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勇者のクセにデブだとは、何事か! 作者:zan
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ワンパターンな攻撃です

 ガーデス中央の広場はいまや熱狂的な騒ぎとなっていた。剣術大会は年に一度の娯楽なのだ。その観戦権だけでも十分に売り物となり、詐欺の対象となるほどの人気があった。
 大会は勝ち抜き戦で、私の対戦相手は抽選で決まるようだ。私はどうやら一番最初の試合に出なければならない。
 私は会場に向かって歩いていった。

 大会の会場はかなり大きなものだった。数多くの観客を得るために、試合場から遠い位置ほど高い位置に座席がつくられ、擂鉢のように中央が窪んだつくりになっている。
 私はその真ん中、最も低い位置に進み出て、無手のままだ。ダガーの類すら持っていない。
 向かい合う相手はというと、肩の盛り上がったたくましい女性だ。相当な鍛え方をしたのだろう、女性であそこまでの筋肉をつけるのはかなり難しい。彼女は片手剣と盾を握って、こちらに歩いてくる。

 当たり前だがその片手剣は本物ではない。試合用につくられたもので、重量も軽い。本気で脳天にぶち当たれば命も危うかろうが、そうでなければ大きな怪我にはならないと思われる。金属に比してやわらかな木材を使っているため、相手を不具にしてしまう心配はない。

 開会式はかなり華美なものだったが、試合はたった今始まるのだ。
 私たちを包む観客の盛り上がりはすさまじい。が、まだ最高潮ではないのだろう。

 試合場は周囲よりは一段高い正方形になっており、試合開始後にここから降りることは許されない。もし降りれば試合放棄として失格となる。
 私は試合場に上って、軽く右足を引いた。
 対戦相手の女性も試合場に上り、武器を構える。
 対戦開始の笛が鳴る。

 観客は大いに歓声を上げた。

 私は地を蹴り、踏み込む。そして右手を強く突き出した。
 これを女性は盾で受けようとする。私は構わず盾を叩く。

「ぐぬっ!?」

 つぶれたような声を残し、女性はそのまま盾に押されて地面に転がり、試合場から転落してしまった。

「勝者、スム・エテス!」

 さっと旗があがり、試合終了が宣言された。試合場の外にいる審判団は至極冷静で、さっさと次の試合の準備がすすめられる。
 観客らはかなり盛り上がっているようだ。一瞬で試合が決まってしまい、拍子抜けさせたかもと思ったが、心配はいらないようだ。何しろある程度の成績を残すとキコナと約束しているので、私はどうあっても勝ち進む必要がある。
 今の対戦相手は防御してからの一手を考えていたようなので、初手で決められてよかったといえる。
 次もそうであればいいのだが。

 今回の出場人数は315名もいるらしい。
 私にはシード権がないため、一回戦から勝ち抜いていくしかない。なので、相性の悪い相手と当たらないようにはしたかった。
 315名ということは、一回戦で150人程度になると考えても……。七回か八回くらい勝ち抜かないとダメらしい。
 今日のうちに8名くらいまで絞るらしいが、いずれにしてもしばらく私の出番はない。他の選手の様子をじっくり見ておくことにしよう。
 と思っていたのだが。

「おい、貴様!」

 先ほど私の対戦相手をしていた女性が突っかかってきた。左肩をおさえながら、非常に強気だった。顔はというと、物凄く勝気につりあがった眉が特徴的で、怒っているらしい。
 何か気に入らないことがあったのかもしれないが、私は彼女に紳士的握手を求める。

「やあ、いい戦いだったな」
「ああ、まあな。いや、そんなことじゃない。どういうことだあの異常な腕力はっ」

 握手に応じた後、彼女は私に食って掛かる。しかし相手にしていてもしょうがないので私は立ち去る。女はわめいていたが、とりあえず放置だ。

 メリタやイリスンはシード権を得ているのでしばらく試合もない。しかし私は一応一回戦の試合を全て観戦した。
 私の対戦相手となる選手は槍を用いて戦い、片手剣を握った相手選手を寄せ付けなかった。そのままリーチの差を生かして勝利し、堅実な戦いぶりを見せつけたといえる。
 対戦表が一週回って、また私の出番となった。
 対戦相手と私の名が呼ばれたので、中央の試合場に出向く。

「おい、あんた。対戦相手に金をばら撒いているらしいじゃないか。そんなことをして勝って嬉しいのか。
 正々堂々と戦おうじゃないか。俺も今日のために腕に磨きをかけてきたんだ。お互いに悔いの無いようにしたいだろう」
「生憎だがそういうわけにもいかないのだ。こちらにも色々と事情があってな。しかし君はお金では動かない人のようだから、正々堂々とやろう」

 私は彼と握手を交わした。
 これで恐らく、今の瞬間に金銭のやり取りが行われたと思われるだろう。少なくとも、私が不正をしていると信じている人々からは。どうやらキコナは約束どおりに噂を流してくれているようだから、この何気ない握手だけでも十分に私を疑う材料となるだろう。

 こうしたことをやっておいて負けてしまっては実にしまらない。私はもう試合に集中することにした。
 とはいえ、私にできることはワンパターンの攻撃だけだ。それしかできないし、それ以外をほとんど捨ててきたのである。
 対戦相手の選手は口元を引き締め、槍を構えた。やはり木製の、練習用の槍だ。だが咽喉に突き込みを受ければ命がないだろう。
 開始の笛が鳴る。
 すぐに相手は動いた。こちらの攻撃を警戒しつつも、しっかりと自分に有利な間合いとなるように足を運んでいる。

「しっ」

 私は委細構わず、地を蹴る。先ほどと全く同じ動きだ。相手に低く飛び掛るようにして接近し、右手を突き出す。
 敵の槍はまっすぐにこちらを向いているが、気にもしない。私の右手はその槍を強く叩いた。
 ウッと呻くような声があがる。槍は跳ね上がり、天を向いた。そこで私は左足でもう一度地を蹴りこみ、さらなる接近をかけた。今度は右手を突き出す必要もないだろう。そのまま、身体ごとぶつかった。
 槍を握っていた男はあっけなく吹き飛ぶ。足の先すら地面から浮き上がって飛んだ彼は、試合場から落下する。
 私があわてて様子を見に行くと激痛に悶えている姿が目に入った。

「勝者、ス、スム・エテス」

 少しうろたえた声で、私の勝ちが宣言される。
 だが、観客席に動揺が広がっていた。今の試合内容に、驚愕しているという感じだ。

「今のを見たか……試合場の三分の一以上を吹き飛ばしたぞ」
「人間をマリか何かみたいにぽーんと動かしやがった」
「牛でもあんなことできるかどうか」

 ざわざわと、そんな声が聞こえてくる。私の体重からすればあのくらいの威力は出ても不思議でないはずだが。
 どちらにしても次の試合が始まる。私は退散しなければならない。会場を後にした。


 観客席に戻ると、ジャクがすがりついてきた。

「スム! すごかった」

 私は適当に彼女をあやしながら、肩に抱き上げる。しかしジャクはすっかり興奮した様子で、私にしがみつこうと手を伸ばしてくる。
 ここまで彼女を連れてきたらしいイリスンが近くにいるが、なぜかひどく勝ち誇ったような表情をしている。
 どうかしたのだろうか。やはり一緒にいたメリタに問うてみる。

「ひいきにしてきた君がようやく世間をたじろがせたので嬉しいのだろう。ところで次の対戦相手は知っているのか?」

 メリタは少し含むところがありそうな表情でそんなことを訊いてきた。
 しかし生憎とそこまでは確認していないし、まだ確定してはいない。次の対戦相手はまだ二回戦も終わっていないのである。

「いや、まだ知らないが。メリタは知っているのか?」
「イリスンだ」
「何?」
「だから、次の対戦相手だ。君はどうやらクジ運にはめぐまれないようだな。次はおそらくイリスンと当たるぞ」

 こんどはハッキリとした笑みを浮かべて、メリタは私を見る。
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