8.僕と彼女の年上キラーと事件
「ただいま〜」
「…ただいま」
「おかえり〜。歌澄ちゃん、昼食出来てるよ。奏は無しだよ」
家に入ると義兄さんの声が聞こえて来た。
…そういえば今日は飯抜きだったんだっけか。
「歌澄ちゃん、僕は先に仕事してるからご飯食べたら来てね」
「…えーといいんですか?」
「いいよ、じゃあ僕は部屋に行ってるから」
「…じゃあすぐ食べて行きますね」
歌澄ちゃんはそう言ってダイニングに向かって行った。
まぁ絶対にすぐには来れないだろうな…。
「ふぅ〜」
…腹減ったなぁ。
歌澄ちゃんと出会ってから随分と厄介事が増えたよな。かと言ってそれが嫌な訳じゃないんだよな…。まさかキレる様な事があるとは思わなかったし…駄目だ、思い出したらまた嫌な事考えてしまう。
「とにかく着替えてさっさと仕事に……あっ」
着替えようとした時に薄汚れた布に包まれた棒の様な物が目に入った。
「そういえばしまうの忘れてたな…」
いつ見てもあの頃の事を思い出す。
僕のもう一つの家族。
…鏡さん、どうしてるかな。
「取りあえずしまいに行くか」
座留家の地下倉庫。此所には僕の血と汗と涙の結晶である保存用の漫画、貴重な資料、あの頃の思い出の品が保管されている。
「これでよしっ」
あの頃の品を入れてある黒い柩の様な箱に棒の様な物を収める。
「……それにしてもそろそろ今月も終わるしな、原稿上がったら漫画と資料の整理しないとな」
……歌澄ちゃんに此所の整理も手伝ってもらおうかなぁ。
僕はそんなことを考えながら地下倉庫(室温、湿度共に調整可能)を後にした。
部屋に戻って着替えた後僕はすぐに原稿に取り掛かった。
「昨日は寝ちゃったからな、こんな時クロックアップが使えたら楽そうだよなぁ…」
そんな阿呆な事をぼやいたりしていると歌澄ちゃんが多少慌ててやって来た。すぐに行きますと言ってから二時間は経っていた。
「ご、ごめんなさいっ、遅くなっちゃいました」
「気にしなくてもいいよ、それじゃそこに置いてるからよろしくね」
「…はい」
ガリガリ、ガリガリ……。
部屋に響くペンの音。僕も歌澄ちゃんも何も喋らずに作業している。
「よしっ、ペン入れは終わりっ。今からトーンを張るけど、ベタと消しゴムかけるのが終わったら手伝ってね」
「…分かりました〜」
僕はすぐにトーン張りに取り掛かった。
午後三時半。今日は気を使ってくれたのか義兄さんは部屋にお茶と芋羊羹――まだまだあるのか…――を持って来てくれた。
「ありがとう、義兄さん」
「いやいや、二人共頑張ってね〜」
「…ありがとうございます」
義兄さんは歌澄ちゃんにお礼を言われた後
「あっ、そうだ、奏。頑張ってるみたいだから夕食は食べていいよ〜」
そう言って出て行った。
…やったっ!ありがとうっ、義兄さん!
「…よかったですね、奏さん」
「いや、ほんとね。よかった…。じゃあどんどんトーン張って行こうか!」
「…はい!」
夕日に照らされた部屋で僕達はひたすらトーンを張っていく。
「歌澄ちゃん、それ取ってくれない?」
「…これですか?」
「ううん、その点でS-302って書いてる…そう、それそれ。ありがとね」
明日の午前中には終わりそうなペース。
「…奏さん、此所はどうするんですか?」
「そこは…これでお願い」
「…分かりました」
作業は快調に進んで行く。
少しすると義兄さんが僕達を呼んだ。
「奏〜、歌澄ちゃ〜ん。ご飯だよ〜っ!」
「わかった〜っ!じゃあ夕食にしよっか、歌澄ちゃん」
「…そうです、お腹が空きました」
ほんと歌澄ちゃんは燃費が悪過ぎだよな。
「いただきま〜す」
「…いただきます」
「いただきます」
夕食の時間。今日は姉さんと水波音ちゃんがいなかった。
「義兄さん、姉さんと水波音ちゃんがいないけどどうしたの?」
「日由ちゃんは今日は忙しくて帰れないってさ。水波音ちゃんは知らないよ」
姉さんも大変なんだなぁ…まぁあの会社が何なのか僕には良く分からないんだけどさ。
「姉さんも大変だね」
「そうだね。でも日由ちゃんは好きであの会社やってるから大変というよりは楽しんでるだろうね」
義兄さんはなんだか眩しい物を見る様な目でそう語っていた。
「…歌澄ちゃん、なんか義兄さんが眩しいよ……って聞いてないね」
「むぐ?」
「いや、何でもないよ」
歌澄ちゃんはやっぱりひたすら食べていた。
「ご馳走さま。それじゃあ僕は先に作業してるよ。食べ終わったら来てね」
「むぐっ」
僕は食器を片付けた後部屋に向かった。
一時間後、やっと歌澄ちゃんが夕飯を終えて来た。
「…ごめんなさいっ、また遅くなっちゃって」
「あぁ、大丈夫大丈夫。早速だけどこれお願い」
「あ、はい」
今日は寝ないで頑張らないとな。
草木も眠る丑三つ時。ひたすら作業を続ける僕と歌澄ちゃん。
「歌澄ちゃん、それ取ってくれない?」
「…………はっ!はい、こ、これですねっ、どうぞ」
「どうも」
……歌澄ちゃん、瞼がいつもより下がってるよ。
「歌澄ちゃん、大丈夫?」
「……はい、…大…丈…くー…っは!す、すいませんっ!」
歌澄ちゃん力尽きそうだ…。
「歌澄ちゃん、トーン張りは後少しだから頑張って!」
「…はいっ!」
「よし、これでこっちのトーン張りは終わり。そっちはどう?」
「お、終わ…り…まし…くー」
歌澄ちゃんはトーンを張り終わった原稿を僕に渡すと同時にテーブルに突っ伏して寝てしまった。
「…ご苦労様、歌澄ちゃん」
歌澄ちゃんに布団を掛けた後、机に向かう。
後は修正なりなんなりすれば原稿があげられる。
「よし、一丁気合い入れてやりますか」
煌めく朝日。辺りに鳴り響く鳥達の囀り。
「…やっと、やっと終わったぁ〜」
思わず机に突っ伏す。時計を見ると時間は午前四時半。
「寝るかなぁ…ん?なんか窓の方から視線を感じる様な…」
窓の外を見てみると鳥や新聞配達の人しかいない。それでも尚、誰かがこの部屋を観察している気がする。
「嫌な感じだな…」
僕は窓とカーテンを閉め、目覚ましをセットした後布団に入った。
「……でさん」
だ、誰だ…。僕の眠りを妨げるのは。
誰かが寝ている僕を揺すっている。
「…奏さんっ」
誰かは僕を揺すり続ける。
「…ぅうっ、も、もう少し……だけ…」
「…奏さんっ!起きて下さい〜っ!」
「ん、ん〜。んぁ、歌澄ちゃん…どしたの?」
歌澄ちゃんは何やら慌てている様に見える。
「…どうしたもこうしたも無いですよっ!原稿描かないといけないのにどうして寝てるんですかっ、締切り今日じゃないんですか?私も寝ちゃいましたけどだからって奏さんまで寝る事ないじゃないですかっ!」
面白い程の慌てっぷり。部屋の中をあっちへ行ったりこっちへ来り。
「歌澄ちゃん、まず落ち着いて」
「こ、これが落ち着いてられすかっ!」
られすか?!歌澄ちゃん、絶賛パニック中だね。
「大丈夫だよ、歌澄ちゃん。もう原稿は出来上がってるからさ」
「…そ、そう…なんですか?よ、よかったぁ〜」
一安心したのかペタリの床に座り込む。
「…気付いたら寝てて、起きたら奏さんが寝てるし、時間も午後二時だったしどうしようかと思ったんですよ?」
「そっかぁ〜、迷惑掛けちゃったね………歌澄ちゃん、起きたの何時って言った?」
嫌な予感が……。
「…二時ですけど」
時計を見ると時刻は二時十分。
…………や・ば・い。
急いで興談社に電話する。
「…どうしたんですか?」
「今日の三時迄に入稿しないといけないんだ!」
「…えっ!?」
歌澄ちゃんが驚きで目を見開いているのを見た後電話に女性の声が流れる。
「もしもしっ!」
『こちら興談社アフタースクール編集部です』
「座留奏ですけど、水波音さん、居ますかっ!?」
『あっ、奏君?お久〜♪』
「凪さん…いいから水波音さんに変わって下さい」
『わかったわよっ!連れないわね。…水波音ーっ、奏君から電話よ〜っ。………ったくなんで水波音が奏君の担当なのよっ………』 凪さん、聞こえてるよ。
『……はい、水波音』
『どうもん、やっほーい、奏君っどったのかなぁ〜ん?』
「原稿出来たんだけど、此所から興談社迄って結構あるから車出して欲しいなって」
『………ごっめ〜ん、今忙しくて無理なんだよねっ♪』
今の間は何なんだ?
「そっか…じゃあ今から行きますんで」
『あっ、奏君』
「なんです?」
『髪の染料は落として来てね♪』
「……なぜ?」
『落として来ないと原稿受け取って上げないから』
「……はい」
電話を切る時に受話器の向こうから編集部の皆さんの歓声らしい叫びが聞こえて来た様な気がした。
「………何があったんだ?」
「奏さん、大丈夫なんですか?」
歌澄ちゃんが心配そうな顔で僕の顔を覗く。
「うーん、頑張れば間に合うよ。取りあえず僕はちょっと洗面所に行って来るよ」
洗面所で髪の染料を落とした後歯磨きをし、顔を洗う。
そして部屋に戻ると歌澄ちゃんは僕を見て驚いていた。
「……奏…さん?その髪どうしたんですか?」
「これは地毛だよ」
黒と白の髪。それが僕の本当の髪の色。黒髪に白い髪の房が幾つも混じっている。
「これちょっと変でしょ?だから皆気持ち悪がったりするかもしれない。だから普段は黒く染めてるんだ」
「…そんなことはないですっ!全然気持ち悪く無いですっ、とても似合ってて格好良いですよ!」
歌澄ちゃんは激しく首を振って答えた。
僕は感謝の気持ちを目一杯詰め込んで歌澄ちゃんに笑い掛ける。
「…そっか、ありがとうね。それじゃあ僕は原稿届けて来るから留守番頼める?」
「………………」
歌澄ちゃんは僕を見て何やら惚けていた。
「歌澄ちゃん?どうしたの?」
「…………へっ?あっな、なななんでしょう?」
「僕の顔に何か付いてる?」
歌澄ちゃんは激しく首を振って僕の言った事を否定した。
「…いえっ!何にもないですっ!」
……何だったんだろ?まぁ、いいか。
「歌澄ちゃん」
「はい、なんでしょう?」
「僕はこれから原稿を届けに行くから留守番頼める?」
「…はい、任せて下さいっ!」
歌澄ちゃんが玄関迄見送りに来てくれた。
うーん、ちょっと気恥ずかしいな…。まぁ取りあえず、
「義兄さんとか買い物行って居ないみたいだけどよろしくね」
「…はい、もちろんです」
その後幾つか会話を交わしてから僕は外へ出る。
「それじゃ行って来ます」
「…いってらっしゃい」
歌澄ちゃんは笑顔で僕を送り出す。
なんかこういうのもいいなぁ…。
僕は自転車に跨がり家を出る。少し進んだところで自転車を止めて、近くに居るだろう二人に声をかける。
「彼方さん、要義兄さん。歌澄ちゃんに家で留守番してくれるよう頼んでますんで。あと、二人の他に誰かが僕の部屋を監視してました。だから気をつけて下さいね」
僕はそれだけ言うと全速力で自転車を漕ぎ出した。
「………ばれてるし。要っ、お前なんかヘマしただろっ!!」
「はぁぁっ?なんで俺なんだよっ、ヘマしたのはそっちだろっ!」
「なんだとぉ?」
「やんのか?」
『何してるんですかあなた達は。あの少年が言っていたでしょ?私達以外の奴等がお嬢様を監視してるって』
「あいつの言葉なんぞ信用ならないな」
「なんでだよ?俺達に気付いてたんだぞ座留は。それに、座留のさっきの話が真実だろうが嘘だろうが警戒はすべきだよ。お嬢様はそういう立場に居るんだから」
「……ちっ。わかってるよ」
『それじゃ二人共しっかりとやってちょうだいね』
「「了解」」
午後二時五十分。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…あ、あと少しっ!」
景色はどんどん後ろに流れて行っている。
午後二時五十五分。
「見えたっ!」
僕はドリフトで止まったあと、そのまま自転車を乗り捨てて興談社のビルに駆け込む。アフタースクール編集部は四階。渾身の力で階段を駈け登ると編集部の入口のところで水波音ちゃんが待っていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ、お待たせ…しまし…た…はぁ」
「ご苦労〜ご苦労〜♪どれどれ〜」
水波音ちゃんは封筒から原稿を出して確認していく。
ボツになりませんように。ボツになりませんように。ボツになりませんように。
ボツにされたらたまったもんじゃない。
水波音ちゃんは原稿を封筒に戻して難しい顔をする。
「み、水波音ちゃん、ボツじゃない…よね?」
「……………」
黙り込む水波音ちゃんに思わず息を飲む。
なんで黙るの?
「ど、どうなの水波音ちゃんっ?」
「…………………OKだよん♪」
「よ、よかったぁ〜っ」
安堵で思わずその場にへたりこむ。
「取りあえず編集部で休んでねん♪あ、後やっぱりその髪の方が似合ってるよ〜♪」
…やっぱなんだかんだでいい人だよな、水波音ちゃんって。
「……むぅ〜、改めて考えて見ると私今男の子の部屋に一人っきりなんだよね…」
よく考えると男の子の家に泊まったんだよね……。
「はうぅぅううぅっ!」
恥ずかしさで床を転げ回る。
改めて奏さんの部屋を見回してみる。
作業机、ガラスボードのテーブル、部屋の大きさに対して多過ぎじゃないかというくらいの本棚と本棚を埋めている様々な本、床に積み上げられている資料用のファッション誌、そしてベット。
ベット、奏さんが寝てるベットかぁ……。
ベットにポフッと寝てみる。
「…………いい匂い」
奏さんが使っているベットはなんだか落ち着ける匂いがした。
男の子のだからって汗臭いって訳じゃないんだなぁ…。
「ふぁ…ふかふかでいい気持ち…」
暖かい……。
そういえばさっきの笑顔も反則なくらいに暖かくて優しかったな。
そんなことを思いながら奏さんのベットに寝そべっている内に私の意識は深い闇に落ちていった。
「……お嬢様は一体何をしてるんだ?」
「……わからん…」
お嬢様は座留の部屋の床を転げ回っている。今のところ周囲にこれといった動きもない。
一昨日から気になっていた事を聞いてみる。
「なぁ要」
「なんだ?」
「お前座留の義理の兄に当たるんだろ?」
「あぁ、不本意ながらな」
なんだか不機嫌になる要。
「……要は座留の事嫌いなんだな」
「あんな奴がお嬢様に近付くってのが心底気に食わない」
「…ははっ、マジなんだな。ずっと気になってた事があんだよ」
「なんだ、彼方?」
「あいつ、座留の奴さ、なんか血腥い気がすんだよな。ただ気がするってだけだから何とも言えないんだけどよ。それに話してみると悪い奴じゃないって感じはすんだ」
「…………あいつを血腥いと思うのは正しいと思う」
要は逡巡してから曖昧な言葉で俺の問いに答える。
「そっか、お前にもはっきりは分からないのか……あっお嬢様座留のベットで寝てるよ」
「むっ…気に食わねぇ…あいつ絶対いつか伸してやる……彼方」
急に真面目な声で俺の名前を呼ぶ。
「どうした?」
「あいつは五歳から十二歳の頃まで行方不明だったらしい」
「……は?」
行方不明…か…。なんつーけったいな過去を持ってんだよ座留の奴は。
「………おい、彼方。見ろ」
「なんだ、何か動きでも?」
「見ろ、玄関の前に怪しすぎる奴がいる」
「確かにな」
見ると玄関のところに覆面をした大男が二人。一人は手に奇妙な形のナイフを持ち、もう一人は火炎放射器らしき物を持っていた。
ちょっとまずいな。
「若魚っ!今からお嬢様狙いと思われる不審人物をぶちのめすっ!」『了解。しっかりとお嬢様を守るのよ、二人共っ!』
無線から若魚の激励が聞こえてくる。
「はっ!わからいでかっ!行くぞっ要っ!」
「ったりめぇだっ!」
木の上から飛び下りて俺はナイフ男、要は火炎放射器男を蹴り飛ばす。
「そんな物騒なもん持って何してんだ、お前ら」
男達はゆっくりと起き上がるとナイフの男が野太いが落ち着いた声で答える。
「日永歌澄の護衛か…」
「はんっ!護衛じゃねぇよ。俺はメイドさ。覚悟しろ」
「お嬢様には手出しさせねぇ」
俺は手にごつい鉄の装甲の付いた手甲を着けて、その拳を男達に向ける。その手甲には腰からコードが伸びている。
要は某魔法少女アニメにでてくるらしい銀と赤のグラー〇ァイゼンとか言うらしいハンマーを男に向けている。
……要、なんか締まらねぇよ。
心の中で要にツッコミを入れた後、俺達と男達は同時に動き出した。
ズズズッ
「はぁ〜、やっぱ玉露だよなぁ…」
僕は今興談社の四階休憩室で休憩中。三十分も全力で自転車を漕いだもんだから全然動く気になれない。
歌澄ちゃん待ってんだろうなぁ…。
あの視線も気になるしなぁ。でも此所から抜け出すのは骨が折れるだろうな。
「………それで、凪さん、奈津さん、茉美さん。離れて下さい」
僕はソファの真ん中に座っている。
その僕を囲む様に右に凪さん、左に奈津さん、後ろに茉美さんが密着している。
「むっふふ♪やっぱ若い子は良いわね〜☆」
「奏君、奏君!これお姉さんが食べさせて上げるっ!」
「……私と良い事しない?」
(上から順に)凪さん、奈津さん、茉美さんはそれぞれ好き勝手な事を言っている。
「凪さん、ショタ発言は止めて下さい。奈津さんも口にくず餅を押しつけないで、茉美さん!頭に胸乗せないでっ!」
どうしてこの人達はこんなに僕に絡むんだ?
しきりに密着してくる三人に辟易していると水波音ちゃんがやって来た。
「ぃやっほーい♪来たよ〜ん奏くーん!………ってあんた達何やってんの…」
いつものハイテンションで入って来た水波音ちゃんは僕に密着した三人を見た途端三人を睨み付ける。
「何よ、水波音。文句ある?」
「駄目ですよ、先輩ばっかり奏君と会ってるじゃないですか」
「……奏君は渡さない」
またか……どうやって逃げ出そうかなぁ。
「何ですってぇ…」
あぁ、このままじゃますます帰れない事になりそう……そうだ!
「あのっ!」
「「「「なぁ〜に〜?」」」」」
さっき迄啀み合っていたとは思えない程のタイミングと同じ調子で四人同時に返事をした。
…なんだこの人達は。
「えーとですね、今、此所に柳泉市の幻の地酒『龍華燐』を持って来たら一緒に飲んで上げますよ」
それを聞いた途端に四人はその場からいなくなっていた。
「流石だね、奏君」
いなくなった途端に編集長が入って来た。
「編集長、見てたんですか?だったら助けて下さいよ」
「そしたらきっと俺は今頃死んでるから」
遠い目をして答えた編集長の言葉には妙な説得力がある。
「……分かる気がします」
すると少し遠くから消防車のサイレンが聞こえた。
その時ザワザワと何か嫌な物が僕の身体を駆け抜けた。
僕は急いで窓に駆け寄ると家の方角から煙が上がっていた。
「歌澄ちゃん!!」
「どうしたんだい?」
僕は急いで部屋を出ようとすると編集長に止められた。
「なんですかっ!?家が火事なんですよっ!!早く行かないと歌澄ちゃんが、歌澄ちゃんがっ!!」
全然冷静でいる事が出来ない。編集長が何かを言う前に駆け出そうとすると編集長がまたも僕を止めた。
「待ってくれっ!」
「なんだっ!邪魔するなっ!!」
編集長は焦るばかりの僕を諭す様に言ってくれた。
「落ち着くんだ。僕が車で送るから」
「………っ。ありがとう…ございます」
落ち着け、落ち着け、落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着けっ!大丈夫、歌澄ちゃんは大丈夫っ!大丈夫だからっ!落ち着くんだ!
車の中。ただひたすら自分に言い聞かせる。歌澄ちゃんは大丈夫だと。
燃え盛る炎は僕の家を焼尽くして行く。
「歌澄ちゃんっ!!」
僕は車から飛び出すと野次馬をすり抜ける。そのまま家に入ろうとすると消防士に止められた。
「君!危ないから下がってなさいっ!」
「邪魔だっ!どけろぉっ!!」
僕が叫ぶと消防士は怯んだけど僕を通す事は無かった。
「駄目だっ!君を通す訳にはいかない!」
「…っ!離せよっ!歌澄ちゃんがっ!歌澄ちゃんがっ!」
消防士が安心してくれとでも言う様な顔をする。
「大丈夫だぞ少年。あの家にいた人達はちゃんと脱出した」
その言葉に僕はへたりこみ、炎で紅く彩られた空を見上げる。
あぁ、そういえば彼方さんと要さんが居たんだったな。
「よかったぁ…。そっかぁちゃんと脱出したのかぁ…」
安心した時消防士は更に続けた。
「メイド服と執事服を着た変な二人組だったよ」
彼方さんと要義兄さんが運ばれたらしい病院に向かっている。
糞っ!何だってんだっ。どうして彼方さんと要義兄さんだけなんだ?あの消防士によると他に人は居なかったって話だし…
「糞っ!」
思わず拳をドアに叩きつける。
「奏君、落ち着いて。今こうして歌澄ちゃんって娘の手掛かりを持っているだろう人のところに向かってるんだからさ」
「…っ!分かってますよっ」
一体何があったんだよ。
次第に病院が見えてくる。
到着すると僕は編集長を残して救急の受付に駆け込み二人の事を尋ねる。
「はい、来ましたよ。男性の方の怪我が少しばかり酷いのでその御二方は入院病棟の方に居ますよ」
受付の女性が笑顔で答える。病室の場所を尋ねた後急いでそこに向かった。
「彼方さんっ、要義兄さんっ!」
「奏君、落ち着いて。今こうして歌澄ちゃんって娘の手掛かりを持っているだろう人のところに向かってるんだからさ」
「…っ!分かってますよっ」
一体何があったんだよ。
次第に病院が見えてくる。
到着すると僕は編集長を残して救急の受付に駆け込み二人の事を尋ねる。
「はい、来ましたよ。男性の方の怪我が少しばかり酷いのでその御二方は入院病棟の方に居ますよ」
受付の女性が笑顔で答える。病室の場所を尋ねた後急いでそこに向かった。
「彼方さんっ、要義兄さんっ!」
勢い良く入ると包帯だらけの彼方さんと胴にギプスを着けた要義兄さん。そして見た事のないショートヘアのメイドさんがいた。そのメイドが誰かは知りたいけど今はそんなことに構っていられない。
「どうして歌澄ちゃんが居ないっ?それにその怪我は何っ!?」
三人はそれを聞くと苦い顔をするとショートヘアのメイドさんが息を荒げている僕に話掛けてきた。
「私は日永家のメイド長をしている那波若魚と言います。貴方が座留奏さんですね?そっちの二人から話は聞いています」
「…は、はぁ。那波さん…ですか」
落ち着いている丁寧な口調になんだかさっきまで調子を崩される。でもそのお陰で少し落ち着く事が出来た。
「若魚と呼んで下さい」
「じゃあ若魚さん。どうして歌澄ちゃんが居ないんですかっ?」
若魚さんは僕の問いに顔を曇らせとんでもない答えを返して来た。
「お嬢様は、誘拐されてしまいました」
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