13.僕と彼女の猫まっしぐら? 《僕と太郎と猫科の動物の生きる道》
「よう、久し振りだな、奏」
「あー…久し振り?」
教室に戻ると謙治が話し掛けて来た。
「なんで疑問形なんだよ…」
「まぁ気にしな…」
「やぁ、奏。さっきの時間は保健室で日永歌澄とニャンニャンして居たのかな?」
突然現れて変な事を言い出すノリ。なんだその邪悪な笑みはっ。
「なにっ! そうなのかっ?」
「謙治、ノリの戯言を鵜呑みにするんじゃないっ、ノリも勝手な事言うなっ! 後、ニャンニャンってなんか古いし」
「ぅおう、すまん」
「ならば乳繰りあっていたとでも言えばいいのかな?」
「そういう問題じゃないからっ!」
あっはっはっとほんとに女子かと思わせるノリの笑い。小さい頃はこんなんじゃ無かったような気が……。
「まぁ冗談は扨置き」
「本題に入ろうか」
ノリと謙治がニヤリと笑う。
……なんだこの不吉な予感は…。
「奏、君は私達に隠し事をしているね」
断定するノリ。
隠し事? なんだ? 心当たりが有り過ぎる…。
「えーと、何のこ…」
「とぼけるなよ、奏。ネタは上がってんだ」
僕の誤魔化しを遮り謙治が言う。
「な、なんだよ、謙治」
そして、
「「お前、猫が悲鳴を上げる程ダメなんだろ」」
「!?」
なんでっ!? どうしてバレたっ!? ボロを出した事なんて一度も……一、度も………あぁあぁあああああああぁあぁぁあっ!! そうだっ! そうだった! 学校に来たら委員長と太郎が子猫を持って来てて、子猫が鳴いたら僕は情け無い事に腰を抜かして、太郎と子猫に襲われて気絶したんだっ!
ノリと謙治が詰め寄って来る。
「「さぁ、どうなんだ?!」」
「う……あ…………あぁ?!」
気が付くとクラスのほとんどの人が――何故か男子がやたらと少ない――興味深々といった顔で僕を見ていた。
「なっ……何、これ……どうして皆そんな顔で僕を見るのさっ!」
クラスの何人かが『だって…ねぇ?』とか『うん、やっぱりね〜』とかなんとか。
あぁ…不吉な予感が僕の頭で縦横無尽、所狭しとよぎっていく……。
「なんて顔してるんだよ、奏。お前、自分がなんて言われてるか知ってるか?」
そんなの知るかっ! このままじゃ僕の今までの努力が……。
「お前はやたらめったら年上の女にモテる上に、成績は優秀で運動神経が良く、性格も良い。しかも、成績や運動神経の良さをまったく鼻に掛けて無いということから『女顔の年上キラー・完璧超人座留奏』と呼ばれているんだぞ」
「……なんだよ謙治、そのけったいなのは」
『女顔の年上キラー・完璧超人座留奏』なんてのを聞いたら流石に思考も止まってしまう。
……っていうかそんな通称なんて嫌だよっ!!
「まぁ落ち着け。その完璧超人も完璧じゃないかもしれないという事態に皆、興味を持って当然だろう?」
「それに、だ」
そう言ったノリはとても、とても寂しそうな顔をしていた。
「私達は幼馴染みで、腐れ縁で、親友だろう? 隠し事なんてされたら寂しいじゃないか…」
「ノリ………っ!」
馬鹿だ、僕はなんて馬鹿野郎なんだっ! ノリ、千央、謙治に隠し事なんてしてっ! 一体僕達は何年一緒にいるんだよっ! 今の僕があるのはノリ達のお陰じゃないかっ!
「くっ……ごめんっ! ノリ、謙治…実は僕っ……!?」
僕が改めてノリを見るとその顔はさっき見せた寂しそうな顔じゃなくて、新しい玩具を買って貰った子供の様な顔だった。その表情からは『早く言えっ、言うんだっ!』と聞こえるようだ…。
周りの皆も期待に顔を輝かせている。
「なっ!」
「どうした、ん? 実は、なんなんだ?」
憎たらしい笑いを浮かべて僕に続きを促すノリ。
ぐぬぬぬぬぬぬっ! こ、この女ぁっ! 腹立つっ! もうすんごい腹立つっ!! しかも微妙に見下ろされてるっていうのが許せないっ!!!
「どうした、ほら、早く言わないとチャイムが鳴ってしまうじゃないか」
「さっさと吐いて楽になっちゃえよ」
ノリと謙治が急かしながら一歩詰め寄って来る。相変わらず僕に刺さるクラスメイト達の視線。
どうする、下手に動くと墓穴を掘りそうだ…。
再び周囲を見回すと不意に皆の輪から外れ、思案顔していた委員長と目があった。
やった、これでなんとかできるかも!
と思ったのも束の間、委員長は気まずそうな顔して視線逸らした。
……ア、アウェーだ。
ノリと謙治はさっさと白状しろと僕を急かし、委員長は僕と目を合わせようとしない。そして、ノリと謙治に便乗してるクラスメイト達。
あぁ、四面楚歌ってこういう事を言うんだったね……改めて思い知らされたよ。泣きそうだ……。なんかもう耐えられません。さようなら、僕の努力達。
僕は挫けた。
「はぁ…あぁ、そうですよ、そうですともっ! 僕は猫が死ぬ程嫌いですよっ!」
挫けた僕はやけくそ気味に白状した。丁度それと同じタイミングでチャイムが鳴り、教師が入って来た。
皆、満足気な顔で各々の席に戻っていく。ノリと謙治は晴れ晴れとした顔で。
人の弱味を握ってそんなに嬉しいかっ! ……まぁ、なんだかんだ言ってノリの言葉は堪えたな。隠し事をされたら寂しい、か……。僕は、もっと過去の事を皆に話せば良いのかな?
……分からない、分からないけどさ、やっぱりこれからも今まで通り僕はノリ達に――もちろん歌澄ちゃんも――隠し事をし続けるよ。
ごめんね、皆。
でも僕は皆に嫌われたく無いから……皆に嫌われる事だけは絶対に嫌だから。
だから僕は隠し事をし続けるよ。
……それにしても太郎の奴何処に行ったんだろ? 折角取っ捕まえて、精神が崩壊するまでいたぶってやろうと思ったのに……授業が終わったら、委員長に聞いてみるか。
柳泉学園美術部部室。薄暗い部屋で太郎は机に腕を組んで座っていた。
「喬、戻ったか」
太郎が言うと喬と呼ばれた男が何処からともなく現れた。
「はっ、隊長。只今戻りました」
「どうだった?」
「はい、やはり座留奏は猫が駄目の様です」
その報告に太郎はほくそ笑む。
「ふっ、やはりな……ん? 喬、どうした?」
喬は拳を握り締め怒りに顔を歪めていた。
「隊長っ! 座留の野郎は今日の昼休みを歌澄ちゃんと過ごそうとしているのですっ!」
太郎のこめかみに青筋が浮き出る。
「なんだと……許さん、許さんぞっ、座留奏ぇっ!! 喬、皆に急いで連絡を回せ、速やかにノルマを達成し本部に集合せよ、と」
「御意っ!」
喬はあっという間にその場から居なくなった。部室には太郎が一人取り残される。
「座留奏、日永歌澄ちゃんは我々柳泉学園男子のアイドルなのだ、お前の様な輩には渡しはせん、渡しはせんよっ!」
凛々しい顔で微妙に格好悪い事を言った太郎は、窓の向こうにいる体操着姿の女子達をじっと見ていた。
続くんだにゃっ! |