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試験召喚戦争編
第一問
問題
『調理の為に火にかける鍋を制作する際、重量が軽いのでマグネシウムを材料に選んだのだが、調理を始めると問題が発生した。このときの問題とマグネシウムの代わりに用いるべき合金の例を1つあげなさい』

姫路瑞希の答え
『問題点……マグネシウムは炎にかけると、激しく酸素と反応するため危険であるという点
合金の例……ジュラルミン』

教師のコメント
正解です。合金なので鉄ではダメと言うひっかけ問題なのですが、姫路さんは引っかかりませんでしたね。


久遠光一の答え
『問題点……ガスコンロの火力が低すぎる事、火炎放射機でも使用するべき
合金の例……ジェラルミン』

教師のコメント
そんな事をしたらこの問題以前の問題です。そして合金の例の方は“ジェラルミン”ではなく“ジュラルミン”です。


土屋康太の答え
『問題点……ガス代を払ってなかった事』

教師のコメント
そこは問題じゃありません


吉井明久の答え

『合金の例……未来合金(←すごく強い)

教師のコメント
すごく強いと言われても









2年Fクラス、初日のHR

「えー、おはようございます。Fクラスの担任を務めます……」

担任らしい教師は、薄汚れた黒板に視線をやり手を伸ばそうとして……視線を皆の方に戻した。

「福原慎です。よろしくお願いします」
「……チョークすらまともにないんですか? 良く見たら黒板消しもなさそうなんですが」
「後で申請しておきますので、授業には間に合うはずです」

全員が改めて、ここが最悪の環境であることを実感した。

「皆さん全員に、卓袱台と座布団は支給されてますか? 不備があれば、申し出てください」

不備という言葉に、全員がありまくりと言わんばかりに名乗り出た。
と言うより、どこが完備されてるのかむしろ聞きたいと言わんばかりに。

「俺の座布団、綿が入ってないんですけど」
「我慢してください」
「俺の卓袱台、脚が折れてます」
「木工ボンドが支給されてるので、後で自分で直してください」
「窓が割れてて、隙間風が寒いんですけど」
「ビニール袋とセロハンテープを申請しておきますので、後で直してください」

1つ1つの質問を丁寧に応えていく福原教諭。
しかし大半が大きく分けて“我慢してください”か、“自分で何とかしてください”の2択のみ。

重ねて言うが、ここは学力最低クラスのFクラスの教室である。

「では必要なものがあったら、極力自分で調達する様にしてください」
「これがFクラスか……」
「そういう事です。これがこの学園の方針ですから、不満があるならしっかり勉強して来るべき試召戦争に勝ちあがってください。それでは、自己紹介をお願いします。そうですね、廊下側の人からお願いします」

と言われ、まずは廊下側の一番最後に座っている秀吉が立ち上がった。

「木下秀吉じゃ、演劇部に所属しておる。今年1年、よろしく頼むぞい」

とても男とは思えないその可憐な姿に、男で埋め尽くされたその空間は癒しの空気に包まれた。
余談だが、その容姿から“女装が似合う男子生徒ランキング”から不公平の意見が多数出たため、候補から外されたという話あり。

「……土屋康太」

次にムッツリーニ事、土屋康太。
本名は知られておらず、異名であるムッツリーニの名は割と知られている存在である。

「島田美波です。海外育ちで日本語は会話はできるけど、読み書きが苦手です。あ、でも英語も苦手です。育ちはドイツだったので。趣味は……」

一旦区切り、明久をちらりと見てから一言。

「吉井明久を殴る事です」

当人は先ほど受けた4の字固めのダメージが再発したのか、膝を抑えガタガタ震えていた。
そのあとは、ただ単に名前を告げるだけの作業が進んでいく。

「久遠光一。サバイバルゲーム愛好会の一員で、そこの木下秀吉とは幼馴染」
「まあそれなりに仲良くさせてもらっておるぞい。姉上共々な」
『木下優子とだとお!!?』

木下優子と言えば、秀吉と瓜二つの双子であり、現在Aクラスに所属する優等生。
ほぼ全員が光一に対してカッターを構えるが、光一がボストンバッグからマシンガン(エアガン)を取り出した。

「ちなみに銃が好きで、常日頃から持ち歩いていないと気が……調子が狂うほど。当然腕にも少々自信あります」
「とんでもない事をサラリと言うでない」
「ちなみに秀吉とは親友ではありますが、こいつの姉木下優子とは他人以上知り合い未満程度ですので、誤解のない様お願いします」

エアガンだとわかっていた物の、流石に銃を見て構えた全員が萎縮してしまった。
先ほどのやり取りもあってか本気で撃ちかねないと全員が本能で察知し、逆らわないことを誓ったのは別の話。

「まさかと思うけど、それ本物じゃないよね?」
「エアガンにきまってるだろ、ここ日本だぞ? それより明久、次はお前の番だぞ?」
「あっ、そうだったね」

次は明久の番となり、軽く咳ばらいをした。
彼は出だしが肝心だと言わんばかりに、気さくにふるまう事に。

「え~っと、吉井明久です。気軽に『ダーリン』って呼んでくださいね♪」
『ダァアーーリィーン!!』

男らしい野太い声の大合唱が、Fクラスの教室に響き渡った。
当然明久はめちゃくちゃ笑顔をひきつらせ、混ざらなかった秀吉と光一も苦笑い。

「……失礼、忘れてください。とにかく、よろしくお願いします」
「なんつー不快な大合唱だ」
「確かに、当事者でないワシも鳥肌が立ったぞい」

ガラッ!

「あの、遅れて、すいま、せん……」
「えっ?」

そこへ、息を切らせて胸に手を当てている女子生徒が現れた。
その姿に、男子生徒全員が意外を通り越したかのように驚いた声が上がる。

「ちょうど好かったです。今自己紹介をしているところなので、姫路さんもお願いします」
「は、はい! あの、姫路瑞希と言います。よろしくお願いします!」

途中から尻すぼみな自己紹介を終えて、小柄な体を縮み込ませた。

「はいっ、質問です!」
「あ、はいっ。なんですか?」
「何でここにいるんですか?」

傍から見れば失礼な質問ではあったが、ほぼ全員(光一と明久を除く)がそう思っていた事だった。
彼女は容姿も人目を引く程で、テストでは1ケタの順位に必ず名を連ねている学力の持ち主でもある。
当然こんな場所に来るべき人間ではなく、最高設備であるAクラスに入っている物と誰もが思う事。

だからこそ、この質問はある意味必然なものだった。

「そ、その……振り分け試験の最中、高熱を出してしまいまして……」

AからFまでのクラス分けは、学年末に行われる振り分け試験で決まる。
その試験は難しいという評判だが、途中退席は0点扱いにされるという厳しいテストである。

「そういえば、俺も熱(の問題)が出たせいでFクラスに」
「ああ、化学だろ? あれは難しかったな」

瑞希の言い分を聞いて、1人がそう言いだした。
それを皮切りにざわつき始め、次の言い訳が飛び交う。

「俺は弟が事故に遭ったと聞いて、実力を出し切れなくて」
「黙れ1人っ子」
「前の番、彼女が寝かせてくれなくて」
「今年一番の大嘘をありがとう」

その様子を見て、光一は一言。

「……想像以上にバカが多いみたいだな」

それを聞いて、明久と秀吉はうんうんと頷いた。

「で、ではっ、今年1年よろしくお願いします!」

瑞希は逃げるように、明久と雄二の間の空いてる席に着いた。
彼女は席に着くや否や、安堵の息をついて卓袱台に突っ伏してしまう。

その姿に光一は明久に目配せをして、あの事を聞くことにしたと意思表示。

「よう姫路、体調は大丈夫か?」
「あっ、久遠君に……よ、吉井君!?」

光一の声に反応して振り向いた先の明久の顔を見て、瑞希が驚いた。
その反応に、明久は何かまずかったかとおろおろし、光一はその様子からある事を察した。

「姫路、明久が不細工ですまん」

が、そこへ雄二が割り込んできた。
それも明久への罵倒込みで。

「そ、そんな……えっと?」
「坂本だ、坂本雄二。それよりこのバカの顔を見て、体調が余計に悪くなっただろ? 友として謝っておく」
「友が言うセリフに聞こえないぞ? それより何いきなり割り込んで来てんだよ?」
「代表としてクラスメイトを気遣って何が悪い?」

表情が“明久の幸福を邪魔する為だ”と言っていた事は、当然光一も察していた。
ちなみに明久は、その罵倒で悲しそうな顔をしている。

「そっ、そんな事より、吉井君は全然不細工ではありませんよ?」
「え?」
「目もパッチリしてるし、顔のラインも細くてきれいだし、その、むしろ……」
「まあ確かに、悪くはないかもな。そういえば、俺の知人にも明久に興味がある奴が居た気がする」

雄二のその言葉で明久は嬉しそうに、瑞希は驚いて、光一はまさかと言った様な表情に。

「え? それは……」
「そっ、それって一体誰ですか!?」

明久の声を遮るかのように、瑞希が声を荒げた。
それも必死そうな表情のオマケつきで。

「姫路、落ち着け。身体に障るぞ? しかし、随分と必死だね?」
「え? そっそれは……」
「ははっ、姫路さんも色恋沙汰には結構敏感なんだ?」
「そっその……はい。やっぱり恋をするって素敵な事だと思いますから、つい力が入ってしまって」

明久が微笑ましそうに瑞希を見て居る傍らで、雄二と光一は半ば呆れたように明久を見ていた。

「ねえ雄二、話の続き聞かせてよ?」
「え? ああ、そうだな。確か、久保……利光だったか?」
「男かよ!」

久保利光 性別(♂/オス)
現在Aクラス所属 学年次席

「おい明久、さめざめと泣くな」
「いや、よりにもよって男に恋愛感情持たれてるかも知れないなんて、普通こうなると思うぞ?」
「……まあ、確かにな」

パンパン!

「はいはい。そこの人たち、静かに」

バキィッ! パラパラパラ……

「してください……ね?」

本人としては、軽くたたいたつもりだろう。
だが、壊してしまった事は事実の為、少々気まずそうな態度に。

「え~。代えを持ってきますので、皆さんは自習をしていてくださいね」
「どんだけ酷い設備なんだよ!?」
「これがFクラスです」

福原教諭の台詞に、何度目かの改めて設備のひどさを理解させられる面々だった。

「全く、こうも埃っぽい上に湿気だらけじゃ、俺の大事なコレクションも痛んじまうな」
「きゃっ!」

光一が取り出したエアガンを見て、瑞希が軽く悲鳴を上げた。
まあ普通、一介の学生の荷物から銃が出てくる事自体非常識の為、無理ないかもしれない。

「ん? ああ、これモデルガンだよ。俺こういうの好きだから」
「そうなんですか?」
「それより振り分け試験の時、大丈夫だったか? あれから明久が酷く心配しててさ」
「吉井君が……ですか?」

明久と瑞希は振り分け試験の時隣の席で、光一も割と近くの席にいた。
その為光一は瑞希の事情は知っていたし、明久の瑞希に対する気も当然気づいていた。

「うん。体調が悪そうだったし、いきなり倒れるからびっくりしたよ。保健室に様子を見に行った時には、もう帰っちゃってたからさ」
「何だ、お前らだけ驚いてないと思ったら、そんな事があったのか?」
「うん……ねえ雄二、ちょっと良い?」
「あ?」

明久は雄二を伴い、廊下へ。
瑞希が怪訝そうな顔をして見送り、光一に問いかけた。

「吉井君と坂本君、どうしたんでしょうか?」
「何だ、明久が気になるのか?」
「え? いっ、いえ、そういうわけでは……」
「はいはい。まあ俺で手伝えることがあるなら言いなよ、協力してやるから」
「え? あの、あっ、ありがとうございます」

光一は2人が出て行った廊下をちらりと見て、すくっと立ちあがる。
秀吉はそれを見て、幼馴染特有の勘を働かせた。

「なんじゃ、またお主ら3人で悪だくみかの?」
「まあな。ちょっと面白い事になりそうだ」
「やれやれ……まあ光一らしいのう」

たがいに笑いあって、光一は1人気取られない様廊下へ。
そしてゆっくりと建て付けの悪い扉を開いて……

「つまり、姫路の為だろ?」
「そっそういう訳じゃないけど……でも、姫路さんには酷い環境だから、改善してあげたいって気持ちはある」
「素直じゃねえな。まあどうせ、試召戦争はやるつもりだった。世の中学力こそがすべてじゃないって事、その証明がしてみたくてな」

それを聞いて、光一はこそこそするのをやめにして、思いきり戸を開けた。

「何だ? 俺を差し置いて、随分と面白そうな話をしてるじゃないか」
「光一!」
「俺にも一枚かませろよ。そんな面白そうな話、この俺が乗らない訳ないだろ?」

明久はそれを聞いて感激し、雄二も不敵な笑みを浮かべた。

「全く、お前も物好きだな……っと、先生が来た。入るぞ」
「それじゃFクラス代表のお手並み、拝見と行こうか?」
「ああ、任せておけ」

光一と明久は、雄二に向けてグッと親指を立てた。
雄二もそれに倣い、同様に親指を立てる。

「それより明久、試召戦争を提案したからにはお前も頑張れよ?」
「うっ……」
「“あの事”があるから無理ないか……じゃあさ、俺とコンビ組まないか?」
「改めて言うが、お前も物好きだな。明久とコンビを組みたがるなんて」
「その方が色々と面白そうだから良いんだよ」

吉井明久、坂本雄二、久遠光一。
この後、文月学園で知らぬ者なしと言われる程の問題児トリオとして、一躍名を轟かせる事になる
その第一歩が今踏み出された事は、誰一人として気付く事はなかった。


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