閑話.女男とノッポ女の過保護な奮闘記《青の親心と剣道少女の叫び》
scene1.女男は告白して両刀使いと呼ばれる
どうも、皆のアイドル守戸千央です。僕の視点でやるのは初めてでうまく出来るか分かんないけどよろしく♪
と、まぁ冗談はともかくとして。今、僕の気分は最高に悪い。
隣りを見ると愛しのノリも機嫌が悪い。
「ところで奏」
「どうして岸和田さんといるのかな?」
「へ?」
僕とノリの不機嫌な声と言葉に奏は訳が分からないといった感じに驚く。
まったく、あれ程関わらないように言ったのに!
僕はノリと目で合図してこっそりとその場から抜けだし、すぐそばの路地裏へ向かう。
そこには案の定奴がいた。
「やっぱりいたな。湊尊」
文学部書記湊尊。成績は優秀、運動神経は良し、顔はまずまず、体型は至って普通。但し、何故かパシリ口調。そして、湊流舞闘術の継承者。
「やっぱりバレてたっすか」
湊尊は別に堪えた様子も無くヘラっと笑いながら僕を見る。
気に食わないね。
「そんな顔しないで下さいっす。可愛い顔が台無しっすよ?」
……ほんっとに気に食わないね。何この歯の浮くようなセリフ。
「あんたさ、天然ジゴロって言われない?」
「な、何で分かるんすか!?」
驚く湊尊。
たち悪いなぁ、コイツ。一体何人の女を泣かせてるのやら。
「そんなのはどうでもいいよ。前から言ってるだろ、奏には近付くなって」
「相変わらず過保護っすね。奏くんは君らのモノじゃないっすよ?」
……ほんっとにコイツは何処までもムカつく奴だな。
「知ったような口を聞くなよ。お前に何が分かる」
「なら、君には奏くんの何が分かるんすか? 趣味や性格、境遇なんて上辺だけでしか無いっす」
ああ言えばこう言うな。
「そんなの分かる訳ないでしょ? 奏の思ってる事なんて精々十の内の一か二しか分からないね。
いいかい、湊尊。僕はね、奏に嫌われようがウザく思われようが奏が好きなのさ。しかもlikeじゃない、loveだ。もちろんノリの次に、だけどね。
そういう事だから、もう奏に手を出すなよ」
……む、なんでそんなに微妙そうな顔になってるんだよ。どこまでもムカつく奴だな。
湊尊は苦笑いしながら僕にそれはもうかんに触る事を言ってくれた。
「……守戸って、バイだったすか?」
言うに事欠いてバイとな……。
手近な石を三つ拾って湊尊目掛けて全力投球。確実に当たる様に一つは右肩の付根辺り、一つはみぞおちに、一つは腰の左側に投げた。
「ウワッと!」
それと同時に湊尊との距離を詰める。
僕はそのままみぞおちと右肩付根の石を叩き落とす湊尊の脳天目掛けて鞄を叩き付けた。
「ぶっ!!」
間抜けな声を上げて崩れ落ちた湊尊。
ふっ、ザマアみろ。僕をバイ呼ばわりするからだ。
loveにも色々とあるの知らないのか馬鹿者め!
僕は倒れ伏した湊尊を放置して、怒りに鼻息も荒くその場を去っていった。
scene2.ノッポ女は妨害して勝負パンツに出会う
まったく、文学部の連中はどこまで目障りなんだろうな。
……おっと失礼。千央の愛しのハニー・長谷川矩子だ。
さて、私は今どこにいるのかと言うと、ずばり校内だ。校内をうろついている訳ではもちろん無く、我等がB組いる。ただいまの授業はLHR。その内容は『大サバイバル大会』と呼ばれる柳泉学園の高等部一年生によるレクリエーションの説明を受けている。
このレクリエーション、内容も賞品も悪くわない。ただ忌々しい事に文学部主催なのだ。まったく、あの女くたばってくれないだろうか……。そうそう、何故かは分からないがこのレクリエーション、下の学年の連中には教えてはいけない事になっている。配付された袋にしっかりとそう記述されていた。
まぁ、誰一人それに気付いてる様子は無いが。
しかし、森川さんは本当に良い仕事をしてくれた。奏の女装スキルの高さには何時見ても感動させられるよ。よし、後で遙に入れ知恵しておこう。
フッフッフッ、これで『私達』の『奏フォトグラフコレクション』がより一層充実する事だろう。
そんなことを考えているとポケットの携帯端末――携帯電話ではなく、電話機能が付いた高性能の小型PCだ――が二回振動した。
……動いた。
念の為、携帯端末を確認すると画面には『般若と凡人が動いた』とだけ書かれていた。
さて、行こうかな。
こっそりと廊下に出る。
まだ、いないか。まぁ、般若と凡人の事だから恐らく――
廊下の窓から上を見上げると般若姫こと翅裂都沽が浅葱貴人を背負いながら今まさにこちらに降りようとしていた。
下から見上げたのがいけなかった。
……し、白のTバックとは……都沽嬢は、な、なかなか大胆、なのだな……。……わ、私もあれ位大胆にいった方が千央は喜ぶだろうか……。し、しかし……やはりあそこ迄えっちい下着は抵抗が……ムムムッ……ち、千央に聞いてみるか? いや、ダメだ恥ずかし過ぎるな。
「あのー?」
ぐむむむ……いけない、白Tバックが頭から離れない。都沽嬢はなんて下着を学校に穿いて来るのだ……。
「長谷川さん?」
「え?」
呼ばれて振り向くと不思議そうな顔の都沽嬢と浅葱貴人が私を見ていた。
や、やってしまった……。私とした事が何たる失態! ぬぁぁぁあぁっ! 自分が許せん! はっ! こんな時こそ平常心だ。
目を瞑り深呼吸。自分を無にする。
よし。
目を開くと二人がいない。
見るとまさに教室に入ろと戸に手をかけようとしている所。
っ! させるかっ!
「浅葱貴人!」
「え?」
動きを止めて振り向く二人。
ふっ、勝った。
「知っているかい? 今日の都沽嬢の下着は白のT――」
「ぅにゃにゃにゃにゃーーーっ!」
慌てて私の所に駆けて来る都沽嬢。
それはそれは慌てた様子だ。小声で私に捲し立てる。
「な、ななななななな何で知ってるんですかっ!?」
「ハハハ、決まってるだろう? 下から見た」
「はぅぁっ! あ、あの、貴人くんにはこの事はまだ……」
顔が真っ赤だ。それにまだって……。
「も、もしかして勝負パンツかい?」
「あぅ……今日は貴人くんの家に行くから……」
「それはそれは……。と、ところで私も千央の為にそういう下着を穿いてみたいと思ってるんだが……どうしたらいいだろうか?」
都沽嬢は少し考え言った。都沽嬢は恐ろしい目付きと文学部のメンバーということ以外は非常に好感の持てる女性なのだ。
「長谷川さんと守戸くんはお互いを愛していると思うので、どんな下着でも喜んでくれると思いますよ。あ、でもあんまりババ臭いのはどうかと思うけども」
なかなかに素敵な笑顔で素晴らしいアドバイス。
ここは素直に礼を言うべきか。
「都沽嬢、ありがとう。そういう訳だから――」
軽く腕を振ると袖からピアノ線が飛び出し、まるで生きているかの様に都沽嬢に巻き付く。
簡単に言えばボンレスハム寸前の状態だ。
「都沽ちゃん!?」
浅葱貴人は慌てて近付こうとして止めた。
フフッ、賢明だね。
「は、長谷川さん、これはどういう……」
「どうもこうも無いだろう、都沽嬢。散々話たと思ったんだけど……。私達はね、君達に奏と接触して欲しく無いんだよ」
浅葱貴人は忌々しそうに私を見る。それから口を開いた。
「前から思ってたけど君達はどうして僕ら文学部を座留くんから遠ざけようとするんだい? いくら幼馴染みと言っても異常だよ」
……はぁ。何を言うかと思えばそんなことか。
浅葱貴人に言おうとして気付く。翅裂都沽は手に鉄製の小手を着けていた。
ちっ、なんて物を!
もう一度腕を振り、都沽嬢の両手を縛る。
「っ!?」
「都沽ちゃん!」
「二人共動くんじゃない。動けば戯〇シリーズのジ〇ザグよろしく君達二人をバラバラにする」
完全に動けなくなった都沽嬢と浅葱貴人。ひとまずこれで良いだろう。
それにしてもあのクソ女、一般人に『イルアン・グライベル』なんて物騒極まりない物を渡すなんてどういう神経してるんだ?
……ひとまず気を取り直そう。
「さて、浅葱貴人。君の問いに答えようか。
はっきり言って君達文学部は奏の精神衛生上よろしくないんだよ。特にあのクソ女部長」
なんだか心底納得した様子で頷く二人。
……思ってた以上に人望は無いようだな。
「それから、私達がしている事は異常かもしれない、傍からみたら過保護かもしれない。でも、そんなのは関係無い。私達は奏が好きなんだよ。likeじゃなくてloveだけどね」
びっくりするくらい微妙な顔の二人。
……失礼な奴等だな。
ま、いいか。
「とにかく、そういう訳だから奏には手を出さないで貰おうか」
「冗談。座留奏は何としても我が文学部に入って貰うよ」
答えたのは都沽嬢でも浅葱貴人でも無かった。
後ろを振り向く。
「峯河幡……明凜栖……」
どこまでも忌々しい最低の『魔女』が勝ち誇った笑みを浮かべてそこにいた。
「貴人、都沽。足止めご苦労様」
峯河幡明凜栖が指を鳴らすと解けない筈のピアノ線が解けて床に落ちた。
……足止め? くそっ! やられた!!
その場で立ち尽くす私の脇をすり抜けながら峯河幡明凜栖は言った。
「彼は面白い。ますます部員にしたくなった」
そう言い残し、都沽嬢と浅葱貴人を連れ立って去っていった。
一体アイツらはどこまで私達をイライラさそれば気が済む。ほんっとにムカつく。後で奏に当たってやる。
私は苦虫を潰した様な顔でこっそりと教室へと戻っていった。
scene3.女男とノッポ女は青に過保護っぷりを披露する
今は放課後、カウンセリングルームなる所に私、長谷川、守戸の三人はいる。
おっと、自己紹介が遅れた。森川鏡だ。鏡と書いてアキラと読む。よろしく。
用があるからこの二人を呼んだんだが……。
「「………………」」
何でこんなに不機嫌?
「不機嫌そうな顔して、何があったの?」
忌々しそうな顔で答えたのは長谷川だ。
「奴に、奴に奏との接触を許してしまった……っく、私は何て失敗をしてしまったんだ……」
「奴って誰さ?」
その問いに答えたのは守戸。こっちは憤っているのか知らないけどプルプルと身体を震わせてる。
「『魔女』だよ。森川さん」
……はぁ?
「何で『魔女』がこんなとこ……」
いや、学校が学校だけに可能性は無きにしも非ずか? 確かに『魔女』は『八魔神』最年少だったしな。
「で、学校の何処のどいつが『魔女』?」
やっぱり気になるものな。あの小憎たらしい小娘の正体っていうのは。
……ん? そういえば今日授業中に奏に会いに来た変な生徒がいたな。もしかしてアイツか? 何つったけな……えーと……み、みね、みね……。
「文学部部長の峯河幡明凜栖ですよ」
「あー、そうだ。峯河幡明凜栖か。確かにアレが魔女だとなんか納得出来る」
それにしても、随分と悔しそうだな。ってか私そっちのけで反省会をしてるんじゃない。
取りあえず手を叩いて反省会を中断させてこっちを向かせる。
「取りあえず今は魔女の事はどうでもいい。聞きたいのは奏の事だ。私の元を去ってからの三年間、家やその他の事はアイツの家族から電話やら何やらで聞いてるけど学校の事は分からない。だから、奏の幼馴染みで、奏や私達と似たような位置にいて、私と面識のあるお前達に聞こうと思って呼んだんだ。
という訳で話してくれ」
長谷川と守戸は顔を見合わせると頷き合い、どこからともなく、パソコン、スクリーン、プロジェクターを持ち出し準備。
そして、部屋を暗くしスクリーンに映ったのは創角ポップ体で書かれた『奏フォトグラフコレクション』の文字。
「……これは何?」
「フッフッ、これは私達が隠し撮りしてきた奏の成長記録だ」
「ちゃんと日付とコメントが付いてるから安心して見てね」
……安心出来ないなぁ。ってか弟子よ、盗撮に気付けや。
そうこうしていく内にスライドショーは始まった。
一枚目は何の表情も浮かんでいない奏。コメントは『ついに奏が戻って来た』。
二枚目は家族と幼馴染み達に囲まれて無表情の奏。コメントは『皆で撮った写真。奏喜んでるかな?』。
三枚目は水を掛けられて無表情で怒っている奏。コメントは『奏が怒った。次は笑ってくれるかな?』。
四枚目、五枚目とスライドショーは順調に進んでいく。
十八枚目。泣きそうな笑顔の奏。コメントは『嬉しい』。
その後の写真から奏の表情に変化が出てきた。笑ったり、怒ったり、泣いたり……最初こそぎこちなさがあったもののスライドショーが進む程ぎこちなさが無くなっていく。
……昨日も思ったけど、本当に表情豊かになったな。
それからしばらくして、スライドショーは奏とその幼馴染み達の写真で幕を閉じた。
部屋の灯が戻ると二人はどうだとばかりの表情だった。
「あぁ、すごいよ。すごいけどな、お前らバカだろ?」
「なっ!」
「言うに事欠いてバカだと?」
憤慨する長谷川と守戸。
当たり前だろうよ。
「三時間ものスライドショーを見せる奴をバカと言って当然だろうが!」
「バカじゃないよ!」
「そう、これは私達の奏への溢れる愛の結晶さ!!」
愛、ねぇ……。
「なんてーかさ、お前ら息子を溺愛する両親って感じだな」
それはもう気持ち悪いくらいに。
そんな私の思いを知らずに当然だとばかりに踏ん反り返る二人。
「もちろん、溺愛してるとも」
「僕らは奏を超愛してるからね。毎朝奏の通学路の半径一キロ圏内から猫を駆逐、その後通学路の掃除をして」
「学校では奏に近付こうとする文学部及び色ボケた勘違い女共の妨害し、奏の為の昼食の場所から奏の害になると思われる者共を排除」
「そして、放課後は奏と遊び、夜は奏を狙って来る不届き者共を殲滅してるんだ」
「奏は全く持って抜けているからな。私達が気を抜くとすぐに悪い虫が付いてしまう」
「日永歌澄、岸和田陽子、それからあのクソ女にはしてやられたよね」
うーん、見事な過保護っぷり。しかし、ここまでとはなぁ……。
「そうだな。奏は休日も結構外出するからな、暴漢共の駆除には苦労させられる」
「そうだよね〜、後逆ナンしようとする女共もなかなか減らないんだよね〜」
……あれ、こいつらの話を聞く限りだと結構大掛かりな事してるよな。
「長谷川、守戸。奏はお前らのしてる事気付いてるのか?」
「いいや」
「ちっとも気付いて無いよあれは」
……あンのバカ、後で折檻してやる。
extra.今日も剣道少女は××を吐く
「ふぅ〜、今日はちょっと調子悪かったな……。昼のサバがアレだったかなぁ……」
和心がぼやきながら歩いていると後ろから声を掛けられた。
「おや? 和心ではないか」
「やっほ〜、和心ちゃんも今帰り?」
矩子と千央だった。
「ノリねぇ、ちーにぃ!」
二人の方に駆け寄る和心。駆け寄って何も無いところで転んだ。
「「あ」」
矩子と千央の声。
和心の転ぶ先には車止めのポール。
「う゛っ!!」
不運にもポールが和心の腹にめり込んだ。痛々しい。
「「…………」」
何も言わずに可哀相な視線を送る矩子と千央と崩れ落ちる和心。
そして――
「うっぷ――※☆♪〜☆○◆〒α@∞£!」
盛大にぶちまけた。
地面に広がる汚物。幸いな事に誰も通らなかった。
「う、うぅ……」
聞こえて来たのはすすり泣き。二人には掛ける言葉が見つからない。が、いたたまれなくなり千央が尋ねた。
「和心ちゃん……大丈夫?」
返ってきたのは泣き声。恥も外聞も無い泣き方だった。
「う、うぅ、うわあぁあぁああぁぁぁぁぁぁんっ! こんな、こんな役回りなんてもう嫌あぁあぁああぁぁぁぁぁぁっ!」
矩子と千央の憐憫の視線を受けながら、和心の心底からの叫びは柳泉市の夜空に消えていった。
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