「うん、美味しいです」
朝倉歩美。
小動物チックな純粋少女で、つい最近文月学園に転入した一年生。
料理が得意な彼女は、今日木下家にて優子と愛子に料理を教えていた。
「一応練習はしたつもりなんだけど……」
「やっぱり朝倉さんとじゃ、大人と子供ね」
「そっ、そんな事ありませんよ。たまたま私は、早く始めただけで……」
元々光一に料理では負けてて、“ごく一部で”餌付けされたんじゃないかと言う不名誉この上ない噂が出ている2人。
(光一による脅迫や詐欺と言う見解が主流なので、本当にごく一部でしかない)
男なら割と聞く話でも、女でそれは流石にシャレにならない。
との事で、2人は女としてのプライドに火がつき、こうして花嫁修業同然の様に料理の勉強と練習を行っていた。
「それでも、良い事だと思いますよ?」
歩美も女の子なので、あまり気分の良い噂ではない事は十分理解していた。
「あーんもう、歩美ちゃん可愛すぎだよ」
「きゃっ、あっ、愛子おねえちゃ……やっ!」
「しかもこんなおっきいし、もう光一君に触らせたりとかしたの?」
「そっ、そんな恥ずかしきゃうっ!」
「やめなさい愛子!」
……数分後。
「ごっごめんね歩美ちゃん。つい調子にのっちゃって……」
「えっ、えううっ……」
調子に乗った事で歩美に泣かれ、愛子はぺこぺこと平謝り。
「もうっ……」
「いっ、いえ。意地悪じゃない事はよくわかりますから、大丈夫です」
歩美も光一に出会うまで、周囲にいじめられていた経緯があった。
光一とあってからは、どこからか凶王の私物と言うレッテルが張られた所為か、そう言った狙いの者が近寄る事はない。
引っ越してからは、それなりに周囲は良い人が多かった為、いじめに遭わずにすんでいた。
「背が伸びても、気弱な所は変わらないわね」
「先輩たちともう一度一緒だから、少し気が緩んだのかもしれません」
「なんだかなあ……ちょっとやけちゃう」
割と最近の付き合いの愛子は、仲間はずれの様で寂しかった。
「あっ、そろそろお昼ね。光一に家に持っていかないと」
「あっ、そうだね……ねえ優子、そう言えば光一君っていつから料理やってたの?」
「小学3年生からよ。ウチのお母さんに教わってね」
「そんなに早くから?」
「そうよ。その頃に光一の両親が離婚してね……その事でトラブルが起こってたのよ。ひなたさん側の親戚一同が、白夜さんと光一の親権の事で納得がいかないって」
「……原因、なんとなくわかるね」
確かにそれなら、10代にも満たない上に白夜の豹変で傷を付けられた光一を、同席させる訳にはいかない。
「……才能って怖いですね」
「だから光一はあんな風になったのよ……いつの間にかその人達と同類になってた、アタシが言えた義理じゃないけどね」
親族の取り合いと押し付け合い。
必要とされる者とされない者。
あんな風にはなりたくないと思ってたはずなのに、いつの間にかそうなっていた事。
「それじゃ、そろそろ持って行こうよ。冷めちゃうよ?」
「あっ、そうですね。すぐに詰めないと」
「今から喜んでくれるのが楽しみね」
そう言って、3人は和気藹々と弁当箱に作った料理を詰め始めた。
所変わって、光一の家。
「……」
光一はふと、思い出していた。
豹変した白夜の手で、自身の背に大きな傷を付けられ意識を失い……。
目が覚めた時、まるで悪い夢でも見ていたかのように、兄は両親の離婚で遠くへと言ってしまいもう会わずに済むようになった。
家に帰ってその事実を確認して、嬉しくなった事は今でも覚えている。
……ただ、親戚一同が兄を取り合い、自分を押し付け合っている事にさえ目をつむれば。
「……人をなんだと思ってやがんだか」
それが原因で、事情を知る木下家に一時期世話になっていた事。
と言っても、何度か世話になっていたので今更感はあったが、それでも……
もう信じれるのは自分だけだ。
そういう概念が蔑ろにされ続けた影響で身についた光一は、料理や洗濯など、家事全般を木下母に教わり、10歳にはもう独立できていた。
「なあ秀吉」
「んむっ?」
本を読んでいた秀吉が手を止め、視線を光一に向ける。
光一は胸板で寝転がってる秀頼を撫でながら……。
「昔じゃ想像できないよな。今の俺」
「そうじゃの」
秀吉は時に幼馴染であり、時に家族であり、時に兄弟。
光一の最も近くにいたのは、秀吉である。
「この家で複数で騒ぐ事も」
「そうじゃの」
「飯作ってくれるのも」
「そうじゃの」
「……こうして、家族が出来た事も」
「そうじゃの」
「きゅ~ん?」
そっと、自分の胸板で寝ころぶ秀頼を抱き上げ、高く掲げる。
何の事かわからないと首を傾げる秀頼を見て……。
「……秀吉」
「なんじゃ?」
「俺って人間なのかな?」
「……いきなり明久以上に唐突な質問じゃな? 人間じゃろ」
「いや、すまん」
どうにも感覚がおかしくなっていた。
「光一よ。どうやら疲れておるのじゃな?」
「……みたいだな」
「そろそろ姉上達が昼食を持ってくるのじゃ。それを食べたら、寝た方が良い」
「そうする」
所変わって……。
「静かだな……」
大神白夜は1人、森林公園を歩いていた。
白夜は光を拒みはせず、闇も受け入れる。
白夜は集団の理を拒みはせず、孤独も受け入れる。
白夜は最高の知識をもってはいるが、バカな考えも持ち合わせている。
白夜は静寂を好むが、だからと言って騒乱を嫌悪すると言う訳ではない。
白夜にとっては、清も濁も、善も悪も、バカも賢者も。そのすべてが意味を成さない。
「……さて、Fクラスはもうすぐ動きだす筈」
Fクラスが起こす試験召喚戦争に関して、個人としては賛成だった。
戦争は武器やパワーだけで決まる訳ではないのだから、勝てると判断したなら存分に挑めばいい。
そうすれば上位も負けじと、迎え討とうと必死になる。
争乱と喧噪、そして戦いは常に人を研磨し、強者へと変えていくのだから。
しかし代表としては、Fクラスの素行の所為で自身のクラスにも悪影響を及ぼす。
そんな連中がつけ上がらせる訳にもいかない以上、阻止しなければならない。
「……やはり、これが良いか」
白夜は考える事を止めない。
自身が成すべき事が最善かどうかを、見極め続けるために。
白夜は求める事を止めない。
自身に進化の可能性がある以上、それを手放すなどあり得ないが故に。
白夜は代表の立場を軽視しない。
集団の一員である以上、代表でも一員でも成すべき事を成さねば集団は機能しない事を、十分に理解しているが故に。
白夜は……
「……さて、この戦争で私は誰から何を奪える?」
周囲がどうあろうが、決して止まらない。
己が立場を全うし、自身をより強くするために。
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