文月新聞 号外
『召喚大会準決勝が終了し、勝ち残ったのは久遠・木下ペアと吉井・坂本ペア
当初の予想を大きく裏切り、2年最下級クラスの2ペアが決勝へと名乗りを上げた。
決勝戦 科目(総合科目)
久遠光一(2-F)・木下秀吉(2-F)ペア
VS
吉井明久(2-F)・坂本雄二(2-F)ペア
決勝は明日からだが、最低から這い上がった2組の戦い。
これは接戦となる事も予想されるが、一方的に終わる事も予想される。
勝負の様子、結果、その他全てが予想不可能ともあり、その事も話題を引き起こすこの戦い。
勝負は清涼祭2日目の午後1時、これは見逃す手はない!』
「明久、光一、今日という今日はキサマラを殺す!」
「あはは。やだなぁ雄二、目が怖いよ?」
「なんだ、まだクスリが抜けてないのか? 帰ったらお茶飲んで落ち着けよ」
あの後2人は腹を殴りクスリを吐かせた上で冷水につけて、電気ショック(20万ボルト)を施す。
それにより、雄二は正気を取り戻し今に至る。
ちなみに秀吉とムッツリーニは、喫茶店があるのでその間に帰って行った。
「だいたい、雄二の作戦が読まれていたのがいけないんじゃないか。相手はあの霧島さんなんだから、充分考えられた事態だと思うよ?
「ぐっ、それを言われると反論できん……」
「お前、霧島が関わるとどうも冷静に物事が考えられないよな? やっぱりお前内心……」
「そんな訳ないだろう!!」
噛みつくように光一に抗議する雄二。
それを見て、明久も光一もやはりというように頷く。
「それより、早い所戻ろう。心配事もあるし」
「そうだな。ところで、姫路や島田は教室にいるのか?」
「え? まだ確認してないけど、いるんじゃないの?」
いきなりの話題に、明久は少々戸惑う。
「多分、そろそろ仕掛けて来る筈だと思うんだが……」
「ああっ、例の妨害か?」
「え!? ……まっまさか、姫路さん達に!?」
「…………雄二」
教室の前まで行くと、ドアの前に立っていたムッツリーニが3人に駆け寄る
「ムッツリーニか。何かあったのか?」
「…………ウェイトレスと、たまたま来ていた木下優子が連れて行かれた」
「なっ!?」
「えぇっ!? 姫路さん達が!?」
予想外の事態に、光一も明久も驚きの声を上げた。
「やはり俺や光一、明久と直接やりあっても、勝ち目がないと考えたか。当然と言えば当然の判断だな」
雄二は勉強をサボっていた分体を鍛えまくっており、中学時代は“悪鬼羅刹”と異名を持っている。
光一とて、エアガンとスタンガンを駆使すれば、そんじょそこらでは相手にもならない程強い。
「ってそんな事より、姫路さん達は大丈夫なの!? どこに連れて行かれたの!? 相手はどんな連中!?」
「落ち着け明久、これは予想の範疇だ」
「え? そうなの?」
「ああ。もう一度俺達に直接何か仕掛けてくるか、あるいはまた喫茶店にちょっかい出してくるか、そのどちらかで妨害工作を仕掛けてくると予想できたからな」
“俺たちに”という言葉に、明久も光一も疑問を持つ。
だが、それよりも今回の事態を解決するのが先と、決定づけた。
「何だか、随分と物騒な予想をしてたんだね?」
「全くだ。誘拐なんて、流石に洒落じゃ済まないぞ? 下手すれば警察沙汰だって言うのに」
「…………行先はわかる」
と言って、ムッツリーニが取りだしたのはラジオの様な機械。
「何それ? ラジオみたいに見えるけど?」
「…………盗聴の受信機」
耳を疑ったが、まあここは気にしない事に。
そう2人は決定づけた。
「オーケー、あえて何でもってるかは聞かないよ」
「さて、場所が分かるなら簡単だ。かる~くお姫様達を助け出すとしましょうか、王子様方?」
と、雄二はニヤついた目つきで明久と光一を見つめた。
「何だよその目つき? 気持ち悪い」
「そのニヤついた目つきは気に入らないけど、今回は感謝しておくよ。姫路さん達に何かあったら、正直召喚大会どころの騒ぎじゃないからね」
「……それが向こうの目的だろうがな」
「え?」
「ちょっと待ってろ、今コレクション持ってくるから」
光一はバックに行き、自慢のコレクションを詰めたボストンバッグを手に。
そして、急いで明久達と合流。
「さて、作戦だが、ムッツリーニはタイミングを見て裏から助けてやってくれ」
「…………わかった」
「となると、俺達、特に明久のやる事は1つだな」
「ああ。そう言う事だ」
明久がそれを聞いて、不思議そうな顔をする。
「それってどういう事?」
「王子様の役目は、昔から決まってるだろ?」
「え? それって?」
「お姫様をさらった悪者を退治する事さ」
『さて、どうする? 坂本と久遠と……吉井だったか? そいつら、この人質を盾にして呼びだすか?」
『待て。吉井ってのは知らないが、坂本と久遠は下手に手を出すとマズい。坂本は中学自体は、相当鳴らしていたらしいしな』
『それに久遠って、あの久遠だろ? 俺たちだけでそんな奴ら、どうやれってんだよ?』
『ああ。出来れば、事を構えたくはないんだが……」
『気持ちは分かるが、そうもいかないだろ? 依頼は木下秀吉を含めたその4人を、動けなくする事なんだから』
ムッツリーニの持っていた受信機からの、音楽に混じって聞こえる会話。
それを聞いて、3人は顔を見合わせる。
(雄二に光一、この連中って)
(黒幕に依頼されたその辺のチンピラじゃないのか?)
(しかし、俺達を狙ってって……秀吉までどうして?)
ムッツリーニに案内された先は、文月学園から歩いて5分程のカラオケボックス。
そのパーティールームに、連れていかれたらしい。
『お、お姉ちゃん……』
『アンタ達! いい加減葉月を離しなさいよ!!』
『そんな小さな子を人質にするなんて、恥ずかしいと思わないの!?」
泣きそうな葉月の声と、美波と優子の怒鳴り声が次に響いてきた。
『お姉ちゃん、だってさ! かっわいぃー!』
その声を聞いて、明久が今にも部屋に入りそうな勢いになる。
(待て明久、勝手に行動するな)
(まずは人質の救出が優先だ。ムッツリーニがうまくやってくれるから、それまで待ってろ)
(……わかったよ)
『……灰皿をお取り換えいたします』
『おう。で、このオネーチャンたちどうする? ヤっちゃっていいの?』
『だったら俺は、コッチの巨乳チャンがいいなー!』
『あっ、ズリー! それなら俺、2番目ね!』
明久のボルテージが上がる中、光一と雄二は明久を抑える。
光一とて、手に持っているスタンガンをギリッと握りつぶしかねない勢いで、握りしめていた。
『しかし、まさか似た顔が居るとは思わなかったな』
『ああ、木下秀吉だろ? ビックリするほど瓜二つだわ。しかも2人してかわいいと来たもんだ』
『やっ! 触らないでよ!』
『ちょっと、やめなさいよ!』
『あーもう、うっせェ女だな!』
ドン、という突き飛ばした音と、美波の悲鳴。
そのあと、まるで何かがテーブルを巻き込んで倒れたような音。
ガチャッ!
「おじゃましまーす」
「ちょっと邪魔するよ?」
明久は自分の中の何かがトんだ様な顔をして、そのままドアを開け放ち部屋へ。
光一も先程ので怒りの頂点に達し、それに続く。
「よ、吉井君に、久遠君?」
「アキ……それに、久遠も」
「光一……」
不良に腕を掴まれている瑞希と優子、そして倒れたテーブルの近くで尻もちをついている美波。
その突然の出来事に、驚いている様子。
「はァ? お前ら誰よ?」
「それでは失礼して……死にくされやぁぁっ!」
「ほごあぁぁぁぁっ!」
明久は思いきり近づいた奴の股間をけり上げた。
「てっ、てめぇ! ヤスオに何しやがる!」
「イィッシャァァーー!!」
「ごぶぁっ!!」
その近くにいたチンピラが明久の顔面を殴り、そのあと明久がハイキックを顔面に叩き込んだ。
「テメェら、良くも美波に手をあげてくれたな! 全員ぶち殺してやる!!」
「コイツ、吉井って野郎だ!」
「どうしてここが!?」
「とにかく、来ているならちょうど良い! ぶち殺せ!!」
「誰をぶち殺すって?」
殴りかかってきた奴の1人の顔面を、光一が思いきりスタンガンで殴りつけた。
左手にはエアガンも装備してあり、それを殴り付けた相手に撃ちだす。
「げっ! くっ、久遠光一!?」
「やれやれ……このアホウが、少しは頭を使って行動しろってーーのっ!!」
「げぶっ!」
「貸しイチ、だからな?」
その傍らで、向かって来た相手を壁に叩きつける雄二。
そう言いながら、更に他の奴に拳をたたき込み、今度は膝を鳩尾にめり込ませる。
「で、出たぞ! 坂本だ!」
「坂本まで来ていたのか!」
雄二を見て、チンピラが浮足立つ。
「坂本よぉ、このお嬢ちゃんがどうなってもいいのかぁ?」
向こうの1人が、葉月を羽交い絞めにしていた。
「良いか? 大人しくしていろよ? さもないと、ヒデェ傷を……」
「…………「負うのはお前」だ」
ビシッ! ゴインッ!
「あがぁっ!」
羽交い絞めにしていた男は、額を抑えると同時に白目をむいて倒れた。
隠し持っていたベアリングで額を狙った光一と、その相手の後ろにクリスタルの灰皿を振り切ったポーズで立っている、バイトのフリして先に侵入していたムッツリーニ。
「お、お姉ちゃん! お姉ちゃーん!」
「葉月っ! よかった……怖かったよね……?」
「吉井君っ!」
解放された葉月を美波が抱きしめ、瑞樹が腕を広げて駆け寄っていく。
「姫路さん!」
「吉井ぃ! ヤスオをよくも!」
それに備え、明久が腕を広げて構えた所に来たのは、チンピラのパンチだった。
「うわーっ……」
「な、何だこいつ? 血の涙流してるぞ……?」
鬼気迫る雰囲気で、そのチンピラをしばき始める明久。
「姫路さん、ちょっと待ってて! こいつをシバき倒した後でもう一度……」
「島田に姫路、木下も先に戻っていろ!」
「雄二! キサマまで僕の邪魔をするのか!?」
「落ち着け明久、この場合しょうがないだろ? 優子も早く逃げろ!!」
「光一……わかった。けど後で事情説明はしてもらうわよ!?」
光一はスタンガンとエアガンで、特に優子に乱暴をしようとしたチンピラを重点的に痛めつけていた。
「くははははは! それにしても、ちょうど良いストレス発散の相手が出来たな! 生まれて来た事を後悔させてやるぜぇぇッ!!」
「あーあ、雄二の奴完璧キレてやがる。タイミングが悪かったな」
「確かに、霧島さんに追い詰められてるこのタイミングで、雄二とケンカするなんてね」
同情するような言葉だが、その中に情はこめられていない。
なぜなら言葉とは裏腹に、自分達も今痛めつけている相手に容赦の念を込めず殴りつけているからである。
誘拐騒ぎも一段落。
喫茶店の1日目が終了したFクラスにて、明久と雄二、光一と秀吉。
そして……。
「で、いつまで待たせる気?」
優子が貸し切り状態の教室でお茶を飲み、光一の奢りのゴマ団子を咀嚼していた。
巻き込まれた以上、事情を聞かないと帰らないと言ってきかないためである。
「まあ待て。もうそろそろ来る頃だ」
「? 来るって、誰がじゃ?」
「ババァだ」
「? 学園長がわざわざここに来るの?」
「ちょっと待ちなさい、アンタ達なんて事を言うの!?」
普通に考えて、その場にいないとは言え学園長をババア呼ばわりなど褒められた事ではない。
というより、普通にババア=学園長で通じる事に、流石に優子も驚いた。
「そう言えばさっき、雄二が何か話してたな? あれはその事か」
「話ねぇ……ダメだよ雄二、一応相手は目上の人なんだから、用事があるならこっちから行かないと」
「吉井君、一応は余計よ?」
敬意もくそもない態度に、優子はツッコむ。
だが、誰一人気にする事もなく、話は続く。
「用事もくそも……この一連の妨害の原因は、あのババァにある筈だ。事情を説明させないと、気がすまん」
「ババァに原因が……えぇぇっ!?」
「何じゃと!? 」
「ちょっと待ちなさい。妨害って何のことよ? それに学園長がらみって、アンタ達一体何をしてるの!?」
「あ、あのババァ! 僕等に何か隠してたのか!」
明久も怒りを隠せなかった。
その所為で瑞樹達が危険な目に遭い、喫茶店の経営は苦労の一途。
仲間の命運がかかっている以上、文句を言わないと気が済まなくなった」
「……やれやれ、態々来てやったのに、随分と御挨拶だねぇ、ガキ共が」
「あっ、がっ学園長!」
優子と秀吉は立ち上がって礼をする。
「来たかババァ」
「さて、どういう事か説明して貰うぞ?」
「出たな、諸悪の根源め!」
「おやおや、いつの間にかアタシが黒幕扱いされてないかい?」
「……ねえ秀吉、アタシがおかしい訳じゃないわよね?」
「寄寓じゃの、ワシもそう思っておった処じゃ、姉上」
蚊帳の外の優子と秀吉は、そのまま黙る事にした。
「確かに黒幕ではないだろうが、俺達に話すべき事を話してないのは十分な裏切りだと思うが?」
「ふむ……やれやれ、賢しい奴だとは思っていたけど、まさかアタシの考えに気がつくとは思わなかったよ」
「最初に取引を持ち掛けられた時からおかしいとは思っていたんだ。あの話だったら、何も俺たちに頼む必要はない。もっと高得点を、例えばそこにいる木下優子の様な高得点をたたき出せる優勝候補を使えば良いからな」
雄二の言葉を聞いて、学園長は周りを見回し優子の姿に気がついた。
「ん? ああ、あんたが木下優子かい? 何でここにいるさね?」
「騒動に巻き込まれたんだよ。それで事情を聞かせろってうるさくてね」
学園長は成程ねと頷いた。
「話に戻るけど、そうだよね。優勝者と準優勝者に、後から事情を話して譲って貰うとかの手段も取れた筈だし」
「なのに、俺達を擁立するなんて効率が悪すぎる。光一、秀吉、説明してやれ。構わないだろ?」
「……ああ、構わないさ」
雄二の言葉に、学園長は頷いた。
それを見て光一と秀吉は優子に事情説明。
「成程ね、姫路さんの転校か……それで、教室の改修を条件に副賞の回収を?」
「まあ表向きはな? 考えてみたら、教育方針の前にまず生徒の健康状態が重要な筈だ。教育者側、増して学園の長が反対するなんてありえなかった」
「という事は、ワシ等を召喚大会に出場させる為に、ワザと渋ったと言う事じゃな?」
「そう言う事だ。あの時俺がババァに1つの提案をしたのを、覚えているか?」
話が終わった処で、雄二が割り込んできた。
提案とは……
「科目を決めさせろってヤツかい? 成程ね、あれでアタシを試したってわけかい?」
「ああ。めぼしい参加者全員に、同じような提案をしている可能性を考えてな。もしそうだとしたら、俺達4人だけが有利になるような話には乗ってこない」
「そうだよね。ましてや、科目によっては最強にも最弱にもなる光一もいるから、僕たちにとっては破格過ぎる条件だ。なのに、ババァは提案を呑んだ」
つまり、この4人が決勝に出なければ学園長が困ると言う事。
そして、学園長が困らなければならない連中が居る事につながる事も、その4人の周りに起きている。
「じゃあ学園祭の喫茶店ごときで営業妨害が出たり、明久と秀吉を狙ってチンピラが襲いかかったり、優子達に情報を流した密告者が居たのは、俺達が勝ち上がっては困る奴がいるってことか?」
「ああ。それに何より、俺達の邪魔をしてくる連中が姫路たちを連れだしたのが決定的だった。ただの嫌がらせなら、ここまではしない」
「アタシも巻き込まれた事ね? ……正直、どうなる事かわからなかったわ」
幼い少女も巻き込まれたと言う事もあり、流石に優子も悪寒を感じた。
下手をすると警察沙汰であることゆえに、尚更に。
「そうかい。向こうはそこまで手段を選ばなかったのか……すまなかったね」
と言うと、突然学園長が明久達に頭を下げて来た。
その姿に、明久達も驚きを見せる。
「アンタ達の点数だったら、集中力を乱す程度で勝手につぶれるだろうと最初は考えていたのだろうけど……目論見が完全に潰されて、焦ったんだろうね」
「さて、ここまであった以上話して貰いますよ? あんたが俺達を選んだ真の目的を」
「はぁっ……アタシの無能をさらすような話だから、出来れば伏せておきたかったんだけどね……」
だから、誰にも公言しないでほしい。
そんな前置きをする学園長。
「無能? じゃあアンタの目的は、チケットじゃなくて腕輪か?」
「そうさね。アタシにとって、企業の目論見なんてどうでもいいのさ」
腕輪とは、優勝者と準優勝者に贈られる2種類の腕輪。
優勝者には、テストの点数を二分して2体の召喚獣を同時の呼びだせる腕輪。
そして教師なしで立会人になり、科目指定をした上での召喚用フィールドを形成できる腕輪。
その2種類の“白金の腕輪”
準優勝者には、自身の召喚獣を他人の召喚獣と融合させ、1体の召喚獣とする腕輪。
そしてこちらも召喚フィールドが形成できるが“白金”より機能が劣る腕輪。
「そうさ。その腕輪を、アンタ達4人に勝ちとって貰いたかったのさ」
「僕たちが勝ち取る? 回収してほしい訳じゃなくて?」
「あのな……回収が目的だったら、俺たちに依頼する必要ないだろ? そもそも、回収なんてマネは極力避けたいだろうし、な?」
「ねぇ雄二、どういう事?」
理解できなかったのか、明久が疑問を投げかける。
光一は呆れるように、かみ砕いて説明。
「新技術は使って見せてナンボだってことだろ? デモンストレーションもなしに回収なんてしたら、新技術の存在自体疑われるだろうから、このババァにしてみれば避けたいってことだ」
「光一の説明の方がわかりやすいね」
「お前の頭が悪すぎるだけだ! で、どうして俺達じゃないとだめなんだ?」
「……欠陥があったからさ」
苦々しく顔をしからめる学園長。
技術屋にとって、新技術の欠陥は耐え難い恥であり、それを生徒に明かすのだから無理もない。
「欠陥? どんな欠陥です?」
「入出力が一定水準を超えると、暴走を引き起こすんだよ。だからアンタ達が使うなら、暴走は起らずに済む」
「成程な、だから得点の高い優勝候補を使わず、俺達みたいな“優勝の可能性を持つ低得点者”がババァにとっては一番理想的だったってことか」
「じゃあ、アタシ達がもし決勝に出てたら……」
知らないとは言え、自分達が暴走の引き金を引こうとしていた……
その事に、優子は顔を青ざめさせた。
「えーっと、つまり……?」
「つまり白金の腕輪も黒金の腕輪も、バカにしか使えないってことだ。そしてババアが選んだバカが俺達って事」
「何だとババァ!!」
「説明されぬとわからん時点で、否定できないと思うんじゃが?」
秀吉のツッコミで、明久は苦々しい顔をした。
「とりあえず、2種類の召喚フィールド作成用の方はある程度まで耐えられるんだけどねぇ……もう片方の同時召喚用と召喚獣融合用は、現状だと平均点程度で暴走する可能性がある。だからそっちは出来れば吉井と久遠専用にと……」
「あのさ、これはほめられてると取っていいんだよね?」
「何を聞いてたんだよお前は? 平均点程度で暴走する可能性があるって事は、それ以下のバカにしか使えないってことだろ?」
光一は出来る科目ではすごいが、出来ない科目では壊滅的。
それ故に、総合では平均点に至ってはいない。
「何だとババァ!!」
「いい加減自分で気づけ!! それより、そうなると黒幕の正体は大体絞れてくるな」
「そうだな。明久にもわかりやすく言ってやると、腕輪の暴走を阻止されたら困る奴ら。つまり文月学園に生徒を取られた他校の経営者が絡んでると見ていい。後これは個人的な直観だけど、教頭の竹原も関与してる思う」
その言葉に、全員の視線が光一に集まった。
「最初の営業妨害の時、真っ先に席を立ったのは教頭だ。それに明久と秀吉が襲われた時も、襲った奴らは明久と教頭が話をしてるのを見て明久だと認識してた素振りがあった。偶然と思えないんだよ」
「やはりそうだったかい……近隣の私立校に出入りしてたなんて話を聞いたが、最早間違いないさね」
「となると、ワシ等の邪魔をしてきた常夏コンビや、例のチンピラは……」
「教頭の差し金だろうな」
明久はふむふむ、と頷いてみてふと思う。
「あのさ……じゃあ僕たちは、文月学園の存続が掛かった問題に巻き込まれてたって事?」
「そうなるな。試召戦争と試験召喚システムは、その特異な教育方針と制度で存在自体の是非が問われているシロモノだ。そんな状態で暴走なんて問題が起きたら、学校その物の存在意義も問われる」
「騙していた事はすまなかったね。だが、目的は既に達成はされているんだ。このまま何もなければ、全てはまるく収まるんだよ」
確かに表向きは、既に目的は達成された。
だが、このまま向こう側が黙っているとも思えない以上、用心に越した事はない。
「はぁっ……まさかアンタ達が、こんな事に巻き込まれてたなんてね」
「ごめんね、木下さん。でも……」
「良いわよ。事情はよくわかったから……それに姫路さんと島田さんの事、しっかり助け出したでしょ? だから良いわよ、それは」
と、優子は明久の肩をバンと叩いて、光一に駆け寄る。
「それじゃ、聞きたい事は聞けたし、もう帰ろう」
「そうだな。家に帰ってやる事もあるし……それに明日も早いしな」
「それじゃアタシは学園長室に戻るとするかね」
学園長が静かに椅子から立ち上がる。
「4人とも、学園長としても個人としても、礼と謝罪をさせてもらうよ」
「はい」
そう言うと、学園長は出て行った。
「さて、俺達も帰るか。秀吉と優子は、俺が送ってく」
「ああ。俺と明久はともかく、秀吉には荒事に対応する術はない。用心してくれ」
「あいよ」
と、2人が出て行った。
「それじゃ優子に秀吉、俺で悪いけどエスコートさせてもらうぞ?」
「ええ、そうさせてもらうわ」
「うむっ、すまぬの。何から何まで」
「気にするなよ。お互い、ガキの頃から迷惑かけ合ってきた間柄なんだしさ」
こうして、学園祭初日は幕を閉じた。
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