間話集 (2)
第七十八問 デートと異端審問会と暗躍と(後編)
地下通路から逃げ出す事、数分。
「しかし、ナゼピンポイントに?」
「大方、盗聴でもされてたんだろ? 多分俺たちだけじゃなく、優子達辺りに」
雄二は同感という様に、頷いた。
「なんだ、雄二も気付いてたのか?」
「当たり前だ。あいつらの動きを察知できる人間で、俺たちのデートを支援するのは明久達しかいないが、メンバー的に作戦立案は無理だ。だから余所のクラスで俺たちを嫌悪せず、作戦立案ができる人間と言えば……」
「……優子しかいない」
簡単な消去法だった。
「うーん……」
「? どうかしたか工藤?」
「え? ううん、何でもないよ?」
ただ1人、優子の名前を聞いてから疑問符を浮かべる愛子。
翔子はいつもの事と、素直になれない友人に内心ため息をつく。
「さて、どうしたものかな? 迂闊に行動すれば筒抜けだぞ?」
「デシタラ、少々早いデスがある場所へ向かいまショウ」
所変わって、暗躍者達。
「まいったね。まさか出し抜かれるだなんて」
「何せ、ムッツリーニが向こう側じゃからの。ワシ等にはソレを防ぐ手立てはないのじゃ」
「そうですね」
「それで、どうするのよ?」
優子は地図をまくり、カメラで異端審問会の動向を探り始める。
まだ目的地はわかっていない状態なのか、各地に散らばり始めたのを見て一言。
「……とりあえず、観覧車にでも乗せようかしら?」
“一旦黙っておいて”と書いた紙を4人に見せて、ぽそりと呟くとまずメール転送。
それから携帯で付き添いのスタッフに連絡し、観覧車に乗せるように促す。
「さて……」
異端審問会の動きが流れ、全員が徐々にだが観覧車に向かい始めていた。
優子はメモを書き始め、4人に見せる。
“やっぱりアタシ達が盗聴されてる事に間違いはないみたい”
「けどどうする? このままじゃ、光一達が捕まるのも時間の問題だよ」
「確かにの。筒抜けである事がわかった以上、迂闊な事は出来んぞい」
「なら、それを逆手にとればいいわ」
“さ、アタシ達も行くわよ”
その数分後、作戦司令部はもぬけの殻となった。
所変わって、異端審問会面々。
「どうだ、ムッツリーニ?」
「…………(フルフル)」
「流石は木下優子、と言ったところか……吉井も気付いたまでは良かったが、所詮はバカだな」
「…………(コクリ)」
優子の思惑通り、観覧車に集まり待ち伏せしている面々。
その中心では、須川とムッツリーニによる作戦立案が行われている。
「ママー、あれ何ー?」
「しっ! 見ちゃいけません!」
「また居るよあいつら……邪魔だな」
「しかし、俺たち注目を浴びてないか?」
「それはいかに崇高なる集団かを分かってるからではないか?」
「そうだな。俺たちは風紀維持と乙女の純潔を守るために戦う集団だ。さぞやカッコよく見えるだろう」
注目を浴びてるのは、異端審問会の制服とも言える覆面をかぶっているからである。
そして集中する視線に尊敬や畏敬など含まれてはなく、迷惑と嫌悪と畏怖が主だったのだが……
「諸君、我々はなんだ?」
「「「神聖なる学舎の風紀維持だ!」」」
「異端者には?」
「「「死の鉄槌を!」」」
「男とは?」
「「「愛を捨て、哀に生きる者!」」」
「そう! 我等は崇高なる異端審問会! 我らこそ正義なのだ!!」
「「「うおおおおおおっ!!!」」」
誰一人として気付く者はいなかった。
なぜなら彼らは“バカ”なのだから。
所変わって、如月グランドホテル“鳳凰の間” 通称“サバの味噌煮”
「ここナラバ! 盗聴妨害などのセキュリティも完備されてマスので、安全カト」
「盗聴妨害までって、どんだけ頑丈なセキュリティなんだよ?」
「気にするな雄二。ここはまず助かった事を喜ぶべきだ」
事実である為、何も言えなくなる雄二。
翔子と愛子も、流石にここまで来るとは思えない為、安著の息を漏らす。
「これでゆっくりとデートを楽しめるね。このホテル内限定だけど」
「……ホテル」
ゾクリと雄二の背に、何かの予感がよぎった。
「……追い詰められただけの様な気が」
「まあ落ち着け。俺たちが一緒に居る限り、妙な事にはならんだろ(万が一見つかった時の生贄が居なくなるのも痛手だし)」
「……そうだな。今回ばかりは感謝する(なんて言うと思ってんのかモヤシめ。どうせ万が一見つかった時の生贄だと思ってんだろうが、そうは行くか!)
ゴゴゴゴゴゴッ!
「良いってことよ。俺たちは言うなれば運命共同体なんだから(いつでも斬り捨て可能な、な)」
「それもそうだな(いつまでもやられっぱなしだと思うなよモヤシ野郎が)」
「……相変わらず、殺伐としたムードだね」
「……元々が相いれない性質だから、無理もない」
笑顔で相対しつつも、2人の間には険悪なムードが漂っていた。
こんな2人は仲良しコンビ。
「デハ、いきなりデスが、スペシャルイベントデス」
「スペシャルイベント?」
「現在ちょっトしたイベントをやってマシて、こちらへ」
ムードブレイクされた4人は、スタッフに連れられとある場所に。
そこは……
「衣装室?」
「ハイ。記念に色々な衣装を纏っての記念撮影企画をヤッテおりマス」
見渡す限り、衣装、衣装、衣装。
早い話が、衣装室。
「へえっ、面白そうだな。えーっと、戦隊物に特攻服、へぇっ、西部劇の服まで」
「やめとけ、憧れはあこがれのままで終わらせるべきだ」
「それもそうだな。じゃあお前はこれでも着て本能を思い出せ」
光一が西部劇の服を手に取ろうとしたところに茶々を入れる雄二。
その仕返しに、ゴリラの着ぐるみを雄二に差し出した。
「「…………(メンチの切り合い)」」
「2人とも、ケンカしてないで衣装を見て回ろうよ」
「……雄二、久遠じゃなくて私と見つめ合うべき」
「「こんなゴリラ(モヤシ)と見つめ合って楽しい訳あるか!!」」
こんな彼らは仲良しコンビ?
「へぇっ、ウエディングドレスまであるのか」
「ん? なんかサイズがおかしいのもないか?」
「最近、男子高校生で女装が流行ってルという情報ガありマシテ」
2人の脳裏に、その情報源ウチじゃないだろうな? そんな事がよぎった。
そこで、2人にそれぞれ1着の衣装が押しつけられる。
「それじゃ、ボク達はボク達で衣装選ぶから、ちょっとそれ着てみてね」
「……言ってくる」
2人の言葉を無視し、愛子と翔子はあるコーナーへと歩を進めていった。
「なんか偉く気合入ってたな?」
「……光一、俺は逃げるからな?」
「霧島に最新のスタンガン贈っても良いならな?」
「キサマ絶対いつか殺してやる!」
「やってみろよゴリラ」
2人は押し付けられた白のタキシードを手に、それぞれ更衣室へ。
そして出てきて、雄二が一言。
「似合ってねえな」
「ほっとけ!」
雄二は以前着た事があって、それなりに様にはなっていた。
だが光一は始めての上に貧弱な体躯もあり、タキシードに着られてる感の方が強かった。
「考えてみれば、去年初めて会った時も制服に着られてる感があったからな」
「うるせえな……ってあれ?」
ふと見た光一の視線の先には、瑞希と美波に無理やりタキシードを押し付けられてる明久が。
「待って! 光一達もいるんだから、騒ぎはマズイよ!」
「だったら大人しくこれを着なさい!」
「服を着代える事でまで暗殺の可能性考えないでください!」
「何やってんだあいつら?」
「大方、異端審問会が余所に行ったのをいい事に、自分達も楽しもうって腹積もりなんだろ?」
「やれやれ……」
まあこれ位なら良いだろ、という感じで光一は視線をそらす。
「あっ、終わった?」
「……こっちも準備できた」
2人が纏っていたのは、ウエディングドレス。
Aラインと呼ばれる、最も基本的なスタイルのウエディングドレス。
「ほぅっ……」
「へえっ……」
翔子のウエディングドレスは2人して見たことある物の、それでも似合う事に変わりはない。
愛子も元が良い為、光一が見惚れるには十分。
「ウエディングドレスなんて初めてだけど、どうかな?」
「え? あっああ、そうだな。うん、似合ってる」
「まあ代表には劣るけどね?」
それは仕方がないとも思えるが、そうでもないとも光一は思っていた。
「デハ、記念撮影を行いマスので、コチラへ」
「何!?」
「おいおい、記念撮影位良いだろ? 別に何か危険がある訳でもあるまいし」
「それはお前だけだろ! 俺にはダダだあダダだ!!」
結局翔子に力尽くで引きずられ、仕方なく基本の並びでパシャっと写真を撮る事に。
光一も愛子に伴なわれ、こっちは抵抗もなく写真を撮る体勢に。
「ねえ優子、そんな所で隠れてないで出てきなよ?」
「はっ?」
「うっ……」
愛子が声をかけた先には、これまたウエディングドレスを纏った優子。
それは身体に密着するスレンダー型で、飾り気を排してはいる物の一旦肩口から別れた袖は手首に向かう程に大きく、レースが大量にあしらわれている。
「やっぱ来てたのか……で、何でお前まで」
「いっ、良いでしょ別に!」
「あははっ、優子も素直じゃないね。それじゃ……」
愛子が優子の手をとり、引っ張って並ぶように配置。
呆気に取られてる間に、愛子は光一に抱きついてカメラマンに写真を促して撮影。
そして出来た写真を見て一言。
「……まさか一度に2人のウエディングドレスを纏った女と写真を撮るとは思わなかった」
「そうよね。吉井君じゃあるまいし」
その後明久も、無理やりウエディングドレスを纏った2人と写真を撮って、本日のデートは終了。
そして次の日。
「待てコラァっ! これ以上霧島を冒涜するなんて許せるか!!」
「工藤に木下の2人とウエディング写真だと!? ぶち殺す!!」
「バカの分際で姫路に島田とウエディング写真とはいい度胸だ!!」
「オネエサマをボウトクしたツミ、シヲモッテツグナイナサイ!!」
異端審問会及び、それぞれのファンに追いかけられる核弾頭トリオの姿があった。
「コレが狙いだったのか!?」
「お前は……」
「いや、この際仕方ないだろ。結果としてはそうなる訳だし……という訳で雄二、これをやる」
光一はポケットから紙の束(お宝写真)を全員に見せる様に雄二に手渡した。
「じゃ、頼むぞ」
「テメ! 光一!!」
「雄二、君の事は忘れない」
「明久!!」
今日も文月学園は平和だった。
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