1.僕と彼女の出会い
「ふぅ、やっとできた…」
午後5時半。僕以外誰もいない図書館を夕日が茜色に染め上げている。
「ん〜〜っ。だぁ〜疲れた……」
僕は一伸びしてから机の上に広げていた原稿やらGペンやらを片付け始める。学生の身分で漫画家なんぞやってるもんだからいろいろと面倒臭い。
三日くらい前からテストが始まっているけど締切りが明日だからそれ所じゃなかった。お陰で三日三晩徹夜。
まあ原稿は仕上がったし、後は出版社に届ければ取りあえず今月分は終了だから気分も良くなる。とにかく家に帰ったら真っ先に寝たい。
僕は気分良く睡魔と戦いながら図書館を出て行った。
「…ふぅ〜っ。やっとできた……」
午後5時半。赤い夕日が差す校庭の片隅、そこにある作業小屋の中に私は居る。
私は自分で作ったモノを見つめる。
「…ふふっ、我ながらなかなかの出来栄え……」
言ってから、私はそれに繋がっているケーブルを引き抜き、それの上に跨がる。
「…ガフ二号・改の起動及び動作実験を開始します。
ゲートオープン!」
私の掛け声と共に小屋のシャッターが上がっていく。ガフの頭のハッチを開け、パネルに起動パスワードを打ち込んでいく。
いよいよ起動すると思うとわくわくしてくる。
「…起動っ!!」
掛け声と同時にパネルのキーを叩く。
ヴゥゥゥンという起動音の後、コォォォという音を上げガフは空中に浮く。
妖しく光るモノアイ。その頭に不釣り合いなネコ耳。亀の様な形をした銀の体躯と蟹の様なハサミは夕日で赤く輝いている。
「…いい感じ……あとは……?」
するとガフから突然、ぷしゅぅぅぅという変な音と共に煙が上がり始めた。
「…あっ、壊れちゃっ……ひゃぁっ!」
ガフは突然動きだし凄まじい速さで外に飛び出す。
「…暴走しちゃった……早く止めなきゃ」
ガフは校庭を破壊し始めた。なんとか止めようと、頭のパネルを操作するけど一向に暴走は止まらない。どうしょう……。
ガクンッ
突然ガフは止まった。何だろうと思って周囲を見回してみると図書館の方から男子生徒が一人出て来るところだった。
その少年の足元はおぼつかない様に見える。
嫌な予感がする……。
そう思った矢先にガフは男子生徒に向かって動き出す。
距離は僅かに10m。
ガフは手のハサミから火炎放射器の砲身を伸ばし男子生徒に照準を合わしている。
男子生徒は全く気付かず舟を漕ぎながら歩いている。
なんとか今この状況を回避しないと。
でもどうやって? ガフはどうしても止まらない。なら方法はもう一つだけしかない。
「…危ないっ!!」
叫ぶと同時に炎が男子生徒に襲いかかった。
「…危ないっ!!」
眠気を切り裂く叫び声。
「えっ……!」
赤い何かが目の前に迫って来る。熱が伝わる。
――火だっ!
「うわぁっ!!」
余りにも突然すぎて反応が少し遅れたがほとんど火傷もなく炎から逃れる事が出来た。
ふと手に何か違和感を感じた。見ると手には鞄の把手だけがある。
……把手だけ? なんで把手だけしかないだろ? 鞄本体は何処にいった?
わからない。
全くわからない。
なんで僕は火に襲われたんだろ……火?
よく把手を見てみると端の方が焼け焦げている。さらに周囲を確認する。
女の子を乗せた奇妙な物体。
それから突き出ている筒から少しばかりの炎がチロチロと出ている。
周囲を舞う紙だったであろうと思える灰と地面に落ちて見る影もなくなってしまった僕の鞄と道具。
すべて灰燼に帰した。
「ぁああぁああああぁぁああぁあっ!!」
「…大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけな……い……」
心配そうな申し訳なさそうな、なんだか複雑な感じの顔で話し掛けて来た女の子。その瞳は潤んでいる。
怒鳴ろうと思った。
殴ってやろうと思った。
弁償させてから金を絞りとってやろうと思った。
でも、その顔を見た途端、なんだか胸の奥から熱いものが込み上げて来てそれどころじゃなかった。
きれいに整った顔、ちょっと眠そうな目に吸い込まれそうな漆黒の瞳、腰くらいまでで艶のある黒髪、透き通る様な白い肌……
「あのっ、ほんとに大丈夫?」
「えっ?あぁ、大丈夫」
少々見とれてしまっていた。なんか恥ずかしい。
そして、彼女はほんとに心配そうな顔で僕を見つめる。
「……いや、大丈夫ではないよ」
「…ごめんなさい。"この子"が起動実験中に暴走して……ほんとごめんなさい」
"この子"とはこの奇妙な物体の事なのだろう。罪悪感を感じてしまっているのはなぜなんだろう? 彼女は潤んだ瞳で僕を見つめている。
「いや、気にしなくていいよ」
僕は一体何を言っている?
「君はわざとやったわけじゃないんだろ?」
「…ありがとうございます。でも鞄とかは弁償させて貰えないですか? 申し訳ないです」
返事は? 弁償して貰うに決まってる。
「いや弁償なんていいよ」
っ!? 僕は何を言っている? わけがわからない。自分がわからない。
「えっ?でも……」
「いいって大丈夫だから、ね」
僕はなんで笑ってるんだ?
「…ほんとに?」
「うん」
「…ありがとう」
彼女はとても嬉しそうに笑い僕に礼を言った。
……無茶苦茶にかわいい。もう抱き締めたくなるくらいに。って僕は何を考えるんだ?
心臓が激しく脈打っている。
彼女に聞こえてしまうんじゃないのかと思う程にバクバクいってしまっている。なんとか誤魔化さなきゃ。
「そ、そういえば僕今日は用事があるからもう帰るよ! じゃあね!」
「えっ、あ……」
僕は逃げた。もうわけがわからない。胸がドキドキする。まるで恋する乙女……え? 僕が恋する乙女? 僕は恋をしているのか? 恋なのか? 一目惚れなのか?
誰か答えてくれ!
僕は家に帰るとすぐに布団に籠って今日の事を考える。
…………原稿焼けたんだ……
「あぁあぁあああああああぁあぁぁあっ!!!」
道具が無い。時間が無い。今日も眠れぬ夜がやってくる。
あっ、涙が出て来た……
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