7.僕と彼女のラブレターと嘘・真実(ほんと)
僕は自分の下駄箱の前にいる。男子の殺気を浴びながら…。
「……はぁ」
どうしたもんかなぁ…。きっと教室に行っても殺気を浴びる…いや、きっと襲われるなぁ…。
これから起こりそうな出来事に暗澹たる気分になっていると陽子ちゃんに呼ばれた。
「奏くーん!ちょっとちょっと!面白いものがっもごごっ」
「?」
何があるのかと行ってみると歌澄ちゃんが陽子ちゃんの口を押さえながら抱き付いていた。
「……えーと、何してんの?」
「…かっ奏さんっ。なんでもないよ、なんでもないから」
「もがっ!もががっ!もががもがっ!」
必死に陽子ちゃんの口を押さえる歌澄ちゃん。陽子ちゃんも必死にもがいて歌澄ちゃんの手を口許から避けようと……ん?何やら陽子ちゃんがしきりに歌澄ちゃんの手元を指差していた。
「…ん?歌澄ちゃん、その手に持ってるのって…手紙?」
「…あっ、これはっ」
慌てて手紙を後ろでに隠す。それと同時に陽子ちゃんの口が自由になる。
「ぷはぁっ、奏君、歌澄ったら下駄箱の中にラブもっ!」
「…だからやめてってば〜」
慌てて口を押さえる歌澄ちゃんとまた口押さえられてる陽子ちゃん。何やってんだか…。
にしてもラブモってなんなんだ?
「ぶはぁっ!ごめんごめん〜♪つい楽しくてね〜」
「…もうっ」
ほんと何やってんだか…。というか僕はなぜ呼ばれたんだ?
……ん?歌澄ちゃんの足下に何が…。
拾ってみるとさっきの手紙だった。
「…あっ」
「ありゃりゃ」
その手紙には『日永歌澄ちゃんへ』と書かれている。そして裏には何も書かれてなく、ハートのシールで封がされている。
「……これって、ラブレター?」
二人に聞くと歌澄ちゃんはもじもじと、陽子ちゃんは笑いながら頷く。
「これまたベッタベタなラブレターだね…」
「だよね〜っ、見た時我が目をうたがっちゃったよ〜♪」
「あぅ……。まぁ正直私もびっくりしました」
あ、そういえばこのラブレター貰ったのって歌澄ちゃんなんだよな…。
一体何処のどいつだ?ラブレターを送ったのはっ!って何熱くなってるんだ、僕は。
「歌澄ちゃん、もう中身は見たの?」
「…まだだけど」
「よっし、じゃあ皆で読もうズェ〜♪」
「いいね、それ」
「…えぇっ!良いのかな?」
「さぁ?どうなんだろね〜♪」
「大丈夫だよ、皆で読んじゃおうよ」
歌澄ちゃんは少しばかり逡巡してから、
「…分かりました、じゃあ開けますよ」
三人で頭を突き合わせてそのラブレターの文面を覗く。
『突然この様な手紙を出してしまい申し訳ありません。
ですが、どうしても貴女に僕の思いの丈を伝えたいのです。
放課後、第一体育館の裏で待ってます
高城 雪』
「……………」
「……………」
「……えーと、随分とまじめな感じだね?」 確かにまじめでしっかりした感じのラブレターだけどなんか気に食わない。
「そだね〜。なぁ〜んかつまんな〜い」
ちょっとしたうさん臭さを感じるんだよね。あんまり良い予感がしない。
「全くだね。外がベタなら中もベッタベタだったね」
陽子ちゃんも何か思うところがあるのかさっきからちょいちょい考え込むようにしている。
「…陽子ちゃん、奏さん、そろそろ行かないと」
「あ、うん。そだね、行こうか」
「じゃあ教室へゴーだねん」
道すがら陽子ちゃんが歌澄ちゃんに聞こえないように話し掛けて来た。いつになく真剣な顔で。
「奏君、放課後覗きに行くよっ」
「了解っ」
当たり前だっ!
僕は今教室に入りたくない。なぜなら入ったら間違いなく襲われるから。
どうしてそんなことが分かるのか?それは、あのラブレターの事を考えながら教室の戸に手を掛けようとしたら中から『座留の野郎を血祭りにするぞっ!!!おオオォオオォッ!!!』という男子達の野太い叫び声が聞こえて来たから。
さて、どうしたもんか…。
……よしっ!こうしてても仕方ないっ!
そして、教室に入るとクラスの皆の視線が集まる。
だ、男子達が禍々しいオーラを出しながらジリジリと詰め寄って来る。
「……えーと、皆どうしたの?」
「どうしたもこうしたもあるかぁっ!!!日永歌澄ちゃんと岸和田陽子ちゃんと朝から仲良く登校とはお前何様だあぁっ!!!」
なんか目がヤバいよ、多賀太郎君。
「何様だって言われても困るんだけど…」
「うるさいっ!!黙れぇっ!!」
ええぇぇ〜。
「者共ぉぉっ!!あいつの眼鏡を谷折りにして、ケチョンケチョンに伸してやれぇぇえぇっ!!!」
『オオオォォオオッ!!!』
男子が三人、三方から襲いかかって来るのを後ろに下がって避ける。三人が衝突して倒れたところで太郎が
「怯むなっ!どんどん行けっ!」
と号令を掛ける。
すると突然太郎が叫び声を上げた。
見ると太郎が大きめの丸眼鏡を掛けた三つ編みの委員長・城戸夏水にアイアンクローをかけられていた。
「太郎、今日はテストなの。分かってる?」
その声は何処までも冷淡なものだった。周りの男子達が息を飲む。
「夏水、確かにそうかもしれないが、今は、我が、男子のアイドル達がぁがががっ!!痛いっ、夏水痛いっ!!」
太郎の頭からミシミシッという音が聞こえて来る。
「貴方達、座留君に今すぐ謝ってテスト勉強しなさい」
『は、はいぃっ!!すいませんでしたーーっ!!』
おぉっ、これが鶴の一声ってやつか…。
夏水の一声で僕を囲んでいた男子達が一斉に謝る。その光景は何とも言えない居心地の悪さがある。
「えーと、別に気にしてないから…」
そう言うと何人かに睨まれた。なんでだ?
「委員長、助けてくれてありがとうね」
すると夏水は太郎にアイアンクローを掛けっ放しで
「どういたしまして。まぁ、テスト勉強の邪魔だったからね」
「確かにね」
「なっなぁ、夏水、頭潰れる…早く離し…て…後…生だか…らぁ」
太郎は必死に夏水に懇願する。
「じゃあ、座留君に謝りなさい。そしたら離して上げる」
「…それ…は…無理…だっ」
夏水の目が座り、手に更なる力を込めている。太郎の頭がミキッと言う音を立てる。
「あががががっ!いたっ痛いっ!頭がっ!頭がぁっ!」
……本当に痛そうだよ。
「なんで謝れないの?」
「なっ、なぜならっ…さっきのはっ…すべて我が…学年の男子…達のっ総…意だから…だっぁがががっ」
更に力を込める夏水。太郎の顔からなんかいろんな汁がでてるよ…。
夏水はちょっと考える素振りを見せ、
「謝らないと向こう一ヶ月デートは無しにする」
「なっ!!奏っ!さっきはすみませんでしたぁーーっ!!」
「………うん、別にいいよ。気にしてないから…」
太郎の頭から夏水の手が離れる。
「はぁ…はぁ…た、助かったぁ〜。いいか、奏!あんまり歌澄ちゃんとかと仲良…ふぐぉ!!!」
太郎はズドッっと言う強烈な音と共に股間を押さえながら悶絶する。
「なんで、さっきからあんたは、彼女の前で、他の、女の、話、ばっかり、喋ってんのよっ」
夏水は言葉を区切る度に太郎を蹴りつける。
終に我慢ならなくらしい委員長。嫉妬してたのか…。
尚も足蹴にされ続ける太郎。
………もうほっとこう。
「おはよ、奏。朝から災難だったなぁ」
「おはよ、謙治。そう思ったんなら助けてくれよ」
それを聞いた謙治は本当に嫌な顔をした。
「嫌だよ。あいつらの尋常じゃ無かったしさ、それにあれ位お前なら余裕だろ?」
「……そんな訳ないだろ?」
そう、もう僕は……。
「…そう、だな。無理だよな、あんなの」
すまないといった感じの謙治。
「……あっ」
「……奏、謝ったらぶん殴るぞ?」
謙治に世話掛けっ放しだな、僕は。
「謝らないよ。それより謙治、陽子ちゃん滅茶苦茶良い娘だったぞ?」
「ふん、岸和田陽子がどんなに良い娘だろうが和心に敵うはずないだろっ!」
……だめだこいつ。和心ちゃんも苦労してんだろうなぁ。
「…あれ?ところで矩子はまだ来てないの?」
矩子の席をみると空席だった。いつもはもう来てる筈の時間帯なのに…。
「みたいだな」
「珍しいね、何してんだろ?」
「さぁ?千央と朝から乳繰り合ってんじゃね?」
何こいつ〜……。
「な、なんだよ。まぁ、その内来るだろ。そんなことより生物教えてくれよ」
「そうだね、それじゃ教科書持って来て。取りあえず要点だけ教えるから」
ちょっとすると呉羽先生が入って来た。
「お前ら〜席にさっさと…って城戸、多賀お前ら何やってんだ?」
「五月蠅かったので制裁を加えてました」
まだやってたんだあの二人…。
「あっそ、痴話喧嘩もいいけどさっさと席に着け」
夏水は少し俯いて
「分かりました」
と呟くと太郎を引き摺りながら席に戻っていった。
「全員席に着いたな。朝のSHLを始める。今日でテストは終わりだ、カンニングはしないように。終わったらハメ外していいけどサツに掴まらない様に、以上」
それだけ言ってさっさと出て行った。
入れ違う様に矩子が入って来た。
「矩子、おはよ。遅刻なんかして、どうしたんだよ?」
「あぁ、不覚にも寝坊してしまってな」
駆けて来たのか息が少し上がってる。「へぇ、珍しいね」
「ふっ、昨夜ちょっと燃え上がり過ぎてしまってな」
呆れて物も言えないよ…。
「それより奏」
「なに?」
急に真顔になると訳がわからない事を言い出した。
「岸和田陽子とあまり関わらない方が良い」
「は?」
矩子はそれだけ言うと自分の席に向かっていった。
訳がわからないよ、矩子…。
テストが無事に終わり、放課後。僕は今陽子ちゃんと一緒に第一体育館裏の茂みに隠れている。
歌澄ちゃんの断わりを見届ける為に。
「歌澄ちゃんが此所に来てから五分くらい経つけど、なかなか来ないね」
「そだね〜、歌澄を待たせるなんて許せないねっ」
それにしても、なんで陽子ちゃんに関わっちゃいけないんだろうな…。理由くらい言えっての。
「あっ、ほら奏君っ、来たよっ」
「あ、ほんとだね」
やって来たのはなかなかのイケメンだった。
あいつが高城雪か…。なんかいけ好かないな。
「ごめんね、待たせちゃったね」
謙治に負けず劣らずの爽やかさで謝る高城。
「いえ、私も今此所に来たばかりですから」
あまり表情を変えずにデートの待ち合わせの時の会話の様な返答をする歌澄ちゃん。
ただ、高城は歌澄ちゃんのその表情のなさと無感動な返答に少したじろいでいた。
「え、えーと早速だけど本題に入るよ、いいかな?」
「いいですよ、私に伝えたい事って何でしょうか?」
高城は決心した様に歌澄ちゃんに告白した。
「日永歌澄ちゃん、君が好きだ。僕と付き合ってくれないか?」
見事に潔い告白。
そういえば歌澄ちゃんはこの告白を受けるんだろうか?
「ごめんなさい、高城さん。私は貴方の思いに応えることは出来ません」
「なっ!!」
間髪を入れずと言っても良いくらいの間で告白に答える歌澄ちゃんに僕は心の底から安堵していた。
「んふっ♪奏君すんごく嬉しそうな顔してるよっ」
「えっ?いや、その…」
陽子ちゃんの冷やかしに言葉を濁してから歌澄ちゃんの方を向くと何やら高城の様子がおかしかった。
「ど、どどどうして、ぼ、僕、の思いにこた、応えられないんだ?」
何やら声が震えている。
「…え、えーとそれは…他に好きな人がいるから…です」
少し頬を染めて言い辛そうに応える歌澄ちゃんに高城も顔を赤くして悶えていた。
「くっ…駄目だっ!日永歌澄!君は僕と付き合う宿命にあるんだっ!」
高城は気を取り直した様に詰め寄ると訳の分からない事を言い出した。
「…?何を言ってるんですか?あの私この後用事があるのでもう行ってもいいですか?」
「駄目だっ!どんな事をしてでも僕と付き合って貰うぞ!」
なんか雲行きが怪しくなって来たよっ。
「奏君、いざとなったら歌澄を助けに行くよっ」
「うん、もちろん」
歌澄ちゃんは高城の様子に後退りをしたけど高城に腕を掴まれる。
「…なっ何をするんですかっ!」
「既成事実を作るんだよ」
「きゃっ!」
最早さっきまでの爽やかさのかけらも無い高城に歌澄ちゃんが押し倒される。
その瞬間僕の頭は真っ白になった。
「なっ、何をするんですかっ!」
「既成事実を作るんだよ」
「きゃっ!」
高城さんに私は押し倒され馬乗りされる。
高城さんの目はさっきまでの優しい目じゃなかった。その目は狂気に満ちていた。その手がスカートを捲り上げ、パンツに手を掛けようとする。
恐怖で声を上げる事が出来ない。
怖い、怖いっ、怖いよっ!誰か、誰か助けてっ!!奏さんっ!!!
その瞬間、
「あがぁっ!!」
高城さんが吹き飛ぶ。
な、何が?……かな…で、さん?
奏さんが立っていた。その顔には何の表情も感じられない。奏さんは深く昏い深淵の様な漆黒の瞳で高城さんを見ていた。
「なっ何だ!お前はっ!」
高城さんが叫んだ瞬間に奏さんは私の目の前から掻き消え高城さんの後ろにいた。
「なっ!?がっ!!!」
高城さんが振り向いた瞬間に奏さんはアイアンクローを掛けた。
「あがっぐうっ!な、なんだっ!お前っはぁがあぁっ!」
「貴様がなんなんだ?」
その声はあの奏さんのものとは思えない程の冷たい声。
「歌澄っ!」
「…陽子…ちゃん」
陽子ちゃんが駆けて来た。
「歌澄っ、大丈夫?」
「…うん、怖かったけど大丈夫」
「そっか、よかった〜奏君は?」
「…あそこ」
奏さんの方に指を差すのとほぼ同時に高城さんが叫んだ。
「お前等ぁっ!日永歌澄を囲めぇっ!」
「なっ!」
「えっ!?」
「あやっ?嘘っ!」
高城さんの叫びと共に黒服にサングラスの屈強そうな大男達が私達を囲んだ。
……なんでこんな事に。
「僕を離さないとどうなるか分かってんだろうなぁ?」
奏さんが高城さんから手を離すと逃げる様に大男達の後ろに隠れると
「お前らっ!あいつを伸してやれぇぇえぇっ!」
そう叫ぶと大男達が奏さんに襲いかかった。
「奏さんっ!」
「奏君っ!」
「………糞がっ」
男達の一人が殴りかかって来たのを片手で受け止めると他の男達にその男を投げ付ける。
「「ぐおぁぁぁっ!!」」
そして、タンッと言う音と共にその場から消えたと思った瞬間に残っていた男達は次々に倒れ、奏さんは私達の目の前が現れた。
「なっなななななっ!」
「……何…が?」
「すご…」
目の前で繰り広げられた光景にただ唖然とするしかなかった。15人くらいは居たであろう大男達が10秒かそこらでなす術無く倒されていた。
「ひっひぃぃっ!」
「あっ、このっ!」
高城さんがたまらずに逃げようとした。でもそれはあっと言う間に奏さんに阻止された。
「何処に行くつもりかな?高城雪さん」
奏さんの表情はさっきまでの無表情と違って微笑んでいた。その微笑みは暖かいものじゃなく、ゾッとする程の冷たい微笑み。
「ひっひあぁぁっ!がっ!」
蹴り飛ばされる高城さん。奏さんは蹴り飛ばした高城さんに近付くと頭を掴み体育館の壁に押さえつけた。
「あぐぅっ!」
「あれだけの事をしたんだ、何されたって構わないよね?」
手に込める力を強くしようとする。
「ひっ!」
「くたばれ」
奏さんを止めなきゃっ!
「奏さんっ!もう止めてっ!」
その声を聞くと同時に高城さんから手を離す。
「…えっ、あ?」
「ひっひゃぁぁぁぁっ!」
高城さんは情けない叫びを上げて逃げていった。
気がつくと全部終わっていた。高城雪は情けなく逃げて行き、高城のSPらしき大男は全員倒れている。陽子ちゃんは感嘆したように、そして歌澄ちゃんは少し泣きそうになって僕を見ていた。
久しぶりにやっちゃったな、もうキレまいと思ってたんだけどなぁ…。まぁ前キレた時よりは被害が少なかったのは僥倖だったな。
「歌澄ちゃん」
「……は、はい」
少しおっかなびっくりといった感じで返事をする。
…当然と言えば当然か。
「大丈夫だった?あと、怖がらせてごめんね?」
「…あっ、はい、大丈夫。えーと助けてくれてありがとう」
「………………」
「………………」
気まずい沈黙が降りる。
「…………あのっ!」
「…………あのっ!」
「「あっ」」
…っ!被ったぁあぁっ!なんてベタなっ!
思わず俯く。歌澄ちゃんの方を見ると顔を赤くして俯いてた。
「なぁーにやってんのさっ二人して」
陽子ちゃんは呆れた様な楽しい様な顔をしていた。
「二人共いろいろと話したい事はあると思うけどっ!私はお腹が空いたのさっ♪だから、話は帰り道でしろっ♪」
「……それもそうだね」
「……うん」
陽子ちゃんが上手い事まとめてくれて助かったよ。
「…それで二人で見てたんだ」
うっ、白い目で見られた。
「う、うん」
「そだよっ、こんな楽しい事無いからね〜♪」
帰り道。陽子ちゃんの提案通りにさっきの事について話している。
「…む〜っ。でも、今回はお陰で助かったから怒らないよ」
ふぃ〜、よかった。
「それにしても、奏君すごかったよね?歌澄が襲われたのを確認したと思ったら私の横からいなくなってて、歌澄のいたところにいるんだもん。あれってやっぱ瞬歩?」
「い、いや瞬歩ではないよ」
「…じゃっじゃあ瞬動術?」
目を輝かせている二人。物凄い食いついてるよ、どうしたもんかなぁ…。
「えっ、えーと…縮地…かな?」
「「すごいっ!!」
し、失言だったかな…、さっきより目が輝いてるよ。
「ど、どうして使えるの?奏さんはネ〇まに出て来る細目忍者少女みたいに忍者なの?」
「…僕は忍者じゃないよ。あと、どうして出来るのかはちょっと教える事は出来ないよ」
これ以上踏み込まれるのはちょっとまずいな…。
「…そうですか、残念です」
「え〜っ!なんでさ〜っ」
「陽子ちゃんっ!」
僕が急に大きな声を上げたものだからびっくりしたように
「はいっ!」
と返事をしていた。
「ほんと勘弁して下さい」
陽子ちゃんに頭を下げると呆れた陽子ちゃんは呆れた様に
「仕方ないな〜」
と言うと
「じゃあそんな奏君の為に話題を変えてあげちゃおう。奏君っ!君滅茶苦茶強いねっ!そう思わないっ、歌澄?」
「……うん、怖いくらいだった」
……それも当然、か。それでもこのまま僕が怖い人になるのだけは勘弁だなぁ…。
「えーとさ、僕キレると前後不覚になるみたいで……、正直な話あの時歌澄ちゃんが襲われたのを見た瞬間に頭が真っ白になって気が付いたらあんな事に…」
歌澄ちゃんは神妙な顔して頷いた。
「…そうだったんだ」
「え〜っやっぱこう言う時は『愛の力だ』って言わなきゃな駄目だよっ、奏君っ!」
いきなり突拍子もない事を言い出す陽子ちゃん。
「なっ何それ…」
「…訳分からないよ、陽子ちゃん」
「訳が分からない筈があるかぁっ!!」
ビシッと僕達に指差す陽子ちゃんを見て、僕と歌澄ちゃんは顔を見合わせる。
「一緒に寝たんでしょ?だったらもう恋人・夫婦という事よっ!!」
………は?この娘一体何を…?僕と歌澄ちゃんが恋人・夫婦?
僕と歌澄ちゃんは慌てて陽子ちゃんに反論する。
「ってぇ!何突拍子もない事言ってんの、陽子ちゃん!!」
「そうだよっ!私と奏さんはまだそんな関係じゃないよっ!!」
その反論を聞いた途端に陽子ちゃんは玩具を見つけた子供の様な満面の笑みを浮かべた。
「んふっふっ♪歌澄〜」
「…なっ何?」
陽子ちゃんは歌澄ちゃんの耳元でゴニョゴニョと囁いた。すると、歌澄ちゃんは『はっ!』とした表情をしてから、顔を一気に真っ赤にして頭からプスプスと湯気を出し始めた。
「歌澄ちゃん、どうしたの?」
「な、なななな何でも無いなのですよっ!」
信じられないくらいに動揺している歌澄ちゃん。しかも、
「語尾がおかしくなってるよ?」
「そ、そそそそんな事は無いでございますです事よ?」
語尾が余計に酷くなってるよ…。
「そ、そう」
一体陽子ちゃんに何を言われたんだろ?
歌澄ちゃんはニヤニヤしている陽子ちゃんを睨み付ける――睨み付けるけど全然怖くない。むしろ、なんだか微笑ましい。
「陽子ちゃ…っ!」
「おぉっと!我が家がすぐそこにっ!じゃねっ、歌澄、奏君!」
陽子ちゃんは歌澄ちゃんが怒鳴るのを遮る様に叫んで風の様に去っていった。
「もうっ、陽子ちゃんったらっ!!」
プンスカプンと怒っている。
それにしても歌澄ちゃんは一体何を言われたんだろ?
陽子ちゃんと別れた後、気を取り直した歌澄ちゃんが
「え、えーと、今日は本当にありがとうございました」
と丁寧に謝ってから僕達は再び歩き出した。
二人っきりの帰り道。
僕は今日歌澄ちゃんと陽子ちゃんに対してやった嘘に思いを馳せていた。
随分と久しぶりにキレたと思う。
『えーとさ、僕キレると前後不覚になるみたいで……、正直な話あの時歌澄ちゃんが襲われたのを見た瞬間に頭が真っ白になって気が付いたらあんな事に…』
頭が真っ白になったのは真実、キレた事も真実。でも、前後不覚になるのもその間に何をしていたのか分からなかったというのは真っ赤な嘘。
僕はキレた時冷静になる。
あの時、頭が真っ白になった後、真っ先に思い浮かんだのは君を襲ったあの男を殺す事。
男達を前にした時考えた事は君や陽子ちゃんがいるからあまり派手に出来ないななんて事を考えてた。
……こうやって考えて見ると僕は確かに前後不覚かもしれないな。
……なぜか分からないけど――いや、本当は分かってるけど――僕は君に嘘をつきたくない。でも、君が本当の事を知ったら僕は嫌われるんじゃないか、そんなことばかり考えてしまう。
僕は怖い、君に嫌われるという事がすごく怖い。 君は本当の事を知っても僕を嫌いにならないだろうか?
歌澄ちゃん、こんな『人殺し』の僕だけど嫌いにならないでいてくれるだろうか? |