間話集
第二十六問 (如月グランドパーク編 プロローグ)
ラブラブ! 坂本夫妻のマル秘恋愛テクニック講座
「……おい翔子、とりあえず俺にわかるように状況を説明しろ」
「……これは私達夫婦が、吉井と久遠のアシスタントの元で恋愛の秘訣を皆に教えるコーナー」
「驚いた。このタイトル“の”以外全部嘘の事しか書いてないぞ。というか明久に光一、テメエ等なにさも当然かの様にカメラを構えてやがる!?」
「じゃあはがきはこちらです。坂本翔子さん、お願いします」
「たまには俺の話を聞け! そして明久、勝手に翔子を入籍させるな!!」
「……“突然ですが、仲良し夫婦のお二人に相談です”」
ドンドンパフパフ~♪ (効果音)
「はがきの差出人よ、良く聞いてくれ。俺は今、手足を縛られて床に転がされている。コイツが本当に恋愛相談の相手にふさわしいか、もう一度考えてみてほしい」
「まあ力尽くって言うのはやり過ぎだと思うが、そう言う約束したのお前なのに一方的に拒否して逃げ回ったりするから、こういう力尽くの発想に出るとは考えないのか? “普通に付き合ってみて、合わなかったら別れる”って感じにすれば、こうはならなかった筈だろうに」
「流石はフラれた男だな。哀愁漂う虚しいセリフに説得力がある」
「助けてやろうと思ったけどやめた。坂本翔子さん、続きをどうぞ」
「……わかった。坂本翔子、良い響き」
「だから、翔子を勝手に入籍させるな!!」
「……“私には婚約者がいるのですが、その人が周りの女の人の誘惑に負けて浮気をしないかが心配です。どうしたらいいでしょうか?”」
「いや、どうしたらと言われてもな」
「……夫の浮気には私も困っている。他人事とは思えない」
「そうですか。こんな一途な妻を困らせるなんて、許せませんね」
「頼むから他人事だと思ってくれ! 明久も余計な事言うんじゃねえ!」
「……だから、私の考えた浮気防止法を教えてあげる」
「それは楽しみですね」
「翔子よ、それは俺の身に降りかかる不幸の予告とみなしていいんだろうか? それと光一、テメエあとで覚えてやがれ!!」
「……用意する物は3つ」
ガラガラガラ! (明久の手で3つの幕の掛けられた台車が押される音)
「? 浮気防止に、道具が必要なのか?」
「盗聴器や発信器、それから携帯電話かな?」
「じゃないのか? でもそれじゃ予防にはならないだろ。明久、幕を」
「あっ、うん!」
「……1つ目は」
ドロロロロロロ! (ドラムロール by光一)
「1つ目は?」
バサッ! (1つ目の幕がはぎ取られる音)
「“手錠”」
「翔子、ストップだ! いきなり犯罪臭がする!!」
「……2つ目は」
ドロロロロロロ! (ドラムロール by光一)
「やっぱり聞いてないな。んで、2つ目は?」
バサッ! (2つ目の幕がはぎ取られる音)
「“エプロン”」
「ちょっと待ってくれ。急にお前の考えが読めなくなった。というか、その組み合わせで俺に何をするつもりなんだ!?」
「……そして、3つ目は」
ドロロロロロロ! (ドラムロール by光一)
「3つ目は?」
バサッ! (3つ目の幕がはぎ取られる音)
「“ビデオカメラ”」
「貴様何を撮るつもりだ!? エプロンと手錠でドレスアップされた俺の何を撮るつもりだ!?」
「……その3つを用意して、夫に浮気の怖さを教えてあげると良い」
「……おえっ、気持ち悪い」
「……この世の終わりを見た気がするよ」
「勝手に下世話な想像をするな! だがそれ以上に俺は今翔子、何よりもお前が怖い」
「……以上、“バカなお兄ちゃん大好き(11歳)”ちゃんからのおハガキでした」
「差出人小学生かよ!? 世も末だな!」
「……所で翔子、さっきのは冗談だよな?」
「……カメラは5台以上が望ましい」
「まぁ待て、じっくりと話し合おうじゃないか」
「いや~っ。女の愛って、恐ろしいね」
「ちなみにこれは、この異常なラブラブカップルだからこそなせるテクニックだから、普通にやったら犯罪なのでマネしないように」
「明久に光一、何他人事の様にしてやがる!?」
「「他人事だもん」」
「俺が入院してる間、そんな事があったのか」
“気合を入れた”瑞樹の弁当を間違って食べてしまい、2日ほど入院した光一。
その間起きた、明久のラブレター騒動についての説明を、登校中に秀吉から受けていた。
「島田はともかく姫路まで……俺の苦しみが根本から悉く踏み躙られてるって、どうなんだろ?」
「その辺は同情するぞい」
「やれやれ……」
呆れながら、頭を押さえる光一。
というか、たかがラブレターでクラス総出での追撃の上に、ラブレターは燃やして処分。
いくらなんでも、やり過ぎであると光一は思った。
「そう言う意味じゃ、俺が2枚とも受け取っといて正解だったかな?」
「2枚とは、例のプレミアムチケットかの? そう言えば明久からも受け取っておったな」
「ああ、特に誘う相手が居ないからってな」
本当は瑞樹と美波に今日渡そうかと思っていたが、先程の話を聞いて気が失せた光一だった。
予定では翔子とそのどちらかに渡すつもりだったのだが(名目上どこかに売ったと言う事にして)
「予定が狂ったな。霧島と、後誰にあげようか?」
「自分が誰かを誘うという選択肢はないのかの? ……まあ、そのチケットを考えればわかるのじゃが」
このチケットは、普通のものとは違う。
如月グループが“如月グランドパークに訪れたカップルは幸せになる”というジンクスを作る為、そのジンクスの礎となるカップルを選別する為のチケット。
それを知っている以上、有象無象と行く訳にもいかないシロモノである。
かといって、迂闊に売る様な事をしたらそれこそ危ないシロモノでもある
「難しいのう。明久と雄二位じゃぞ? ウチのクラスでそう言う事に縁がある者は」
「だよな……じゃあここはやっぱり優子に」
「アタシがどうかした?」
ふと振り向いてみると、そこには秀吉の姉の優子が。
丁度良い機会と、光一は
「優子、話があるんだ」
「え? 良いけど……それもしかして、如月グランドパークのプレミアムチケット? え? こっ光一……?」
「これを誰か、そういう相手の居る人にあげてくれないかな?」
「あの……は?」
「だって俺には持ってても意味がないし、優子なら知り合いに1人か2人位ってちょっと待て、何で腕を極め始める!? その関節はそっちに……」
断末魔が響き渡った。
その少し後に、優子が返り血を拭きながらAクラスの教室へ。
「全く……何を言うかと思ったら!」
「……どうしたの優子? 機嫌が悪そう」
「何でもない……代表、これ欲しかった筈でしょ?」
「……それなら大丈夫、もう当てがあるから。優子、素直にならないからそういう事になる」
「だから、あんな危険人物となんて……はぁっ」
Fクラス教室にて。
「大丈夫かの? 光一」
「……俺が何したってんだよ!?」
あの後優子に肘の関節を外された光一は、秀吉に付き添われFクラスへと到着。
「あっ、退院おめ……どうしたの光一? その腕」
「気にするな」
よろよろと卓袱台について、外された腕をはめるとそのまま突っ伏した光一。
それを見た雄二は、ある事を尋ねるべく駆け寄った。
「そう言えば光一、あのチケットどうしたんだ?」
「ああっ、知り合いと優子にそれぞれやった。行きたがってる人がいるらしいから」
「へぇっ、木下優子に……ってちょっと待て! その行きたがってる人は一体誰なんだ!?」
雄二がうなだれてる光一の胸ぐらをつかみ、無理やり立たせる。
ダメージが抜け切れてなく、そのままなすがままの光一が面倒臭そうに。
「さあ? 霧島じゃあないそうだけど」
「確かなんだな!?」
「ああ、確かだ」
これは本当の事である。
なぜなら翔子に対しては……ここでは省かせていただきます。
「何なら、優子に直接確かめてみたらどうだ?」
「……そこまで言うなら信じてやる」
捕まえられた胸ぐらを離され、再度卓袱台に突っ伏す光一。
雄二に見えない角度で、にやりと笑みを浮かべた。
「それはそれとして、ラブレター騒動聞いたぞ? 雄二、お前な……」
「知るか。俺は明久の幸福が大嫌いなんだよ」
「それは知ってるし、予想は十分できるから別に良い。でもまさか、姫路や島田まで……」
と、2人に視線を移す。
「あれは流石にショックだったな……美波はまあ良いとしても、まさか姫路さんまで敵側で、しかもラブレターを細切れにしちゃうんだから」
「……本気で、Fクラスの悪影響が出てるな?」
光一は痛む頭を抱えた。
自分が優子を諦めようっていう気持ちは、一体何なんだろうと思いつつ。
「……苦労してるな、明久」
「光一だけだよ……僕を本当の意味で気遣ってくれるのは」
心底、明久に同情の意を示した光一だった。
「……何でウチ等と久遠に、ここまでの差があるのかしら?」
「どうしてでしょうか? まるで、私達と久遠君には超えられない壁があるみたいです」
「そう言う目で見てる時点で……まあいいや」
その様子を見て、心底光一を羨む視線を2人は向けていたが、光一は無視の方向を決め込む事に。
「話に戻るけど、じゃあ僕があげたチケットもあげたの?」
「ああ。Fクラスの野郎どもじゃ使い道ないし、優子は友好関係広いから何とかするだろ。俺の知り合いで恋人持ちなんて、雄二位なんだから」
「俺をカテゴリするな! まあ、それなら良いか。しかし明久も、姫路でも誘えば良いのに」
「雄二が言って良いセリフじゃないよね?」
ラブレター騒動時、主導となって明久を攻撃したのは雄二である。
当の本人は明久の抗議を特に気にする事もなく悪びれる事もなく、飄々としている。
「しかし、姫路と島田に売るって話もあったんじゃないのか?」
「そのつもりだったけど、ラブレター騒動の事があるからやめた。恋愛は力尽くでどうこうする事じゃない筈だから、どうも俺の苦しみその物どころかその根本すら否定されてる気がしてな……」
優子にフラれ、諦めようとしてる光一ならではの台詞だった。
瑞希と美波は、それを聞いて少々後ろめたい気持ちに襲われる。
「成程、確かにそうだ……だがそれなら何故翔子をたきつける真似をした?」
“現在進行形で”力尽くによる恋に晒されている雄二が抗議を上げた。
そもそも、翔子に雄二を何度も苦しめるスタンガンを渡したのは、他でもない光一なのだ。
「別に雄二だからどうでもいいと思った」
「よし、今すぐ地獄へ送ってやる!!」
ボキボキと指を鳴らしながら、光一に今にも殴りかかろうとする雄二。
「……というのは冗談だ。話を聞く限りじゃ、霧島はずっと雄二の事好きだったんだろ? そうやって一方的に突き離した結果が、今の積りに積った気持ちの暴走だとも見て取れるんだが?」
「あのな、そもそも翔子の気持ちは……」
「出席をとるぞ、席に付け!」
そこで西村先生こと鉄人がやってきて、出席をとり始めた。
時は過ぎ、週末。
ドドドドドドドドドドドドド! ガチャッ!
「おふくろ! どういう事だっ!?」
「あら雄二、おはよう」
とある場所にある坂本家。
そのキッチンにおいて、にこやかにあいさつする若々しい女性と、寝起きとは思えない程荒々しく駆けこんできた少年、坂本雄二
女性は雄二の態度に構う事なく、のほほんと流しで洗い物をしている。
「おはようじゃねえっ! どうして翔子が俺の部屋にいるんだ! おかげで俺は警察のオッサンに二次元と三次元の区別が出来ない妄想野郎と思われちまっただろうが!」
目を覚ましたら、そこに幼馴染である霧島翔子が近くにいた。
約束の類が思い当たらず、不法侵入であると辺りを付けて警察に電話してしまい、その時の警察の反応は雄二の心に深い傷を残したのである。
「……え? 翔子ちゃんが?」
その当人の雄二の母親は、大きな瞳を瞬かせ困ったような顔をする。
それを見て雄二は、翔子の単独行動かと思い、少々浅慮だったかもしれないと思い謝る事に。
「ああいや、怒鳴って悪かった。俺はてっきりおふくろがアイツを勝手に俺の部屋に……」
「もう、翔子ちゃんってば奥手ねぇ。折角お膳立てしてあげたのに何もしないでいるなんてもったいな……あら雄二、どうしてお母さんの頭を鷲掴みにするのかしら?」
「やっぱりあんたの所為か!」
雄二は母親の頭に手をかけ、自身が翔子にやられているアイアンクローに処する事に。
そこへ現れた翔子が、雄二の腕をつかんで邪魔をする。
「……雄二、お義母さんを虐めちゃダメ」
「止めるな翔子、俺は息子としてこの母親の再教育をしないといけないんだ! それと今、“お母さん”の発音が普通と違う気がしたんだが?」
「……間違っていない、“お義母さん”であっている。それよりも、言う事を聞かないとこの本をお義母さんと一緒に読む」
と言って撮りだしたのは、A4サイズの冊子。
しかも表紙は……
「ま、待てっ! それは女子供が読むものじゃない! 早くこっちに寄越すんだ!」
「あら翔子ちゃん。それは雄二が世界史の資料集の表紙をかぶせて机の三番目の引き出しの二重底の下に隠している、秘密の本じゃない?」
自身の至高の一冊が見つかった事だけでも最悪の事態なのに、更に母親に既に知られていた事。
この時雄二は、明久の1人暮らしをこの上なく羨ましいと思った。
「わ、わかった。おふくろは解放しよう」
「……そう。それなら、この本は燃やすだけで許してあげる」
「待て翔子、それは許した時の処分じゃない!」
「……じゃあ、燃やしても許さない」
「燃やさないと言う選択肢はないのか!?」
結局その本は処分され、雄二は断末魔を上げる事に。
その少し後、朝食を食べて翔子にふと気になる事を聞いてみる事に。
「んで、どうして翔子が来てるんだ?」
「……これ」
上着のポケットから、ある一枚の小さな紙切れを取り出す。
その様相から言って、チケットである。
「あら、如月グランドパークのプレミアムチケット? すごいわ翔子ちゃん、良くこんな物手に入ったわね?」
「……優しい人達がくれた」
それを聞くなり、雄二は携帯を取り出し番号通知をOFFに。
そして光一の番号を呼び出し、数秒の呼び出し音の後に軽快な声が。
『ハイもしもし? どちら様ですか?』
「…………………………………………キサマヲコロス」
『何だいたずらか?』
プツッ! ツーツーツー……
と、特に気にした様子もなく、通話を切られてしまった。
それに対し、余計に腹の奥が煮え繰り返る雄二だった。
「……雄二、行こう?」
「嫌だ!」
雄二はチケットの意味を知っている為、頑なに拒否をした。
これは一部の人間しか知らないが、“如月グループの力を以て結婚を強要する”という意味合いがある。
「……じゃあ、選んで」
拒否の姿勢を崩さない雄二に、翔子はある物を取り出した。
「……すまん、話の流れがさっぱり分からない」
「約束を破れば、即挙式って誓ってくれた」
「誓ってない! 婚姻届に判というのは覚えがあるが、挙式は覚えにない!!」
ちなみに婚姻届の方は既に判が押されており、翔子の手により保管されていた。
「お母さんは、ハワイとかの海外が良いな~」
「おふくろ、アンタはどうしてそんなにマイペース何だ?」
「あっ、ヨーロッパも良いわね。雄二、どこがいいかしらね?」
と、一緒になって結婚式場のパンフを眺める翔子と雄二の母。
それに対し、雄二がとった手段とは……
「……俺は……無力だ」
所変わって、如月グランドパークの前。
「……やっとついた」
「よし、それじゃ翔子」
「……うん」
「帰ろう」
ミシッ!
「……ダメ、絶対に入る」
と、ひじ関節を極めて、往生際の悪い雄二を止める翔子。
「はっはっは、翔子、俺のひじ関節はそっち側には曲がらないぞ?」
「……恋人同士は皆こうしている」
「待て翔子! お前は仲睦まじいと言う意味の腕を組む行為と、腕を壊すというサブミッションを同様に考えていないか!?」
で、結局は、入場ゲートに連行されてしまう雄二。
一方、監視カメラのモニタルームにて。
「来たみたいじゃの? しかし、態々こんな事せずとも……」
「何言ってるんだよ秀吉、これは僕達から雄二への親愛の証、プレゼントじゃないか」
「…………(コクコク)」
「で、もう1枚はどこへ行ったのよ?」
「さあ? 俺達は雄二に集中すればいいさ」
「そうですね。坂本君と霧島さんの幸せ、成就してあげましょう!」
そのもう1枚は……
「……光一の、バカ」
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