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勇者のクセにデブだとは、何事か! 作者:zan
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協力者と会議をします

このお話では簡潔ながら、登場人物の過去に、性的な凌辱を受ける描写があります。
「ふむ、来たか」

 キコナは私が来ることを予想していたようだった。私は彼女の住む家に到着するなり中に招き入れられ、狭苦しい部屋に案内された。

「狭い部屋だとは思っていまいな?」

 なぜか思っていることを言い当てられた。私は愛想笑いで誤魔化してみる。
 彼女はため息を吐きつつ、壁際の椅子に腰掛けてしまった。

「お主が大きすぎるだけでな。普通ならこの部屋は密談には手頃なのじゃ。
 私とて、お主と話をしているところを人に見られたくはない。私の立場が悪くなることは、お互いにとって利益ではないじゃろう」
「無論だ。座ってもいいだろうか」
「すきにするのじゃ。それより、こっちで調べてわかったことをいくつか教える」

 大き目の椅子を使わせてもらい、キコナからの情報を聞く。
 正直に言うと、彼女がここまで私たちに対して協力的なことをしてくれているとは考えていなかったので、とても助かる。また、イリスンに任せていては時間がかかったであろうことも遠慮なく話してくる。
 キコナと密約を結んだのは、どうやら大正解だったようだ。こちらからは彼女の行動を阻害しないということだけなのに、こうも味方されると何か裏があるのではと勘ぐりたくなるが、それは考えないことにする。

「まず、剣術大会の会場を襲った魔物たちじゃが。出所は多分、南にあるリバンド山にある洞穴じゃろう。スリム・キャシャの時代に魔物の中でも強い力をもった者が追い込まれていた土地じゃからな。私も聞いた話でしかないが、スリムは何らかの手段で魔物たちをそこに封じてしまったという。
 要するに、その封印が解けたので彼らは現世に顕現して剣術大会の会場を襲ったということじゃな」
「ではなぜ彼らは会場を襲撃したのだ? そんなところを襲う理由がない」
「確かにそうじゃ。正直言って説明はつかんじゃろ、魔物たちに聞かぬ限りはな。ただ可能性としてはいくつかある。例えばじゃが、スリム・キャシャへの復讐心で動いていた、とするなら簡単じゃ」
「スリムへの?」

 私は少し首をかしげる。スリム・キャシャは既にこの地を去っているはずである。生死は不明だが、剣術大会の会場になどいるはずもない。

「そうじゃな。魔王との戦いから50年も経った今となっては張本人であるスリムの痕跡はほとんどない。彼の血筋を残してはな」
「ああ、なるほど」

 それなら納得だ。スリムの血族、特に彼の血を色濃く受け継いだものは戦闘能力に秀でたものが多い。剣術大会には彼の血を引いた者が数多出場していたであろう。
 魔物たちがスリムに対して復讐をしようと考え、彼の血を継いだ者を探そうとしたのなら、あの場に舞い降りて何の不思議もない。そして、観客を含めて殺傷したことも自然なことだといえる。
 まだそれと確定したわけではないが、十分に考えられる話だ。キコナの考えであるにしても、頭の片隅に置いておく価値はある。

「それと、ジャクという奴隷についてじゃったな。この件についてもおぬしらは調べておるのじゃろう」
「そんなことまで調査してくれたとは。こちらとしては随分助かるが、タダというわけにはいかないな
 何が望みなのか、聞こうか」

 これ以上の情報が出てくるとなれば、黙って聞いてさようならというわけにもいかない。いかに気前がいいといっても、情報の対価を支払う必要を感じる。
 聞くだけ聞いて逃げ帰るようなことをすれば、彼女からの信用は失うだろう。それに、そうしたことをするほど物事をわからない人間だと思われるのはまずい。私の信条に反するし、キコナとの絆は大事にしたほうがいい。
 無論、キコナのほうでも私がこう言い出すことを期待していたに違いない。何を要求するのかは考えてあるのだろう。彼女は情報を出す前に、こちらへの対価を提示してくる。

「遠慮なく言ってもいいかの。実のところ、私はリジフ・ディーのことを信頼してはおらん。そもそも、情などないのじゃ。
 つまり、いざというときにできる限り私のことを護ってはくれまいか。近いうちに、恐らく彼は私を害すると考えられる」
「リジフが、君を。それはどういうことだろうか。君とリジフ、ヤチコは絆をもって結ばれた仲間なのではないか。私も世間も、おそらくそう見ているはずだ。そうでなければ、どうしてリジフは君を連れているのか」

 何か、複雑な事情がありそうなことを頼まれてしまった。
 その内容自体は別にどうということもない。本当にリジフ・ディーがキコナを害するのだとすれば、私は母の教えと自分の信条に従ってキコナに味方するだろう。できる限り、今でもそうしたいと考えている。だからこの対価を支払うとしても今まで以上に負担が発生ということはない。
 だがリジフがキコナと敵対するなどというのは、少々突飛だ。仮にキコナが私と連絡を取り合っていることがばれたとしても、それは政治的な判断による密約だ。敵と味方がそうした約束をするのは実際にも往々にしてあることだし、目くじらをたてるようなものではないはず。
 まさかリジフ・ディーはそのようなこともわからないほど幼稚な頭脳をもっているというのだろうか。まさかだ。

「リジフという男について、詳細に説明する必要があるかもしれんな。おぬしはまだ、奴のことを国や民のために力を振るう男だと思っておろう。実際にはそんなことはないということを、ここで断言しておく」
「そんなことを言っていいのか」
「だからこそ密談のできる部屋へ来ているのじゃ、スム」

 あきれた目で私を見て、キコナは話を続ける。

「まず、あれはガーデスでは比較的に有名なディー家の血を引く御曹司でな。幼い頃から剣の腕がさえたようじゃ。ヤチコは特になんということもないディー家で雇われていた侍女の子じゃが、幼馴染というやつじゃな。二人は気が合うようで、周囲も自然とその仲を認めるに至ったらしい。普通ありえんがな、御曹司ならふさわしい家柄の嫁をさがすはずじゃから」
「それは別にいいだろう、恋愛は自由だ」
「かもしれんが、結婚となると名家ほど不自由するもんじゃからな。とにかくリジフは周囲の期待を集めておったし、その話は私も聞いておった。ガーデスではなく、この街の外にある田舎町でじゃが」
「すると、スカウトされたのか?」
「というより、強引に持ち出されたというほうが正しい。私の村は魔物の襲撃にあって、滅びてしまったのでな」

 あっさりと、彼女は自らの悲劇的な過去を語ってしまう。私はそれに対してなんと言っていいのかわからない。

「それは、気の毒に」

 何もいわないのはまずいと感じたので、一言だけはさんだ。しかしキコナはあまり気にしていないようだ。

「そんなもの今更じゃ。とにかく私以外の村人は殆ど残らなかった。そこにやってきたのが、あのリジフ・ディーでな。奴は野心の塊じゃった。奴が来たときには既に魔物たちは退散していたのじゃが、魔物と戦うつもりできたらしいからの、がっかりしておった。そこらに人々の遺体があるというのにな、悼む様子さえ見せずに」
「それはいつの話なのか」
「ほんの数ヶ月前じゃ、スム。ほんのな」

 キコナは本当に悲しみのかけらすら表情に出さない。数ヶ月前のことをそんなに割り切れるものなのだろうか。

「奴は私を見つけて、掘り出し物を見つけたという顔をしたよ。多分、あちらも私のことを知っていたのじゃろう。おぬしは知らんかもしれんが、私も色々とやっておったのでな」
「だが、イリスンは君の事を調べてもほとんど何もわからなかったといっていた。メリタですら、名前しかわからないと。
 有名なのなら、どうして情報が出てこないようなことになる」
「名前と顔を変えた。私は一応過去を捨てて、リジフの味方についたのじゃよ」

 またしても衝撃的なところを聞いてしまった。キコナは自分の秘密をあっけなく私に話しすぎではないだろうか。

「フィルマ・モフォンというのが私の名前じゃ。これで調べてくれれば多少はわかろう。しかし今は私のことはどうでもよい。私はそのとき家族も友人もツテも、ほとんど何もかも失ってしまったのじゃからな。
 奴はこんな事態を二度と引き起こさないためにも協力して欲しいと言ってきおった。ある程度の剣の腕があることは私も知っていたから、それに乗らない手はなかった。家族を奪った魔物たちに報復したいという気持ちもないではなかったからな」
「そうか、それなら特に問題がない。つい先の剣術大会でもリジフはかなりの数の魔物を討伐した。君の願いはかなえられている」
「いや、そんなことはない。奴は私がフィルマという名前を捨て去った頃に私の寝室に忍んできた。拒めないということをわかっていてな」

 まだ暗い話が続くのか! 私はもう「気の毒に」などと気軽にいえない。
 黙って彼女の話を聞き続ける以外、私に選択肢はなかった。

「まあそういうわけで、私の純潔はゴミ箱に捨てられたわけじゃ。大した価値があるとも思えんがな。これだけでは、まだ私が奴を信用しないという根拠には足りないか? なんじゃったらお主の体で私が清い体でないということを確かめてくれてもよいぞ」
「それはお断りする。私とて貞操観念がないわけではないし、一度の間違いで君が自棄になることもない」
「うん、そういうだろうと思っていた。で、どうかな。少しは私の話に信憑性が出たか」
「いいや。君がリジフを嫌う理由はわかったし、その話が事実だとすれば私とて彼を軽蔑する。だがリジフが君を攻撃するという可能性についてはどうだ。性的なことだけに注意を払えばいいというわけではなさそうだが」
「察しが悪いな、お主。こうして私たちが会って密約を交わしていることを、彼は知っておるのじゃぞ。そして私が彼をよく思っていないということも当然知っておる。ヤチコもな。
 私は奴にとって、王へ近づくための道具でしかなかったということじゃろう。私は奴に乞われてこの国のために必要そうな政策をいくつか具申したに過ぎないが、それで役目は終わったのじゃ」
「いや、まだ早いな」

 ため息を吐くキコナに、私は異議を唱える。彼女はふとこちらに顔を向け、目が合った。

「早い、とはどういうことじゃ。もうこれ以上私が奴にすることはないのじゃぞ。
 奴にとっては切り離しどきじゃろうし、私が奴なら間違いなく近々私を処分する」
「いいや、私が彼の立場にたった場合と、彼の性格を考えてみるとどうもそういうことにはならない。多分、彼は君をもっと使うはずだ。裏切れないように、何らかの枷をはめようとするのではないか?
 その可能性には思い当たらないのか」
「正直言って、それは思い当たらないというよりも『考えたくない』というところじゃな……」

 彼女はとても嫌そうな表情を隠そうとしなかった。
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