14.僕と彼女の猫まっしぐら《バカップル!って罵倒していいですか?》
「委員長」
「な……く、座留君…」
授業も終わり、僕が話しかけると委員長は僕を確認した途端に狼狽し始めた。
「あのさ、太郎探してるんだけど何処にいるか知らない?」
「あ、あのね座留君。そのね……えーと……怒らない……でね?」
「何が? どうしたのさ委員長」
「太郎が君を気絶させた後高笑いしながらクラスの殆どの男子を引き連れて、どっか行っちゃったのよ」
なんだろう、この悪い予感は。
「『者共、今すぐ猫を集めるぞ』って叫びながら……」
…………………や・ば・い。やばい、これはやばいぞ。大体なんで太郎は僕を目の敵にするんだろう? いやいや、今はそれどころじゃないぞ、下手したらあの悪夢の再来…………。
「ダメだダメだっ! そんなこと断固阻止しないと! それで心当たりはっ?」
「ご、ごめんね。学校にはもういないみたいなの……」
こ、これじゃあの悪夢が、恐怖が…………
プチッ
「いやぁぁああぁああああぁぁああぁあっ!!」
「く、座留君?」
僕の突然の叫びに教室にいた誰もが驚き、そして凍りついた。
「フ、フフフフフフ……良い度胸だ……太郎ぅ……滅してやる……」
――余談だけど、この時の僕は悪魔も裸足で逃げ出すんじゃないかと思わせる程の恐ろしい笑みを浮かべていたとかいないとか――
話を戻す。委員長は恐怖でガタガタと震えていたけど僕はそれに気付かずに
「太郎ーーーーーーっ!!」
と叫びながら勢い良く教室から出て行った。
勢い良く出ていった僕を待ち構えていたのは――
ニャー
…………何故だっ、何故猫畜生がここにっ!
慌てて教室に戻る。皆がぽかんとした顔をしてるのを尻目に箒でドアを開かない様にする。
「ど、どうしたの?」
僕は委員長を無視して窓から外を確認。よし、いない。
「なぁ、奏。いくら嫌いとはいえ過剰過ぎないか?」
呆れ顔の謙治が阿呆な事を聞いてくる。過剰だと? 条件反射に近いものだよ馬鹿野郎ぅ!
「過剰じゃない! いいか、よく聞け、謙治。三千は下らない猫やトラやライオン達がどこまでも、いつまでも、追いかけてくるんだぞ! お前にこの恐怖が分かるか?! あつら肉食なんだぞ?! どんなに、どんなに走っても追いかけてくるんだぞ……」
「にゃぁ〜〜♪」
僕は素早く窓を開け、足をかける。
いざっ!
「だぁっ! 早まるな奏! 猫じゃない、ノリだ!」
「え?」
僕が見たのは腹を押さえ、口許を手で隠し、肩を震わせながら全力で堪えている長谷川矩子。
「………………プッ……ククッ………クッ…」
……む、ムカツク。謙治もその哀れなものを見る目付きはなんなんだよっ!
「まったく。どうフォローしていいか分からんから流すけど猫とかライオンとかを三千匹もいる場所なんてあるもんか?」
「流すなっ! まぁいいけど。猫畜生がいる場所はあるよ。南米のチリの猫狂の金持ちの屋敷」
「はぁ?」
「いや、そんな顔されても……」
すごい訝しげな顔してるなぁ……。
「謙治、それは実在するぞ。まぁ普通知ってる方がおかしいんだがな」
なんでノリが知ってる? というかもしかして今俺迂闊なこと言ったんじゃ……。
「はぁ、長谷川まで何言って……」
「と、とにかくっ! 謙治、もし自分が異常な数の猫畜生共に襲われたらどうする? っていうかどうなると思うっ!」
「うっ、それは嫌だな……というか絶対トラウマになるな……」
謙治の言葉に『だろ?』と相槌をうちながらノリの方を見ると含み笑いをしている。
まさか……ね。
廊下にはずっと猫が張り付いてるから出られないし、幸い教室移動のある授業はなかったけど一歩も出られなかった。
そんなこんなでもう昼休み。
いざ、歌澄ちゃんの元へっ! 勢い良く立ち上がり弁当を引っ掴み窓に足を掛けた。
「何やってんだよ奏」
「見て分からない?」
なんで心配そうな顔してんだろ?
「こんな堂々と自殺なんてやめろよ」
「はい? 自殺なんてするわけないだろ?」
謙治が口を開き掛けた時、教室の戸が大きな音を立てて開いた。
「座留ぇっ! 積年の怨みぃっ今日こそ晴らしてくれぶべらぁっ!」
入って来たのは太郎。太郎を見た瞬間、身体が反射的に動いていて、気が付けばドロップキックを見事にかましていた。
「よし、行こう!」
ボロボロの太郎は立ち上がり不敵な笑みをうかべてる。
「お前はもう俺には勝てない」
太郎が手を上げると猫を抱いた男子が……
「っ!」
迷う事なく窓から外へダイブ。 着地の衝撃をうまく吸収して素早く駆け出す。
ひとまず茂みに隠れる。
さて、どうやって歌澄ちゃんのとこに行こうかな……。あれだと恐らく歌澄ちゃんの回りも張ってるんだろうなぁ〜〜……そうだ! 携帯で連絡すれば……
「いたぞ!」
「まずいっ!」
やっぱり猫がいるしっ!
パシッ!
「うわっ!? な、何が当たっ……!」
やばいやばいやばいやばいやばいやばい!
猫がわらわらと集まって来てる……さっきのはまさかマタタビ?
全力で逃げた。校舎を逃げ、校庭を逃げ、図書館を逃げ……
「そ、そう、だ……上着を脱げば……」
上着を脱いであらぬ方に投げるとうまい事猫はそっちに行ってくれた。
辺りを警戒しながらブラブラしてると気が付くと図書館裏にいた。
「ふぃ〜、なんとか撒けたかな?」
時刻を確認するともうすぐ昼休みが終わる時間だった。
「はぁ……結局いけなかった。太郎め、冥府に送ってやる」
「誰を冥府に送るって?」
その声に後ろを振り向くと猫を抱えた太郎とその他。いつの間にか反対からも猫を抱えた男子が。
……絶対絶命だ……。
太郎は勝ち誇った顔して僕に要求を突き付ける。
「座留奏。もし猫に襲われたく無かったら俺達『柳泉学園美少女保護委員会』にもう二度と日永歌澄ちゃんに近寄らないと誓え」
…………ぅわぁっ、引くわぁ……。
「どうした? 『はい』と言えば助かるんだぞ?」
『……なんか、見ててイタイよ』
……なんて言ったら怒るだろうなぁ。かと言ってあんな無茶苦茶な要求を飲むのは絶対無理だしなぁ……なんとか誤魔化すしか無いよね。
「あのさ、」
「なんだ?」
「怒らないで聞いてね?」
「言ってみろ」
「歌澄ちゃんとは家族ぐるみの付き合いでね、ほら、僕の家焼けちゃったでしょ? それで歌澄ちゃんの親が『家ができるまで我が家の部屋を貸してあげましょう』って言ってくれて。だから近寄るなって言うのちょっと無……」
ん? あれ? やっぱ無茶……だったかな?
この場にいる男子一人残らず殺気だってる?
ジリジリと歩みよって来る男子(猫装備)。
後ろは……だ、ダメだ、後ろにもいる……。あちゃー墓穴掘っちゃった……。
諦めかけたその時、男子(猫装備)の動きが止まり、一点を見つめてる。
なんだろ?
思ったのも束の間目の前を男子達が抱えていたであろう猫達が駆け抜けた。
「ひゃぁっ!」
猫、猫怖い〜〜〜っ!
猫の恐怖に体を丸めて一分くらいたったろうか、恐る恐る顔を上げると――
「……へ?」
あんなにいた男子も猫も一匹たりともいなかった。
いるのは朝の子猫を抱いた委員長と太郎だけだった。
「な、夏水……」
「太郎……あんた……ふざけるのも大概にしなさいよ……。いつも他人に迷惑かけて、いつもいつも他の女の子の尻ばっかり追っかけて……っ、ひっく、うっく、もっと私の事見てくれたっていいじゃないっ! ふぇーーーーんっ!」
「な、夏水! 泣くなって!」
「あんた、ひっく、泣かせたん、ぐすっ、じゃないのよぉ……」
泣きじゃくる委員長と狼狽する太郎。
……まぁ、身から出た錆だよね。
「馬鹿ばかバカバカぁ〜〜。後始末をする私の身になってよぉ……」
「う……悪かった。これからはもっとお前の事、大事にしてやるからさ、な? もう泣きやめよ」
ぅわぁ……すっごいここに居ずらい。どうしよう?
太郎はちらりとこっちを向いて苦い顔をした。
『頼むから向こうに行ってくれ』
『僕だってこの場から去りたいのはやまやまだけど、猫が前を通った時に腰抜かして動けないんだよ……』
お互いに目で言い合っていると委員長がとんでもない事を言い出した。
「ほんと?」
「あぁっ、もちろん!」
「じゃあ、ここで……キス、してくれる?」
「はい?」
い、委員長?
太郎の目が点になっている。恐らく僕の目も点になってるだろう。
「キスしてくれなきゃ、信じてあげない」
上目遣いで甘えるよに太郎にくっつく委員長。
「わ、わかった」
太郎っ!?
よく見ると太郎は顔真っ赤にし、もはや委員長しか見てなかった。
こ、このバカップルーーーーッ!!
「ちょっ…………」
止めようとしたのも虚しく太郎と委員長は熱いキスを交わした。
………………遅かったか。
太郎と委員長は顔離して潤んだ瞳で見つめ合う。
まだ腰抜けて動けないし、どうしよっかなぁ……あ。
太郎と委員長とばったり目があってしまう。
「……ぁ」
「うげっ」
「……あ、あははは」
委員長の顔色は赤から青へ。太郎はその場で硬直。僕はただ笑うしか無い。
「な、なな、な、ななななんでまだ座留君がいるのよっ!! ぅわぁーーんっ!」
委員長は泣きながら走り去ってしまった。
「太郎、太郎ったら」
「はっ! あ、あれ? 夏水は?」
硬直が解けた太郎は委員長を探す。
「太郎、委員長は恥かしさのあまり泣きながら走って行っちゃったよ」
「あ、あぁあぁあああああああぁあぁぁあっ! 俺はっ、俺はなんて事を!」
頭を抱えて身悶える太郎。
自業自得、因果応報だよ、太郎。
「夏水ぃーーーーっ!」
「あっ!」
太郎は委員長を後を追いかけていった。
……あれ? 誰もいない。腰は……まだ抜けてる……猫攻めの後は放置プレイ? 歌澄ちゃんと昼食食べられなかったな……後で謝らないとな。動けなし、弁当でも食べてよ。
僕は腰を抜かしたまま図書館裏で弁当を食べる事にした。一人寂しく。
あぁ、今日の弁当はなんだかしょっぱいなぁ……
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