10.僕と彼女の事件のその後と暇潰し
「暇だなぁ…」
「うるさい」
僕は今、病室に要義兄さんと二人っきり。
僕は要義兄さんを見舞いに来た訳じゃなく、要義兄さんと仲良く三日前から入院していた。なぜ僕が入院したのか、それは歌澄ちゃんを堅気とは思えない医者に見せて安堵して気を抜いた途端にぶっ倒れたからだった。
朝には歌澄ちゃんやケビンがいたけどそれぞれ学校に行ったり、街をぶらついたりして今はいない。
姉さんと楓義兄さんは家が燃えてるのを見てぶち切れていて、ウォルターを差し出すとウォルターを連れて何処かへ行ってしまった。次の日見舞いに来た楓義兄さんにウォルターをどうしたのか聞くと笑顔で
「あの人なら日由ちゃんと丁重に持て成したよ」
と言っていたけど後でケビンに聞いたらウォルターは寝込んだらしい。何をしたのかなんて考えたくもない。二人共今は歌澄ちゃんの家で世話になっているらしい。
それにしても…
「暇だなぁ…」
「だから五月蠅い」
要義兄さんは僕と会話してくれないから僕は暇で暇でしょうがない。
「ねぇ、要義兄さん」
「なんだ?」
不機嫌そうに応える要義兄さん。
「将棋でもやろっか」
「は?」
「じゃあ決定ね。準備するから待っててね」
「は?ちょっと待て。おい、無視するなっ、おい…!」
僕は要義兄さんを無視して駒と盤を用意して、ナースセンターに連絡を入れる。
「すいません」
『はいはい〜、奏君どうしたのかな?寂しくなっちゃったとか?ウッフフッグッフフ』
何やら怪しげな笑いが返って来る。
グッフフって…。
「何考えてるか知りませんけどお願いがあるんです」
『何かな?君のためならお姉さん張り切っちゃうよ〜』
「そ、そうですか。それじゃあナース服お願い出来ますか?」
『御安い御用よっ!お姉さんにまっかせなさいっ!』
気合いの籠った返事でナースコールは切れた。
「準備も出来たし、やろっか要義兄さん」
「やらん」
即答された。
人が必死に要義兄さんと仲良くなろうとしてるのに…。
「……そっかぁ〜、要義兄さんは負けるのが怖いんだね〜」
「なんだと?」
よし、かかった!
「僕に負けるのが怖いんでしょ?びっくりするくらいの腰抜けになっちゃったんだね要義兄さん。残念だよ。仕方ないか、こんな腰抜けの要義兄さん相手に将棋なんかしてもしょうがないから片付け…」
「待てっ!上等だぁ…殺ってやる、覚悟しろよぉ…」
こめかみに血管を浮かばせて将棋をやる事を承諾してくれた。
よーしこの調子でどんどん要義兄さんで…要義兄さんと遊ぶぞっ!
「要義兄さん、ただやるのもつまんないから負けたら罰ゲームで良いでしょ?まさか駄目だなんて小さい事言わないよね?」
「何でもこいってんだこの野郎っ!」
うーん良い具合に頭に血が登ってるね〜♪
丁度その時看護師さんがやって来た。
「奏君っ、持って来たわよっ!でもよくよく考えたら報酬も無しにこういう事やるのお姉さん嫌かも…」
頼んでた物を僕に渡して想定の範囲内の事を言う看護師さん。
「ありがとうございます。お礼に頭を撫でてあげます」
「やった〜っ!」
僕の近くによって来て頭を撫でられてる看護師さん。なんか僕って嫌な奴だなぁ。
「はい、終わり。若い子ばっかり追っかけてないで仕事頑張って下さいね」
「はいはぁ〜い♪」
看護師さんはルンルンと病室から出て行った。
「さて、罰ゲームの物が届いたところでこの勝負のルールだけど、やるゲームは将棋、時間無制限の一本勝負、お互いにハンデは無し、負けた方は文句を言わずに罰ゲームを受ける事、先攻後攻はジャンケンで決める。以上、質問はある?」
要義兄さんは少し考え込んで
「罰ゲームってなにすんだ?」
「それは勝負が終わってからのお楽しみだよ」
「なんだそりゃ…」
少しばかり怪訝な顔をする要義兄さん。
「いいからいいから。ほらっ最初グー!」
「「ジャンケンホイッ!」」
僕はチョキ。要義兄さんはグー。
「ふっ、幸先いいぜ…」
なんか勝ち誇っている要義兄さんはちょっと間抜けに見える。
なんかあれだから突っ込みはしない事にした。
僕と要義兄さんは盤上に駒を並べる。
「よし、それじゃ今からお前をコテンパンに伸してやっから覚悟しやがれ!」
そう言って要義兄さんは駒を一つ動かす。
午前十時三十分。僕と要義兄さんの対局が始まった。
「王手。詰みだよ。要義兄さん」
「……………いやっ!まだだっ、まだ何か手がある筈だぁっ!」
なんてか…無様だな。盤上をどっから見ても要義兄さんの負けが明らかなのがわかる。
「要義兄さん、だいぶ前から詰んでるのに無駄な足掻きしないで。大体要義兄さんの駒はもう王しかないじゃないか」
「ぐぬぬぬっ」
唸る。唸ったって負けは負けなのに…。
「はいはい、唸ってないでこれ着てね♪」
僕は満面の笑みを浮かべてナース服を袋から取り出す。
「なっ…」
ナース服を見て目を見開く。
「まさか罰ゲームをしたくないなんて言わないよね?義兄さんは受けて立ってやるって言ったじゃないか。男に二言はないよね?」
「……くっ」
要義兄さんは渋々ナース服を受け取ったけど一向に着替える様子が無い。
「義兄さんどうしたの?」
「………………」
僕の問いには答えずナース服と睨めっこ。全くヘタレ義兄さんめ。
僕はナースコールを持つ。
「義兄さん、早く着ないと看護師さん達にひんむかせるよ?」
「ぐっ…わかったよっ!着るさっ、あぁ着てやるさっ!だからお前はこっちを見るなっ!」
「はいはい」
仕方が無いので向こうを向く。全く男同士だってのに何を恥ずかしがるんだか…。
「いいぞ」
言われて振り向くとそこにいたのはナース服を着て恥ずかしそうにもじもじしながらベットに座っている要義兄さん――なんていうか変態にしか見えない――だった。思わず一歩後ろに下がる。
「…おい、なんで一歩後ろに下がるんだ?」
なんとなく視線も合わせ辛い。
「おい、なんで俺を見ようとしないっ!」
…予想外の駄目さだったなぁ、こんなにも似合わないとはね。しかしどうしたもんかなぁ罰ゲームってこれだけじゃないんだよな。まぁ仕方ないか……。
「義兄さん、罰ゲームはそれだけじゃないんだ。この罰ゲームをちゃんと説明するとね、今日一日ナース服を着て、喋りも女っぽくってのなんだ。だから今から自分の事は『俺』じゃなくて可愛らしく『私』って言ってね」
それを聞いた義兄さんは俯いてブルブルと震えている。
「に、義兄さん?どうしたの?」
「………ふ」
「ふ?」
「ふっざけんなぁぁぁぁぁぁああぁっ!!」
半泣きで叫んだ。そんなに嫌だったんだ…。
「あ…」
「奏、見舞いに来たよ。ところでさっき叫び声は………くっ」
「よぉ座留に乙女執事見舞いに………ぷふっ!」
叫んだところで楓義兄さんと彼方さんが見舞いに来た。楓義兄さんは要義兄さんを見た瞬間に目を逸らして笑いを堪え、彼方さんは見た瞬間思いっ切り噴き出した。
要義兄さんは大口を開けたまま固まってしまっている。
「い、いらっしゃい。義兄さん、彼方さん」
「……くくっ。あ、あぁげ、元気、そうだな座留ぇ…ぷふっくっ」
笑いを堪え切れない程に震えている彼方さんに対して義兄さんは口許を引く付かせて笑いを堪えている。ただ絶対に要義兄さんを見ようとしない。
「…奏、要は一体何してるの?」
「いやね、将棋で負けたから一日中ナース服着て女言葉で過ごすって罰ゲームなんだけど…まさかここまで酷いとは思わなくてさ」
「それはなかなかにきつい罰ゲームだね」
「お前それはきついだろう…」
二人にちょっぴり駄目だしされる。
「そ、そうかなぁ…」
要義兄さんは何も言わずに沈んでいた。それはもう目も当てられないくらいに沈んでいた。
「え、えーと要義兄さん。そんな落ち込まないで、ね?僕は一ヶ月間女でしかも猫耳メイドでいろなんていう異常な罰ゲームを受けた事があるんだからそれくらいの罰ゲームなんて何でも無いって」
なんだか不憫に思えた要義兄さんを慰める。要義兄さんはガバッと勢い良く顔上げて僕を睨む。
「リベンジだぁっ!こんちくしょうっ!うがっ」
「ウッセェ、負け犬執事」
彼方さんのチョップがクリーンヒットして無様に呻く。
「何しやがる彼方!」
「うるせぇ此所は病院だ馬鹿野郎」
「ぐぬぬぬっ」
まったくの正論にぐうの音も出ない様に見えた。
「皆でトランプでもやろうか」
突然の提案。僕達はほとんど同時に楓義兄さんを見た。
「義兄さんなんでいきなりトランプをば?」
「思い付きだから理由なんてないよ。敢えて言うなら八つ当たりだね」
ドス暗い何かが覗かせていなければどんな女性でも一発で墜ちるんじゃないかと思わせる笑顔で答えた。彼方さんも要義兄さんも恐れおののいている。
「や、八つ当たり?」
「そう八つ当たり。あの家はお義父さんから任された家だったんだよ。それを燃やされたとあっちゃあねぇ…ふふふふふっ」
まだ怒ってるのか。
「そ、そうなんだ…」
「そうさ。そういう訳だからトランプしよう」
「あ、あのよ楓さん、八つ当たりは分かったけどなんでトランプなんだ?」
そういえばそうだよね。なんでだろ?
「彼方ちゃんそれはね生まれてからこの方ある友人を除いてトランプで負けた事がないからだよ。負ける戦はしない主義だからね」
「そ、そうなのか…」
「そうなんだ…」
結局楓義兄さんの提案を誰も断る事が出来ず僕達はトランプをするという名目の八つ当たりをされる事になった。
「…奏さん、要ちゃん。見舞いに来まし……た」
扉を開けるとそこにはなんだか良く分からない世界がありました。
「離せぇっ!死なせてくれぇっ!!」
「要義兄さんっ!やめて!早まらないでーーっ!看護師さん達も私の服を脱がそうとするのはやめてーーっ!」
「うふふっ、かぁ〜わい〜♪」
「…嫌ぁ〜、ゃめて〜……ひっ!い、嫌ぁああぁああああぁぁああぁあっ!」
可愛らしいフリルがふんだんに使われた可愛らしいピンクの服――頭には可愛らしいフリルの付いたカチューシャも着けている――に身を包んだ要ちゃんが窓から身を投げ出そうとしているのを完膚無きまでにネコ耳メイド(尻尾付き、一人称は私になっている)の奏さんが、襲いかかる看護師さん達を退けながら止めている。彼方ちゃんはイヌの耳と尻尾を着けて顔を真っ青にして頭を抱えて震えたり、小さい悲鳴や『嫌ぁああぁああああぁぁああぁあっ!』という叫びを上げたりしている。
「あっははは。愉快だ、愉快だぁ〜やっぱこうでもしないとやってらんないなよ〜」
そんな中楓さん一人だけが楽しそうに笑っていた。
こういうのをカオスとでも言うんでしょうか…。
「あれ、日永さんどうしたの?」
「そんな所にいたら邪魔になるぞ」
守戸さんと長谷川さんが手を繋いで仲良くやって来た。病室の入口に呆然と立ち尽くす私を避けて二人は病室の中を覗いた。
「すごいね、これ」
「そうだな、随分と愉快な状況だ」
この状況を『愉快』済ませた二人。
「…な、なんで二人共そんなに落ち着いてるんですかっ!」
「そんなことよりアレ止めなくていいの?」
「…え。あっ、そ、そうだった!」
慌てて今にも投身自殺しそうなロリータ要ちゃんに駆け寄った。
「…要ちゃんっ!自殺はダメッ!」
「か、歌澄ちゃん!」
「……お、お、お、お嬢様っ!」
奏さんは安堵の表情を見せてた――なんとなく声がいつもより高い様な…――けど要ちゃんは私を見て顔を真っ赤にした後真っ青になりそれから土気色になった。
「う、うわぁあぁあぁあああああああぁあぁぁあっ!離せぇっ、死なせろーっ!」
「ぅわぁっ、だからダメだってば義兄さんっ!」
「だから自殺しようとしないでくださいぃっ!」
私は慌てて要ちゃんにしがみつき、奏さんは更に力を込めて掴み直す。「ひぃっ…嫌ぁ…稲〇淳二は嫌ぁぁ…ぅぅっ、ふぇ〜〜ん」
稲〇淳二っ?なんで?ていうか彼方ちゃん泣いちゃった?!ど、どうしよう?でも今彼方ちゃんの所に行ったら要ちゃんが……。
私達がてんてこ舞いになっている時楓さん、守戸さん、長谷川さんは楽しそうに談笑していた。
「楓さん、やっぱ奏すごいね。アレじゃあ女の子にしか見えないよ。まぁ要さんは……」
「千央程じゃないが似合い過ぎだな。声もなんとなく高くなってるしな。まぁ要さんは……」
二人共奏さんを見て感嘆して、要ちゃんを見て顔を逸らす。
……要ちゃん…。
「いやぁー僕もびっくりしたね。奏に女装はいけると思ってたけどまさかここまでとはね〜♪しかも女装させたら物腰とか口調まで女の子っぽくなってね〜。要は酷いけどね」
「「「あははははは〜♪」」」
三人共楽しそうに笑い出した。
三人共笑ってないで助けてっ!
「離せぇっ!こんな格好をお嬢様に見られちまったからもう俺はお終いだぁぁっ!!」
「…大丈夫だからっ、要ちゃん可愛いって。ねっ、奏さん!」
慌てて言うと要ちゃんはぴたりと動きを止めて私と奏さんを見る。
「えーっと…あ、あーぅ〜ん…そ…そう…そうだね?」
「……………」
黙り込む要ちゃん。
「…要ちゃん?」
突然勢い良く窓の桟に足をかけた。
「義兄さんだから駄目っ!!」
「要ちゃんっ!!」
必死に食い止める。
「離せぇ〜っ、死なせでぐれぇ〜」
「嫌ぁあぁ〜、もう嫌ぁ〜っ」
「「「あははははは〜♪」」」
泣きながら飛び下りようとする要ちゃん、なぜか泣きじゃくる彼方ちゃん、楽しげに笑う楓さんと守戸さんと長谷川さん。
なんか収拾がつかなくなってるよ…。
ブチッ
ブチッ?何の音?
「歌澄ちゃん、義兄さんをしっかり掴まえててね」
「えっ?」
次の瞬間奏さんにたかっていた看護師さん達が気絶した。奏さんは要ちゃんのすぐ横で右手を振り上げ
「南無三っ」
と言って要ちゃんの首筋に手刀を食らわせた。
「離せぇ〜っ!…うっ」
力無く崩れ落ちる要ちゃんを奏さんが受け止めて私に預ける。
「…奏さん?」
「ちょっとお願いね」
奏さんはそれだけ言って泣きじゃくる彼方ちゃんの背後に行って
「ていっ!」
と首筋に手刀。
「ふぇぇ〜っ、…うっ」
ドサッ
彼方ちゃんが気絶する。
今度は楽しげに笑う三人の背後に回り込み
「てりゃっ!」
と三人の首筋に次々と手刀。
「「「あははははは〜…うっ」」」
バタバタバタッ。
楓さん、守戸さん、長谷川さんも気絶する。
「ふぅ、これでなんとか事態の収拾がついたかな?」
満足気に手を腰に当ててるネコ耳メイド・奏さん。辺りに屍(?)が転がってなきゃ仕事をやり切ったメイドさんに見えただろうなぁ〜なんて思ってしまった。
……これって本当に事態を収拾出来たって言えるのかな?
……大変だった。取りあえず看護師さん達は婦長が叩き起こして連れて行かれたけど義兄さん達と千央とノリはベットに寝かした。
「はぁ〜疲れちゃった」
「奏さん、どうしてあんな事になっちゃったんですか?」
「それはね、楓義兄さんにトランプで負けたからだよ」
どうしてそれだけでこんな事になるのか分からないという顔をして歌澄ちゃんは僕を見る。
「…どうトランプをしたらあんな事に?」
「負けたら罰ゲームだったから…楓義兄さんはそれはもう尋常じゃ無い程強くてね〜」
「…そんなに強かったんですか……」
感嘆の声を上げて寝ている楓義兄さんを見る。
「そうなんだ。それで最初は大富豪をしたんだ……」
〜〜回想開始〜〜
大富豪十番勝負 一回戦
一巡目は何事も無く、二巡目は楓義兄さんからだった。
「はい、革命」
うわぁ〜やばいなぁ…とか思ってると要義兄さんがしたり顔していた。
「ふっ、させるかっ!食らえ兄貴っ、必殺っ革命返しっ!」
「やるじゃねぇか乙女執事!」
彼方さんが褒めるのも束の間――。
「甘いな要。奥義革命返し返しっ!」
か、楓義兄さんスゲェッ!まさかの革命返し返しだ…。
「……なっ」
その後二回戦〜十回戦まで革命すれば楓義兄さんに革命返しをされ、ババ二枚は必ず楓義兄さんに回って来るという展開だった。驚く事に楓義兄さんは一切のイカサマをしていなかった。
大富豪十番勝負
勝者・座留楓
敗者・唐本彼方
罰ゲーム・イヌ耳と尻尾を着けて語尾に『わん♪』と付ける。
「つ、次の勝負に行くんだ…わん♪」
顔を真っ赤に罰ゲームを受ける彼方さんは大爆笑した要義兄さんを殴ってトランプをきる。
「で、次は何をやるんだ…わん?」
「うーん、神経衰弱をやろうか」
神経衰弱一番勝負
一巡目終了時点の結果
僕・0組
彼方さん・一組
要義兄さん・3組
楓義兄さん・4組
その後義兄さん二人の一騎討ちの様な展開が続いた。
神経衰弱一番勝負
勝者・座留楓
敗者・僕
罰ゲーム・ネコ耳メイド(尻尾付き)
「お待たせしました。御主人様」
「「「……………」」」
皆僕を見て何も言わなくなった。
「ど、どうしたの?」
「あ、あぁごめんごめん。似合うとは思ってたけどここまで似合うとは思わなくてさ」
楓義兄さんは誤魔化す様に言って、要義兄さんと彼方さんには
「似合い過ぎだ」
と突っ込まれた。
「そんなこと言われても困るよ!」
そこで彼方さんが気付いて欲しくない事に気付いた。
「あれ?お前声が高くなって…」
「気のせいだよ」
間髪入れずに否定。
「それに口調もなんか変わって……」
「だから気のせいだってば。それで楓義兄さん、まだやるの?」
誤魔化して楓義兄さんに質問をした。
「まだやるさ、次はダウトしよう!」
まだやるのか…と僕、彼方さん、要義兄さんは溜め息をついた。
ダウト三番勝負
一回戦
「ダウトだわん!」
「残念、これはQだよ」
「ま、またか…」
ダウトに失敗してうなだれる彼方さん。
二回戦
「ダウト」
楓義兄さんが要義兄さんの出したカードにダウトを宣言。見事に的中。
「なんでそんなにバンバン当たるんだよ、兄貴!」
「だから言ったでしょ、トランプではある人を除いて負けた事が無いって」
余裕の笑みを浮かべて言い切った。
ダウト三番勝負
勝者・座留楓
敗者・唐本彼方
罰ゲーム・稲〇淳二の怖い話を楓義兄さんが『もういい』と許可が出るまで聴き続ける。
「……………」
「彼方さん?」
彼方さんが顔を真っ青にして固まっていた。
「………い」
「?彼方一体どう…」
「……い」
真っ青な顔が引きつってきていた。
「彼方ちゃん?」
「嫌ぁああぁああああぁぁああぁあっ!」
彼方さん、まさかの悲鳴!
彼方さん逃げたした!
が、しかし楓義兄さんに捕まり逃げる事が出来ない!
「逃げちゃ駄目だよ」
「ひっ…嫌ぁああぁああああぁぁああぁあっ!」
そんなに嫌なんだ稲〇淳二…。
「…彼方はとにかくホラーとか駄目なんだよ」
要義兄さんはなんだか遠い目をしていた。
「…そうなんだ」
…唐本彼方リタイア
「さぁ、次はポーカーをしようかぁ♪」
まだまだやるのか…。
「「……はぁ」」
要義兄さんと同時に溜め息をするとはたと目が合いまた二人同時に溜め息をついた。
ポーカー五番勝負一回目
彼方さんの泣き声混じりの悲鳴をBGMにポーカーが行われている。
「フラッシュ」
「俺はストレートフラッシュだ」
「ふっ」
楓義兄さんが僕達の役を見て鼻で笑い、そして――
「ロイヤルストレートフラッシュ」
「「……………」」
僕も要義兄さんも何も言えなくなる。
楓義兄さん一枚も手札取り替えてなかったよ……。
その後もやっぱり楓義兄さんの一方的な展開だった。
なんていうか普通じゃないよ…。
ポーカー五番勝負
勝者・座留楓
敗者・明刀要
「さぁ罰ゲームだけど…」
そう言って指を鳴らすと十数人の看護師さん達が何処からともなく現れた。
「さぁ罰ゲーム執行だよ。君達、要にこれを着せてくれるかい?」
…いつの間に懐柔したんだろ。 何か服を受け取った看護師さん達は
「うふふふ…」
という笑いと共に要義兄さんに詰め寄って行く。
「な、なんだお前等…や、やめろ、やめっやめろーーーっ!」
要義兄さんは看護師さん達に呑まれていった。
御臨終様です、要義兄さん。
着替えが終わったらしく看護師さん達が要義兄さんから退いていく。そしてそこにいたのは――
「ぶはぁっ!」
「あっはははははははっ!」
「ひっ…嫌ぁ〜…ひゃぁぁぁぁっ!」
僕は思わず噴き出して、楓義兄さんは遠慮無く大爆笑、彼方さんはいまだ恐怖に泣き叫んでいる。
「なっ、笑うんじゃねぇっ!」
「…ご、ごめっ…くっ」
「あははははは、か、鏡見てみろって…要っ」
何処からともなく姿見を出してきて要義兄さんの前に立てた。
「はぁ゛っ……」
なんて気持ち悪い顔してるのさ。
要義兄さんはあまりの自分の状態に愕然としていた。
「な、なんだこの格好…」
頭には可愛らしいフリルの付いたカチューシャ、ヒラヒラフワフワのフリルだらけの可愛いジャケットにこれまたヒラヒラフワフワのフリルだらけの可愛らしいドレス、何処からどう見ても完璧なロリータファッション。
しかし、可愛らしい筈のそのファッションは要義兄さんの悪過ぎる人相と高過ぎる身長のせいですべてが台無しになっていた。
なんていうか酷過ぎる…。
「…ん?」
気付いたら僕のすぐ後ろを看護師さん達ががっちりと固めていた。まるで逃げ道を塞ぐかの様に。
「み、皆さんど、どうしたんですか?」
『うふふふふふふっ』
こ、こわぁぁぁっ!
にじり寄って来る看護師達。すると不意に後ろから抱きつかれた。
「ひゃわっ!」
「つぅ〜かま〜えた〜」
「な、なにす………っ!」
前方にいた看護師さん達が僕に群がって来た。
ヤバい!と思ったら要義兄さんが窓の桟に足を掛けていた。
「っ!退いて下さい!……って聞いてないし!糞っ!要義兄さん早まっちゃダメっ!」
なんか我を忘れて群がる看護師さん達をなんとか押し退けながら要義兄さんにしがみつく。
「義兄さん!早まっちゃダメだって!あぁっ、スカート引っ張らないで!」
「離せぇっ!お嬢様が来る前に俺を死なせてくれーーーーっ!」
「何訳分かんない事言ってんのさ!楓義兄さん、要義兄さんに何言ったの!」
その問いに楓義兄さんは楽しげに答えた。
「そろそろ歌澄ちゃんが来る時間だねって言っただけだよ?あははははは〜変な要だよね〜」
それだけでこんな事を?
「要義兄さん!なんでそれで自殺に繋がるのさ!だから皆さんスカート引っ張らないで!」
「うるせぇっ!俺にとっては死活問題なんだ!だから放せっ!」
「嫌ぁぁあぁあぁあああああああぁあぁぁあっ!」
「あははははは〜♪」
〜〜回想終了〜〜
「………と、言う訳なんだ」
「…た、大変でしたね」
「ほんとだよ」
歌澄ちゃんはそのぼやきに苦笑いで応えて鋭い質問をしてきた。
「ところで奏さん。ネコ耳メイドの理由は分かったんですけどどうして口調と一人称と声の高さが変わってるんですか?」
「…う゛そ、それは……」
言い淀むとはっとして申し訳なさそうにする歌澄ちゃん。
ぬぁっ、なんかこんな顔させてばっかだな…。
「あ、あのね、実は昔ある人に女装するときは身も心も女になりきれ!って言われてね。それで危うく去勢させられそうになったり、半年ばかり女としての生活を強要されたり、更にその後お嬢様学校に半年間通わさせられたり、他にもあんな事やこんな事まで………大体あの人は私に無茶苦茶し過ぎなんだよ!私の本に菓子屑とかジュース零して汚すわ、無意味に夜這いをかけるわ、私のゲームのセーブデータ壊すわ、あそこのマフィアを潰してこいとか、あっちの秘密結社を壊滅させろとか、殺人事件を快決ズバットの如く解決しろとか、最凶に最狂な殺し屋一族相手に一ヵ月逃げ延びろとかふざけるんじゃないってのっ!」
「か、奏さん?」
「あっ…ご、ごめん。つい熱くなっちゃって…」
「…い、いえ。なんか変な地雷のスイッチ押しちゃったみたいで…」
歌澄ちゃんは苦笑いで僕を見る。
「と、とにかくそんな理由で女装した時は必ず声が高くなって一人称も私になる訳」
「…そうなんですか。苦労してるんですね」
「そうなんだよ」
二人でしみじみとしてると誰かが入って来た。
「お嬢様、今日も此所に居たんですね。ところでそちらの女性はどちら様ですか?なにやら奏君に似ているみたいですけど…」
若魚さんに悪気は無いんだろうけどちょっとヘコむかも…。僕ってそんなに女みたいに見えるのかな、いやこんな格好だしそういう風に仕込まれちゃってるし見えるのか。やっぱなんかヘコむよ…。
「この方は一体どうしたんでしょうか、まさか私何か失礼な発言でも…」
「…えーとこちらは奏さんです、若魚さん」
「はい、知ってます♪全然男の子には見えないですね、奏君。鏡の言った通りですね♪」
ニヤリと笑って言い放つ。
こ、この人確信犯だよ…。
「まぁ奏君はどうでもいんですけど…」
そう言ってヘコんでる僕を無視して彼方さんの側に行き濡れた和紙を取り出した。
「なんで貴女はいつもいつも遅くまで帰って来ないのよ!」
叫び、あろう事かその和紙を眠っている彼方さんの顔に被せた。
「……ぐっ!むぐぐっ?」
不意に息が出来なくなって手足をばたつかせてもがく彼方さん。
えげつないってか何やってんの若魚さん…。
「歌澄ちゃん、アレ助けなくていいの?」
「…いつもの事だから大丈夫」
「いつも……」
なんでもないとばかりあっさり答えた歌澄ちゃんの顔は嬉しそうだった。
「どうしたの?」
「…仲が良いのが嬉しくて」
「……」
ほ、本気で言ってるのかな……。
「ぶわはっ!はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…し、死ぬかと思った…」
「いつも私を屋敷に放ったらかしにしてる報いです!」
「若魚っ!お前いつも報復の仕方がえげつないんだよ、いい加減にしやがれ!」
若魚さんは心外だとばかりに溜め息をついた。
「はぁ…、とにかくもう帰って晩ご飯の準備しないといけないでしょ」
そう言って彼方さんの耳を引っ張ってベットから引きずり落とす。
「いだだだだだっ!」
「…ふわぁ〜ぁ。あれ、那波さん来てたんだ……あぁ、そろそろ夕飯の支度の時間か」
彼方さんの声で起きたらしい楓義兄さんは起き上がるなり帰る準備をしだした。
「ええ、いつまで経っても帰って来ないので迎えに来たんです」
「ごめんね〜久しぶりにトランプしたもんだから夢中になっちゃって」
軽い感じに謝る楓義兄さんにはあまり誠意は感じられない。
「何やってるんですか、もう。ところでお嬢様はどうなされるんです?」
若魚さんは楓義兄さんに対して呆れた様な顔をした後楽しそうに歌澄ちゃんを見た。
「…どうするというと?」
歌澄ちゃんが質問すると側に寄って耳打ちした。
ゴニョゴニョゴニョ
「………はわっ?え、えとそ、そそそそんなこ、事は、にゃにゃいので、です!」
顔真っ赤にして動揺しまくってる歌澄ちゃん。それを見て若魚さんはうっとりとした表情を浮かべる。
「クスクス、わかってますよ、朝方に迎えにきますので。ではもう帰りますね。さっ、行くわよ彼方」
「いでででででっ!だから耳引っ張るなよっ!そ、それじゃあまた来るぞ!」
若魚さんは彼方さんの耳を引っ張りながら出て行った。
「それじゃあ帰るね、奏。歌澄ちゃん、奏よろしくね」
「…はい♪」
歌澄ちゃんが快い返事を返すとニコニコと問題発言を言って出て行った。
「そうやって二人で居ると仲睦まじい夫婦に見えるよ。まぁ奏がコスプレしてなかったらの話だけどね〜♪」
「なっ義兄さん!…ったくもう。ごめんね、歌澄ちゃん…歌澄ちゃん?」
歌澄ちゃんは俯いて顔を真っ赤にしてブツブツと呟いていた。
「どうしたの?歌澄ちゃん」
「…はわっ!なんでも無いですっ。…ところで守戸さん達は起こさなくていんですか?」
「うん、問題無いよ。この二人どんな状況でも一緒に居られるなら平気な奴等だから」
歌澄ちゃんは羨望のまなざしで手を繋いで寝ている千央とノリを見ていた。
「…すごいですね。……私もこんな風になりたいです」
しみじみとそんなことを言う歌澄ちゃんはなんだかとても綺麗に見えた。
「……そうだね。それじゃあそろそろ晩ご飯来る時間だし準備しよっか」
「…はい」
退院したら目一杯お礼と御返ししないとな。
そんなことを思いながら僕の入院生活は過ぎていった。
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