので、彼女が使っていた矢と同じかどうかはわからない。

「ボルトですね。クロスボウに使う矢弾です」

 現世に戻ってきたらしいイリスンが私の近くに並んで、解説してくれる。私の見解と同じだった。
 衛兵たちは剣を抜いておらず、何かと戦ったような感じがない。遠距離から射殺されたのだろうか。
 私たちは少しずつ彼らに近づき、外の様子を見た。何か動いているような気配はなかったが、慎重に足を運ぶ。かといって、時間をかけすぎるわけにはいかない。
 もう間もなく、魔物たちは城に達し、何らかの騒ぎが起こるだろう。平和的な話し合いなどではない何かが。

 門から一歩外に踏み出した瞬間、私は何かが空気を切り裂く音を聞いた。瞬間的に手を伸ばし、ジャクを守る。
 私の右手を、何かが打ち貫いた。激痛が走るが、周囲に隠れる場所を探す。戻るのはダメだ。イリスンが狙われる可能性がある。
 残念ながら周辺の物陰はない。衛兵の死体に隠れたいが、私の身体を隠せるほど体格の大きな衛兵がいない。右手の傷を確かめる。骨と骨の間に、短い矢が刺さっている。ボルトという奴だ。
 ジャクが私にしがみつく。私は彼女の背中を軽くさすって宥め、衛兵たちの持っている盾を拾い上げる。
 この闇の中で正確に私を狙ってくるとは、敵の技量も侮れない。敵は複数か、単独か。私は感覚を研ぎ澄まして探りを入れる。
 キリキリと何か金属の機械をいじる音が、かすかに耳に届いた。この夜の静けさが、かえって私に味方してくれている。

 私を狙撃した敵は、おそらく門の上にいるのだろう。そこから私を射ち、今や第二射を用意しているというわけだ。ここから反撃しようにも門は高く、有効な反撃手段がとりづらい。
 ボルトを手に受けたときの角度等から考えても、敵のいる位置は門の上に間違いなさそうだ。
 どうやって私たちを見ているのかはわからないが、敵は闇の中を動く私たちを恐らくかなり正確に察知している。クロスボウを巻き上げ、第二射を用意している間に駆け抜けていればよかったかもしれないが、射撃準備を整えたクロスボウを複数用意している可能性を考えれば、そのようなことはできない。
 ましてやこちらにはジャクがいる。彼女の小さな身体にボルトが刺さるようなことがあってはならない。私は盾でジャクを隠しながら、少しずつ外へ進む。気配からすると、敵は一人だけだ。
 イリスンに目で合図を送ると、コクリと首肯を返してくる。彼女も少しずつだが、影に隠れて前進。
 ヒュッ、とまた風を裂く音が聞こえる。盾を構えると、ガツンと衝撃が伝わる。
 この盾は剣術大会でメリタが使っていたものと同じだ。ボルトはその盾にやすやすと食い込んでいた。それでも貫通はされておらず、盾はその役目を果たしている。

「イリスン、走れっ」

 声を細くしながらも押し出し、イリスンへ指示を飛ばす。彼女はそれを聞き、すぐさま町の外へ走り出していく。その速度を維持すれば、狙えまい。
 おそらく敵はクロスボウを二つ以上用意してはいない。再度射るには時間がかかるはずだった。
 イリスンはジグザグに走り、さらに狙われにくいようにしている。彼女が射られることはなかった。
 さらに私は盾を構えたままでそれを追い、走る。
 それ以上の追撃はなかった。
 ロカリーの村まで、私たちは逃げることができた。その代償に、メリタとキコナ、エイナ・エテスの無事はわからない。


 ほとんど休まずに私たちは一定の速度で走り続けた。ロカリーの村で休むことを前提にした移動だったが、これは失敗であった。
 なぜなら、ロカリーの村で休むことができなかったからである。

「魔物たちがずいぶんたくさん出たって話だからな。人間に化けた奴らがうろちょろしてるってんだ。今のロカリーにはよそ者を受け入れることができん、悪いが出て行ってくれ」

 村に入ろうとした私たちに、門番をしている男がこんな説明をして槍を突きつけてきたのである。
 魔物が人間に化け、様々なところで暗躍したという話はスリム・キャシャの時代にもあったと伝えられている。したがって彼らの言うことは間違っていない。
 だが、ガーデスに魔物が出たという情報が随分早く伝わっている。仮に剣術大会のときの襲撃のことであったとしても、それだけの要因でロカリーの村がこれほど閉鎖的になるとは思えない。
 私たちは仕方なく村に入ることを断念した。

「どうやらリジフ・ディーは首都から逃げ出した者がここにやってくることを想定していたようですね」
「ああ、そうだな。ロカリーはガーデスから逃げ出す場所としては最適といえる。先手を打ったのだろう」

 イリスンの意見に私も同意する。
 となると、リジフは私たちを追い込みに来るはずだ。東口で私たちを狙撃したのがヤチコ・ベナだとすれば、私たちが逃げ出したことはリジフにも伝わることになる。あれほどの人数をつかって私を追い込もうとしたリジフだ。逃げ出した私たちを放置するとは思えない。

「ロカリーの村に入れないので、エイナ様と合流できませんが……」
「ああ。母なら特に心配要らないだろう。そのあたりは気にしなくていいが、ジャクを休ませる場所が要る」

 私が一番心配しているのはそこだ。ジャク・ボリバルは弱い。どこかで彼女を休ませてやらなければならない。

「それならガーデスに戻るしかありませんね。今頃何が起こっているのかはわかりませんが、ここにいるよりはそちらのほうが」
「うまく潜伏できるならそれもありかもしれないな」

 一度逃げ出したところに戻るとは、リジフ・ディーも考えないかもしれない。
 ガーデスに舞い戻るというのも愚かな選択肢であるとは言い切れなかった。だが、ここではその選択肢はとれない。あまりにもリスクが高すぎるからだ。
 私たちはどこへ行けばいいのだろうか。
 思案するが、頼れそうなところがなかった。私はなにぶんにも田舎出の男であり、このあたりの地理にもそれほど詳しいわけではない。イリスンも隣国の出自であるし、ツテがない。ジャクは子供である。
 ロカリーに滞在できない以上、さらに東へ向かうしかない。念のためにロカリーの門番らしい男には北側のバルディエトへの道を訊いておく。そうしておいて、私たちはさらに東にあるホリンクの町へ移動を始めるのだった。
 これでリジフたちへ私たちが北へ行ったと伝われば少しは時間が稼げるだろう。あまり期待してはいないが。

 ホリンクの町へたどりついたのは、翌日の昼過ぎになってからだ。私もイリスンも既に疲労困憊であり、今何者かが襲撃がしてくれば勝ち目がないことは明白だった。
 特にイリスンの疲労は深刻なものであり、道中に拾った枝を杖代わりにしてようやく歩いているという具合だ。彼女を励まし、宥め、後ろから押すなどして歩み続けてようやっとたどりついたのである。ここでもよそ者は受け入れられないと言われてしまったら気絶するかもしれない。
 しかしその心配をよそに、ホリンクの町は私たちを受け入れてくれた。ガーデスが大変なことになっているという情報を伝えると、衛兵の一人は心底驚いた顔をして、町長へ伝えに走っていってしまったくらいだ。残った衛兵は私たちに対して疲れただろうと声をかけ、簡易な食事を用意してくれる。
 疑心暗鬼に陥ったイリスンは毒でも入っているのではないかと警戒したが、空腹には抗いがたかったのか結局全て平らげてしまった。毒はなかった。だが、私たちは疲労の極地にあったので、出された食事を食べた後三人揃って完全に寝入ってしまったのである。

 私たちはかなり長いこと泥のように眠ってしまっていたようだ。目覚めたときにはすでに朝だった。
 そしてそこで衛兵から町長が会いたがっているということを伝えられた。ホリンクの町はそれほど広い街ではないが、慌てて身なりを整えることとなる。

「ここにもリジフ・ディーの手がまわっていて、即座に捕縛されるんじゃないでしょうね」

 後ろ向きな意見を発するイリスンだが、ロカリーで追い出されたことがよほど心に残っているらしい。
 仮に彼女の言うとおりであったとしても、町長に会うのを辞退するのはまずい。後ろめたいことがある、と言っているようなものだからだ。
 私たちは覚悟を決め、町長との会見に臨んだ。
 衛兵の案内に従って町の中央にある三階建ての建物に入った。階段で三階にあがって、正面。大きな二枚扉の入り口がある。
 扉が開かれて、中に入るよう促された。
 中には護衛とともに、壮年の紳士が立っている。彼が町長だろう。

「おう、君たちがガーデスの危機を伝えてくれたのか。町を代表して、礼を言おう」

 彼は堅苦しさのない言葉で、率直なお礼を伝えてきた。どうやら、イリスンの心配は無用のものだったらしい。
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