問題
『ベンゼンの化学式を答えなさい』
姫路瑞希の答え
『C6H6』
教師のコメント
簡単でしたかね
土屋康太の答え
『ベン+ゼン=ベンゼン』
教師のコメント
君は化学を舐めていませんか
吉井明久の答え
『B-E-N-Z-E-N』
教師のコメント
後で土屋君と一緒に職員室に来るように
久遠光一の答え
『鞭善』
教師のコメント
君も後で職員室に来るように。
楽しくほのぼのとした筈の昼休み。
しかし今、戦慄が走ろうとしていた。
「つっ土屋君!?」
姫路瑞希作のお弁当の一品、海老フライ。
それを口にした途端、豪快に倒れ小刻みに震え始めた男、ムッツリーニ。
「どっ、どうしたのムッツリーニ!?」
「何があったのじゃ!?」
「わからん。海老フライを食べ……まさか」
光一は海老フライをとり、匂いを嗅ぎ始めた。
即座に顔を青ざめて、めまいに似た感覚に襲われる。
「……とりあえず、何を入れたかを聞かせてくれないか?」
「何と言われましても、普通に作りましたよ? 隠し味に“硫酸”を入れた位で」
「普通に……ん? 硫酸?」
不吉な単語を聞きとった光一は、その海老フライを畏怖の視線で見つめる。
「どうやって手に入れたかが気になるところだけど、どうしてそんな物を?」
「ちょっと、酸味が欲しいと思いまして」
「……なあ姫路、俺の知識に間違いがあるかもしれないから、硫酸の特性を教えてくれないか?」
少々罪悪感に晒されつつ、光一は内容説明に。
秀吉と明久は、その姿をまるで勇者の様に尊敬の意を以て見詰め始める。
「おう、待たせたな。へー、こりゃ美味そうじゃないか。どれどれ?」
手に飲み物の缶を抱えた雄二が、瑞希の弁当に手を伸ばす。
そのうちの卵焼きをつまんで、一口。
「あっ、雄二!?」
食べた途端、缶をぶちまけて倒れた。
それも、ムッツリーニと同じく小刻みに震えるのも同じに。
「……で、卵焼きは何を?」
「えっと、クロロ酢酸を……」
「……パンとお茶を買ってくる。明久、手伝ってくれないか?」
「うん、わかった」
とんだランチタイムとなってしまった。
数分後。
「……まさか、姫路にこんな欠点があったとは」
「…………意外」
被害者2名は、殺菌作用のあるお茶を大量に飲みながらの会話。
顔色も悪く、小刻みに震え続けたまま。
「……すみません」
「気にしなくて良いよ、姫路さん。誰にだって失敗はある物だし」
「そうだぞ姫路。失敗を言ったら明久なんか、土下座どころか死んでも詫びきれない量あるんだ」
「失礼な!」
瑞希への明久のフォローを、雄二が茶化す。
それを見て、瑞希もようやく落ち着いたのか笑みを浮かべた。
「でもうまそうなのは事実だし、筋は良いとは思うよ? だから明久の家で練習すればいいじゃないか。いっそ花嫁修業の一環って感じで」
「はっ、花嫁修業……ですか!?」
「え!? ちょっ、光一! 何を勝手に……」
「女の子が世話しに来てくれるってのに、何の不満があるんだよ? そもそもお前の生活破綻ぶりを考えれば、その方がずっといいだろうが」
明久とて、健全な男子高校生である。
そういう事に理想を抱くなと言われても、無理な相談である。
「でっでも、そこまで酷くは……」
「あの生活のどこをどうしたらそう言える? ガスや水道は止まってるわ食える物は何にもないわ、生きてる事自体が不思議なくらいだ」
「失礼だなあ。何にもないってことはないよ」
「砂糖に塩、サラダ油だろ。今でも思い出すだけで吐きそうだ」
その他全員も同意したように、多少顔をしかめて頷いた。
少なくとも、現代人の食生活じゃない。
「確かに、世話する奴が居た方が良いな」
「そうじゃな。とても“現代の人間がやる”生活とは思えん」
「…………同感」
雄二、秀吉、ムッツリーニも、その方が良いと肯定。
が、雄二とムッツリーニの目は笑っていなかった。
「ちょっ、そんな勝手に!」
「それにだな」
「え?」
光一がニヤリと笑みを浮かべ、皆に聞こえないように声をひそめ始める。
それを見て、秀吉も混ざり始めた。
(チャンスでもあるだろ?)
(チャンスって、姫路さんは……)
(それはあくまで明久の勘じゃろ? ここで頑張れば、あるいはの可能性も含まれるじゃろうて)
(光一、秀吉……けど、姫路さんの都合もあるし、それに男の1人暮らしの部屋にだね?)
「あの……吉井君さえ迷惑でなければ、お願いしてもよろしいですか?」
あっさりと了承された事に、明久は驚き光一と秀吉はうんうんと頷きあった。
(よし、チャンスだ明久。良い雰囲気を作って、押し倒せ!)
(うっ、うん。わか……らないよ! 最後の余計だよ!)
(大丈夫だ、お前ならできる。お前なら姫路を押し倒す事が出来る、自分を信じろ!)
(いや、青春ドラマみたいなノリで言われても困るよ!)
動揺はしてはいても、明久の脳内ではシミュレートされていた。
しかし、その空気を破る者が。
「ちょっ、ちょっと、何言ってるのよ瑞希! 吉井は1人暮らしだって言うのに、行ったら何されるかわかった物じゃないわよ!?」
「考えてみれば、ケダモノの檻にウサギを放り込むような物だな」
「…………(こくこく)」
美波の剣幕を見て、にやりと笑みを浮かべる光一。
ピンっ! と、閃いた素振りを見せ、美波にある宣告を面白半分で告げた。
「じゃあ島田も一緒に行けばいいだろ? 何かやろうとしたら、いつも通り関節外せばいい訳だし」
「え!? なっ、何でウチが!?」
「その前に僕、了承してないんだけど……」
パンを食べつつ、まったりとした時間だけが過ぎて行った。
パンが無くなり、ある程度時間もたったころ。
「それで試召戦争だけど、次はBクラスなんだったな?」
「ああ。Bクラスにも、Dクラスと同様に俺達がAクラスに勝つための要素がある。俺たちじゃ真正面からぶつかった処で、勝ち目はないからな」
Aクラスは当然、この学園選りすぐりのエリート達。
試召戦争は代表を倒す事が勝利であるが、Aクラス代表はそれすなわち学年首席。
Fクラスの戦力では、囲った処で返り討ちに遭う事は容易に想像がつく。
「それで、どうする気だ?」
「Bクラスとこの戦争のシステムを使って、Aクラスとの戦争は一騎打ちにする」
「システム?」
「ああ。下位クラスが負けたらどうなるか知ってるか明久? ムッツリーニ、ペンチ用意しておけ」
「え!? えーっと……」
いきなり話を振られた明久は、どぎまぎし始める。
それを見て瑞希が、こっそりと耳打ち。
(吉井君、負けたらランクを1つ落とされるんですよ)
「あっ、そうそう。で、下位クラスが勝ったら設備を入れ替えが出来るんだったね?」
「そうだ。そのシステムを利用して、Bクラスに交渉する」
「成程な。設備交換免除を条件に、BクラスにAクラスへ宣戦布告させる。そのあとで俺達は連戦を匂わせる通告をし、一騎打ちの条件を呑ませる……か?」
雄二が頷く。
明久も今の話を聞いて、納得するように頷くが……
「しかし、上手く行くのか? 向こうとしては試召戦争の方が確実なのは事実だ」
「そうじゃな。低得点じゃが実力者の光一は当然として、姫路の事も既に知れ渡っておるじゃろうし」
「それに関しては考えがある。それよりまずは、Bクラス戦だ」
いずれにせよ、Bクラスを倒さなければ意味がない以上はと、話は締めに。
雄二は明久と光一を交互に見て、一言。
「明久、今日のテストが終わったら、Bクラスに宣戦布告して来い」
「断る! 雄二が行けばいいだろ」
「やれやれ、それじゃジャンケンで……」
「ちょっと待て」
2人の間に入ったのは、その手にはアサルトライフルが握られている光一。
その姿に、若干2人どころか、瑞希をはじめとする他のメンバーも恐怖を感じた。
「俺が行くよ。Bクラスの代表、あの根本って聞いたことあるから」
「根本だと!?」
根本恭二
とにかく評判が悪い男で、目的のために手段を選ばない事で有名。
“カンニング常習犯”“ケンカで刃物はデフォ装備”“球技大会で一服盛った”とまで言われる程。
「そうだとしたら、妙な事をされないように牽制した方が良い」
「そうか。確かに明久じゃ、インパクトに欠けるな……」
「だったら雄二が行けばいいだろ。でも、それじゃ光一1人っていうのも……」
「じゃあ明久も来るか? 心配しなくても、コレクションとこれ位なら貸してやるよ」
と言って、光一は懐から自動拳銃とスタンガン(20万ボルト)を取り出し、明久に手渡した。
「……また、僕は危険人物として知れ渡るのかな? 365度どう見ても美少年なのに」
「バカとしてなら知れ渡ってるぞ? ちなみに5度多い」
「うむっ。実質5度じゃな」
「2人とも嫌いだ!」
そして放課後。
「それで、明日の午後からかの?」
「ああ。根本の姿もきっちり確認したし、色々と脅したからまず問題ない……と信じたいな」
「うむっ。卑怯な手を使われて負けると言うのは、納得できんからのう」
家がとなりなので、自然と一緒になる光一と秀吉。
その帰り、明日からの試召戦争と……敵側の代表である根本の卑怯な手段への警戒について、話し合っていた。
「まず狙われるとしたら、光一と姫路じゃな」
「俺はともかく、姫路が心配だな……ん?」
ふと、光一が目を向けた先には……
「……あれは」
「ん? どうし……」
「しっ!」
秀吉をひっつかんで、物陰に隠れる光一。
口をふさぎつつ、もう片方の手で目標に指差した。
「改めて、警戒した方がよさそうだな」
「うむっ。事によっては、の」
と、こっそりとその場を後にしようとした所で……
「光一、秀吉! あんた達何やってるの!?」
「え? 優子?」
「おおっ、姉上。どうしてここに?」
「そんな事はどうでもいいわよ! 何であんた達、こんな所で抱き合ってるの!?」
ふと、光一と秀吉は自分達の現状を省みる。
“ある物”から隠れる為に、秀吉を抱き寄せる形で……。
「言ったわよね光一? 秀吉と妙な事をしないでって」
「妙な事って、ワシも光一も男じゃぞ?」
「その所為でアタシが光一と付き合ってるって、迷惑な噂が流れてるのよ!」
「迷惑って、それが幼馴染に言う事か? それに俺だってもう、お前みたいな寸胴に……あっ、ごめんなさい。訂正するからその関節をそれ以上……」
断末魔が響き渡った。
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