17.僕と彼女の新任教師《新キャラ登場!……ではありません》
「いってきまーす」
「…………いってきます」
今日も今日とて僕は歌澄ちゃんと一緒に家を出る。
……なんか、気まずい。
歌澄ちゃんを見ると顔が熱くなるのが分かる。多分僕の顔は赤くなってる。
普段なら歌澄ちゃんにバレないようにするけど、今日はそんな心配をする必要は無かった。なぜなら、
「……ぅう……頭痛い……」
歌澄ちゃんは二日酔いで頭を押さえて呻く。かなり具合は悪そうだった。
「大丈夫?」
「……大丈夫じゃないです」
言いながらフラフラと蛇行している。
昨日の今日だもんな〜。
朝起きて講堂に行くと要義兄さんが途方に暮れていた。
要義兄さんの後ろから講堂を覗くとそこには兵どもが夢のあとでした。
もう臭いこと臭いこと。
他にも、真っ白に燃え尽きた彼方さんが自殺を敢行したりとか酔っ払いの世話とか……。
朝から忙しかったなぁ〜。
あ、そうそう、要義兄さんと編集長は自力で脱出したみたい。すごいね。
僕が気恥ずかしさと心配とに悶々としていると軽快な足音が聞こえて――
「っはよ〜っ!! 今日も二人はお熱いですなぁ〜っ♪」
バンッ!!
「〜〜〜〜〜〜っ?!」
歌澄ちゃんはその場に頭を抱えてうずくまって悶える。
……アレはキツイ。
いつものハイテンションと共にやって来た陽子ちゃんは大きな声で挨拶しながら軽く僕ら二人の頭を叩いた。
二日酔いの歌澄ちゃんにその所行は拷問以外の何ものでもなかった訳でして。
陽子ちゃんはそんな歌澄ちゃんを見てから困惑の表情で僕を見た。
「歌澄どったの?」
「昨日帰ったら姉さんが社員集めて宴会やっててさ、酒に呑まれた若魚さんと水波音ちゃんの毒牙にかかってね」
陽子ちゃんはあー、と納得して歌澄ちゃんの肩をポンと叩いた。
「たはは〜、二日酔いとは露知らず。すまんすまん」
「……ううん、だ、大丈夫、だよ」
そう言って歌澄ちゃんは起き上がって陽子ちゃんにおはようと挨拶して、またフラフラと歩き出した。
危なっかしいなぁ……。
歌澄ちゃんに気を遣いながら三人で歩いていると陽気な声が僕を呼び止めた。
「やぁやぁやぁ! 久し振り。今日も元気かねムッツリ奏君!」
「皆っ、久し振りっ♪ 皆のアイドル千央だよ〜っ♪」
誰がムッツリだ、とか、どこに向かって手を振ってるんだなんていうツッコミをした方がいい気がするけど、ここはまず――
「お前ら、取りあえず静かにして」
「む、何故だ? 我々は久々の登場なんだぞ!」
「そうだよ〜っ! 奏は主人公だから僕ら端役の気持ちなんて分かんないでしょっ!」
ギャーギャー喚く二人。
「知るかっ! 大体お前ら昨日も会っただろ! 訳の分かんない事言うな! アレを見ろ!」
僕の差す方向には頭を抱えてうずくまり、プルプルと震える歌澄ちゃん。
「「…………何、あれ?」」
「昨日、酔っ払い共の魔の手にかかった結果だよ……」
二人はなるほど、と納得した後、妙に怖い顔で僕を見た。
な、なんだ?
「ところで奏」
「どうして岸和田さんといるのかな?」
「へ?」
こいつらは一体何を……。あ、そういえば前に陽子ちゃんに関わるなみたいな事……ぅおっ?!
なんかドロドロしたオーラが……
「あ、長谷川さんに守戸さん。こんな所で奇遇ですね♪」
笑ってるのに笑ってない。ノリも背筋の凍り付く様な笑いで言った。
「これはこれは文学部の牝犬じゃないか。まったく持って奇遇だね。あのクソアマの差し金かい?」
「私は歌澄と一緒に登校してるだけだよ。後、部長がクソアマっていうのは大いに賛同するけど牝犬って言うのは酷くないかな?」
「そうだな、お前は牝犬じゃないな失礼したよ。そうだな……お前は……下衆女だな。やってる事はセコイしな」
「言ってくれるじゃない。無能女」
「私は万能だよ。下衆野郎」
「私は女よ」
「おや、そうだったのか?」
「当たり前じゃない」
「それは失礼」
「いいえ、気にして無いから。ウッフフフフフ」
「そうか、ならいいんだ。フフフフフフフフフフ」
……こ、怖い。なんでこんな険悪な雰囲気なんだ? しかもいつの間にか千央はいないし……。
ん?
遠くから何かけたたましい音が聞こえてくる。
他の人も気付いたのか皆音のする方向に視線を向けた。
…………じ、自転車?
向かって来たのは彼方さん以上に凶暴そうな顔をして自転車を漕ぐ女性と半べそでその女性にしがみつく小柄な男。
自転車の速さは亀有公園前にいる不良警官や一億五千六百八十万四千円の借金執事に匹敵するようにも見える。
というかこのままじゃ僕ら自転車に轢かれるじゃん。
「歌澄ちゃんっ!」
急いで二日酔いに苦しむ歌澄ちゃんを立たせて一緒に脇に避けると男が叫ぶ。
「都沽ちゃんっ、前っ前ぇぇえぇぇっ!!」
「え? あっ!」
ギャギャギャーーッとブレーキを掛けて陽子ちゃんのすぐ側に華麗に止まる。
「都沽先輩、貴人先輩一体どうしたんですか? 危なすぎですよ〜」
「ご、ごめん岸和田さん……」
「きゅぅ…………」
誰だろ? 見た事あるような気がするんだけどなぁ……。
そんなことを考えてると、
「岸和田さん、早く乗って!」
「どうしたんです?」
「いいからっ!」
陽子ちゃんはひょいと片手で持ち上げられて連れて行かれてしまった。
……もう見えなくちゃった。ん? あのトコ先輩って呼ばれた人片手で陽子ちゃん持ち上げた?
「歌澄ちゃん、あの人達知ってる?」
「……あぅあぅあぅあぅ……部の先輩……だと思いまふ」
「やっぱり今日は休んだ方が良かったんじゃ……」
歌澄ちゃんは弱々しく手を振る。
「……休めないんです。だって、今日は大学の教授と前に言ってたメイドロボットのAIのプログラムを組まないといけないんです……吐きそうぅ……」
「…………その教授って何歳?」
「……62歳」
うわぁ〜、なんだかなぁ……。
僕は歌澄ちゃんの背中をさすりながら、ノリに聞いてみた。
「ノリ、さっきの自転車の人達の事知ってる?」
「もちろんだ」
ノリは何だか忌々しそうにあの二人の情報を教えてくれた。
「まず、女の方。名前は翅裂都沽。通称『柳泉の般若姫』身長176センチ、体重54キロ。特徴はあのかなり長い髪とその前髪から覗く般若のごとき三白眼。そして、人外の身体能力。『柳泉の般若姫』の名はこの辺りの不良共にとって天災と同義らしい」
天災って……あの人は地震とか台風とかと同じ括りなんだ……。
ノリは続ける。
「そして、男の方は浅葱貴人。その容姿と人当たりの良い性格から二年のアイドルないしマスコット。身長は156センチ、体重は46キロ。変人奇人超人揃いの文学部で唯一の凡人だ」
天災と凡人のコンビかぁ……すごい組み合わせだなぁ。ってか、陽子ちゃんも変人奇人超人扱いなんだ……。
歌澄ちゃんを支えながら歩き出そうとした僕をノリが止めた。
「どうしたのさ?」
「奏。もし、文学部の連中――特に部長の峯河幡明凜栖が訪ねて来たら逃げろ」
ノリはそう言って理由を聞く暇も無く行ってしまった。
それにしてもなんなんだろ、ノリも千央も妙に文学部を毛嫌いしてるような……。
「う、ぅう……えっぐ、ひっぐ」
……これは何の嫌がらせ?
「奏ぇ〜、聞いてくれよぉ〜っ」
教室に入るなり謙治が泣きながら僕にすがりついて来た。
……鬱陶しいなぁ〜。
「どうしたのさ?」
「和心がぁっ、和心がぁ〜〜っ!」
涙で顔がグシャグシャになってる謙治。
うーん、何かキモい。こんな変態ロリコンがモテるんだから世の中分からないよなぁ〜。
「それで和心ちゃんがどうしたの? あと、反吐が出るくらい鬱陶しいから早く離れろ」
「朝起きたらな、」
スルーしやがった。
「和心がいつもの様に居合いの練習してたんだよ――」
――回想開始――
ふふ〜ん♪ 今日イー天気だ!
俺はご機嫌に庭を覗く。
はぁ〜和心は今日も可愛いなぁ〜♪
和心は胴着に袴という素敵な姿で人型の濡れ藁に円形に囲まれながら居合いの構えを……あれ? 濡れ藁が何かおかし……俺の等身大の写真?
そして――
「ハァアァッ!」
和心の非の打ち所の無い居合い。
ボトボトボト。
見事に俺の写真の首だけが地面に散らばる。
…………え?
和心は叫びながら首の無い俺の写真達に切りかかった。
「死ねぇぇえぇぇっ!」
袈裟斬りで真っ二つ。
「キショイッ!!」
縦に一刀両断。
「クソロリコン男っ!!」
上半身と下半身がさようなら。
「半径十五キロ以内に近付くなっ!!」
滅多斬りで粉微塵。
「迷惑でしか無いんじゃーーっ!!」
逆袈裟斬りでも真っ二つ。
「死にっ、さらっ、せぇぇぇえぇぇっ!!」
刀が濡れ藁を貫いた。
……えーと。
目の前で起きた事が信じられなかった。信じたくなかった。
「ふぅ〜、スッキリした〜♪」
和心はスッキリした顔で俺の写真の残骸を蹴散らしながら去って行った。
――回想終了――
「――と言う訳なんだよ……」
うーん、なんていうかかける言葉が無い。
「取りあえずあれだ。ドンマイ」
「そんなこと言うなよぉ〜〜っ!」
うわぁ……ますます残念な感じに……。誰か変わってくれないかなぁ?
周りに目を向けると誰もが見て見ぬふり。
……はぁ。仕方無いなぁ。
「分かったよ。僕の方から和心ちゃんにそれとなく聞いておくよ」
「本当かっ! ぅおーーんっ、心の友よぉーーっ!」
「止めろ馬鹿」
劇場版のジ〇イアンみたいなセリフを言いながら抱き付こうとした謙治をひっくり返して席にようやく着いた。
「あ、そうだ」
謙治は起き上がり僕の前の席に座る。
「知ってるか?」
「何を?」
「副担任のキーちゃんいんだろ? なんか実家の畳屋継ぐとかでやめたんだと」
キーちゃん先生が? あの人の授業好きだったんだけどなぁ〜。
「そっかぁ、残念だな。にしても随分突然だよね」
謙治はそうなんだよ、と腕を組む。やっぱり謙治もおかしいと思ったらしい。
「急過ぎだよな。しかも後任もう決まってるみたいなんだよ。なんかイタリア……だっけかな、そこから来たんだと」
ふーん、イタリアかぁ……あれ? イタリア? そういえば鏡さんもそっちの方から来たんだよね……。
「っ?!」
「? どうした、奏」
「い、いや。なんでもないよ」
悪寒が走った。
……いや、気のせいさ。うん、気のせいにきまってる。そうだよ、そんな訳無いよね。
「お前達、早く席に着きなさい」
自分に言い聞かせてると呉羽先生がいつもの様に入って来た。
特に僕には関係ない連絡。いつもならそこまでで終わるけど今日はやっぱり違った。
「さて、もう聞いてる奴もいると思うけど、副担任の嵯峨衣先生が家庭の事情で学校を止めた。それで新しい副担を紹介しよう」
なんだか変に緊張してきた。
「では、入って来てくれ」
……なんだろう。今物凄くあの戸が開くのを阻止しないといけない様な……いや、気のせいさ。うん。あの人がこんなところに来る訳ないじゃん!
ガララッ
僕の思考がフリーーーーーーズ。
目に飛び込んだのは鮮やかで艶やかな青。青。青。
遠くで男子の歓声と女子の驚く声が聞こえる。
「森川鏡です。今日から君達の副担任になりました。よろしく」
皆は口々に質問を鏡さんに浴びせていく。
だんだんと思考出来るようになって来るところで鏡さんは僕を見てニヤリと笑った。
鏡さん……一体、一体何を――
「あんたは一体ここで何してんですかぁっ!!!」
クラス中の視線が僕に集まる。でも、それどころじゃない。
「何って、仕事だけど?」
「そうじゃないっ!」
「じゃあ、何よ」
「なんであんたが僕の副担なんですかっ! 嫌がらせ? 嫌がらせですかっ! あんた最低だっ!」
「失礼ね。私の愛を奏は分かってくれないのね。酷いっ!」
こ、この女ァ……。
「帰れっ! 今すぐイタリアに帰れ!」
「あら、そんなこと言っていいのかな?」
「うるさいっ! 僕の平穏を破壊する悪魔め!」
この人がいたら一体何をされるか……。
すると鏡さんのスーツの胸の辺りから猫が……。
「ッ!!?」
ねっ、猫っ!
鏡さんは壮絶な笑みを浮かべた。
「悪魔呼ばわりとは随分ね……報いを受けなさい。いけ! タイガー号!」
「ニャァァァアアァアァッ!!」
「イヤァアァァァアアアアァッ!!」
ねっ、猫がっ、猫がぁぁぁあぁっ!!
尻餅をついて目を瞑る。
…………あれ? 何も来ない?
ゆっくりと目を開けると呉羽先生が猫と鏡さんの襟首を掴んでいた。
「まったく、まだ朝のホームルーム中なんだからあまり騒がないでよ鏡」
「えーっ」
呉羽先生はつまらなそうな鏡さんを一睨みで黙らせて僕を見た。
「座留もよ。気をつけなさい」
「す、すいません」
呉羽先生は連絡は以上、と言って鏡さんを連れて出ていった。
……鏡さんの学校の友人って呉羽先生だったんだ。
ちょっと驚いていると不穏な空気を感じた。振り向くと太郎を始めとした男子諸君。
「……ど、どうしたのかな?」
やっぱり答えるのはクラスの男子代表(?)である太郎。
「どうしたもこうしたもねぇ……。姉は学園史上最強最悪超絶美女。友人関係は歌澄ちゃんに長谷川に白羽妹。どれもこれも驚く程の美人揃い。それだけで男子の殺意の的だってぇのに……」
そ、そうだったんだ……。でも、それって不可抗力だよなぁ。
どうしようも出来ないよなと思ってると太郎が叫んだ。
「あの副担任までお前の知り合いとはどういう了見でいっ!!!!」
あれっ? 語尾が江戸っ子? ……どうでもいっか。それよりも、
「えーと……」
あー、どうしよ。なんて言えばいいかな……うーん……よし。
「ほ、ほら、僕がここに来る前に世話になった人なんだよ!」
これなら問題無いはず! 嘘って訳でもないし、太郎達の神経を逆撫でする結果には……。
「だからなんじゃぁあぁぁいっ!!!!」
えぇ〜〜〜〜〜っ?
なんだか理不尽な太郎の怒り。一体僕にどうしろと?
「そういう訳だから……者共っ、かかれーーーっ!!」
というわけでで僕はまた太郎を始めとした男子達に追いかけられる事になった。
ちくしょう、鏡さんのせいだ。
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