「痛てて……随分と殴られたよ……」
「くそっ、鉄人め。あの野郎は手加減を知らないのか?」
「やった事が事とはいえ、流石にこれはきつ過ぎだっつーの。あの鉄鬼が」
「斬新なニューネームだな」
結局逃げきれず、捕まってしまった3人。
本当なら停学か最悪退学の筈だが、処分は厳重注意という拍子抜けするような内容。
ただし、相手が相手だけに、3人の顔の面積が倍になっていた。
「ババァが手をまわしてくれたんだろうな」
「今回の処分の事? そうだろうね。そうじゃなければ、こんな軽い処分な訳ないもんね」
「まあババァに借りを作れたし、お互い助かった訳だからまあ良しとするか? まあ感謝する気なんてないけど」
「そうだよね。学園長が僕らを助けてくれるのは、ギブアンドテイクって奴だよね」
早めに解放されたのにも、命中先が教頭室というのもある。
その修繕という理由でがさ入れが始まっており、学園長は現在も徹底的に教頭を調べ上げている。
教頭の尻尾をつかむのは、もはや時間の問題だった。
「とにかく、問題は全部解決だね」
「そうだな」
「さて、打ち上げに早く混ざろう。最後位、級友と楽しく過ごす記憶が欲しい」
と、打ち上げが行われている公園へと急ぐ3人。
「む。やっと来たようじゃな? 遅かったのう」
「…………先にはじめておいた」
「ああ、ごめんごめん、ちょっと鉄人がしつこくてさ」
Fクラスの面々で、お菓子やジュースを持ちこんでの打ち上げ。
店でのそれと違い金はかからないが、これはこれで楽しい物。
「お主ら、もはや学園中で知らぬ者はおらん程の有名人になってしまったのう」
「…………(コクコク)」
「……こんな危険人物どもと同じ扱いだとは、不本意だ」
「それは僕達の台詞だよ……」
「明久に同じだ。こんなゴリラと同類なんて」
お互い、五十歩百歩だった。
「あれだけの事をやっておいて、退学どころか停学にすらならないんだもの。妙な噂が流れて当然でしょ? ウチだって気になるし」
と、話に割り込んできた美波が、明久と光一にジュースの入った紙コップを手渡す。
「ん、ありがと」
「ああ、サンキュ。それで、店の売り上げはどうだった?」
「そうね。すごいって程じゃなかったけど、たった2日間の稼ぎとしては、結構な額になったんじゃないかしら?」
「ふむ、どれどれ……?」
美波が収支の書かれたノートを取り出し、雄二がそれを覗き込む。
それを見て、少々顔をしかめる。
「この額だと、机といすは苦しいな。畳と卓袱台がせいぜいだ」
「やっぱりな……あの常夏コンビ共さえいなけりゃ、もう少しましだったかもしれないけど」
「確かに、それが痛いよね……ところで、姫路さんは?」
周りのバカ騒ぎの中に、瑞希の姿はいない。
彼女が転校する可能性もまだ否定しきれない以上、早く確かめたいと言うのが明久の考えだった。
「大丈夫だろ。俺達の4人の決勝の事があるし、多少だけど設備と環境の改善も行われるんだ」
「そうだぞ明久、お前はただドーンと構えてればそれで良いんだ」
「すいません。遅くなりました~!」
雄二と光一のフォロー直後に、瑞希の到着。
その嬉しそうな様子からみて、結果はわかりきっていた。
「あ、瑞樹。どうだった?」
「はいっ! お父さんも分かってくれました! 美波ちゃんの協力のおかげです!」
その言葉を聞いて、ホッと一息つく明久。
「ほらな?」
と言って、光一は明久の背を叩いて行くように促す。
「さてと……」
そこから離れると、くいっとオレンジジュースを飲み干し、紙コップを放り投げそれをエアガンで狙う。
撃ち出された弾丸に弾かれ、その紙コップはクズ籠へ。
ちなみに弾丸は、足元に転がったので拾っている。
「見事なもんじゃのう」
「なんだ、秀吉か」
近くのベンチで、2人で並んで座る。
「色々あったの、義兄上」
「やめろよその呼び方。大体その呼び方したの知られると、また優子にダルマにされるぞ?」
「そうじゃったの」
以前秀吉は、ふざけて光一を義兄扱いした事で、優子に折檻された事があった。
折檻と言っても、内容は拷問と言える代物である
「仕方ないさ。方や品行方正の優等生、方や素行不良の問題児。考えてみりゃ釣り合い取れないし、俺じゃ優子の評判に傷つけるだけだしな」
「辛くないのかの?」
「……辛いよ。けど、清水さんだっけ? ああはなりたくないし」
ふと秀吉の脳裏に、以前映画を見に行った時の、文房具を武器に襲いかかった少女の姿が。
あれを光一と入れ替えて考えると……
「だからすっぱり諦めて、俺は俺で別の良い人探す事にする」
「……応援するぞい」
秀吉の心からの発言だった。
「で、秀吉はどうなんだ?」
「ワシは、特にはの。今は演劇が楽しいから、特に欲しいという感情はないぞい」
「そうか……昔から優子より“男に”モテてたけど」
そう言って大笑いする光一を、秀吉がむっと言う顔で掴みかかる。
「そんな大笑いするでない!」
「ああっ、悪い悪い……でも小学校の同級生とか、大抵優子じゃなくて秀吉に告白してた時は……ぷっ……あーっはっはっはっは!」
「だから、笑うでない!」
「……何やってんだお前ら?」
雄二の突っ込みに、2人はキョトンとした。
現在の体制は秀吉は光一の口をふさごうと、詰め寄っているような状態。
ぶっちゃけ、秀吉が光一を押し倒そうとしているような体勢だった。
「そうか……木下優子の事が忘れられないからと、瓜二つの秀吉と……」
「ちょっと待て!! お前何トチ狂った事を……」
「いや、何も言わなくて良い」
雄二の口元は、当然笑っていた。
「そうそう、あの時はからかったりして悪かった……心から謝罪しよう」
「やめろ気色悪い!」
パシャパシャパシャ!
そこに、シャッターを切る音。
「ってムッツリーニ、いつの間に!?」
「やめるのじゃ、そのカメラを渡すのじゃ!!」
というや否や、ムッツリーニは逃げだした。
秀吉も現体制を続ける事をまずいと思ったのか、離れる。
「ねえ久遠。幾ら外見は似てるからといっても、よりによって……」
「だから違うって言ってるだろ! それに俺は外見で優子を好きになった訳じゃない!!」
「こっ光一……」
「お前、勇者だな?」
自身の発言に気付くや否や、光一は顔を真っ赤にして口を塞いだ。
「……いい加減にしてくれ。島田のおっかけの清水だっけ? ああはなりたくないんだ」
「あー……ごめん」
美波が申し訳がなさそうに、光一に謝った。
被害者として、あれに影響されるなど流石に申し訳がない。
「全く……」
「ワシも光一ならば、良いと思っておったのじゃがな?」
「「「え!?」」」
全員が耳を疑った。
「当然、義兄としてじゃ!」
「ビックリさせるな!」
光一にそっちの趣味はありません。
「はぁっ……なんか疲れた」
「災難だったな」
「そう思うんなら煽るな! ったく、霧島にこれ渡すぞ?」
そう言って、懐から取り出したのは“プレミアムチケット”
優勝者と準優勝者に与えられ、現在持っているのは明久と光一。
「ひっ卑怯な……だが、ここで奪えば!」
「お前が持ってると色々危ないんじゃないか? それに破り捨てたりしたら、霧島にチクればいいし」
「すまなかった! どうか許してくれ!!」
「……それはどういう意味?」
「しょっ、翔子!? ちっ違う、ちょっと待てぇええええぇぇぇああああああああっ!!」
そのまま、翔子にアイアンクローをかけられながら、引っ張られていく雄二。
光一の手に握られているプレミアムチケットを見て、目の色を変えた美波が光一に詰め寄る。
「それで久遠、それどうするの?」
「しばらくとっとく。で、大体の処でめぼしい奴に売るつもり」
「……ウチは言い値で買うけど?」
「……その時にという事で」
行きたい相手は居るのだが、むなしい希望だと思いつつも光一はチケットを見つめる。
ゆっくりと立ちあがって美波の肩を、ポンポンと叩く。
「ま、頑張れよ。せいぜい明久を壊さん程度にな」
「なっ! 何言ってるのよ!? ……それと、気易く障らないでくれる?」
「ごめん。あっ、明久の奴随分と羨ましい……あっ、しまった」
視界の中に入った、瑞希にしなだれかかられてる明久の姿をみて、ポツリと呟いた事を後悔。
ゆっくりと首を横に向けると、そこには殺意を纏った美波の姿が。
「……ちょっと行ってくるわね?」
と、駆け出す美波と、そのすぐ後に聞こえる明久の断末魔。
光一はその離れたところで、合掌。
「ま、明久が姫路か島田でも誘えば、万事解決だな。俺のこのチケットは、霧島に譲渡でもしよう」
「……お主はどうするつもりじゃ?」
「優子の事が吹っ切れるまでの間は、しばらく今の生活を楽しませてもらう事にするつもりだ」
「やれやれ……不器用じゃのう」
ちらりとある地点を向けた秀吉は、呆れたようにつぶやいた。
一方
「へぇ~っ、優子ってば愛されてるね~」
「やっやめてよ……だって、その……」
「でも良いの? 優子がそう言うんなら、ボクがもらっちゃうよ?」
「……やっやめときなさいよ。あんな犯罪者臭いのとくっついたら、愛子も変な目で見られるわよ?」
「……優子さ、照れ隠しも良いけど、それじゃ完全に嫌いと思われても文句言えないよ?」
翔子の付き添いで来た2人は、幸いにも光一の居る地点から死角となっていた。
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