12.僕と彼女の猫まっしぐら? 《教室の隅っこで猫と叫ぶのにゃ》
獲物を狙う数多の双眸。切り裂く爪牙。強靭でしなやかな四肢。そして、逃げ惑う僕。
ミーミー、ニャンニャン、ニャーニャー、ガオォオオォォッ、グルルルルッ…
誰かっ、助けて…
「………っ! はぁ、はぁ…はぁ…ゆ、夢かぁ」
窓の向こうでは空が白み始めていた。
僕にはある心的外傷がある。そのトラウマの対象が対象なだけに、出掛ける時は何気に苦労したりしてる。それでもなんとか誰にもそのトラウマを悟られずに今日まで過ごしてきた。
歌澄ちゃんと服を買いに行く約束をした今日一日、きっと良い日になる、と僕は思っていた。
「行って来ま〜す」
「…行って来ます」
一週間振りの学校にウキウキと楽しくなってくる。歌澄ちゃんと一緒に登校というのもより一層、僕をウキウキさせる。
「…それにしてもお酒強いですね。あんなに飲んでたのに」
感心して良いのやらダメなのやら良く分からないといった顔で歌澄ちゃんが聞いてきた。
「ん、あー飲み比べなら誰にも負けた事無いよ。『ザル』って良く言われる」
「すごいですけど、まだ未成年何ですからね」
「……返す言葉もありません」
…注意されてしまった。
※未成年の皆さん、お酒は二十歳になってからですよ! …何を今更とは言わない約束でお願いします……。
二人で楽しく話をしていたらいつの間にか商店街まで来ていた。
「おっはよ〜、歌澄。それからそれから御久し振りだね、奏君♪」
「おはよう、陽子ちゃん」
「御久し振り」
ここで陽子ちゃんと出会い、一緒に歩き始める。
「…………でね、その客がまた臭くってさぁ〜、もうほんと勘弁」
「…大変だったね、それはまた」
「そんな絵に描いた様な人がいるんだね〜………ん?」
三人で談笑してるとすぐ側の電柱の下に段ボールが。そしてその中には………!
「!! ごめんっ、用事思い出したから先に行くねっ!」
脱兎の如く駆け出す僕。とにかく『アレ』から逃げなきゃっ!
「…奏さん?」
一体どうしたんだろう? もう見えなくなっちゃった…。
「どしたんだろね〜…ん?」
「どうしたの?」
陽子ちゃんは何かの前にしゃがんでいた。
「見て見てっ! かっわいいよ〜」
見てみると段ボールの中に小さな動物が。
「…ほんとだね〜、ちっちゃくて可愛い」
私達はその可愛いさにひとしきり和んだ後、名残惜しくも学校に向かった。
「はぁ…はぁ…はぁ……なんだってこの世にあんなのが生命活動なんてしてるんだ」
あの段ボールのあった場所から学校の生徒玄関まで脇目も振らずに全力疾走。
ちょっと…歌澄ちゃん達に悪い事しちゃったかな?
そんなことを思いながら内履きに履き替えて教室へ。
教室に入ると皆集まってなにやら盛り上がっていた。
「どうしたの?」
「あら、座留君。御久し振りね、もう大丈夫なの?」
集団から顔を覗かせたのは委員長だった。
「うん、お陰様で。それでどうしたの?」
「うん、この子の事なんだけど…」
委員長が少し避けると太郎が何かを抱いていた。
「よぉ、久し振りだな、奏。どうだ? 可愛いだろ、子猫」
「…………………」
子猫、あはは…子猫、猫、ですか…は、はははははははは…
「私の家の猫の子なんだけど流石に一匹飼うのいっぱいいっぱいでね」
「それで一匹は俺の家で貰ったんだけど、残りの子をどうするかってんで学校の誰かに貰って貰おうって事で連れてきたって訳よ」
「まったく、だからって子猫そのものを持ってくるのは非常識よ」
「何言ってんだよ。実物見せた方が良いに決まってんだろ?」
「まったくもう…」
委員長と太郎の説明が耳に入らない。
僕はジリッ、ジリッと慎重に下がる。
なんとかしたいけど皆が居る手前思いっ切り逃げ出すのはまずい。そんなことをしたら今までの努力が灰燼に帰してしまうっ!……そうだっ、トイレに行って、そこでチャイムギリギリまで過ごそうっ!
「なぁ、奏。お前も抱いてみるか?」
とんでもない提案をしてくれやがる太郎を後で打ちのめす決心をしながら計画を実行に移す。
「え、遠慮しておくよ。僕、ちょっとトイ…」
「ナァ〜」
今まで静かだった猫が鳴いた。
「ぅわあぁあぁぁっ!!」
ドンッ! ガタガタッ! ガタンッ!
尻餅ついて後ずさる。後ろの机を幾つか倒してしながら。
「く、座留君っ!?」
委員長や皆が驚く。
「はぁはぁはぁはぁ…あ―…ご、ごめん。大じょ……?!」
なんとか誤魔化して立とうとするけど立てない。
……って、立てないっ!? やばいっ、腰が抜けてる!? どうするっ、どうすればいいっ!?
「座留君、ほんとに大丈夫?」
心配そうな顔をする委員長。
委員長に腰が抜けたと言うべきか、言わざるべきか。動揺しながらもなんとかそれを考えてると突然、
「ほれ」
眼前に子猫。その距離僅かに数センチ。
…ね…こ……
「ぅひゃあぁあぁあああああぁあああぁあぁああぁあぁあああああああぁあぁぁあっっ!!」
ズガガガガガガッ!! ドンッ!
女性の様な悲鳴を上げて机を蹴散らしながら全力で教室の壁際まで下がる。
太郎はニヤニヤと笑い、その他の人達は唖然としていた。僕は皆のそんな反応を見る余裕は皆無でパニックを起こしてた。
猫が、猫がぁっ、猫がぁああぁああああぁぁああぁあっ! 嫌ぁああぁああああぁぁああぁあっ、猫が、猫が猫猫猫猫猫猫猫猫ネコネコネコネコネコネコネコネコねこねこねこねこねこねこ……来ないで〜来ないで〜くるなぁぁああぁああああぁぁああぁあっ!
すると太郎が子猫を抱えて僕に近付いて来る。その顔はとても嬉しそう。
「ひへへへへ…ほれ、奏。子猫がお前と遊びたがってるぜ……」
「ナァー、ナァー」
「…ひっ!」
…ネコが…ねこがくるっ!…
迫り来る太郎と子猫。
怯える僕。
逃げたくても腰が抜けて動けない。
後ろは壁。
これ以上下がる事は叶わない。
太郎と子猫がすぐ側に来る。
「か〜な〜で君っ、あっそびましょっ♪」
太郎の恐怖の囁きと共に子猫が膝の上に――
「っ!!! ぃやぁあぁあぁあああああああぁあぁぁあぁああぁああああぁぁああぁあぁああぁああああぁぁああぁあぁああぁああああぁぁああぁあっ!!!」
そして、僕の意識が途切れた。
「…ぅうっ、ぅぁぁっ、うぅっ…んぁ…ね、猫…ネコがぁあぁあぁぁ…はっ!」
勢い良く起き上がるといたのは委員長と歌澄ちゃん。そして僕はベットの上。
周りを見回すと保健室の様だった。
「…奏さん、大丈夫ですか?」
物凄く心配そうな顔の歌澄ちゃん。
「うん、大丈夫。ありがとうね」
「ごめんね、座留君」
「なんで委員長が謝るのさ。謝るのはこっちだよ。迷惑掛けたのは僕なんだから。 …ところで、授業ってもう?」
「うん、一時間目が終わったところ」
「そっか…ん?」
ここでふと疑問が過ぎる。なんで歌澄ちゃんがここにいるんだ?
それになんで僕は保健室に?
う〜ん、歌澄ちゃんがなんでここに居るのかはまったく分からないし、僕が保健室に居る理由は思い出しちゃいけないような気がしてならない。
「ねぇ、歌澄ちゃん、委員長、なんで僕は保健室にいるんだっけ?」
「えっ…く、座留君覚えてないの? 何にも?」
委員長は驚き尋ねた。その表情には何か焦りの色が。
「うん……ただ、どうも何か忘れてる様な…」 委員長はソワソワしていて、落ち着かない。
…どうしたんだろ?
「…本当に大丈夫なんですか? 奏さん」
「うん、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ところでどうして歌澄ちゃんがここに?」
「あ…いえ、その学校についてすぐに奏さんに会いに行ったら、城戸さん達に担がれて保健室に向かってるところだったんです。それで…」
歌澄ちゃんは少し恥ずかしそうに言い、
「…何はともあれ無事で良かったです」
笑ってくれた。
嬉しいな、まぁ今こうして歌澄ちゃんと気安く話してるとこを太郎とかに見られたら殺されちゃうかもね。
「ありがとう」
「…はい。ところで今日、お昼一緒に食べませんか?」
「うん、いいよ」
歌澄ちゃんからのこの上無く嬉しい御誘いに僕は即答した。
こうして、歌澄ちゃんと途中で別れて僕は気分良く教室に戻った。この時、委員長が深刻そうな顔をしていてのが気になったけど、大方、太郎がまた何か面倒事を起こしたんだろうと当たりを付けて気にしない事にした。
僕は迂闊だった。まさかあの時、保健室に僕でも、歌澄ちゃんでも、委員長でも無い、『四人目』が居たなんて。そして、委員長の深刻そうな顔の意味を僕は思い知らされる事になるとは…。
その頃イタリアでは…
「うーん…これ…いや、ダメダメこんなのダメッ! それとも…こっち? …ダメだ……」
『不滅の終焉』は『時雨和雪』と会う時の服の為に、店で気に入った服を片っ端から買い、家でそれらを選りすぐっていた。
「うーん…やっぱこっちかなぁ……これも違うっ」
すべての『もの』を圧倒し、終わらせる『不滅の終焉』もなんだかんだで一人の女性。着て行く服が決まらない。
「何着てくべきかなぁ…………そうだ!」
彼女は何かを思い付き、家の物置を漁り始めた。
目指す獲物は服の生地。
「コスプレ〜コスプレ〜♪」
……続くんだニャン♪
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